第6話
頭、デビルクラウン。
胴、サキュバスボンテージ。
腕、火竜のガントレット。
肩、火竜の肩甲。
足、女王様のブーツ。
これが、スカーレットのテイカーとしての真の姿。
「炎の魔女」の異名で恐れられる、ザ・ブレイブの元エースの姿。
持てる能力の全てを発揮できる、いわば本気モードだ。
装備を展開した事で、彼女のステータスも大幅に上がっている。
攻撃力:250→300
防御力:250→300
スピード:300→350
魔力:280→330
特攻:300→350
HPとMPを除くステータスの全てに、50も上乗せされている。
人間が一生かけて上がるレベルの平均が10前後である事を考えると、その凄まじさの想像はつくだろう。
ギギィィ!!
スケルトンも、野生の本能によってその異常性を理解して………いなかった。
なんせ、いくら大きくとも基本はカマキリなのだ。
自分より小さい物は、獲物としてしか認識していない。
ぶおんっ!と、振り上げた爪を、再びスカーレットに向けて振り下ろす。
「はあっ!」
対するスカーレットも、イフリートを打ち付けた。
受け止める=防御ではなく、今度は攻撃を仕掛けたのだ。
ばきんっ!
がきんっ!!
ぎゃいんっ!!!
何度も、何度も、互いの刃がぶつかり合う。
その度に、金属がぶつかるような音と、火花が散る。
………スカーレットの
が、スケルトンはその外骨格を形成する為に、鉱石等から金属を接種する。
あの爪も、僅かではあるが金属が含まれているのだ。
「す、すごい………!」
端から見れば、スケルトン相手にチャンバラをしているようにしか見えないだろう。
しかしアズマは、それだけでない事を悟る。
「あんなに大きいモンスター相手に、押しているなんて………!」
戦況は、スカーレットの有利に傾いていた。
僅かではあるが、スケルトンの方が後ろに後ずさっている。
それに、スケルトンの繰り出した攻撃は全て受け止め、逆にこちらの攻撃は何発も当てている。
昔のカードゲームのアニメではないが、まさに「ずっと俺のターン」という状態だ。
ギギ………!
自慢の外骨格は傷だらけ。
ここまできて、スケルトンはようやく自分が追い詰められている事に気がついたようだ。
ギギィィ!!
「なっ?!」
その巨体を飛び上がらせ、スケルトンはチャンバラを強制終了させつつ、スカーレットと距離を取った。
スケルトンの武器は、何も両腕の爪だけではない。
それは。
………ギギィィ!!
スケルトンの両目………黒く、それこそ髑髏の目部分のようになっている複眼に、光………すなわち魔力が集中。
二つの火球となって、スカーレットに向けて放たれた。
「魔法まで使えるの、やるじゃん………!」
だがスカーレットは、それをイフリートで振り払う。
魔力を操る生物な以上、モンスターの一部は人間の使うそれと同じような魔法を使う事が出来る。
スケルトンが放ったのは、攻撃魔法の初歩の初歩である「ファイア」。
魔力を火の球に変質させ、相手にぶつける。
生身の相手ならともかく、ある程度のレベルを持ち、装備を展開したテイカー相手には豆鉄砲にもならない魔法だ。
ギギィィ!!
