第18話「出店準備1」

 日の光で目が覚めた、今何時だとスマホを手に取って時間を確認する。

 異世界生活49日目、時刻はAM5時38分、6時にセットした目覚ましより幾分早起きしたらしい。昨日寝たのは何時だったろうか、思い出せないが何時もより疲れが取れて居る気がする。


 召喚しっ放しに成っているトイレのドアを開け中に入る、用を足してそのまま日課の掃除を行う、掃除の最中にエリスと律子が入って来て恥ずかしがりもせず個室に入って行った。

 俺は飼育小屋に移動してドナ子を外に出してやると、ドナ子は外の馬小屋に向かって行ったようで、中庭から消えて居た。飼育小屋の掃除を終えて保健室に入ると、エリスが朝飯を要求してきた。


「よく眠れたわ、エリスと律子ちゃんはどうだった」

「いつもと変わらんぞ、寝台が固くてな、保健室のベットで寝たかったな」

「私はよく眠れたわよ、やっぱり夜は暗い方が良いわね、でも虫よけに蚊取り線香くらいは有っても良かったかも」


 虫か、確かに羽虫の類は飛んでいたが気にならなかったな、それよりも睡眠欲求の方が高かったのかも知れん。


「冷房も無かったしな、シャワーだけでも浴びとくか」

「そんな事より朝飯だ、今日は何を食べるんだ」


 エリスの期待が高まっているが俺は味噌汁と玉子焼きとご飯で良い、できれば味噌汁は出汁を取った物が飲みたい。


「律子ちゃんはどうすんの」

「グラノーラとヨーグルトで良いかな、後は熱い珈琲が有れば充分」

「じゃあ俺もコンビニおにぎりと味噌汁にしとくわ、エリスはハムかソーセージーが有れば良いだろ」

「シャウ●ッセンにしてくれ」


 メーカーを指定されたのでその通りの品物を買って、律子に軽く温めてもらい、適当にパンを購入すると、もりもり食べて行く。


「カッファは飲まないのか」

「珈琲牛乳で良いぞ」


 甘ければ良いんだろうとガムシロップを買ってカッファに混ぜて出してやった、一口飲んで甘みを感じたらガブガブと飲み始める、これで余るのは堅パンだけと言うことになった。


食事を終えるとシャワーを浴びる、朝っぱらからやるつもり無いので別々に入る、最後に入った律子が風呂を洗ってくれたのでデイリークエストは全て完了し、今日も銀貨4枚を手に入れた。


「荷馬車に適当に荷物を詰め込むか」

「棚もか」

「当然そうだな、レベルのお陰で荷物を持つ事は苦じゃないけど、面倒だってのは有るな、村長に手伝いを紹介してもらうか」

「夏目君、ベットと薬品棚も運んで欲しいんだけど」


 律子が運んでくれと言っている品物は、診察に使う為の物一式だ、椅子や衝立なんかも運ばないと駄目らしいから結構な荷物になる。


「電化製品は使えないのよね」

「電源が無いから無理でしょ、トイレから延長コードを伸ばすって事はやりたくないかな」


 延長コードはコンビニに売って居たが3mの品物だ、人が出入りする店舗でトイレの出入り口を召喚しっぱなしにはしたくなかった。


「何が使いたいだ」

「ウォーターサーバーをね、薬を飲ますのにアレが有ると便利なのよ、そのために保健室の備品として購入してもらったから」


 ウォーターサーバーの水はペットボトルの水を入れる事で補給している、正しい使い方じゃ無いんだろうけど、今の所それ以外の解決方法が見当たらない。

 詰め込めるだけの品物を荷馬車に積み込む、売れ残った品物をまた運び込まないと駄目なのかと思うとゲンナリしてしまう。


2時間程掛かって荷物を荷馬車に積み込むと、一旦トイレから外に出て2階の突き当りから3人揃って出てくる。店舗の外に出て誰も見て居ない事を確認してからトイレを召喚して、荷馬車よ出て来いと心の中で願うと、荷物を満載させた荷馬車が現れる。


