第18話

アーマーセンチピードは、その一撃で心臓に当たる機関を貫かれたのか、そのまま動かなくなる。

一目で解る、即死である。


これで、アズマを守りながら二体一の戦いをしなければならないという、スカーレットの状況は終わった。

後は。



「あいつを倒して………クエストクリアよ」



スカーレットが蛇腹状の刀身を巻き取り、次にイフリートの切っ先を向けた先は、とうとう両腕を失ってしまったスケルトン。


あの時のように逃走しようにも、あの時と違って逃げ込める場所はなく、また両腕を失った状態では満足に逃げられない。



強化魔法バフの準備は出来てます、動画映えの為にも一撃でいきましょう」

「あら、気が利くじゃない」



アズマも、アンプルに入ったMP回復ポーション………消費したHPやMPを回復させる栄養ドリンクのような物、味は仮面のバイクヒーローが宣伝してるアレに近い………を飲み、消費したMPを回復する。


スカーレット達は、本調子を取り戻した。

対するスケルトンは組んだ相手アーマーセンチピードを失った挙げ句、攻撃手段の8割=両手を失った。


誰の目にも見て解る、処刑タイムだ。



「さあ………燃やすわよ!」



スカーレットも定番の決め台詞と共に、次の攻撃体制に移る。

このまま、スケルトンを撃破して、初配信の山場となる………かと、思われた。



ギギ………ギギィィィィ!!



突如、スケルトンがその甲高い声を挙げる。

何だ?自棄を起こしたのか?と目を見張るスカーレットとアズマであったが、実態はそうではなかった。



「き、傷口が………!」



アズマが指差す先では、ヴァイパースティングによって切り落とされたスケルトンの傷口から覗く筋肉が、まるでチェレンコフ光がごとく青白く発光しているではないか。



「あれって………」

「ええ………生体磁石よ」



スケルトンが厄介なモンスターとして知られる理由の一つが、この生体磁石と呼ばれる特性である。


これは読んで字のごとく、魔法によって一部体組織に、同じ体組織を引き寄せる磁石のような効果を持たせる。

スケルトンはこれにより、身体の一部を欠損しても、他のスケルトンやスケルトンの死体からパーツを補い、すぐに戦闘能力を取り戻す。


しかし、この場には代用パーツとなる他のスケルトンがいない。

加えて、右腕を失ったままで現れた事から、そもそもこの神沢ロックホールにはこの個体以外にスケルトンが居ない、

もしくは代用パーツとなれる程の他個体がいない事も推測される。


こんな所で、生体磁石を発動しても何の意味もない………はずだった。



「あっ!あれ!!」



異変を感じたスカーレットが指を指す。

その先では。



「センチピードが?!」



スカーレットに切り裂かれて息絶えたハズの、アーマーセンチピード。

その、二つに別れた亡骸が、ゆっくりと宙に浮いた。


そして、生体磁石を発動しているスケルトンの方向けて飛来する。

まさか、そんな。

目を見張るスカーレット達の眼前で、その、あり得ない事が起こった。



ばっ、しぃぃん!!



尻尾と頭に別れたアーマーセンチピードの死体が、なんとスケルトンの失われた両腕の部位にくっついたのだ。


知っての通り、スケルトンとアーマーセンチピードは、見た目からして別種族だ。

体組織の構造も、身体の作りも別物であり、まずくっつかないし、くっついても上手く動かないハズだ。


だが。



フシャアア!!

ギギィィ!!



スケルトンの両腕となったアーマーセンチピードの頭と尻尾は、まるで生きているかのようにのたうち、吠える。

あれは、「生きている」。

そんな、あり得ない状況がスカーレット達の眼前で繰り広げられていた。



「なんだよアレ………合体怪獣じゃないんだぞ?!」



アズマの言う通り、あれはもう現実の生物と言うよりは、特撮番組に出てくる合体怪獣の類いだ。

いや、生体磁石というとんちきなギミックを持っている時点で、おかしいのだが。



ギギィィ!!

