第5話
どさり、と、地面に落下した不良テイカー。
彼等の背後から顔を出したのは、3mはあるかという巨大な人型であった。
一見すると、それは巨大な人骨が、立って歩いているように見える。
が、よくよく見てみると節々には繋がりがあり、その髑髏のような顔には横に開く口と、折り畳まれた触覚が見えた。
「スケルトン」。
その、
確かに、骨に見えるが、その実態は昆虫である。
学名・オスマンディダエ。
和名・メイキュウホネカマキリモドキ。
これらの異名から解る通り、肉食昆虫の代表格とも言える昆虫・カマキリと似通った特徴を持つ。
何故、人骨に擬態しているのかについては、元いた異世界の環境に由来するとされている。
研究が進まず、謎の多いモンスターであるが、解っている事が一つある。
それは、今この場にいる全員が、危険に晒されているという事。
ギギィィ!!
スケルトンが、そのショーテルか鎌を彷彿させる爪を振り上げ、不良テイカー達に襲いかかる。
「うわぁぁ!!」
「逃げろぉぉ!!」
逃げ惑う不良テイカー達。
先ほどまでの威勢はどこへやら、パニックを起こしては、次々とスケルトンの爪に吹き飛ばされている。
運がよかったのは、スケルトンの爪が切り裂く事よりも、叩き潰す事に特化していた事だろう。
真っ二つにはならない。
………まあ、それでも骨は折れるだろうが。
「スケルトン?!大きいけど………!」
スカーレットもまた、驚愕していた。
それは、ここにスケルトンがいる事について、だ。
「なんでこんな、低難易度ダンジョンに………?!」
………スケルトン自体は、この神沢ロックホールに居てもおかしくない。
だがそれは人間大の、あくまでスタンダードなもの。
なら、目の前のスケルトンはどうだろうか?
3mもある大型個体は、通常ならもっと難易度の高いダンジョンに出没する。
神沢ロックホールのような、低難易度のダンジョンには現れないハズなのだ。
ギギィィ!!
不良テイカーをあらかた片付けたスケルトンは、とうとうスカーレットと、その背後のアズマに目をつけた。
そして爪を大きく振るい、二人に向けて飛びかかる。
「ひいっ!!」
食われるという原初の恐怖から、顔を覆うアズマ。
スケルトンもまた、眼前の二人を食ってやろうとでも考えていたのか、だらだらと口から涎のような物を垂らしていた。
………が、きんっ!
もし、スケルトンが表情筋を持つ生物であったなら、目を見開いて唖然としていただろう。
アズマも、自分の死が中々訪れない事に違和感を感じ、目を開いた。
そこには。
「………えっ?!」
スカーレットだ。
スカーレットが、その剣を構え、スケルトンの一撃を受け止めていた。
自分よりずっと大きいスケルトンが振り下ろした一撃をだ。
………たしかに、鍛えられてはいるスカーレットだが、3mもあるスケルトンの一撃を受け止められる程ではないように見える。
だが、そんな漫画のような絵面を再現する方法が、一つだけある。
モンスターとの戦闘によるレベルアップだ。
どういう訳か、モンスターと戦うとレベルが上がり易い。
その際、外見的な変化は少なくなる。
これは、モンスターやダンジョンに満ちる魔力の作用による物と推測される。
現に、アメリカのザ・ブレイブのリーダー・スティーヴンは、人間の範囲内の筋肉しかない外見でありながら、船や飛行機を持ち上げるといった芸当を見せている。
アズマはそれと同時に、スティーヴンを例に出した事で、少し前までザ・ブレイブにいた、とあるテイカーの事を思い出していた。
「………いつまで触ってんのよ、変態髑髏!」
そして、そのテイカーが眼前のスカーレットと似ている………否、同一人物としか思えない事も。
ガキンッ!と、スカーレットはスケルトンを逆に吹き飛ばす。
スケルトンはたじろぎ「何が起こった?!」とでも言いたげに、呆然としている。
当然だ。
自分より遥かに小さく、力も無さそうなスカーレットに、吹っ飛ばされたのだから。
「………アズマくん」
「は、はいっ!」
「そして不良テイカー諸君………そこで見てなさい」
スカーレットは臆する事なく、前に出た。
その姿は堂々としていて、彼女の秘めたる実力を裏付けているように見えた。
そうだ。
彼女は実際、強いのだ。
「………モノホンのテイカーってやつをさ」
啖呵を切るように彼女は、手にしたDフォンのスイッチを押した。
『
Dフォンに記録された機械音声と共に、スカーレットを中心に目映い光が広がった。
………いや、ただの光ではない。
スケルトンが少し怯んだのと、自らに感じた熱風で、アズマはそれが「爆発」の類いだという事に気付いた。
Dフォンには、緊急時に武装を展開する際に、周囲のモンスターを衝撃波で吹き飛ばす機能が搭載してある。
これで、戦闘で追い詰められても「仕切り直し」が可能、という事だ。
そして1秒程して、光は晴れる。
そこにあったのは、爆発によって一部が燃える地面。
そして………。
………………
スカーレット・ヘカテリーナが、
では、その装着プロセスをスローでもう一度見てみよう。
『
Dフォンの装備展開システムが発動すると同時に、スカーレットの周囲に光と爆発が発生。
光の中で、スカーレットは変わる。
まず、彼女を纏っていた衣服が燃えるように弾け飛び、そのチョコレート色の肌と、上から95,54,85の身体が露になる。
が、衣服は実際に燃えたのではなく、データ化されてDフォンに収納されただけだ。
そして新たに、Dフォンに収納されていた彼女の
95cmのバストを、エナメルの質感を持つビキニかブラジャーのような服が。
85cmのヒップを、これまたガーターベルトのついたパンティのようなパンツが、各々覆う。
腕には
脚にはブーツ。
頭には悪魔のような羽飾り。
右肩にドラゴンの頭を模した装甲を装着。
最後に、手にしていた剣のパーツが、排熱の為に変形。
その「炎剣イフリート」としての姿を露にし、彼女の「変身」が完了した。
………………
光が晴れた時、そこに立っていたスカーレットの姿を前に、不良テイカー達は目を見張る。
一つは、常識の範疇で考えるなら、それがダンジョンに入る時にするような格好ではないという事。
一つは、思春期男子からすれば、そのナイス・バディを覆う露出の高いコスチュームは、刺激が高すぎたという事。
所々に火竜を思わせるアクセサリーや意匠のついた、ビキニ型のボンテージを纏った姿。
どこぞの白蛇の姫君や、某絡みつく孤高の刃を彷彿とさせる彼女の
だが………この場においては、アズマだけが知っていた。
この姿が示す意味を。
彼女が、何者であるのかも。
「もしかして………貴女は………!」
この日の為に動画サイト等で予習した中で、アズマは知っていた。
アメリカのトップテイカー
その、エースとも言える女剣士を。
炎の魔女。
燃える
このおっぱいでテイカーは無理でしょ。
様々な異名を持つ彼女こそ、ザ・ブレイブの誇っていた切り込み隊長。
その名は。
「スカーレット………スカーレット・ヘカテリーナさん………?!」
「へえ、知っててくれたんだ」
アズマに対し、悪戯っぽく微笑みかけるスカーレット。
その妖しい笑みに、アズマはどきりとしてしまう。
そして、改めてスカーレットはスケルトンと対峙する。
「さあ………燃やすわよ!」
仕切り直して、第二ラウンドの開始だ。
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