第22話「設備開放その1」
「んで律子ちゃんの緊急クエストの報酬は?」
「ドラッグストアみたい、夏目君のコンビニと同じ感じね、品揃えがドラッグストアの商品に変わっただけ」
それはかなり有能な能力じゃないのか、ドラッグストアなら鍋や食器なんかの日用品まで揃って居る。
「マツ●ヨみたいな感じそれとも、ウ●ルシア?」
「どっちかって言うとマ●キヨみたいな感じかな、医療品以外の商品も扱ってるみたい。買い物の単価はやっぱり魔素だから、これからは私にも魔石を回してね」
更に魔石の価値が爆上がりしてしまったな、これは行商を続けるしか無いでしょう。
「夏目君の報酬は?」
「ああ居室だってさ」
「うん?教室?」
「違う違う、きょしつ。なんか部屋が貰えるみたいよ、校舎の中に」
居室1-1と書かれて居る文字を見た時は、教室との打ち間違いかと思ってしまったが、間違いなく居室と書かれて居た。
「保健室が限界だったから丁度良いわね、それで夏目君、調理室も開放しちゃうの?
」
「勿の論、調理室開放が50万魔素だから安い買い物だろ、電子レンジくらい有るよな」
高校の家庭科って選択科目だよな、俺は新入生の1年だから当然入った事は無いのだが、今どき電子レンジくらいは有るだろう。
「有ったと思うわ」
「んじゃあ開放っと・・・何も起こらんね。エリスなんか感じたか」
エリスは律子が作ったパンケーキを頬張っている、何枚目だとは思ったが、首を振ってこちらの会話に参加する気が無いと示していた。
「次は技術室で100万魔素らしい」
「そっちも開放しちゃいましょ、木材の加工をしたいの、部屋の模様替えをするにしても裁縫だけだと限界が有るから」
DIYに熟練しているのか、律子に勧められて技術室も開放した、何が有るのか見当も付かない。
ちなみに俺は中学時代に技術家庭を習っては居たが、真っ直ぐに板をノコギリで切れなかったので向いてないと思う。
「次は更衣室だけど200万魔素だわ、倍々に増えて行く感じかも」
「200万は高すぎね、更衣室なんて無くても平気だし」
俺も律子やエリスと出会う前なら躊躇せず開放していた所だが、現状むしろ更衣室なんて無い方が良いと言う話まで有る。
「おっ、なんかスマホのトイレ召喚アイコンが変わってる」
「じゃあ早速お宅拝見と行きましょうか」
俺と律子の視線がエリスに向いたが・・・エリスは我関せずでパンケーキを食べ続けて居た。
「トイレに出入り口が出来たぞ」
今までは何処にでも有る学校の職員トイレだったが、現在のトイレには洗面室が有って、洗面室から直接保健室に移動出来る出入り口が現れて居た。
「便器も高級品に変わってるみたいよ、これロータンクが無いもの」
「タンクレスって奴か、お袋が最後まで迷ってたやつだ」
タンク付きとタンクレスだと10万くらい値段の差が有った、最後まで迷ったお袋は1階に有るトイレだけタンクレスにしていた。
「内装も変わっているし、中庭に出られる扉も有るんだな」
「床のタイルも高級感が有ると思わない」
今まで床に使われて居た物は5センチ角のタイルだったが、今床に使われて居るタイルは30センチ角の大きなタイルに変わって居た。
壁はコンクリートに色を塗っただけの物だったが、今は腰の高さまでタイルが張って有る。
「施設を開放するとトイレも高級になるって事なのか」
「そうなのかも知れないわね、保健室に入りましょ」
靴を履き替え上履きで保健室に入る、保健室内に変わった様子は無く、相変わらず物で一杯だ。
「廊下に出るって事で良いんだよな」
「他には、中庭から移動するとか」
廊下に出る為の扉に手を掛ける、これまでは固く閉ざされていたのだが、抵抗も無く扉が開いた。
