第19話「出店準備2」

「旨い旨い旨い旨い」


 料理が出来上がったのは昼を大分過ぎてからだったが、子供達は誰一人苦情を言わず、旨そうに昼食を食べて居た。


「エリスちゃん、お姉さんなんだからそんな犬食いなんてしないで」


 犬食いと言う言葉に一瞬空気が凍ったが、エリスの様子を確認した子供達は、再びご飯を食べだした。


「箸なんて使った事が無かったからな」


 エリスは照れながらスプーンとフォークを使って食事を行っている、残念なお知らせだが、そもそもフォークの使い方がおかしいから犬食いになるのだが。


犬狼族の子供達も箸を使った事は無いようだ、茶碗によそったご飯はスプーンを使い、肉は手づかみで食べて居る、味噌汁に入った豆腐を不思議そうに眺めてから口に入れているが、味の方は問題なかったようでガツガツ詰め込んでいる。


「肉は切って正解だったね」


フォークとナイフも一応用意しておいたが、村の子供達は勿論エリスまで使って居ない、俺と律子は箸で食べるから焼いた肉は予め適当な大きさに切り揃えて居た。


「夏目君って料理出来そうな雰囲気だけど、本当に出来ないの」

「目玉焼きくらいなら作れるよ、食材を切ったりするのは手伝いでやってから、それなりかな」


 引っ越す前のアパートでは結構家事を手伝ってたが、一軒家に引っ越してからは、台所は私の城よ、と言って俺が台所に入るのをオカンが嫌がったから手伝いもやってない。


「エリスちゃんにもマナーを教えた方が良いのかしら」

「こっちの正式なマナーなんて解らないし今のままで良いんじゃないの、もしエリスが教えて欲しいと言い出したら律子ちゃん教えてやってよ」

「もちろんよ」


 俺と律子は静かに食事を楽しんだ、エリスが土鍋に残っているご飯をおかわりすることを、子供達が羨ましそうに見ていたので遠慮せずに食えと言ってやった。


「もうこれ以上食べられないよ」


 食事が終わった後子供達が船を漕いて居る、寝子は育つと言う格言も有るので1時間程を昼寝の時間に当てて、俺も子供達に混じって昼寝をする事にした。




 目が覚めると年長組は既に仕事を再開していて、昼寝をしていたのは俺とエリス、それに最年少のデュポンだけだった。


「デュポンそろそろ起きようか」

「はい、もう食べられません」


 まだ覚醒仕切ってないデュポンが寝言を言っているが、しばらくすると辺りを見回し誰も居ない事に気づくと1階へ駆け足で降りて行った。


「もう2時か、ナツメ午後からはどうするのだ」

「商品の陳列が終わったら値付け作業かな、値付けなんて俺達しか無理だから陳列が終わったら子供達は帰しちゃっても良いかもな」


 1階に降りて作業の進捗状況を確認する、荷馬車からは全ての品物が運び終えて居て、今は種類毎に陳列棚に並べて居る作業が残っているだけだ。


「律子ちゃんごめん寝過ごした」

「診療所はこれで良いとして、待合室のベンチが無いんだけど、代わりになりそうな物無いかな」


 ベンチか、ビールケースを並べて間に板でも渡せば良いのだが、そもそもビールのケースが無い、ダンボールじゃ強度が無いし、樽はでかすぎる。角材が有るから切ればベンチの足には出来るだろうけど、まともなノコギリなんかは無い、コンビニで手に入るノコギリでは頼り無さ過ぎる。


「食堂の椅子を当日卸して来れば良いんじゃ無いのか」


 エリスにそう指摘され全くその通りだと俺も律子も納得した。3時を回って少しした頃律子が夕飯の支度をするために2階に上がる、俺も食材を提供する為後に続いたが、夕飯は何を食べるか迷ってしまう。


