第23話「設備開放その2」

 オムライスは俺んちのキッチンで作ってもらった、冷蔵庫の中身が空っぽだったから調味料を1から揃えなければ成らなかった。

 購入価格は、ドラッグストア、調理室、コンビニの順でコンビニが一番高い。

 なのでドラッグストアで大半の物を揃えたが、品揃えは調理室のパントリーが一番だった。


「律子、私の嫁になってくれ」

「律子もエリスも俺の嫁だろ」

「うむ、このオムライスも旨すぎる、律子は料理の天才だな」


 第一夫人と第二夫人の仲がよろしい事で助かる、俺を取り合って喧嘩することは無いだろうが、性格の不一致でもめられると経験の浅い俺では対処のしようがない。


「オムライスにはコーラだよな」


 コンビニで購入したコーラを飲みながらそん事を言うと、律子に反論されてしまった。


「ビールが一番合うわよ」

「ああそうだ、律子ちゃんドラッグストアが使えるようになったからって、酒ばっかり飲んだら拙いでしょ。飲むなとは言わんけどさ、身体を壊したってここじゃあ保険の効く医者が見てくれる訳が無いからさ」


「そうね、気をつけるわ」


 ビール片手に飲みながら話されても納得が出来ないな、そもそもいつの間に魔石を魔素に換金してたんだ。


「ナツメ私にも甘い飲み物」


 エリスは炭酸でも飲めるから、そのままコーラをコップに注いでやった、お代わりを連発されるのも面倒なのでペットボトルのコーラをテーブルの上に置いた。


「夏目君食洗機の使い方って判る?」

「食べ残しを落としたら並べて洗剤を入れてスイッチを押すだけだよ、乾燥までしてくれるから終わったら水屋に戻すだけ」

「そうありがと」


 昼に使った食器くらいなら手洗いした方が早い、律子は使った事の無い食洗機を試して見たかっただけだろう。


「こんなので綺麗になるの」

「綺麗になるらしいよ、俺は使った事無いけど。使い方だけ覚えるように説明書を読めってお袋に言われて覚えただけ、それこそお袋以外は使用禁止だったし」


 説明だけさせて使うのはお袋1人だった、どういうこだわりが有るのか知らないが、新しい家のキッチンにお袋の前じゃ入った事が無い。


「気持ちは判るかも、このまま洗い終わるまで見ていたいもの」


 昼飯が終わった所で話し合う事はまだまだ有るのだが、その前に最後の施設を覗きに行かないと駄目だろう。


「技術室を探しに行かんとな」

「そうね、名残惜しいけど行きましょうか」


 技術室は保健室に一番近い場所に有った、本来だと昇降口横の倉庫が有る場所にドンっと存在していた。


「木工室と機械室か、2ヶ所も有ってお得だね」

「木工室から見ましょうか」


 扉を開けて中に入ると俺の知ってる木工室とは別物だった。


「ほとんど製材所ね、天井もかなり高いわ。これだけの機械と場所が有るなら家の加工も出来そうよ」

「やけに詳しいね」

「実家が大工で工務店だったから、子供の頃は加工を手伝わさせれたの」

「女の子なのに?」

「ジェンダーがフリーだったのうちの父親は、母さんも私も姉もみんな手伝わされたわ。結局潰れちゃったけどね」


 反応に困る事を言わないで欲しい、木工室が使えるなら無駄には成らなくて安心した。

 律子が木工細工にこだわった理由が判って納得出来た。


「やっぱここに有る木材も魔素で支払いかな」

「そうでしょうね、搬入口が無いけど何処から取り出すのかしら」


 確かに加工した部材を取り出す場所が無い、荷馬車のように自動で外に出てくれると有り難いが、近日使う予定は無いな。

木工室から機械室に移動した、やはり俺の知ってる技術室とは大違いで、まるで鉄工所のように工作機械が並んでいた。


「律子ちゃん判る?」

「こっちはお手上げね、何に使う機械かも解らないわ」


 機械室は封印するしか無さそうだ、俺も律子も使えないならこの世界では誰も使う事が出来ないだろう。


「施設回りはこれで完了って事だな、それじゃあこの後は収支報告と、サーヤをどうするかって事を決めようか」


 1-1に移動して和室の掘りごたつに座る、こたつ用の布団は出してないので、ただの机でしかない。

 エリスは畳の床を珍しそうになでて居る、土足厳禁と言う事にも素直に従ってくれている。畳の上で横に成るまで順応しないくても良いのにな。


「先ずは収支の報告から行っとくか」


 村長と商店で買い取った魔石の数は1万250個、俺が魔素に変換したのはそのうちの4000個だから残りは 6250個と言う事になる。

使った魔素は仕入れに使った魔素が70万、施設開放に使った分が2ヶ所で150万日々の生活費に5万と言った所で、総計すると225万魔素で残り175万魔素しか無かった。

貨幣は魔石の買取に金貨1枚分弱程使ったが、金貨13枚の売り上げが有った、貨幣を通じた売買より、魔石を直接もらった方が断然効率が良いと言う事だ。


「ひとまず1000個の魔石を貰って良いかな、コンビニより下着や生理用品はドラッグストアの方が品揃えが良いから」

「端数も一緒にして1250個使ってよ」

「なあリツコ、お菓子の材料も買ってくれるんだよな」

「そうね、落ち着いたら作ろうかしら、立派な台所も手に入った事だし」


魔石5000個はキープする事になった、施設を開放しても良いんじゃ無いかって話も出たが、次の村での収益次第と言う結論に達した。


「次はサーヤの件だけどどうする」

「ここの事を話すつもりは有るの」

「正直言って教えたく無い」


 トイレ召喚の事は教えたくないが、行商を手伝って欲しいとは思う、慣れない新人に1から教えるよりサーヤを連れて行く方が楽だ。


「街に連れて行くくらいなら良いんじゃないか、サーヤの膝の上で昼寝するのも悪く無さそうだし。街で仕事が無かったら行商に連れて行けば良い、それか塩の詰め替えをやらしとくって事でも良いんじゃないのか」


