第21話「病」
「痛いよー」
酒を売って荒稼ぎしていると急患が運び込まれて来た、運ばれて来たのはビション・フリーゼ似の子供で腹を押さえて居る。
「こっちとこっちどっちが痛い」
「うー、こっち」
律子がビジョンのお腹を二箇所押さえて痛みの元を確認している、子供を連れて来た親の二人は不安そうな顔をして祈っていた。
「お父さんお母さん、この子は急に痛みを訴えましたか」
「はい、お昼を食べた後急に、それまでは全く痛い素振りなんて有りませんでした」
「昼に食べた物の中に生の魚なんかは」
「生では無いですけど、池で取った魚を」
「恐らく魚に付いた虫が原因だと思います、虫下しの薬で様子を見ましょう」
「お願いします」
律子が仮称ビジョンちゃんに薬を飲ませると、痛がっていたビジョンちゃんが落ち着いてきて、半時程たってトイレに駆け込んだ。
出すものを出してスッキリしたビジョンちゃんは付き物が落ちたように表情が柔らかく成ってトイレから出てきた。
「もう大丈夫だとは思いますが、整腸薬を出して置きますね」
「ありがとう御座います、ありがとう、本当に助かりました。それでいかほどお支払いすればよろしいですか」
「魔石を100個程お願いしましょうか」
「それだけで良いんですか」
「はい」
「直ぐに持ってきます」
治療費が銀貨1枚分それが高いのか安いのかは分からないが、収支は余裕でプラスだろう。治療が終わった後律子が近寄ってきて耳元で、緊急クエストが終了したと告げて来た。
子供が苦しんでいる光景を見るのは胸が痛い、それが犬狼族の小型犬なら尚更だ。
救われた上にクエストも終わって万々歳と言いたい気分だ。
午後に成ると樵の客も数が減ってきた、それに反して増えて来たのが小遣いを手にして駄菓子を買う子供たち。
見た目は全員可愛い子犬なので奢ってやりたい所では有るが、店に来られない子供との不公平感が否めない、小遣いを貰える子供なんて比較的裕福な家の子に違いない。
「あの、私も買い物をしたいんですが・・・」
サーヤがそんな事を言いだした、最初の頃に飴玉を買いたいとかなんとか言って居た気もする。
「店がはけた後従業員価格で売ってやるよ、今は子供たちの相手をお願い」
「本当ですね」
「本当、本当」
2回続けて言うと途端に嘘っぽく成るから不思議なもんだ。
最終日という事で灯りを下ろして来て、日が暮れてからもしばらくは店を開いていた。
最後の客が帰った頃には日もとっぷりと暮れて居て、律子は夕食を、サーヤは店の中の品物を物色し、エリスとクレアは駄菓子を食べながら夕食を待っていた。
「ナツメさんこれだけ下さい」
サーヤが持ってきた物は飴が各色10個ずつ、安い石鹸が4個、全部部合わせると、銀貨2枚。魔石を100個持ち込んできているから、魔石と購入代金とを相殺して0にしてやった。
「半額で売って貰えるって事ですか」
「従業員割引って奴だよ、それに退職祝いで余った飴と入れ物も付けてやろう」
プラケースに入った飴は大して残ってない、持って帰るのも面倒なのでサーヤに全部やる事にした。
「私のは?」
クレアが自分には無いのかと見つめて来たので、駄菓子で足の早そうな奴を見繕って適当に渡した。
ちょっとした慰労会を2階で行う事にした、肉料理が中心で、甘いものも幾つかは購入していた。
酒も樵用に試しに買った4リットルのウィスキー出して置いた、律子しか飲まないがまさか全部飲むような事はしまい。
購入したと言ってもコンビニスイーツなので、エリスには何時もと変わらない料理だったが、量が有るので喜んでいる。
「サーヤは婿探しどうするんだ、俺たちは明日一日休憩して、明後日にはこの村を出ていくつもりだけど」
慰労会の途中サーヤに明日以降の話を聞いてみる。
「まだ中の街で過ごすお金が溜まって無いんです」
それもそうか、うちで買い物できるくらいの金なら持ってるんだ、馬車代くらい無い筈は無いよな。
「仕事は紹介して貰えない感じなんか」
「はい多分」
「そっか、じゃあ今回は後縁が無かったって事だな」
馬車の中でモフモフしたかったのだが駄目だったか、ボルゾイなんかの大型犬なんて俺ん家じゃ絶対に飼えないから残念だ。
「あの、ナツメさんの所で雇って貰う事なんて無理ですか」
「それは俺1人の判断じゃ決められないんだが、サーヤは家族と相談しなくても良いのか」
「ナツメさんの所で雇ってもらえるなら有り難いって父が言ってました」
「そっか、返事は明日伝えるよ、そう言えばサーヤは何処に住んでんの?」
「村の出入り口の近くの家です、外に出る機会が一番多いのが家なんで」
「了解」
9時過ぎまで飲んで食べて騒いでいた、途中迎えに来ていた村長と、サーヤの両親と兄も一緒に食べて行けと言って慰労会に参加している。
この際だから仕事の事と周辺の村の事をサーヤの両親と村長に聞いてみた。
「本当に良くしてもらって有り難い事です」
サーヤの親父が頭をしきりに下げてくる、思わず喉元をモフモフしたくなるのだが、自重した。
「中の街だっけ、サーヤが暮らしていこうと思うとどのくらい金が必要なんだ」
「向こうでわしの甥っ子が南村出身者のまとめ役をしとる、サーヤのような立場の独り者が過不足無く過ごすには、月に銀貨2枚程は必要だと言う事じゃ」
俺の感覚だと銀貨1枚は10万程度なので、衣装住込みで月20万ってのはちょっとお高い、ボッタクられてるんじゃないかと疑ってしまう。
「高いけど、それって税金込みか」
「犬狼族には中の街じゃ人頭税はかからん筈じゃが、街の暮らしは高くつくと言う話じゃな、特にサーヤ達のような大型種は部屋代が高いらしい」
そうか、確かに小型犬と比べるとかなりでかいわな、俺たちの身長と同じかそれ以上有る、小型犬なら腰辺りまでの大きさで成人済みだ。
「俺達が周りの村に言っても取引してくれるだろうか」
「東と北の村は間違いなく取引してくれるだろう、何なら紹介状も書くが、西の村はどうか判らんな。あそこは中の街よりジンギルカンの街との方が近い、ジンギルカンは人種と精霊種が入り混じった街だからのう」
何にせよ、中の街から移動し村落2ヶ所で魔石が買い取れそうだ。
俺たちにサーヤが着いて仕事すると、婿探しが出来ないから本末転倒な気がする、街の中では魔石買取に制限が有るだろうから仕事にはならないだろうな。
「サーヤの身内は中の街に居ないんか」
「私の叔父が騎士ダルカル様に仕えて居ました、ですがもう年なので今もまだ中の街に居るのかは判りません」
騎士に仕えるってそりゃあどうせなら大型犬の方が良いよな、サーヤもその騎士に仕えさせて貰えば良いんじゃないかと思うが、こういう世界だし男女平等って訳はないか。
「妹を、モグモグよろしく、モグモグお願い、モグモグします」
サーヤの兄がガツガツ肉を食いながらそう願って来たが、口に物が詰まってって半分も聞き取れなかったぞ。
慰労会が終わって、それぞれが帰って行った、残された俺達は後片付けを後回しにして、風呂に入って早々にベットに潜り込んで眠ってしまった。
翌日は目覚ましが鳴っても置きられなかった、8時過ぎに腹を減らしたエリスの襲撃を受け強制的に起こされてスマホを起動させる。
「緊急クエスト終わってるわ」
「そうなのかそれは良かったな。それよりも飯だ飯、リツコは酒臭くて置きないし、ナツメも何回起こしに来たと思っているんだ」
クエスト神聖な物だとエリスから聞いた気がするのだが、空腹のエリスには聞き流されてしまう程度の事らしい。
「まだ昨日食べた物が腹に残っている感じがするんだが。それで何食いたい」
「昨日食べた甘辛い肉が良い」
何を食ってたんだっけ、料理は全て律子にまかせて居たから、そんなに覚えて居ないぞ。
「エリスが何を食べてたのか知らないんだが」
「お前は夫の癖に冷たいぞ最近、柔らかくて肉と玉葱が煮込まれていて、米の上に乗って居た料理だ。あれなら米と一緒でも問題無い」
ああ牛丼か、そう言えば米好きな犬狼族の為に牛丼も並んでいたような気がする、俺は食べて無かったから覚えて居なかった。
「食堂に残ってないのか」
「無い、何にも無い、鍋の中も空っぽだ。サーヤの兄が舐めるように食べてぞ」「あいつの名前聞いて無かったように思うな、ずっと食ってたし」
「あんな御馳走が並んでは仕方ないだろう。私だってナツメと一緒に成る前ならサーヤの兄を殴り倒してでも奪いとっていたな」
牛丼と言われてもレトルトくらいしか無い、冷たいままの牛丼なんて最悪だし弁当は却下だ。
「米を炊くのが面倒だから、牛丼の具とパンで駄目か」
「仕方ないそれで我慢しておく」
牛丼のレトルトを購入して湯煎する、パンはサンドイッチで良いかと適当に購入し、俺は定番のおにぎりとお茶を食べて朝飯とした。
「おはよう御座いますです」
「律子ちゃんまた二日酔い?」
「大丈夫、少し小さな声で話してくれたら頭も痛くならないわ」
いつか痛い目を見るんじゃないかと思うが、既に痛い目には有っていたなと思い、食べやすいお粥を用意してやった。
「夏目君の優しさにしみるわ」
「今日は緊急クエストの報酬や、そろそろ学校施設を開放するからシャキっとしてくれよ律子先生」
「お風呂に入ったら大丈夫だから安心して」
ちっとも安心出来ないのだが、昨日出していた酒どれだけ飲んだのやら。
4リットルのウィスキーが消えて居るのだが、まさか1人で飲んだ訳じゃないよな。
律子が風呂に入っている間に日課の掃除をこなす、風呂場の掃除は律子の担当だが上がって来たのは10時を回った頃だった。
「リツコ遅いぞ、10時のおやつが食べたい」
「はいはい今用意しますよ」
またしても出鼻を挫かれてしまった、俺も自由人だと自覚していたが、律子とエリスは俺の上を行く自由人だなと思いながら、10時のおやつが出来上がるのを食堂の椅子に座って待つ事にした。
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