「人数が多いからカレーライスね、エリスちゃんの分はナンをお願い」

「カレールーとジャガイモ、人参、玉ねぎ、牛肉で良い?」

「うん、水もお願いね」


 少し大目に材料を購入して律子に渡す、ご飯は土鍋で炊いて、カレーはサンドの所で回収した一番大きな鍋を使うらしい。料理の事は律子に任せて俺は1階に戻って行った。



5時過ぎには商品を並べる終える事が出来た、石鹸とブラシはまだコンビニから購入してないので、そこだけスペースが空いている。


「なあエリス給金って直接この子らに渡したら良いのか」

「良いんじゃないのか、そんな事は私には判らんな」


 夕飯にはまだ早そうだから、銅貨5枚と駄賃に飴を1人1個ずつ配る事にした。


「おいお前ら並べ、これから今日の給金を配るから」


 子犬達が群れて俺に近づいて来る、行儀よく順番に並ぶと言う事が理解出来て無いようだ。


「小さい子から順番に並びなさい」


 場を仕切って来れたのはサーヤだった、普段から子供達の面倒を見ているからなのか、サーヤの言う事には子供達は素直に従って居る。


「よーし、今日は一日頑張ったな、お金の他に俺からのご褒美として好きな色の飴を一つ上げるぞ」


 飴の色は5種類、イチゴ、バナナ、メロン、オレンジ、珈琲牛乳この世界にバナナやメロンが有るのかは知らんが、少なくとも珈琲牛乳に似た飲み物は存在した。


「赤が良い」


 先頭に並んでいたデュポンはイチゴ味を取って早速口に放り込んでいる、一つ10魔素の飴玉で袋に入った物より一粒の大きさはデカイ、夕飯までには舐め終えると思うが残ったら噛み砕けば良いか。


「私は黄色で」

「僕は茶色」


 サーヤ以外には全員行き渡って、最後のサーヤには選ぶ選択肢が限られて居たので手持ちの飴を紙袋に入れて全部渡してしまった。サーヤも一つ口に入れて、目を見開いて驚いている。


「あの、コレって砂糖が掛かってませんか」

「さあどうだかな、仕入れはしたけど俺が作った訳じゃないし判らん」

「そうなんですか、コレって売り物なんですか」

「ここで売ろうとは思って無かったけど、欲しいのか」

「とても高そうで買えそうに有りませんけど」

「売るなら一つ銅貨1枚だな」


 本音を言えば魔石と交換したいが、そんな事をサーヤには言い難い、魔石の買取もやってると宣伝くらいはしておきたい。


「コレが銅貨1枚なんですか、随分と安いですね」

「まあな、飴玉で儲けようとは思って無いからな、俺達は魔石を買いに来たってのが本当の目的なんだ、この店はサービスみたいなもんだよ」

「私からも買い取って貰えるんですか」

「魔石1個で銅貨1枚なんだけど、銅貨がそんなに数が無いんだ、銀貨なら余裕が有るから100個単位で売ってくれるのが一番嬉しい。それか商品との交換だな、魔石との交換なら安くしとくぜ」

「そうなんですか、いつからお店を始めるんですか」

「値付けが終わった後だから、早ければ明日の午後から、時間がかかるようなら明後日の朝からって所かな」

「ぜひ飴も並べて下さい、買いに来ますので」


 サーヤは売り子として雇うつもりだったから、買い物している暇は無いんじゃないかな。それは今は言わないで置くか、村長がどう言うかも判らんしな。

夕食が出来たと律子が呼びに来たので全員で2階に上がって飯を食った、今日のカレーは大分と甘口で、子供達に配慮した味に仕上がって居たので皆残さずにお代わりまでして食べてくれた。


子供達を帰した後、律子と年長の子供達が後片付けを行ってくれた、片付けが終わった頃にはかなり薄暗くなっていたので、子供達を送っていかないといけないかと思ったのだが、村長が数人の大人を連れて迎えに来た。


「おお大分と立派な商店になったもんだ、明日には店を開いてくれるのか」

「値付がまだだから早くても明日の午後、遅いと明後日の朝からって事になるかな」

「こんなにちゃんと店を開いてくれるなら、定期的に回って来て欲しいもんじゃ」 


 それは勘弁してほしいかな、コンビニ以外にまともな仕入れ先なんて無いからな。


「それで店を開いた手伝いにサーヤと、もうひとり誰か計算の出来る子に手伝いに来て欲しいんだが」

「サーヤは構わんが計算と言われるとな、わしの他には孫くらいしかまともに足し引き出来んぞ。孫を使って貰っても構わんのだがまだ本当に子供だから、重い物は持てんが構わんか」

「ひょっとして村人って文字が読めない感じか」

「うむ、だが数くらいは読める人間は少しは居るぞ」


 値札が無駄に成ったな、これじゃあ商品に値段を書き込む意味は無いか、嫌俺達が忘れないように書いて置く意味は有るか。


「村長の孫で良いから回してくれ、ちなみにサーヤは読み書きは」

「あの子は村を出て婿を探さんといかんから文字の読み書きも出来るぞ、街じゃあ読み書き出来んと辛いからのう」


 明日の昼頃サーヤと村長と村長の孫が様子を見に来てくれるようだ、今日の所は早めに寝て明日は朝から値付けをしてしまった方が良さそうだ。


「そんじゃそういう事でよろしく」


 村長達を見送った後、今日は1人で風呂に入って寝室に蚊取り線香をそれぞれセットすると、そのままベットに入って眠ってしまった。





 5時48分、日の出と共に目が覚めた、昨日は蚊取り線香を炊いたお陰か虫が部屋の中に入ってくる事は無く、より爽快に目が覚めた。トイレを召喚にして中に入る、大きい方を出すと朝シャンを決めて保健室で休憩がてらに珈琲を飲んだ。


