第14話
特訓が始まってから、二週間。
スカーレットの指導により、アズマはメキメキと実力を伸ばしていった。
………そして。
「………ついに、この日が来た………!」
民宿の洗面台で、アズマは改めて自分と向き合っていた。
二週間。
たったの二週間の経過であり、自分で言うのも何だが、多少は明るくなったように思えた。
そして、その左手には………テイカーの証でもある、Dフォンが巻かれている。
この日の為に、スカーレットがわざわざ海外から取り寄せてくれたものだ。
いやはや、以前より「普通になろう」ともがいてきたが、明るくなる事自体はこんなに簡単だった。
「理解のある旦那くん」のようであるが、支え導いてくれる人が側にいれば。
そしてアズマにとってのその人は、友達でも、家族でもなく、ほんの最近知り合った
それだけの話だ。
「………よし!」
そして今日、ついにその「恩返し」をする日がやってきた。
顔を洗い、気持ちをさっぱりとさせてから、スカーレットの待つ玄関へと歩いてゆく。
今日は、アズマのテイカーデビューの日。
そして、スカーレットが本格的に日本でのテイカー活動を始める日だ。
………………
神沢ロックホール。
何度も来ていたが、この日はいつもよりも仰々しい雰囲気が出ているように感じた。
そりゃそうだ。
ある意味今回の探索は「実戦」なのだから。
「それじゃ、始めよっか」
「はっ、はい!」
緊張気味のアズマではあるが、スカーレットは落ち着いている。
そりゃあそうだ、スカーレットにとっては「事前調査の上で、いつもやっている事をやる」程度なのだ。
ようは慣れである。
スカーレットは、自らのDフォンに表示された、立体映像のパネルをタッチ。
すると、カメラを搭載したドローンのような物がいくつか現れ、スカーレット達の周りを浮遊する。
これはテイカーがダンジョン内等の行動を記録し、動画にする為のドローン。
我々の世界のYouTuberやライバーよろしく、冒険を配信するテイカーが多い故に、付けられた機能だ。
そして、スカーレットがこれを放った理由は。
「ハァイ!画面の前の
一番近くに来たドローンを前に、わざと谷間を見せつける等のポーズを取り、ニッコリと笑ってウインクをしてみせるスカーレット。
ドローンに備え付けられた画面には、『待ってました!』『お帰り!』といったコメントが流れている。
どうやら、生放送されているようだ。
スカーレットの言う「本格的なテイカー活動の開始」というのは、このダンジョン攻略の様子を動画配信する事だ。
チャンネルは違うが、ザ・ブレイブ時代も動画 配信は頻繁にしていたし、何より副次収入にもなる。
「その前に………日本でやっていくに至って仲間になってくれた、新メンバーを紹介するわ!どうぞっ!」
「は、はひっ!」
ドローンが、アズマの方を向く。
自分に振られたと気付いたアズマは、自己紹介をしようとするが………。
「あ、あ、あ、秋山、あ、あ、あ
自分の名前を言うだけでも、こんなにしどろもどろになってしまっている。
そりゃあそうだ。
アズマはこういった動画配信者とは真逆の人間であるし、何よりこんな事はした事がないのだ。
「それじゃ早速、私達の変身を見てもらおうかしら、アズマくん♪」
「は、はひっ!」
そして、テイカーの動画において見せ場の一つとされているのは、
変身ヒーロー物のようでカッコいいと、アジア圏の視聴者に人気だ。
………もっとも、スカーレットのファン層場合は、「カッコいい」だけが理由ではないのだが。
『
『
二人は同時に、Dフォンのボタンを押した。
瞬間、二人の周りを光が包む。
緊急時の装着ではない為、今回は爆風は発生しない。
………………
さて
スカーレット・ヘカテリーナが、
では、その装着プロセスをスローでもう一同見てみよう。
………と、言いたい所である。
が、スカーレットの装着シーンは既にやったし、何度も同じシーンをやるのもアレなので、今回はアズマの装着シーンをお送りしよう。
野郎の着替えシーンなんか見たくないと言う方も多いが、堪えて欲しい。
『
光に包まれ、アズマの姿が変わる。
着ていたシャツが光に包まれ変質する。
白いヒートテックを思わせる、インナーの姿。
その上から、コートを思わせる白く長い上着と、白い半ズボン。
そしてプレートのついた靴に、似たようなプレートのついた手袋。
クローバーを模した宝玉のついた杖が現れ、手に握られる。
最後に、ベールのついた白く丸い帽子が頭に被られ、アズマの
………………
ダンジョンに現れた、二人のテイカー。
スカーレットの、ボンテージとビキニアーマーの合の子のような
これは、デザインを担当したエルロードの「美少年は着せろ」というポリシーに従った事ではあるが、モデルになったのが修道女の着る服というのもある。
………の割には生足の輝く半ズボンをしているが、これもエルロードのポリシーによる物だ。
頭、無垢の帽子。
胴、冒険少年のインナー。
腕、冒険少年のグローブ。
肩、セイントコート。
足、冒険少年の靴。
武器は、三つ葉のクローバーを模した魔法の杖「シルフィード」。
また、二週間の特訓によりアズマのレベルも上がった。
以下の通りだ。
名前:アキヤマ・アズマ
レベル:1→3
HP:3→9
MP:12→36
攻撃力:1→3
防御力:3→9
スピード:3→9
魔力:7→21
特攻:8→24
実力としては、駆け出しテイカーと言った所。
専門の養成期間に預ければもっとレベルは上がるのだが、まあ、いくらスカーレット指導でも自主学習ではこんな所である。
だが、ここに装備展開が加わる事で、ステータスはオール+20される。
つまり、今のアズマのステータスは。
HP:9→29
MP:36→56
攻撃力:3→23
防御力:9→26
スピード:9→29
魔力:21→41
特攻:24→44
これでようやく、中堅の五歩ぐらい前といった所か。
なんとか、スカーレットについていって戦える程度はある。
ちなみに
なるほど、白い
「今日からこの燃え萌えチャンネルは、このアズマくんと一緒にやっていきま~す!よろしくゥ♪」
「はわわっ!?」
むにゅん♡と、カメラ目線でアズマに乳房を押し付けるスカーレット。
アズマはびっくりして、スカーレットを押し退けた。
「え?どったの?」
「こ、こんなベタベタするのって、大丈夫なんですか?!」
「何が?」
「その………ファンの人とか」
アズマの心配は当然だ。
芸能界では付き合ってる相手が居ただけで吊し上げられ、そうでなくてもバーチャル配信者に彼氏が居ただけでも炎上する。
そんな社会に生きてきたアズマとしては、控え目に言っても美女の配信者であるスカーレットが、こんな事をしても大丈夫とは思えない。
「別に問題な無いでしょ?」
「でも………」
「大丈夫だって、私のファン層にそういう人居ないから」
確かに、ドローンに流れるコメントを見ても、アズマに否定的なコメントはない。
むしろ『あらかわいい』『おねショタおいしいです』といった、肯定的なコメントが並ぶ。
「それにこんな格好してるようなテイカーに、処女性求めるヤツなんていないでしょ!あっははは!」
それにスカーレットも、自分が破廉恥な格好をしている自覚と、それで集まるファン層を理解している。
コメントにも『そうだよ(便乗)』『当たり前だよなぁ』と流れている。
「………そこはちょっとは否定してよぉ」
身勝手な話ではあるが、自分で煽っておいて、勝手にヘコむスカーレットなのでした。
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