 コンビニから購入した塩を樽の中に入れるか、確かにそれは良い提案だ、他にも量り売り出来る物を、詰め替える手間をサーヤにやらすのは有りだな。

 中の街で部屋を借りて住まわせながら作業をさせれば良い、南の村では行き当たりばったり過ぎた。


「エリスそれ名案」


 サーヤを連れて行く事に決め、早速サーヤの家に土産を持って向かう。

 サーヤの親父は昨日の酒が抜けて無いようで、家の中で休んでいた、兄貴は仕事に出て居なかったがお袋さんが歓迎して明日朝に出発する事を了承した。


「安酒だけど土産な、住む所が決まったら連絡を入れたいが何か方法は無いのか」「冒険者に頼んで手紙を運んでもらうくらいですかね」


 冒険者って存在が居た事を忘れてた、南村には居ないようなので何処でも居るような存在では無さそうだ。


「冒険者って南村には居ないよな」

「元冒険者なら眼の前に居ますよ」

「親父さん冒険者だったのか」


 二日酔いの親父が元冒険者だったらしい、大型犬だし武器を持って戦う姿を想像しやすいか。

 サーヤの親父から冒険者だった頃の話を聞いたが、かなり厳しい生活を強いられるようだ。俺や律子には向かない仕事だと心底思った。




サーヤの家で親父の冒険譚を聞いていると、門番に出て居たサーヤが帰って来た、明日出発すると聞いたサーヤは早速荷造りを始めたようだ。


「じゃあ明日迎えに来るから」

「はい、ありがとう御座います」



 明くる日の朝は比較的爽やかに目が覚めた、俺の両隣にはエリスと律子が寝て居る。時間になると寝室のシャッターが開く設定に成っているので、日差しで目を覚ます事が出来たのだ。


「おいエリス朝だぞ」

「もう食えないぞ」


 珍しくエリスが目を覚まさない、昨日の夜は何日かぶりのすき焼きを腹がはち切れるまで食べた。

 肉はドナ子の母ちゃんを、野菜はパントリーから運び、出汁は律子が自作していた。


「食わなくて良いから起きろって」

「ナツメか、昨日の肉は旨かったな」


エリスは生卵を食べる事には拒否感が有ったようだが、牛丼もそうだが甘い味付けを好んで食べる傾向に有るようだ。


「今日の晩飯もアレか」

「勘弁してくれよ、同じものを続けては嫌だな。暫く肉が続いたから魚が食いたいかな」

「魚か、魚も悪くないが肉も欲しいな。よしリツコにお願いしよう」

「そうしてくれ、ついでに律子ちゃんを起こして風呂掃除をやらしといてくれ、俺はトイレを掃除してくるから」


 自宅のトイレは掃除しなくても良いようだ、召喚したトイレを掃除すると銀貨が貰える意味は判らんけど、貰える物は貰っておこう。

 掃除を終えて1-1に移動する時、エリスが飼育小屋を掃除してくれいる光景が目に入った、ドナ子は村に入ってから外の馬房に居る事が多かったから掃除する必要は無いが、掃除したら銀貨が貰えるからそりゃあやるよね。


「夏目君御免なさい先にエリスちゃんとご飯を食べてて」


 部屋に戻ると風呂場から律子の声が聞こえて来た、朝風呂に入っているようで、食事の支度を任されてしまった。

 中庭に居るエリスに声を掛けて、何が食べたいか聞くとパンと肉と言う返事が返ってきたから、お歳暮でもらうようなデッカイハムを輪切りにして焼く事にした。

 俺はそれとおにぎり、律子はグラノーラで良いだろう、大分余ってるからな。


「なんだ夏目も飯を作れるのか」

「律子ちゃんほど上手じゃないけどな、こんなの切って焼くだけだし」


 俺とエリスが飯を食い終わった頃、律子が風呂場から出てきた、風呂場の掃除をしてくれていたようで、ちゃんと銀貨が支払われて居る。


「風呂場はこっちを掃除しても銀貨が貰えるんだな」

「そっか、保健室にもお風呂が有ったのよね、完全に忘れて居たわ。エリスちゃん今日は栗とクルミのパンにしたのね、私は何を食べようかしら」

「グラノーラじゃ駄目なん?」

「今日はパンの気分なの、夏目君クリームの入った甘いパンをお願い」

「ずるいぞリツコ、ナツメ私にも甘いの」


 食えるのかよと思いながら、生クリームとカスタードクリームの入ったパンを買って2人に渡した。ドラッグストアにも菓子パンが有るのだが種類は少ないらしい。

食事を終えると俺は珈琲を飲みながら少し休憩した、律子は紅茶を飲み、エリスはオレンジジュースを飲んでいる。そろそろ行くかと外に出て、ドナ子を荷馬車に繋いでサーヤの家に移動する。

サーヤの家の前では大荷物を抱えて居るサーヤが待っていた、家の前にドナ子を止めると荷物を荷台に積み込んでいった。


「ナツメさんサーヤをよろしくお願いします」

「良いお婿さんを見つけられるよう祈っててくれ」


 サーヤと律子が荷台に座って、御者台には俺とエリスが座る。


「忘れ物は無いよな、出発するぞ」


 ドナ子に行ってくれと頼むと手綱を介さなくても勝手に進んでくれる、まったくド素人の俺でも御者が出来る理由がここに有る。村の出入り口を抜け外に出る、脇道を進んでいって、街道に出ると中の街に向かって進んでいった。


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