「開いたな」
「開いたわね」
廊下に出ると当然窓が見える、窓の外には駐車場が有って車が並んで居た。俺と律子は顔を見合わせうなずき有って窓を開けようとする、しかしクレセント錠はうんともすんともしない。
「夏目君、割るわよ」
「マジか」
律子が保健室に入るとバールのような鈍器を持って廊下に帰って来た、窓に向かってバールを振り上げた瞬間スマホからけたたましい警告音が鳴り響く。
「何?」
俺は自分のスマホを取り出し画面を確認する。
「律子ちゃんストップ」
俺はバールのような鈍器を振り上げた律子を止める為、身体を張って律子の前に出た。
「どうしたの夏目君」
「スマホからって言うか、救済システムからの警告。施設を破壊したら罰則が適用されるってさ」
「罰則って?」
「異世界トイレからの追放、俺に至ってはエキストラスキルの剥奪だって」
「それは、挑戦出来ないわね。ここの存在なしにこの世界で生きて行くなんて考えたく無いもの」
律子は振りかぶって居たバールのような鈍器を力なく落とした、廊下は傷ついても大丈夫なのかよと考えたが、律子が追放されはしなかった。
「この駐車場ってフシ高の駐車場だと思う?」
「多分違うわ、こんな形じゃ無かったし、外を囲うような塀は存在しないわね」
まるで刑務所のような高い塀に囲まれて居る、車は様々な車種が有ったが、俺には見分けは付かなかった。
「律子ちゃんの車はあんの?」
「無いわね、ここに並んでいる車、教師の物は一台も無いわよ。それに全部新車みたいだし」
そう言われて見ると車はどれも真新しかった、こいつも何れ設備のように開放されるのだろうか。
「校内を一周しましょうか、何処に何が有るくらいは把握しておかないと」
考えに耽けるのは後からいくらでも出来るか、今は何が有るか把握してしまおう。
「保健室の隣は開いてるのね、トイレが無いとおかしい筈だけど」
本来の位置関係だと職員室の有る場所は、出入り出来ない壁で覆われて居る、中を覗けるようなガラス窓も無かった。
「渡り廊下まで部屋が無いのか、職員室のとなりって何が有ったの」
「フシ高の配置だと事務室と宿直室ね、今は宿直なんて無くなったけど、昔は教師が交代で泊って居たらしわよ」
渡り廊下の横に2階に上がる階段が有る、防火シャッターが降りて居るので2階に上がる事は出来ない。
「渡り廊下の向こうの部屋は?」
「校長室と来客室ね、一番先の扉が通用口、夜間はあそこから出入りしていたの」
昇降口は完全下校時刻が過ぎると施錠され、職員は通用口から出入りし帰宅していたようだ。
「一応通用口も確認しとくか」
「そうね、校長室にも入れないみたいだし」
封鎖されている部屋の前を通って通用口を確認したが、当然開く事は無かった。
渡り廊下まで戻って移動する、確かこの先は教室が並んでいる筈だ、渡り廊下の窓は中庭側は開閉出来た。
渡り廊下から中庭に出る為の扉も有る開けられる、既に開放した設備にはアクセスが容易に出来るように成っているらしい。
「体育館側と部室棟側に行く窓は開かないのか」
「設備を開放しなさいって事なんでしょうね」
渡り廊下を渡りきって体育館に通じる扉を確認する、やはり扉は開くことは無く、体育館に移動する事は出来ない。
「こっちの階段もシャッターが降りてるのね、階段の脇からグランドに出られる扉もやっぱり開かないのね」
こんな所に扉が有ったのか、俺は知らなかったな。
「1階には1-1から1-6までの教室が有るんだけど、1-1以外は入れ無さそうね」
俺達の後ろを物珍しそうにしてエリスが着いてく、口の中には飴玉が有るので静かな物だ。
「居室1-1か、中に入ろう」
元1-1だった教室の扉を開けるとそこは俺んちだった。
「ここ夏目君の家なの」
「2階に登る階段は無いし、玄関はこんな引き戸じゃ無かった。居間と台所と食堂は全く同じ、トイレと風呂もか。親父とお袋の部屋はまあこんな感じの部屋だったけど、引っ越しの手伝いの時くらいしか入った事が無いから自信は無いかな。後は4畳半の和室が掘りごたつ付の8畳間に変わってるくらいだな」
居室1-1は俺の実家を再現していた、家電製品は揃っていたからこれなら調理室を開放する必要は無かったな。あとはテレビと親父が使っていたパソコンが無い、あのパソコンテレビも見られたから、テレビは禁忌品なのかも知れない。
「こっちで生活した方が良さそうね」
「それは同意するけど、あのベットで眠るのかなんか嫌だな」
親父とお袋が使っていたベットでエリスと律子の相手をするのか、背徳感が有りすぎだろう。
「このベットは凄いな、これなら3人でも寝れそうだ」
エリスがベットの上で跳ねて居る、引っ越しを期にキングサイズのベットを親父が奮発した、俺の部屋は机と一体型のベットで1人しか寝れないから、俺の部屋よりは良かったとしとこう。
「窓にシャッターも有るし暗く出来るだろ、ここなら保健室より寝やすいな」
「そうね、次は調理室に行きましょうか、今更必要ないかもだけど」
居室1-1の隣が調理室だったが、これ学校の設備とは全く別物だろう。そんな事はいくら社会経験の薄い俺でもひと目で理解出来た。
「調理室って言うより給食センターねまるで」
「律子ちゃんここに有る鍋とか使い方判るの?」
「一応ね、栄養学の実習で給食センターでバイトしてた事が有るから、でも私達には必要なさそうね。これなら夏目君の家で作った方が勝手が良さそうだもの」
大人数相手にしない限り必要の無さそうな装備だ、大型の冷蔵庫に本格的なオーブン、何合炊けるのか想像でも出来ない炊飯器。
「律子ちゃんアレ何かな」
「ちょっと分からないわね」
調理室後部に区切られた部屋が有った、ドアを開けて中に入ると壁の両側に棚が並んでいる、棚の中には調味料や缶詰、パスタなんかの食材が並んでた。
「まだ奥が有るみたい」
通路の先には更にドアが有り、ドアを開けると冷たい空気が流れ込んでくる。やはり壁の両側には棚が有って、棚の中には野菜や果物が並べられている、半分くらいは見た事の無い物だった。
「パントリーかしらね」
「パントリー?」
「食在庫って事かな、ここの冷蔵室と、もう一つ奥の冷凍室は違うかも知れないけど。一番手前の部屋はパントリーだと思う。でもこの食材達このままじゃ駄目になりそうだけど、大丈夫なのかしら」
試しにここの食材で料理を作ると言うので、オムライスをリクエストしてみた。パントリーから調理室に移動した途端、スマホに通知が来た。
通知の内容は、持ち出した食材の一覧と金額だった、ここの食材を持ち出すにも魔素が必要なようだ。
「賞味期限の心配はしなくても良さそうだ、ここに有る物全部有料っぽい」
「そうなの、今更感が有るし後から代金の精算は面倒ね、食材ならコンビニでもドラッグストアでも買えるから」
「スキルが取得出来るとは限らないからでは無いのか、ナツメ達は神に愛された勇者なのでは無いのか」
神に愛されているのはお前だろうと言いたかったが、確かにコンビニが使えなければこのシステムは有り難い事だろう。
「エリスちゃん勇者って居るの?」
「王家が勇者を召喚すると言う噂が立った、それはもう2年の前の話だし、鬼畜なナツメが勇者の訳が無いな」
2年遅れで召喚されたとか、それが本当なら、王家の連中をぶちのめしてやりたいな。
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