「おはようナツメ」

「おはようエリス、律子ちゃんはまだ寝てるんか」

「うむ、昨日は遅くまで、そのスマホを言うやつを眺めて居たようだぞ」


 スマホをね、何か新しい機能でも追加されたのだろうか、最近スマホの確認なんてデイリークエストくらいしかしてないな。


「そっか400万魔素も有るんだった」


 調理室を開放する事を忘れて居たが、店の方が忙しそうだし後回しにしても構わんか、荷物の移動なんて今は手が回らない。


「朝飯は何が食べたい」

「今日の気分はサンドイッチだな、前に食べたクラブサンドが良い」


 スマホからログインしてボーナスを受け取り、俺はおにぎり3個とインスタント味噌汁を、エリスにはアメリカンクラブサンドとカッファにガムシロを混ぜて出してやった。


「私にはスープが無いぞナツメ」

「はいはい、コーンポタージュで良いよな」

「うむ、よくかき混ぜてくれよ」


 朝食を食べ終えて日課の掃除に入った頃、律子が眠そうな目を擦ってトイレに入ってきた。俺達が挨拶をしても首を縦にふるだけでそのまま個室に入って行って、ブリブリ出して居た。


「ういーっす」

「臭いぞ律子」

「うっす」

「酒くっさっ」


 律子は俺達が寝た後1人で晩酌を行っていたようだ、俺が渡した日本酒が空に成っている、半分くらいは土鍋に入れて居たがつまり2合と少し飲んだと言うことになるのか。


「久しぶりに飲んで、軽い二日酔いになったみたい、今朝はグラノーラと牛乳を飲んで大人しくしてるわ」


 当てにしていた戦力だったが、これじゃあ使い物にならない、仕方が無いので値付けは俺が行い、エリスは値段を紙に書き込んで商品の前に並べる係をしてもらった。


「ナツメは酒を飲まないんだな」

「飲んだ事は有るんだけどな、旨いと思えなかったんだよ」

「そうなのか」

「私は酒より旨い物が食べたい」


 俺もそんな感じかな、酒よりは飯、飯よりも女、今の所自分の中のランク付けはこんな感じだ。



10時前に律子が降りてきた、まだ顔色はスッキリしていなかったが、それでも歩けるようには回復しているらしい。

 祝福で状態を調べる程でも無いのだろう、もたついた手付きでは有ったが診療所の設置はそれでも問題無く終了した。


「終わったかのう」


 昼前にサーヤと孫娘を連れた村長がやって来た。


「俺達が出来る範囲の事は終わったよ、ボチボチと店を開けるから昼食後に店を開けるって宣伝しといてくれると助かるぜ」

「昨日は昼まで食わせてくれたらしいのう、有り難い事だ、今日も孫達に昼を食わせて貰えるのか」

「まあな、ただし今日はありあわせの物だが許してくれ」


 村長の孫娘は5歳のボーダー・コリー、名前はクレア、中型種だがまだ子供で俺の腰くらいまで背丈しか無い。


「クレアです、よろしくお願いします」

「クレアちゃんは昼ご飯何が食べたいのかな」


 俺もニタニタして気持ち悪いが、輪をかけて律子が気持ち悪い、ボーダー・コリーに思い入れでも有るのかも知れない。


「チーズが食べたい」

「そうなのね、じゃあお昼ご飯はチーズリゾットにしましょう」


 リゾットとは西洋風のお粥って事で良いのか、二日酔いの律子にもピッタリの昼食と言えそうだ、2階に上がってフライパンにオリーブオイルを入れ生米を馴染ませる。

 オイルが馴染んだ所で白ワインを入れると言うのでコンビニで急遽購入する、エリス達は食堂で俺が剥いてやったリンゴを食べて居てこちらを見てないから丁度良い。

 アルコール分が蒸発した所でブイヨンと水を入れ煮立てていく、米が柔らかく成った所でベーコンと野菜、キノコを入れ味を調整した後チーズを削ってリゾットに掛けて行った。


「エリスこれ米だけど食えそうか」


 エリスの前にリゾットの皿を置いて食えるかどうか聞いてみた。


「旨いから問題無しだ」


チーズリゾットはエリスの口に合ったようだ、俺も席に座って一口食ってみたが、イタリアンって感じで旨かった。

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