フシャアア!!



しかし、考えている暇はない。

スケルトンの頭からファイアが、アーマーセンチピードの口から酸が、ばら蒔くように放たれる。

まるで、ロボットアニメの全弾発射フルバーストだ。



「危ない!」

「くううっ!」



飛来する火球と酸が、辺り一面を破壊する。

机も、カウンターも、次々と破壊される。


アズマはシールドを展開し、スカーレットはイフリートの刀身を盾にする事で、攻撃から免れようとする。

だが。



ジュウウウッ!



酸が、イフリートの刀身に炸裂した途端、熱した油のような音と共に煙が上がった。



「嘘ッ!?溶けた?!」



酸を浴びたイフリートの切っ先が、僅かに溶けていた。

ダンジョンで採掘された特種合金で作られ、マグマの熱にも耐える強度を持つのに、だ。


どうやらスケルトンと合体した事で、アーマーセンチピードの酸の威力も上がっているようだ。

とはいえ、この弾幕を抜けて近づく事は容易ではない。


この状況に対して、スカーレットが取った手段。

それは。



「アズマくん!隠れるよ!」

「えっ、ああっ?!」



ファイアと酸の弾幕から逃れつつ、アズマを抱き上げる。

そしてスカーレットは、胸の谷間に手を突っ込み、内部に隠していたスーパーボールのようなアイテムを取り出した。



「食らいなさい!」



スカーレットは、そのアイテムをスケルトンに向けて投げつけた。

コントロールは良かったが、スケルトンの火球と酸の弾幕を越える事はできず、本体に当たる直前でファイアに当たってしまう。


………それも、スカーレットの計算内。



ぼんっっっ!!



アイテムは爆発………否「発動」し、スケルトンの視界は白い煙に包まれる。

まるで、昔のメディアに登場する、忍者の煙幕のように。



ギギィィ!?ギギィィ!!

フシュルルルッ?!フシャアア!!



視界が奪われるだけでなく、両方の複眼等にとっても煙が刺激物になったらしく、スケルトンは苦しむように、煙幕を振り払う。

そして煙幕が晴れた頃には。



………ギギ?



視界から、スカーレットとアズマは姿を消していた。





………………





アイテム名「エスケープ・ボム」。


これは強力すぎるモンスターと遭遇したテイカーが、その注意を反らして逃げる際に使うアイテムだ。

そとから強い衝撃を受けると発動し、モンスターの視界を奪うだけでなく、感覚機関をも狂わせる煙を散布するのだ。


日本でも、ダンジョンから出て来て農作物や家畜に害を与えるモンスターへの対策として「にげろう君」という名前でホームセンターに売っている所を見る事が出来る。



「………まずいなぁ………」



そんなエスケープ・ボムでスケルトンを巻いたスカーレットは、アズマと共に物陰に隠れていた。


スケルトンが暴れた事で、立ち上がるような形で地面に落下した机だ。

無論、ファイアに対しても酸に対しても、防壁としての活躍は望めない。


今はスケルトンがこちらを見失っているが、もし見つかれば………



反撃しようにも、あのスケルトンはイレギュラーな個体だ。


他のモンスターをパーツとして取り込むなど、長い事テイカーをやっているスカーレットも聞いた事がない。

おまけに、アーマーセンチピードを取り込んだ事で攻撃のリーチは伸びている。


近接型の剣士ソーディアンと相性が悪く、攻略データも無く、おまけに初心者テイカーのアズマを守りながら戦わなくてはならない。



「………仕方ない、ここは………」



今回のミッションは諦めよう。

そう思ったスカーレットが、Dフォンの脱出エスケープ機能を開こうとした、その時。



「す………スカーレットさん!」

「えっ?」



そんなスカーレットを、アズマが引き留めた。

スカーレットの弱点………悪い言い方をすれば、足手まといであるアズマが。



「僕に、考えがあります………!」



この難易度の跳ね上がったクエストを、クリア出来るかも知れない作戦を持って。

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