第25話「ベイカー街中央通り」
「水回りどうだった」
売り場を見ている間に水回りを確認していた律子とサーヤが戻ってきた。
「トイレは水洗だったわよ、この街下水道が有るみたい」
マンホールを見なかったけど下水道が有るのか、使える感じなのかな。
「律子ちゃんも使える感じだった・・・訳じゃないのね」
律子の表情からしてダメそうだった、コンビニやドラッグストアには便器は無いからな、ホームセンターでも有れば良いのだが、結局取り付け方が分からないからどちらにしても駄目か。
「水が湧き出す魔道具は残ってたわよ、夜逃げするのに大きすぎて持っていけなかったんじゃないかな」
「魔石が必要になるのか、サーヤはどのくらい魔石が必要が知ってる?」
「今まで共同の水場しか使った事が無いから判りません、魔石の取替方なら判りますけど」
それはそうか、魔石は水と燃料にも使われてるって話だったよな、冬場は暖房も必要になるのだろうか。
「台所にも魔石を使わないと駄目そうだった?」
「そっちの方は薪でも炭でも問題無さそうだったわよ、でも煙の事を考えると炭の方が良いかな」
炭はドラッグストアには置いてそうだから、そっちから持ってくれば良いか。
「部屋割りは、ここの売り場と同じ広さの倉庫、それに台所と食堂が有ってトイレが有る感じね。風呂場は有るけど、湯船やシャワーは無くて、水を溜めて置く樽が有って身体を洗うだけみたい」
使い勝手は大分悪そうだな、俺達はトイレを召喚して中に籠ればいいが、サーヤが1人で暮らすにはもう少しなんとかしてやりたい。
「2階も見たの?」
「まだ回って無いわよ、一緒に行く?」
律子の誘いに乗って2階を見に行く、小さな個室が4部屋有ってこれは恐らく従業員用の部屋だなと思えた。
それに会議室くらいの部屋が有ってミーティングに使って居たのか、それとも事務仕事をしていたのかは分からない。
最後の部屋は一応寝泊まり出来そうな部屋では有った、使われて居る内装材はそれなりの物に見えたが、俺達3人が一緒に暮らすには狭すぎた。
「俺達が寝泊まり出来そうな部屋は無いのか」
「そうだな、夫婦が寝泊まり出来るようには成っていないな、近くに家を借りねばならんか」
「そうね、でも今日の所はここを使うしか無いでしょ」
俺達はともかく、サーヤの部屋にはベットくらい必要だろう、持ってきていた着替えを入れるタンスのような物も必要だ。
ベットは保健室に有った物を運んできて、サーヤの部屋に一つ、一番ましな部屋に2つ設置する。
「ベットなんて何処に有ったんですか」
「スキル的な物でな」
「ひょっとしてアイテムボックスをお持ちなんですか」
「それは秘密です」
確かにアイテムボックス丁は持っているが、それは牛肉で埋め尽くされて居るから、他の物を入れる事は出来ないんだけどな。
足りない物を買いに行くかと思い腰を上げて律子と2人街の中を移動する、エリスとサーヤは留守番を任せ、余裕が有るなら掃除もお願いしておいた。
「どこから見て回る?」
「問題は店がそもそも有るのかって話んだんけど、市場ってのを確認しようか」
道行く人に市場の場所を聞いてから移動する、市場は中央から少し東側の場所に有って、その先には東門が有って出入り出来るらしい。
「随分と少ないな」
「時間が遅いのかしらね、今は15時か、エリスちゃんが帰ったらおやつって言いそうね」
何件か回って木工細工を置いてある露天に話を聞いた。
「本業は大工なんだよ、ここに並べて居るのは仕事の無い暇な時期に拵えた物だよ」
「棚とかタンスとか作れるって事だよな」
「それは家具屋に頼んでくれよ、中央通りに店を出してるぜ」
中央通りと言うのは俺達が案内された店舗の有る通りだ、あの通りに家具屋が存在するらしい。
「塩屋もそっちに有るのか」
「塩が欲しいのか、今はちょっと難しいかもな」
塩屋も結局中央通りに存在したが、街の住人以外には販売してないらしい。
大工の男に礼を言って、中央通りまで戻って家具屋を探す。
中央通りには服屋、桶屋、靴屋と並んでいて4件目が家具屋だった。
家具屋には当然家具が並んでいたのだが、全て売り物では無く、見本品だと言われた。
「注文製作って事なんか」
「そうですよ、タンスと机と椅子なら半月程時間は掛かりますね」
半月はまってられない、見本品でも良いから売ってくれと交渉したが無駄に終わった。