「じゃあ俺は村長の所に顔を出すから2人は運べそうな物だけ中に入れて置いてくれるかな」

「夏目君塩も売るつもり?」

「ああ、塩ね、売れるんなら売ろうかな」

「了解、空樽を中に入れておくわね」


 昨日の道を逆戻りして村長の家を訪ねる、手ぐすね引いて待って居た村長が中に入るよう言い、中に入ると数名の男女が部屋の中に座って居た。


「良い所に来てくれた、この者等は村の若い衆でな、手伝いを申し出て来れたんじゃがどうじゃろうか」


 チワワ、ヨークシャテリア、ポメラニアン似の犬狼族がそれぞれ2、3人、ボルゾイとグレート・ピレニーズ似の犬狼族がそれぞれ1名ずつが居た。


「そこの2人はデッカイな、俺よりデカイ犬狼族も居るんだな」

「そこの2人は力仕事なら任せて欲しい、じゃが細かい作業には向かんから、品出しなんかが得意な子達を集めてみたんじゃ」


 全員で10名程の子供達が居る、全員雇っても良いんだがあの売り場に入るには人数が多すぎるように思える。


「ちなみに聞いとくけど、1日の日給はどんなもんよ」

「皆子供じゃからな、銅貨5枚でどうじゃ、その代わりに飯は出してやって欲しい」


 安い、安いが10人だと銅貨50枚だ、大人二人分の日給に相当するから報酬としては相当とも言えるのか、あまり子供に仕事をさせたくは無いのだが、犬狼族の年齢なんて見た目じゃ判らん。


「年齢と名前くらいは聞かせてくれるか、今日の所は全員雇っても良いが、明日以降は働き具合を見てからって事で構わないか」

「なんと全員雇ってくれるのか、それは有り難い、勿論明日以降はそれで構わんよ。2人か3人くらしか使って貰えんと思って居たからのう、皆立って名前と年を言うんじゃ」


 平均年齢は10歳という事らしい、ボルゾイのサーヤがリーダーで彼女だけは14歳と少し年齢が高い。もうひとりの大型犬であるグレート・ピレニーズのデュポンは図体はデカイが最年少でまだ8歳という事だ、だが既に体格は大人と変わらないという事なので力仕事は任せて欲しいと言っている。


 早速今日から働きたいという事で俺とサーヤが先頭に立って、商店まで歩いていく。後ろから着いてくる小型犬の犬狼族が可愛らしい、こんなのリアルお人形さんだ、持って帰りたい奴なんて山程居そうだ。


「サーヤは村で何をしてんだ普段」

「森の中に入って見回りです、村の入口で門番をする事も有りますけど、でも私つがいを探す為に他の村に行かないといけないんで、定職には着けないんです」


 大型犬は大型犬同士しか子作りが出来ないらしい、それはそうだろうなと思う、アレのサイズも違いすぎるし出来た子供のサイズも違うだろうからな。


「デュポンじゃ駄目なんか」

「この子従兄弟なんですよ」


 件数の少ない村の中で更に数の少ない大型犬なら親族だって言う方が当たり前か、となるとこのデュポン君も嫁探しに翻弄される訳ね。


「旅をするにはお金が必要なんですよね」

「旅って、近場の同じ犬狼族の村に行くだけなんだろ、そんなに金が掛かるとは思えんけど」

「中の街まで行く馬車賃だけで、銀貨5枚は必要だって聞いてます」


 中の街?犬狼族の街があるのか、そんな話はフルムからは聞いて無かったな。


「街って何処かの貴族が治めて居る街が有るのか」

「はい、犬狼族の騎士様が中の街を治めてます」


 次に寄るとしたらその中の街だろうか、それとも直接こうやって村落を回った方が魔石の回収には有利そうだけど。


「中の街って遠いんか」

「馬車で3日程掛かるって聞いてます」


普通の場所が一日に50キロ程度進むんだったか、となるとドナ子なら5時間程でたどり着ける場所ってことになるな。だとするならバイカルの街に行くのと然程変わらないって事か。


