第26話「楽しい楽しいお店屋さん」

「おはよう」


 飯を食った後、結局俺達はトイレを召喚して1-1でユックリ休み、そのまま朝まで過ごして戻ってきた、朝食はこっちで食べるのでコンビニおにぎりをどうしたもんかと考えて居た。


「おはよう御座います」

「昨日はユックリ休めたか」

「はい、お陰様で、朝食の準備はどうすれば良いですか」

「しばらくは律子がやるから、手伝いがてら作り方を見ておけば良いから」

「判りました」


 サーヤが律子の手伝いに行って、俺はエリスと2人朝食が出来るまで食堂で座って待って居た。



「さあ朝食ですよ」

「エリスさん朝からお肉が有りますよ」

「そうか、それは豪勢で結構な事では無いか」


 運ばれて来たベーコンエッグにエリスは嬉しそうにしているが、豪勢と言いながらも肉が無いとこの世の終わるのような顔になる。

 俺が記憶している限りで律子が来てから、肉が出なかった日は無い。


「あれっ?このパン温かいな」

「うん、余裕が有ったから焼いて見たの」


 朝が弱い律子がどうやってと不思議に思っていたが、調理室に有った、ホームベーカリーを使えば焼けると言う事に気がついた。

 昨日寝る前にセットして居たのだろう。


「美味しいです」


 サーヤは嬉しそうに食パンを食べて居る、添えてあるバターをたっぷり塗って不満は無いように見えた。


「ナツメ今日は何をするんだ」


 朝食を食べ終えたエリスが何をしたら良いか訪ねて来た。


「昨日と一緒かな、サーヤと一緒に部屋の拭き掃除をお願い。途中で樽が運ばれて来ると思うからそうなったら、塩の詰替作業かな。俺と律子は倉庫に品物を入れておくから」

「判った」


 俺達も朝食を食べ終えると律子とサーヤが洗い物をしに台所に移動したので、俺は先に倉庫に入るとコンビニで売れそうな物を仕入れる事にした。

 一番の売れ筋は塩だろう、しかし俺達に求められて居る事はそう云う物では無い、少し贅沢な物を売れば良いんだろうと思う。

 飴玉や砂糖を置けば良いんだが、砂糖なんかはドラッグストアで購入した方が安いだろう、駄菓子を中心に日持ちをする物を買っていこう。


什器1台分の駄菓子を購入するとそれ以上必要な物が無いように思えて来た、商品自体はまだまだ種類があるが、律子のドラッグストアの方が安いしコンビニよりは数もある。

 俺がどうしようかとスマホで商品を確認していると洗い物を終えた律子がやってきた。


「結構買ったのね、どのくらいの魔素を使ったの」

「10万魔素くらいかな」

「そんなに売れるのかしら」

「売れ残っても良いんじゃない、俺達がこの世界で生きていく為の拠点が出来たって思えば、安いもんだよ」

「それもそうね、私も仕入れちゃうわね」


 律子が最初に購入したものは1キロ入りの砂糖だった、俺は知らなかったのだが砂糖にも色々種類があるらしい。

 上白糖、ザラメ、グラニュー糖、三温糖、100キロ単位で購入しているが、こんなり売れる物なのだろうか、アスター商会で見せてもらった砂糖は高級品扱いだったように思うのだが。


「砂糖を買うのは良いけどいくらで売るの?」

「アスター商会と同じ値段で売るつもりだったけど駄目かしら」


 多分売れないだろうなとは思いつつ、まあいっかと聞き流した。

 砂糖の次に購入したのは石鹸、安いレモン石鹸と、少しお高めの牛乳石鹸を山程買い込んでいる。

 シャンプーやコンディショナーも仕入れて居るが需要があるのか。


「夏目君お皿やフライパンって売っても大丈夫だと思う?」

「なんか問題あんの?」

「こっちで売られている食器って質が悪そうだったから、フライパンもそうだけど同じ規格の物って言うのが無いと思うの」

「別に良いんじゃない、俺そんな事気づきもしなかったし、犬狼族が気にするとも思えんのだけど」

「そうね、うんじゃあ遠慮無く仕入れるわね」


 律子も買い物に楽しさを見出すタイプのようで、ああでも無いこうでも無いと言いながら、大量の仕入れを行う。

 まあお店屋さんごっこのようで正直楽しいからな、総計50万魔素を使って、残りの什器7つを満杯にすると気が済んだようで仕入れは終わった。


「これだけ有れば、俺達が魔石の買い出しに出かけても大丈夫そうだな」

「そうね、ちょっと買いすぎちゃったかも」

「律子ちゃんここで薬は売らないの」

「売っても良いの?」

「良いんじゃね、回復魔法も覚えないとだけど、誰に習えば良いのかね」

「魔法も有ったわね、そう言えば」


 今の所魔法なんて無くても良いが、怪我や病気に成った時見てくれる医者が居ない、エリスと律子2人に覚えて貰って損は無いだろう。

 魔法が覚えられるまでこの街に留まっても良い。


「店の方の陳列台って俺達で作った方が良いのかな」

「そうね、作りましょうか。木工室の材料でどうにか成りそうだし、薬を売るならやってみたい事も有るの」


倉庫の商品を並べ終えると、俺と律子も部屋の掃除に参加する、俺は濡れたモップを使って床を水拭きし、律子達は壁や天井の埃を払って行く。

 昼前に樽がやって来た、倉庫まで運んで貰ったが桶屋の兄ちゃんが棚に並んだ商品を見て驚いて居た。


「これ全部売り物なんすか」

「そうだけど、なんか変か」

「変って、変でしょ。まるで王都で扱うような高級品にしか見えないすよ。こんな田舎で売れるもんなんすか」

「俺達もここで商売をする気なんて最初は無かったしな、領主様のお願いに答えただけだよ」

「それは、大変っすね」


 桶屋の店員から見て俺達が扱おうとしている商品は高級品に見えるらしい、品揃えは客と売れ筋を見ながら変えて行かないと駄目なようだ。

 桶屋が帰って行った後、少し早い時間だったが昼飯を食うことにした。


「あのリツコさん、木の器って無いんですか。陶器だと割れてしまわないか心配で」

「割れても構わないわよ、普段使い出来る安物しか使って無いから」


 サーヤから話を聞くのも有りか、俺達よりはこっちの情報に精通しているだろう。


「なあベイカーの街だと木皿の方が普通に使う物なんか」

「判りません、ベイカーには初めて来ましたし。うちの村は木材の切り出しと加工が主な仕事だったので、他の街や村がどうなってるのかまでは」


 南村って木工で飯を食ってたのか、金なら余っているから仕入れてくれば良かった。

 日課をこなすと銀貨4枚毎日貰えるんだし。


「そう云う事はフレーメさんに聞いた方が良いかも知れません」

「誰?」

「村長さんの甥っ子でしょ、忘れたの夏目君」


 南村出身者のまとめ役だとかなんとか言ってたな、名前までは覚えちゃ居ないが、そう言われて見れば紹介状の宛名がフレーメと記載されて居た。


「フレーメにも会いに行かないと駄目か、でも何処に住んでんのかね」

「紹介状には東通りって書いて有るけど」

「そう言われても、サーヤも場所なんて判らんよな」

「はい」


 急ぎの仕事も有るわけでは無いし、室内の掃除も粗方終わったので昼食後に全員で、フレーメを探しがてら街の中を散策する事にした。







したのだが、午後から出かける事は出来なくなった、急な来客と言って良いのかセインが何やら荷馬車に荷物を積んで店に来たのだ。


「何か急用ですかね」

「何大した用では無くてな、塩を入れる箱を持って来ただけなのじゃ」


 何のことは無い、俺達を急かしに来たのが目的のようで、つまり一刻も早く塩をもってこいと言う合図なのだ。

 塩を入れる箱は満杯にすると100キロ丁度になる、この箱自体が枡の役割を果たしているのだろう、面倒だが直ぐに対応する事になった。


「サーヤとエリスに塩の詰替を任せて良いか、倉庫の中をアイツラに見せたく無いんだよ」

「それは構わんがナツメとリツコは何をするのだ」

「セインを食堂に引き止めて置く、取り巻き連中に手伝わす事は構わんが、倉庫の中には入らせるなよ」

「判った」


 塩が入ってある紙袋も本当は見せたく無いのだが、多少は妥協しよう、セインが連れてきている連中の無能に期待するしかない。




「セインさんお茶でもどうですか」

「これは痛み入る、茶には目がなくてな頂こう」


 遠慮する素振りも見せず、食堂へと入ってきてくれた、商売で生きていくなら、上客を接待するような部屋が必要かもな。

 俺に紅茶の良し悪しなんて判らんから、律子にお任せして入れて貰っている。


「これは上質な砂糖ですですな、お茶の茶葉もこの辺りの物では無いようだ。お国の物ですかな」


 砂糖については驚かれたが、仰天するような物では無いらしい、なら売り出しても問題無いのか。


「売りに出そうかと思っていたんですか、問題は有りませんか」

「それは有り難い、店を開けられたら直ぐにでも買いに越させてもらおうかのう、何か不便を掛けて無いと良いのだが」

「不便って程では無いんですがね、俺達夫婦が使うにはしては2階の部屋が小さいんで、何処かで部屋を借りられないかと思いましてね」

「それは気が付かなんだ、確かにファウンデーション商会の番頭は独り身じゃった。そうじゃな、わしも土地や建物については詳しく無い、若と相談するので暫く待って欲しい」


 不動産屋を紹介してくれるだけで良かったのだが、もしかしてここでは不動産屋が存在しないのだろうか。


「もっと大きな街ならば不動産を仲介する業者は居るだろう、しかし騎士爵領程度の街では領主館で差配するのが普通じゃな」


 やはり不動産屋は存在しなかった。


「サーヤを南村出身者のまとめ役フレーメに紹介したいんですが、住まいをご存知無いですか」

「南村出身者が、東通りの住宅区画に100人程、住んでいる事は知っているが誰が何処に住んで居るかまでは判らん。わしはもう随分前に引退した身じゃしな、従士が残って居れば聞けるんじゃが」


 確実な住まいは解らなかったが、住民が集まって住んでいる場所の事は聞けた、明日にでも訪ねて見ればいいかと言う話になった。

500キロの塩の詰替えが終わって、セイン達はそのまま帰って行った、代金はどうすんのって話だが後ほど呼び出しが掛かるそうだ、面倒くさい。


「どうする」

「何が」

「このままフレーメを探しに行くのかって事だ」


 時間は15時を少し過ぎたくらい、今から外に出ると帰りが遅くなりそうだ、明日午前中に出かけた方が良いか。


「今日は辞めとくか、明日朝飯を食ってからみんなで観光がてら出かけよう、市場も午前中の方が品揃えも良さそうな感じだったし」

「そうね、そうしましょうか、サーヤちゃんもそれで良いかしら」

「はい私はどちらでも良いです」


 フレーメ探しと観光は明日に順延する事になった。




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