「家具を買うのに半月って、あれが異世界クオリティーなのかね」
「ベイカークオリティーなんでしょ、大きな街なら違うかも知れないわよ」
「選択肢が他に無いって事?」
「作り置きして置く程の余裕が無いって事でしょ、家具に使う木材を確保するなら何年も乾燥させて置かなくちゃならないし。あれでも大分と短い期間で作ってるんだと思うわよ」
乾燥させないと木が歪むらしい、機を切り倒してそのまま使えるって訳では無いようだ。
帰りに桶屋に顔を出して樽を購入した、こっちは在庫を抱えて居るらしく、それでも10個で売り切れとなったようだ。
樽は一つ銀貨2枚、中古の樽の6倍以上の値段だったがそんなもんなんだろうなと思った。
「律子ちゃん樽なんてどうすんの」
「塩を領主様に売るんでしょ、中古の樽なんて受け取りを拒否されちゃうんじゃないかしら」
それもそうかと納得し、店へと戻った。
「どうだった」
部屋の掃除をしていたエリスが帰って来た俺達に声を掛けてきた。
「半月掛かるって言われたから私が作るわ」
「半月くらいは待てば良いでは無いか」
お菓子作りに期待を寄せて居たエリスは、頬を膨らませている。
「木工室を覗いて来るわね、と言うことで夏目君お願い」
トイレを倉庫に召喚して木工室に移動した、エリスは引き続き部屋の掃除をサーヤと行ってくれるようだ。
先行して木工室に入っていた律子がパソコンの前に腰掛けてウンウンと唸っている、何をしてるんだと近寄って話しかけて見た。
「この部屋の工作機械だけどね、全自動で動かせるみたいなの。このパソコンの中にCAMって言うNCプログラム出力プログラミングが有るんだけど、初期設定で幾つかの家具が作れそうなのよ」
「へー良かったね、何を考え込んでたの?」
「色が塗れないし、それにちょっとデザインが古いのよね。CAMを使うにはCADで設計しないと駄目なんだけど、私そこまでは詳しく無いのよ」
そこまで拘る必要は無かろうと、タンスと本棚と勉強机と椅子を作る事にした。
それぞれ椅子以外は5万魔素、椅子は1脚3万魔素で作れるようだ。
「意外と高いな」
「材工込みだしそんなもんじゃない、それよりもどうやって運ぶのかが問題よね」
自動で機械が動き出して木材を加工している、俺は隣の機械加工室も同じような物かと思い、移動してパソコンを立ち上げた。
やはりこちらも同じプログラムが入っていた、作れる物は建材が中心だったが、車やバイクの部品も作れるらしい、今必要な物は倉庫に置く棚だが什器と言う欄にメタルラックが有った。幅2m高さ1.8m奥行き60センチの棚が1台5万魔素で作れるようだ。
倉庫に戻って大きさを測る、奥行きは10m、幅は5m有って壁の両側にそれぞれ5台ずつは置くことが出来る。
一番手前で塩の詰め替え作業をすれば良いかと棚を置く事は辞め、両側で計8台の什器を製作する事にした。
製作が終わった什器は移動先が選択出来る、中庭、中庭に有る荷馬車の中、居室、召喚したトイレの前。
今回は召喚したトイレの前が正解だろう、トイレの前を選択すると倉庫に移動して様子を確認した。
「アウチ、ギュウギュウ詰め」
什器が8台並んでいるが壁際に沿って並んでいるわけでは無い、仕方なしに自分で壁際に寄せる。
レベルが上がる前の俺ならとても1人では運べ無かっただろう、しかし今の俺はRPG世界の住人、レベルが上った事で楽勝に什器を移動させられた。
什器を移動させ終わると律子の居る木工室に移動する、什器と違って複雑な形の家具はまだ製作の途中だった。
「律子ちゃん、隣の機械加工室で什器を作って倉庫に並べて来たよ」
「1人で運んだの?」
律子に移動先を選べる事を教えると、家具は直接サーヤの部屋に運ぶのでは無く、一旦会議室にでも運ぶ事になった。
「会議室にも机と椅子が欲しいわよね」
「長机とパイプ椅子か」
「機械加工室で作れそうなの?」
「多分無理」
「それはそうかもね、ビニールやプラスチックの加工も必要そうだし」
木製の長机と言う物が存在して木工室で作れる事が判った、1台5万魔素、家具類は一律5万魔素なのかと他の物も確認したら、高い物だと100万魔素を越える物も存在した。
「この10万魔素のスノコベットってどうなん」
「マットレスが無いけど大丈夫?」
「マットレスって?」