だが、問題は「数」だ。
二発に留まらず、四発、八発、まるでマシンガンかガトリングガンかのように、無数の火球が飛んでくるのだ。
魔法を使うスケルトンは目撃例が少なく、他がどうかは解らない。
が、どうやらこのスケルトンは「質より量」という考え方らしい。
「はっ!ふっ!それっ!!」
しかし、その程度でやられるスカーレットではない。
野球かテニスの千本ノックがごとく、次々と飛来する火球をイフリートを奮って弾き飛ばしていた。
そんな姿を見て、アズマは………今が緊急事態なのは十分承知してはいるが、彼女が身体を動かす度に「ゆさっ」「たゆんっ」「どゆんっ」と揺れる乳房から、目を離せなかった。
所詮、彼も思春期男子である。
………さて、装備展開からこれまでの描写を見て、読者諸君は疑問を感じただろう。
一つは「これだけ派手に乳揺れをして、彼女の背骨とクーパー靭帯は無事なのか」。
もう一つは「こんな露出の高い格好で戦って大丈夫なのか」。
この手のファンタジー物には常について回る
第一に、背骨とクーパー靭帯について。
これは、以前語った「レベルアップによる身体能力強化」によって解決している。
外見こそ、モデル体型の美女であるスカーレットであるが、その身体能力は並みの男性以上だ。
背骨もクーパー靭帯も、常人のそれを遥かに上回る強度を誇り、ダイヤモンドカッター等で直接攻撃しない限りは傷一つつかないのだ。
第二に、露出について。
これは、弱点にも見える彼女の
テイカーの纏う装備は、身に纏う事でテイカーに様々な効果を与える。
それはなんと、位置的に装備で守る事の難しい、顔面や間接にも与えられるのだ。
胴体に装備した「サキュバスボンテージ」の+50の防御力は、丸出しの腹や、乳房の北半球部分にも適応されている。
おまけに、肩装備の「火竜の肩甲」により「防寒」「防熱」の効果が施されており、暑いも寒いもなんのその。
だから、これ以前もスカーレットは、この格好で活躍してきた。
溶岩渦巻く火山地帯も、吹雪吹き荒れる北の大地も、これで戦い抜いてきた。
………見事な剣裁きでスケルトンの攻撃を凌ぎ続けるスカーレットだが、ここである事に気付いた。
スケルトンの放つファイアの雨。
それが。
「うわっ!」
「ひいいっ!」
スケルトンに叩き潰されて、動けないでいる不良テイカーにも、流れ弾が襲い掛かっていたのだ。
ぶっちゃけ、こいつらがどうなろうと何も思わないが、後々「この女のせいで大怪我した!」と騒がれても困る。
そこでスカーレットは早々に、決着をつける事にした。
「炎神よ、その刃をもって悪を貫け!」
詠唱するのは、炎剣イフリートに隠された「あるシステム」の起動コード。
イフリートの宝玉が輝いたかと思えば、なんと刃の部分がバラバラになってしまった。
………いや、違う。
分解された刃の一つ一つは、持ち手の部分から伸びたワイヤーにより繋がっている。
そして蛇のように、スカーレットを囲んで宙に舞う。
いわゆる「蛇腹剣」というやつだ。
とあるロボットアニメで有名になったこの武器は、
が、魔法による技術革新により、ついに現実の武器となったのだ。
最も剣の腕だけでなく、分解した状態の刃を自由に操るため、魔法方面でもある程度明るくなければならない。
そして………スカーレットは、それを操るだけの魔法の才能を持っていた。
「貫け一閃!ヴァイパースティングッッ!!」
スカーレットがイフリートを震い、伸びた刃がスケルトン向けて突撃。
彼女の持つ特殊攻撃………いわゆる「必殺技」である、スピードをつけて強化された一突きで相手を貫く「ヴァイパースティング」だ。
飛来した一閃。
あまりに早く、スケルトンは避ける事ができない。
そして………。
………ギギィィ!!
スケルトンは、迫るヴァイパースティングの一撃を避ける事はできなかった。
が、なんとか致命傷は避ける事ができた。
ヴァイパースティングが胴を貫かんとした、ほんの一瞬。
スケルトンは、横に避けようとした。
ばしゅっ!!
流石に、完全な回避は叶わなかった。
右の腕が本体から切り裂かれ、分離し、どさりと地面に落ちる。
右腕を失ったが、撃破は免れた。
ギギィィ!!
とはいえ、最大の武器を片方失った。
これ以上の戦闘は無理だと判断したスケルトンは、大きく飛び上がる。
「あッ!」
驚くスカーレットの眼前で、スケルトンはアズマが落とされようとしていた崖の底へと消えてゆく。
逃走成功だ。
少なくとも、スカーレットは崖の下まで追いかけようとは思わなかったし、その為の装備も今は持ってきていない。
「………逃げた?」
「逃げてくれた、と言うべきかしら」
スカーレットは、蛇腹剣モードにしたイフリートを、元の形状に戻す。
危機は脱した。
だが、面倒事が無くなった訳ではない。
「………さて」
スカーレットの周りには、彼女に守られていた為に無傷のアズマと、スケルトンに叩きのめされた不良テイカー達。
以前も述べた通り、Dフォンのシステムを使えば、すぐにダンジョンの外に出られる。
が、それはDフォンを巻いている当人のみである。
そして、アズマも不良テイカー達も、Dフォンはしていない。
自力で出なければならないが、足も腕も折れているように見える彼等が、それが出来るかと言うと………
「………はぁ」
スカーレットは今日ほど、自分が人並みの良心を持っている事を悔いた事はなかった。
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