第12話
アズマは頭をぶつけたが、幸い大した傷にはならなかった。
それより大変だったのが、身体の傷だ。
アズマの父親は外面「だけ」はよく、その牙城を守るために、目立つ場所には傷をつけない。
まあ、子供に暴力を振るう親にとっては基本のテクニックである。
全身の打撲傷には、寝ている間にスカーレットが湿布を張ってくれたという。
なんとも、ありがたい話である。
「いい?これから私が話す事を、よく聞いてね」
今、スカーレットとアズマは対面し、これからの事について話をしている。
スカーレットの言う所によると、今からアズマはスカーレットに保護される事となるらしい。
学校も、スカーレットの言う「しばらく」が過ぎるまでは、休みだ。
なんでも、昨日アズマが寝ている間に、警察やその他諸々に話をつけてくれていたとの事。
一流テイカー………である事が関係あるかどうかは解らないが、流石の手腕である。
「まず、私の許可無しに出歩かない事………監禁みたいになるけどごめんね、しばらくの間だから、我慢してね」
アズマは、無言で首を縦に振る。
知り合って日の浅い相手との約束であるが、不思議と、親よりもずっと信用できた。
「もう一つは、ここに私達以外の他人を入れない事………ここには、私達以外誰も来ないわ、友達でも入れちゃダメよ?」
「………僕、友達いませんから」
「………そっか」
悪いことを聞いたかのように、申し訳なさそうなスカーレットを前にして、アズマはちょっとだけ自分が惨めになった。
同時に、スカーレットの言う事を聞いて、昔ネットで見た都市伝説に似たような一幕があったなとも思った。
「しばらくの、しばらくの辛抱だから、ね?」
「………はい」
「うん………ありがとう」
スカーレットは、優しくアズマの頭を撫でる。
大昔のネットの二次創作によくにあった「ニコポ」や「ナデポ」ではないが、スカーレットに撫でられて、アズマは心が安らいでいった。
当然だ。
記憶の知る限りでは、生まれてはじめて自分を肯定し、優しくしてくれたのだ。
今までに見た、聞いた、いじめや虐待から子供を守ってくれると自称する、実際には何もしてくれない「ちゃんとした大人達」よりもずっと、スカーレットは頼りがいがあり、また暖かかった。
………だから、だろうか。
安心できる場所に来て、少しばかり気が大きくなったのだろうか。
こんな事まで、アズマの頭に浮かんできた。
「………あ………あの」
「ん、なあに?」
彼女の役に立ちたい。
つい昨日まで、自らの死を願っていた者としては、驕った願いが。
「あの………前、テイカーに誘って頂いたのを、お、覚えていますか?」
「えっ………え、ええ、覚えてるわ」
そういえば、そんな話もしたな。
と、スカーレットは思い出す。
そういえば、スカーレットがアズマに近づいたのも、元は一緒にテイカーをやってもらう為だ。
思えば、なんとも打算的な事をした。
と、スカーレットは罪悪感で胸が痛んだ。
が、アズマはそんなスカーレットに追い討ちをかけるかのように、その手を握り言い放つ。
「ぼっ、僕、スカーレットさんに助けてもらった恩返しがしたいんです!その誘い、乗ります!答えます!上手くできるかは解らないけど………やります、テイカー!」
真っ直ぐな、澄んだ瞳だった。
スカーレットには解る。
彼は、打算的な理由で………言ってみれば、利用する為に近づいたスカーレットに、こんなにも純粋な善意を向けている。
自分が弱い事を自覚しつつ、自分の出来る精一杯をもって、スカーレットに答えようとしてくれている。
それを前にして、スカーレットを様々な感情が駆け巡る。
庇護欲。
母性愛。
罪悪感。
その果てに、スカーレットの出した答えは。
「ええ………ええ!やりましょう!テイカー!一緒に!!二人で!!」
アズマの手を握り返し、スカーレットはぶんぶんと握手を交わした。
奇しくも、当初の予定通りになったわけだが、そこにはもう打算的な考えはない。
こうして、ここに新しいパーティーが結成された、という訳である。
………………
その日から、アズマのテイカーを目指す特訓の日々が始まった。
まずアズマのステータスを、スカーレットのDフォンで調べた。
彼の
テイカー用語での
代表例を上げると、以下の通り。
剣タイプの武器を使った近接戦闘を行う、
軍隊の兵士のように、銃や爆弾を操る
魔法を使った戦闘やサポートを得意とする
派生や近縁を含むともっとあるのだが、大まかな分類をするとこの3つになる。
どの職業に向いているかは、ステータスを調べればすぐ解る。
して、アズマのステータスは。
名前:アキヤマ・アズマ
レベル:1
HP:3
MP:12
攻撃力:1
防御力:3
スピード:3
魔力:7
特攻:8
どうやら、
努力次第で他の職業を目指す事もできたが、前衛はスカーレットで事足りる事もあり、サポートや後方支援を意識した特訓を組む事になった。
とはいえ、テイカーに向けられる目が冷たい日本においては、
だが、そこは一流テイカー。
元
まずは、体力作り。
スカーレットが連れていったのはスポーツジムだ。
後方支援とはいえ、ダンジョン内で素早く動ける程の体力は無ければならない。
体育の成績はてんでだめだったアズマではあったが、予想に反してみるみる内に体力はついていった。
成長期だった事もあるが、学校の体育の時間のように、失敗しても咎められたりバカにされないという事もあるだろう。
続いて、ゲームセンター。
娯楽施設ではないかとアズマは思ったが、ここにはVRシステムを応用したバーチャルシューティングゲームがあった。
なるほど、ダンジョンでの戦闘の練習には、これほど持ってこないな場所はない。
………もっとも、時折混ざってキャアキャア騒いでるスカーレットを見るに、本当に特訓になるのか?と疑う事もあったが。
希に、神沢ロックホールに潜る事もあった。
実戦形式の訓練を行う為だ。
人の目を掻い潜る為に、夜中を狙って向かった。
アズマは、スカーレットがダンジョン内で手に入れた資材を使って作った、擬似的な魔法の杖を使い、モンスターと戦った。
それまで学んだ事を総動員し、彼はメキメキとテイカーとしての実力をつけていった。
ちなみに、これにはあの時遭遇した大型スケルトンの捜索も兼ねていたとの事だが、スケルトン所か、痕跡すら見つからなかった。
アズマの実力から考て、遭遇したとしてもまず太刀打ちは出来ず、スカーレットのお荷物になってしまう事は目に見えていた。
それを考えると、遭遇しなかったのはある意味運がいいと言える………かも知れない。
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