ベットの敷布団に相当するあのスプリングが有って、跳ねられる部分をマットレスと呼ぶらしい。
スノコベットはスノコの上に敷布団を敷くタイプで布団を購入しないと使えないようだ。
「布団屋って有ったのかな」
「有っても受注生産品だと思うわよ、綿も高そうだし自作した方が良いんじゃないかしら」
布団を自作するってちょっと想像の外に存在する、律子は簡単に言うが普通のミシンであの分厚い布団が縫えるとは思えなかった。
布団談義に花を咲かせて居ると、家具の製作が完了して俺は会議室に移動するとトイレを再召喚した。
「思ったよりも軽いのね」
「多分レベルが上がったお陰だよ」
「そういうもんなの?」
「多分ね」
会議室に詰め込まれた家具を見てサーヤは驚いていた、塗装もされていない木製家具はその内日に焼けて色が変わってしまうだろうと、律子が言っていた。
サーヤの部屋に家具を並べる、パイプベット、勉強机と椅子、本棚、洋服ダンス、それだけで部屋は通路分しか残って無かった。
「やっぱ狭いな」
4畳間よりは狭いように思う、押入れが有ればこの広さでも問題無さそうだが、個人的な荷物を置く場所が見当たらない。
「1人部屋なんて初めてで嬉しいです」
「俺達は他に部屋を探すつもりだけど、1人で暮らして行けそうか」
「慣れれば大丈夫です、狩りに行く時には1人で野営もしてましたので」
こんな子供1人で狩りに行かせるのかと驚いた、サーヤはまだ14歳の筈だが、犬狼族の成人は人より早いのだろうか。
「暫くは俺達もここで暮らすから大丈夫だろう、律子ちゃん、ここの台所や風呂場を使えるようにしてやってよ」
「そうね、使い勝手の悪そうな物は直してしまいましょうか、所でここって勝手に改装しても大丈夫なのかしら」
「塩を持っていく時にセインさんに聞いとくよ」
塩は律子のドラッグストアで購入した、25キロ入りの粗塩が2000魔素で購入出来た、500グラム1000魔素のコンビニ味塩とは雲泥の価格差だ。
塩は40袋1トンを購入し、倉庫に並べて積んで置いた、樽が運ばれて来たらサーヤに詰め替え作業をお願いしよう。
「ひとまず今日の所はこのくらいにしておこうか」
「そうだな、今日はおやつ抜きで腹が減った、リツコ夕飯は期待しているぞ」
1階の台所に移動して何を作ろうかと律子が思案している、ある程度の調味料や調理器具は調理室から持ってきていたが、電化製品が使えないので、レパートリーが狭まるようだ。
「夏目君、水道に魔石をセットしてくれた?」
「ああ、サーヤの言う通りにセットしたけど、俺風呂場の方を確認してくるわ」
「うんお願い出来る」
台所は律子に任せてサーヤと一緒に風呂場に移動する、決してエロい気持ちでは無い、サーヤに浴場するほど飢えては居ない。
風呂場には脱衣場と洗い場、洗い桶が有るだけで湯船は無かった。
「なあ湯を沸かす魔道具とか無いのか」
「あるかも知れませんけど、私は見た事有りません、家の中で身体を洗えるだけでも凄いと思いますけど」
排水溝は下水に繋がっているらしく水漏れなんかは置きては居なかった、ボディーソープやシャンプーは洗い場に置いて置いたが、こだれけでは寂しいお湯を沸かす事くらいはやってやりたい。
「樽の中に魔石入れたらお湯になったりせんの?」
「それって雨が降ると魔石が駄目になるって事ですよね」
そんな訳無いか、もうそろそろ季節は秋から冬に移り変わる、やはり湯船は必要だろう。
「鍋で湯を沸かして持ってくれば良いか、大きな桶を置いとけば良いよな」
「ナツメさん達が使うのですよね、私がお湯を運びます」
「俺達が別の場所で風呂に入るから気にしなくていいよ、サーヤがその毛並みを整えるのに必要だろって話」
「ありがとう御座います、でも気にしないで下さい、真冬でも水で洗ってましたし」
風呂場から出て台所に戻ると料理が出来上がっていた、今日の所は鍋のようで、土鍋に野菜や肉が放り込まれて居て、味付きのちゃんこ鍋が出来上がっていた。
「旨そっ」
「夏目君もサーヤちゃんも座って、早くしないとエリスちゃんが全部食べちゃうから」
エリスが箸を使えなくてこれ程良かったと思った事は無い、肉しか食わないエリスが鍋から直接箸を使って取っていたら、俺の分は残って無かった事だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます