第4話
信じられない光景であった。
スカーレットの視線の先では、なんとテイカー同士の戦いが繰り広げられていた。
いや、戦いとは言えない。
攻撃手段を持っていないように見える少年テイカーを、同世代位のテイカー達が追いたてているのだ。
たまに、テイカー同士での競い合いや腕試しの目的で、模擬的な戦闘を行う事はある。
だが、あれがそうとはとても思えない。
今は違法であるが、昔はテイカーを狙った盗賊行為が横行していた時期もあった。
だが、それも違う。
連中は、盗賊目的でも競いあってる訳でもない。
連中は、あの少年を痛め付け、苦しめる事「だけ」を目的としている。
スカーレットのようなテイカーの勘を持たずとも、誰の目に見てもそれは明らかであった。
「こっから落ちて死ね!今すぐに!」
だからだろう。
気がつけば、スカーレットは動いていた。
連中の一人が放った魔力弾を、己の火属性魔法でかき消し、少年を守るように連中に立ちふさがった。
「あなた達何してるの!」
………………
少年の前に立つ、スカーレット。
対するは、同じく簡素なプロテクターを纏い、安物の装備で少年を追いたてていた………いわば、不良テイカーとでも言うべき少年達。
「………ちょっとオネーサン、邪魔なんだけど?」
不良テイカーの一人が、「空気読めよ」とでも言うかのように、スカーレットを睨む。
「………ならず者の邪魔はしていいって、学校で教わらなかった?」
が、そんな事で怯むスカーレットではない。
ザ・ブレイブにいた時から、何度も修羅場を潜り抜けてきたのだ。
今さら、不良テイカーに凄まれた所で、皮肉とジョークで返せる。
「ならず者だと?悪いのはそいつだ!!」
だが、それが癪に触ったらしく、不良テイカーの一人が声を荒げる。
「………この子が悪い?」
スカーレットは振り向き、少年を見る。
酷く怯えており、身体中傷と汚れだらけ。
栗色の髪は火属性魔法をやられたのか、所々が焦げている。
それでも、不良テイカーが言うように「悪」に分類されるような、何かやましい事をしているようにはとても見えない。
「………どういう事よ?」
とはいえ、人は見かけによらぬ物とも言う。
それに、相手の言い分を聞かないのも不公平だと、スカーレットは不良テイカーに訳を話すよう促す。
すると、先ほど声を荒げた不良テイカーは、
ふつふつと怒りを燃え上がらせ、ワナワナと怒りに震えながら、先ほどよりも口調を強めて叫んだ。
「そいつはっ!我が校の男子の憧れである「
………沈黙が流れた。
スカーレットは「は?」とでも言いたげに、目を点にして沈黙していた。
あまりもの理由に思考がフリーズしたが、あの不良テイカーの言っている事を、脳内で整理する。
彼等のいう、ミツルギ・レイカという女子生徒。
それは所謂「学園のマドンナ」といった、最近では見なくなったような珍しい立ち位置にいるらしい。
彼の言う事が本当なら、ミツルギ女史は今スカーレットの後ろで震えている少年に好意を抱き、交際を頼み込んだ。
そして少年がそれを断った。
それが理由で、少年はあの不良テイカー達の恨みを買い、このように痛め付けられている。
………つまり、だ。
彼等がこの少年を痛め付ける大義名分と思い込んでいる、この犯行動機は、要約すると。
「つまりは嫉妬ね」
「な………?!」
嫉妬である。
それ以上でもそれ以下でもない。
「だ、黙れ!そいつは大した取り柄もないくせにレイカさんに好かれている!そんな物許せる訳が………」
「それに関してこの子に落ち度はないでしょ、そのレイカって子がこの子みたいなのがタイプだったってだけの話じゃない」
「ぐ………っ!」
不良テイカー達のような、男だけの空間であったなら、軟派な野郎に正義の鉄槌を下す事は、ある種の不良漫画で描かれるような正義を持ったかも知れない。
しかし、スカーレットという第三者の視点から見れば、美少女に好かれているこの少年に嫉妬しているだけに過ぎない。
なんとも、矮小かつ下らないヒーローごっこでしかないのだ。
それに、仮にこの少年が告白にOKを出していたとしても、
彼等は「取り柄もないくせにモテるのは許さん」とでも理由をつけて、少年を痛め付けただろう。
「ええい黙れ!邪魔するならてめぇもブッ殺す!!」
論破された不良テイカー達ではあるが、現実は説教ポルノのように、相手が舌を出して黙るなんて事はない。
閉鎖的な集まりで、正義を加速機にかけていたなら尚更だ。
逆上した不良テイカー達は、各々の武器をスカーレットに突き付けた。
「ちょいちょい、やめなさいな、もうちょっと穏便にいかない?」
「黙れ!クズ野郎に味方するならお前も同類だ!」
スカーレット自身も解ってはいたが、彼等は穏便に物事を片付けるつもりはとうにない。
武装を見てみれば、スタンダードな剣と、さっきも使った銃が中心。
剣はともかく、遠距離攻撃が可能な銃は、
だが、問題はない。
見た所、彼等はDフォンをしていない。
テイカーには必須アイテムなのだが、おそらく今日か昨日にテイカーになったばかりで、まだ入手していないのだろう。
装備に至ってもそうだ。
衣服の上から被っただけの簡素な鎧は、彼女の地元でテイカー体験の際に渡される、安物の「お試し装備」によく似ている。
………ベタベタと張られたステッカーにより、ダサい事になってしまっているのは、この際置いておこう。
つまり、彼等とスカーレットの間には、テイカーとしての戦闘力に大きな差があると推理できる。
いくら数があり、有利な装備を持っていようとも、かすり傷一つつく事なく勝利できる。
「………坊や、名前は?」
「えっ、僕?」
「他に誰がいるの?」
「えと………アズマです、
この少年、アキヤマ・アズマを守りながら戦う事も余裕なのだ。
庇護欲を感じさせる、ふるふると震える不安そうなアズマを前に、スカーレットは安心させるように微笑みかける。
「いい、私の側から離れないでね!」
「は………はいっ!」
剣を構え、不良テイカーと対峙するスカーレット。
ピリリとした空気が漂う。
まるで、西部劇の血統だ。
さあ、どちらから仕掛ける。
場が緊張感に包まれたその時、事件は起きた。
ばきいっ!!
不良テイカー達の内で、背後にいた一人が突然吹き飛ばされたのだ。
「げふうっ!」
「なっ、何だ?!」
地面に落ちた仲間を前に、驚く不良テイカー達。
スカーレットとアズマも驚き、目を見開いた。
スカーレットは一人でこの、神沢ロックホールに入った。
他に仲間など居ない。
加えて、遠くから弾丸を飛ばすような、どこぞのロボットアニメに出てくる「じょうご」のような武器も能力もない。
なら、誰が不良テイカーを吹き飛ばしたのか?
………その答えは、ズシンと地面を揺るがす足音と共に、姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます