第20話「模擬店」

 昼飯はサーヤとクレアにも好評で飯を食い終わって食休みと行きたかったのだが、店の前に行列が出来て居る、ズラッと列は村長の家の方まで続いていてまるで村民が全員この店に並んでいるかのように錯覚してしまった。


「いつもこんななの?」

「行列になりますけど、一度にここまで多くの人は来ませんよ」

「しゃーないな、少し早いけど店を開けるか、サーヤは律子の指示に従ってくれ、クレアは客が値段を聞いてきたら答える係な、値段は札に書いてあるから判るだろ」


 取り合える店を開けるが一度に入れる人数は10人に制限した、その上で具合が悪くて診療所に入りたい人間だけは例外で列の前に並ばせた。


「お兄さん塩はいくらなんだい」

「1キロで銀貨3枚だけど、魔石と交換してくれるんなら100個で良いぜ」

「魔石は持って来てるんだけど50しか無いんだよ」

「じゃあ500グラムだな、壺か桶は持ってきてるのかい」

「壺を持ってきたよ」


 一番初めの客から幸先が良い、魔石50個と塩500グラムを交換する事が出来た、塩を交換した客はそれだは無く店の中を物色している。


「ねえうちは塩は前の時に買ったから余ってるんだ、魔石を買い取って貰って他の物を買いたいんだけど良いかね」

「勿論大歓迎だ、魔石は何個売ってもらえるんだ」

「100だよ」

「そいつは有り難い、ほれ銀貨1枚とオマケに好きな飴を1個つけるぜ」


 二人目の客は魔石を100子売ってくれたので、銀貨1枚を渡して飴玉を1つサービスした。

最初の10人で魔石を持って来たのは2人だけだった、全員必ず売れる物が2つ合った。

 石鹸と飴玉だ、石鹸は安いレモン石鹸を銅貨50枚で販売している、コンビニで8個入が500魔素なのでボッタクリも良い所だ。

 少しお高めの牛乳石鹸なら銀貨3枚、牛乳石鹸は1個100魔素で買えるから、ターたるで考えるとそこまで阿漕な商売をするつもりは無い。

 飴は1つ銅貨1枚で10個から50個と売れる個数は様々だ、客の入れ替わりの際に飴を補充しなければならなくなるなこれは。




5回転して3時を少し回った、まだまだ並んでいるが暗くなる前には店を締めたい、1組おおよそ30分程滞在しているから残り5組50人で今日の所は打ち切る事にし、50人以降には明日以降並んで貰う為に整理券を配った。




最後の客が買い物を終えたのは6時近くに成った頃で、若干薄暗く成り始めて居る。


「南村って何人くらい住んでんの?」

「200家族で1000人程です」


 小さい村かと思ってたけど、俺が住んでいる地域の倍以上の住人が居た、村長の家の周りには住宅が無かったが周辺部に点在しているのだろうか。


「じゃあ残りは100家族って事なのか、それにしちゃあ整理券の数が多かったけど」


 整理券は200枚近く配布していた、犬狼族の見分け方は犬種に頼るほかなく、同じ犬種だと誰が誰だか解らなかった。


「一家揃って来ていた所も有りましたよ、何も無い村ですからお祭りみたいな物ですね。安くて美味しいお菓子も並んでましたし」


 お菓子って飴の他には・・・エリスが暇でひもじいと言うので、うまい棒を与えていたら並べて売る事に成ってしまったな、ついでにイカ燻も並べたが売上はいまいちだった、後で俺が食べようと思っている。


「律子ちゃん晩飯は何食べる?」

「焼きそばとたこ焼きそれにキンキンに冷えたビールね、今日はそれ以外を食べるつもりは無いわよ」


 なんでそんな物が食べたいのかは謎だが、スナックコーナーに熱々の焼きそばとたこ焼きが有る、どこかのコンビニではこんなのも売っているのか知らないが、近所のコンビニだと揚げた鳥やコロッケ、それに肉まんくらいしか置いて無かったように思う。


「小麦粉で練った物だけど大丈夫かな」

「私達の事はお気になさらずに、好きな物を食べて下さい」


 5歳時のクレアが出来た子で助かる、それに比べてエリスは駄目だ、肉が無いとこの先一生一緒に寝てやらない、と言われたので揚げ鳥をこれでもかっと言う程買ってやった。


「このお肉美味しいです」


 エリスとサーヤとクレアは手掴みで揚鷄を食べて居る、俺と律子はフォークとナイフを使い一枚だけ揚鷄を食べて居るのだが、既に3人は3つ目だ。


「胸焼けしそうだな」

「私はコレが有ったらそれで充分よ」


 缶ビール片手に鼻歌を歌いながらたこ焼きを突いて居る、お祭り気分に浮かれた為だろうか、俺にも飲めとコップに注がれてしまった。


夕飯を食べ終えた所で村長がクレア達を迎えに来た、話が有るという事だったので2階に上げて話を聞く。


「いつまで店を開いてくれるのかのう、木こりの連中も買い物をしたいと言っとるんじゃが、戻って来るのは3日後なんじゃ」

「奥さん連中が買い物したらそれで良いんじゃないの」

「男衆も欲しい物が有るんじゃろ、わしだって村人の手前尋ねておらんが中の物を見たいと思っているからのう。ハッキリいつまで店を開いてくれるか前もって言ってくれると助かるんじゃが」


 急ぎの旅でも目的地が有る訳でも無いから、いつまで滞在していても良いのが、コンビニ商品はともかく他は今有る分しか無いからな。


「そんじゃあ5日間は滞在しとくわ、その代わり銀貨を手間賃無しで銅貨に両替してくれるか、もうかつかつなんだわ」

「それは勿論、明日の朝にでも運ばせる」

「頼んだよ」


 村長と5日間の約束をした所、村長はクレア達と一緒に帰って行った、残された俺は食いすぎて動けないエリスと飲んだくれの律子をどうするか考えつつ、取り敢えず風呂に入るかとトイレを召喚した。


「夏目君今日の売上ってどうだったの」

「金貨1枚分と銀貨8枚、銅貨21枚が売上の全部だな。買い取れた魔石は950個って所だよ」


 100人客が来たので、1人頭銀貨1枚分以上は使っている、売れたのは塩と石鹸が主な収入源で意外にとブラシが売れて無い。フルムだけでは無くその仲間達も土産としてブラシをばらまいているのかも知れないな。


「お金より魔石がもっと欲しい所よね」

「煮炊きにも使うって話だから仕方が無いのかもな、それにしちゃあここの台所で魔石が使えるようには思えないんだが、何か理由が有るんかな」


 俺と律子の目が風呂上がりで既に半分寝ているエリスに向けられたが、会話に参加する事は無さそうだ。


「店の方は順調だけど診療所の方はどうなんよ」

「具合の悪い人の半分は疥癬症ね、犬狼族の人たちってお風呂に入らないみたいだから尚更ね。塗り薬と飲み薬を出して置いたから治るとは思うけど、問題は残りの半分の人たち、手持ちの薬じゃ治りそうにも無いの」


 風呂に入らないのに石鹸が売れる意味が判らん、シャワーなんて物無い筈だしどうやって使って居るんだろうか。


「コンビニじゃ手に入らないって事?」

「薬局じゃないと日本の法律では売れないのよ、コンビニに薬剤師って居ないでしょ」


 薬の売買には制限が有るらしい、薬なんてどこでも売ってると思っていたがそれは間違いのようだ。


「どうにも出来ない事は仕方無いよ、半分の人を治せそうだってだけでも凄い事だよきっと」


 緊急クエストの方は俺も律子もまだ完了してなかった、俺が区切った期間をやり遂げないと駄目な感じだろうか、それなら5日と言わずに3日くらいにしとけば良かったか。






次の日は朝から人が並んでいたが、昨日の整理券のお陰か混乱すること無く並んでいる、文字が読めないと聞いていたが簡単な数字くらいは半分程の人が読めるらしい。

 9時から店を開けて40分程で人を入れ替える、昼は1時間の休憩を取るから15組くらいが限界だろうな。



午前中は5組が入れた、売上は銀貨で60枚程、魔石の仕入れは300個と少なめだ。


「なあここって魔石を使う設備は無いのか」

「コンロの中で燃やせば良いと思いますけど」

「直接燃やすのか」

「はい、水は魔石から魔道具を使って水を取り出しますから、村には10台の魔道具しか無くて持ち回りで使って居ます。暖房に使う魔道具は一家に1台はありますケドここには置いて無いですよ」


 試しに炭を使わず魔石を入れて火を着けて見た、確かに熱を発しているが炭の火とは何かが違う、炭より燃焼時間は長く温度温度も炭よりは高いように思えた。


「炭って村で買うといくらくらいか知ってるかな」

「そうですね、一樽で銀貨1枚くらいです」


 単位は樽かよ、比較対象が無いので安いか高いのかは解らない。


「魔石と炭ってどっちが高いと思う?」

「うーん、判りません、1人に魔石を300個配って居るんで、それで一年過ごせますから、炭ってあまり買いませんので」


 銀貨3枚村人全員に配っているのか、そりゃあ多少危険でも村で暮らそうかって気にもなるわな。


「それって赤ん坊でも300配るわけ?」

「はい1人は1人なので」


 子供の多い家庭だと多少魔石を売っても煮炊きには困らないって事だな、田舎じゃ子沢山ってイメージだったが今日並んでいたのは老犬が多かったかも知れんな。


 午後からも村人がやって来て買い物をしていく、売上事態は知れているが魔石が手に入るのは嬉しい、1時に再開して6時までに10組100名を受け入れられた、家族でやって来ていた家もあるので売上は然程伸びない、銀貨90枚分と魔石が500で店を閉めた。


 夕食を終えてサーヤとクレアを迎えに来た村長に託した後、部屋の中で二日間の売上を計算していた。


「仕入れに使った魔素が20万魔素で魔石を買い取った金額が銀貨17枚と銅貨50枚、収入が金貨2枚分に銀貨が58枚って所ね、それに魔石が1750個、魔素換算で175万魔素ね」


 仕入れた商品が全てはけた訳では無いので、ハッキリとは言えないが、仕入額の10倍以上のリターンが望めるらしい。これを一般の商人と比較するとどうなるのかは分からないが、魔素でコンビニが使える限り大勝利なのは間違い無さそうだ。


 4日目までは順調に終わった、しかしサンドの所から分捕った商品の補充が効かない、コンビニには食器や鍋が無いから既に売り切れて居る商品も出て来た。

 売上は4日間通して、金貨5枚分と銀貨88枚となった、魔石の買取は全部で3100個、村長の所で買い取った4000個と合わせると7100個となった。


「しばらく他の村に寄らなくても良さそうね」

「律子ちゃんの方は問題無し?」

「1人助かりそうに無い人が居たわ、痛みを和らげる薬を出して置いたけど、家族にはもう無理だろうって話て置いた」


 まあそういう事も有るだろうな、律子は医者じゃないから治療は出来ない、どこかで魔法を覚えたらその限りでは無いのかも知れないけど、それは今では無かった。


5日目の最終日並んでいるのはマッチョな犬狼族、中型犬から大型犬の男たちが店の前にいて今までに比べると迫力が有る、流石に最終日なので人数少な目だが、小型犬に比べると圧迫感が凄い。

早めに店を開けて10人入れると先頭に並んで居たドーベルマンが開口一番酒を来れと詰め寄って来た。


「酒って何の」

「火酒は無いのか、いつもの商人が運んでいる酒だが」

「火酒ってのは知らないが、火が付くほど酒精が高い物なら有るぜ、値段もそれなりに高いけどな」

「本当に火が付く酒かよ、そりゃあ飲んで見たいな。こいつで買える分を頼むぜ」 


 ベーベルマンが差し出したのは金貨だった、街中で見た酸っぱいワインが小樽一樽で銀貨20枚程だった、20リットル程入るから1リットルで銀貨1枚という所か。コンビニで買える酒はアレよりは上等だから10倍で1リットル銀貨10枚、その価格より高い値段で売れば良いか。


「酒精が高すぎてひっくり返っても知らんぞ」

「俺の二つ名はウワバミだぞ、楽しみにしてるからな」

「用意するからしばらく待ってろ」


 2階に上がってコンビニでアルコール度数の高い酒を探す、残念ながら世界一度数の高い酒はコンビニでは扱って居なかった。しかし何でこんな物がと言う4リットル入りのペットボトルタイプのウィスキーと焼酎が置いてある。ウィスキーは40度で1万魔素、焼酎は25度で2000魔素、20度が1500魔素だった。


「適正価格で売り出したら死人が量産されるな」


 火が出るなんて大言だったな、40度の酒ごときでは火は付かないかも知れない。       

 ペットボトルのままは拙いかとも思ったのだが、正直入れ替えるのは面倒くさい、ラベルだけ剥がしてそのまま持っていってやることにした。


「変わった入れ物だな」

「金貨1枚の大商いだから奮発した」

「まずはこのまま1杯もらおうとするか」


 飲み薬ように置いて有るコップを手にするとドーベルマンは、並々とウィスキーを継いで一気にあおった。


「ヴァーぁぁぁ」


 ドーベルマンが吠えた、安酒過ぎたか、俺はこんな度数の高い酒なんて飲んだ事が無い味の保証なんてもんは無い。


「本当に火が付きそうな酒だなおい、コレは一気に飲むような酒じゃねえ、味わって飲まねえと勿体ないぜ」


 味は大丈夫だったようだな、急性アルコール中毒には気を着けて欲しい物だ、その後の客も続々と酒を欲しがったが流石に金貨1枚を放り投げて来る客は居ない。精々銀貨が数枚だったので、ウィスキーでは無く焼酎を計量して売りさばいた。

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