「中の街で婚活するつもりなのか」

「婚活ですか?南村出身者が中の街にも居ますから誰か紹介してもらうつもりですけど、婚活って言うのは知りません」


 自由恋愛じゃ無くてお見合いって感じなのか、1日で行ける距離のようだし、ついでに送ってやっても良いかな、ボルゾイも嫌いじゃ無いし。


サーヤの婚活事情を聞いていたら商店に到着したので、エリス達に犬狼族の子供達を紹介して早速荷物を運んで貰った。1時間程一緒に荷物を運び込んだ、大型の荷物は粗方運び終わり、これからは小物を運んでいくそろそろ俺の手伝いは必要無いだろうと、後は犬狼族に任せようと思う。


「律子ちゃんとサーヤちょっと2階に上がってくれないか」

「どうしたの夏目君」


 診療所を整えて居た、律子とサーヤを呼んで2階に上がるよう伝えた。


「村長から飯を出すように言われててさ、後1時間程で昼だろ、子供達が10人程居るから用意するにも時間が掛かるかと思ってさ」

「そうなのね、それじゃあお昼ごはんの用意をしないと駄目ね」

「あの、お昼からご飯を食べさせて貰えるんですか」


 サーヤが奇妙な事を言いだした、2階に上がりながら話を聞くと普通は朝夕の2階しか飯は食べないらしい。ただ長時間歩く必要の有る森に入る時には、昼飯を持って入って食べるらしいが。


「何か食えない物とか有る?」


 俺は子供の頃犬を飼いたいと本気で親に頼んだ事が有る、その時は団地住まいだったので駄目と諭されたのだが、何時でも犬が飼えるように調べた事が有る。チョコレート、玉ねぎ、ねぎ、ブドウ、レーズン、キシリトールは与えては行けないと書いて有った、何かの中毒を起こすらしい。


「好き嫌いは有るかも知れませんが、食べられない物は有りません」

「コレとかコレも大丈夫?」


 炊事場で玉ねぎとブドウを出して尋ねて見た、玉ねぎを触りながら大きいですねと言って居たが普段食べて居る野菜と変わらないようだ、ブドウは美味しそうですと言っていたので試しに一粒食べさせて見た。


「甘いです」


 モキュモキュ食べて居るので大丈夫そうだ、小さなブドウだったのでそのまま一房食べても良いと言うと、あっという間に食べ干してしまった。


「じゃあ何か食べたい物って有るのかな、出来るだけリクエストには答えたいけど、調理器具が貧弱なのよね」


確かに鍋やフライパンもコンビニ手に入る物は小さい物ばかりだ、ご飯を炊く炊飯器にしたって保健室に備えて有った物では5合しか炊けないようだし。


「米が有るならご飯が食べたいです」


 うん?と言う表情に成って思わずサーヤを見た、今米って言ったか。


「貴方達お米を食べるの」

「はい、でも今の時期が一番備蓄が減るので、毎日は食べられないんです」


 季節ね、そう言えばこちらの暦なんて聞いて無かったな、律子は既に3ヶ月以上こっちの世界に居たが文明的な暮らしをするように成ったのは俺と出会ってからだ。エリスに聞けば判るのだろうけど、今は下で子供達を監督している。


「米って何時頃収穫出来るんだ」

「10月の初め頃なので後1月以上先です」


 という事は今は8月の終わり頃か、日本で米刈と言えば夏休みの終わり頃から始まったと記憶しているが、こっちは米刈が遅いらしい。


「麦は食わないの?」

「米の代わりに麦を炊いたり、お米に混ぜたりしてます」


 麦飯か、学校給食で出て居たが旨いと言う記憶は無いな、米なら保健室に備蓄されていたものも有るし、コンビニでも10キロ詰めの精米が買える、主食は米を炊くとしておかずは何にしようか。


「あの私は料理が苦手なので、代わりに誰か得意な子を呼んできましょうか」

「料理は俺と律子ちゃんがするから問題無い、サーヤは引き続いて下で荷物運びをしててくれるかな、料理が出来たら呼びに行くわ」

「はい、よろしくお願いします」


 サーヤが1階に降りて行った所でどうすれば良いか律子と2人で話あった。


「土鍋でも有ればご飯を1升くらいは炊けるんだけど」


 土鍋ね、コンビニで検索しても流石に無いかと思ったのだが有った、試しに購入してみると1人用の土鍋だった。


「鍋焼きうどんなら出来そうね、仕方ないから保健室から持って来ましょうか」

「保健室に土鍋が有るの?」

「ええ、女子会用に隠していた物が有るんだけど、夏目君の保健室に再現出来ているかは解らないわね」


 律子と2人で保健室に帰ると、律子が戸棚の下からダンボールを取り出すと、中から巨大な土鍋が出てきた。


「デカすぎじゃないのか」

「5人で鍋を突いて居たからそれなりに大きな鍋を買ったの、その内の2人が他の学校に移ったからお役御免に成って久しいの」


 教師は数年毎に学校を移動するのが普通らしい、養護教諭の律子はその移動のタイミングが一般の教師より遅れてやってくると言う話だった。


「ご飯は土鍋で炊くとしておかずはコンビニの惣菜にしとくか」

「牛肉を焼こうかと思うんだけど、駄目かしら」


 牛肉とはジャイアントカーウのドナ子の母親の肉の事だ、まだまだ俺のアイテムボックスに山のように収納されている。


「フライパンで焼けば良いか、味付けは焼き肉のタレかなんかで」


土鍋を台所に持って行って無洗米を中にドバっと入れる、昆布を一枚入れて塩と醤油で下味を付ける、その上に鶏の胸肉を3枚程入れ、皮を剥いただけの生姜を適当な大きさにして入れていく。

 俺の方は肉を切る役目を仰せつかっている、エリスは3人分くらい食べるだろうと3キロ程のブロックを、ステーキの大きさにして切断していった。


「夏目君日本酒も欲しいんだけど有るかな」

「料理酒的な奴?」

「何でも良いんだけど」


 スマホで検索してみる、ワンカップと紙パックの酒しか置いて無い、いきがって中学時代にビールを飲んだ事は有るが、日本酒は流石に口にした事は無いから、どれを買えば良いか解らない。


「紙パックのお酒で充分よ」

「了解」


 900ミリで1000魔素と言う高いか安いのか解らない酒を買って、律子に手渡す。


「鬼ヌッコロか、コンビニに有りがちがなお酒よね」


 沸騰しかかっている土鍋の中にこれでもかと言うほど酒を入れて行く、そんなに入れて大丈夫なのかと心配になった。

ご飯はコレで良いとして味噌汁と焼き肉が問題だ、ガス缶の方はコンビニでいくらでも買えるのだが、コンロ本体は売ってない、だから土鍋が仕上がるまで肉は焼けないし味噌汁も作れないと言う事になる。


「肉はどうする?」

「そこのカマドで炭火焼きを試してみようかと思ってるんだけど、夏目君炭は売ってるかな」

「着火剤なら売ってるけど炭は無いかな、サーヤに無いか聞いてくるわ」

「お願いね、ついでにお味噌汁を作れそうな鍋も無いか確認して欲しいかな」


 1階に降りて炭と鍋が無いかとサーヤに確認したら、鍋はサンドの店に有った物で使えそうな物が有ったし、炭もどうやら藁に包まれで積まれて有った。サーヤの不信の視線が痛い、すぐさま荷物を持って2階に引き返した。


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