第17話
………フシュルルルッ!!
最初に動いたのはアーマーセンチピードだ。
無数の足をシャカシャカと蠢かせて、スカーレット達の方に迫る。
そして。
「うわぁ?!」
「あ、アズマくん!?」
なんと、アズマに襲いかかった。
尖った牙を、直接アズマに叩きつけたのだ。
まだレベル3のアズマが攻撃を受ければ、即死である。
が、彼の纏う
………アーマーセンチピードがわざと手を抜いて、即死させないようにしているようにも、感じたが。
フシュルルルッ!!
「し、シールド………くうっ!」
間髪いれず、今度はその長い身体の尻尾部分を、鞭のようにして叩きつけてきた。
が、アズマは攻撃を受ける直前、防御魔法「シールド」を展開。
今度は、よりダメージを軽減できた。
………が、ここでようやく気付く。
アーマーセンチピードの攻撃により、アズマはスカーレットと大分離されてしまった。
そう、これが目的だったのだ。
戦闘のサポートが出来る
「アズマ君!くっ!!」
ギギィィ!!
今すぐにでもアズマに駆け寄りたいスカーレットだが、スケルトンが彼女を逃がさない。
左手の爪で何度も斬りつけられ、それをイフリートで受け止める。
スケルトンの攻撃は激しく、素早い。
これでは、アズマを助けに向かえない。
「スカーレットさん………!」
フシュルルルッ!!
「う、うわああっ?!」
アズマも、アーマーセンチピードに取りつかれていた。
尻尾を鞭のように振るい、何度もアズマに叩きつける。
シールドにより展開された魔力障壁によって、身を守る事は出来ている。
が、これがアーマーセンチピードが、アズマをなぶり殺しにしようとわざと手を抜いているからというのは、誰の目に見ても明らかである。
「あ、アズマ君!!」
「ぼ、僕の事は気にしないでください!スカーレットさん!!うぐっ………!」
心配するスカーレットに、気にするなと言うアズマ。
だが、一方的にアーマーセンチピードの攻撃を受けている様を見ていると、説得力の欠片もない。
「僕はなんとか堪えます!その間にスケルトンを!!」
「ッ………!!」
「あなたなら出来るハズだ!スカーレットさん!!」
そうだ。
スカーレットの実力を持ってすれば、眼前のスケルトンだって少し強いモンスターに過ぎない。
アズマに気をとられて一瞬パニックになっていたが、あれ位は恐れるに足らない。
何より、ドローンのカメラは回ったままだ。
なら、テイカーとしてやるべき事はただ一つ。
「………すぐ助けるから!」
一旦、スカーレットはアズマに背を向けた。
すぐに助ける、そう約束して。
まずは眼前の、スケルトンを片付けると。
ギギィィ!!
右腕は無くなったが、武器が全て無くなった訳ではない。
スケルトンはあの時と同じように、ファイアをスカーレットに向けて機関銃のように放つ。
ファイア自体は、初歩的な魔法なだけあって威力は低い。
だが、弾幕のように何発も放たれるなら話は別だ。
ガリガリとHPを削られ、いずれは倒れてしまうだろう。
「学習しないわね………ガイコツさん!」
だが、スカーレットにとってはどちらも同じだ。
迫る無数のファイアに対し、イフリートを構える………までは、以前と同じだった。
だが、今度は。
「炎神よ、その刃をもって悪を貫け!」
詠唱を確認し、パキンパキンとイフリートの刀身が分離する。
蛇腹剣モードだ。
「………貫かないけど!」
だが今回の目的は、
「そらあああ!!」
伸びた刀身が、まるで新体操のリボンのように舞い、スケルトンの放ったファイアを次々と弾き飛ばす。
動画的な見栄えもあるが、意味はもう一つある。
これは「壁」だ。
蛇腹状になったイフリートを振り回し、広い範囲を防御する事で、後ろにいるアズマを流れ弾から守っているのだ。
「スカーレットさん………!」
男として情けない………なんて考える余裕は、アズマにはなかった。
もしこの場に父親が居たならそう言ってアズマを殴っただろうが、今アズマを攻撃しているのはアーマーセンチピードだ。
「こっ、のお………!」
シールドで防御しているが、その分MPの残弾はガリガリと減ってゆく。
MPが尽きた時が、アズマの最後だ。
フシュルルルッ!!
嘲笑うように、アーマーセンチピードが顎を大きく開いた。
それを見て、アズマはスカーレットとの修行の合間に、モンスターについて教えてもらった………と、言うよりは、彼女が語った武勇伝の中に登場した、アーマーセンチピードの事を思い出した。
………アーマーセンチピードが、その顎を大きく開く時。
それは、武器の一つである酸性の体液を、口から吐き出す時の予備動作だ。
当然危険な物質なのだが、一方でこの体液は、強い可燃性を持っていたりする。
アフリカに潜伏していたテロリストが、この体液を元に火炎瓶を作ったという話も聞いている。
それを思いだし、アズマが取った判断。
それは、アズマのテイカーとしての経験値からしても、無謀な賭けではあった。
が、彼の中のなけなしの闘争本能がそうさせたのだ。
「このままアーマーセンチピードになぶられ続けるのは、シャクだ」と。
アーマーセンチピードに、シルフィードの宝玉を向けて、一言。
「ファイア!!」
短い詠唱と共に、小さな火球がアーマーセンチピードに向けて飛来する。
ファイア。
スケルトンが放っているアレと同じ。
アズマのような人間は、学校で習うレベルの下級魔法。
だが。
タイミングが、あまりによかった。
………ぼううっ!
放たれたファイアは、体液を噴射しようとしたアーマーセンチピードの口に直撃。
にじみ出ていた体液に引火する。
フシャアア?!
頭部が燃え、のたうち回るアーマーセンチピード。
危ない賭けであったが、アズマの作戦勝ちだ。
ギギィィ!?
そんなバカな?!と言うように、
彼等に仲間意識があったのか、単に偶然出会わせた所を利用し合っていただけなのかは解らない。
だがこの、スケルトンが狼狽えたこの一時が、勝負を分けた。
スカーレットからすれば、それは十分な隙だ。
「貫け一閃ッ!ヴァイパースティングッッ!!」
じゃらら、と、蛇腹状になったイフリートの刀身が、一閃の突となって飛来する。
そして。
ずばしゃあ!!
その、ヴァイパースティングの一撃は、今度はスケルトンの左腕に襲いかかった。
ギギィイ!!!
痛みに悶えているのか、はたまたもう片方の腕を奪われた怒りに燃えているのか、唸るスケルトン。
だが、スカーレットにはそれにかまけている余裕はない。
フシャアア!!
アズマの奇策は聞いたが、アーマーセンチピードを倒すまでには至らなかった。
焦げた複眼で、アズマを睨み付ける。
よくもやってくれたな、と。
シャアアア!!
「くっ!」
今度は殺す!と、牙を尖らせて迫るアーマーセンチピード。
咄嗟にシールドを張るアズマだが、今度は防げるかどうかは解らない。
そこに。
………ず、ば、あっ!!
振り下ろされた一刃が、アーマーセンチピードを胴体から真っ二つに切り裂いた。
その刃は、蛇腹モードのイフリートの刃。
伸ばしているのは、他でもないスカーレット。
「………言ったでしょ、すぐ助けるって!」
驚くアズマに、スカーレットは微笑んでみせた。
強者の余裕であり、頼れるお姉さんとしての笑みであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます