第15話「ウィンドウショッピング」

 飯屋を出た後立ち寄った場所は雑貨屋だ、雑貨屋と言う名では有るけど規模はデカイ、日本の店に同じような物がなく上手く例えられないが、雑貨屋なのに食品まで扱っていた。


「ここって有名店なんか」

「西部貴族派の領地で有名な商会の支店のようだ、私は王都で生まれ育ったから名前くらいしか知らんがな」


 アスター商会バイカル支店、と言う文字が看板にデカデカと書かれて居る、市場調査の冷やかし客だが商店の中へと入っていく事にした。


「なあ雑貨屋って菓子や砂糖を扱う物なのか」

「高級品過ぎてアスター商会じゃないと扱えないのでは無いか」


 目的の石鹸が並べられて売っていた、そっけない石鹸が一つ銅貨50枚で売られて居る、エリスの日当より高いのかと驚いた。


「石鹸ってこの値段が普通なんか」

「王都よりは高いな、銅貨30枚程で買えるぞ」


 それでも高い、つまり石鹸とはそう云う物なのだろう、だとするとコレを土産に故郷に帰ると言ってたアフガンハウンド似のフルム君は高給取りという事になるのだろか。


「お客様何かお探しですか」

「石鹸ってコレしかないのか」


 俺とエリスが商品を物色していると店員が現れ、アレコレと説明をしてくれるようだ。


「特別な匂いを付けた物が有ります、銀貨3枚ですがご覧になりますか」

「そうだなどんな匂いか気になるし見せてくれ」

「かしこまりました」


 店員が店の奥に石鹸を取りに行った、その好きにエリスが肘で横っ腹を突いてて

「何を考えて居るのか」と尋ねて来た。


「銀貨3枚の品質を確認したかっただけだけど」

「石鹸の良し悪しなんて判るのか」

「判らんけど、見た目の違いくらないのら目利きもクソも無いだろ」


 エリスが銀貨3枚の石鹸なんて使っている筈は無いので、高級品と市販品の違いなんて気にした事も無いのだろう。

 奥から木箱に入った石鹸を持ってきた店員が、箱を開けて中身の石鹸を見せてくれる。


「花の匂いかな」

「はい薬草でも有るシオンの香りを独自の技術で封じ込めて居ります」


 匂い付きだから高いのだろう、石鹸事態の品質も銅貨50枚の物よりは上等に見えるが、コンビニで売っている乳牛石鹸の方が遥かに品質は上だなと確信した。


「石鹸はもういいわ、鏡とブラシって有る?」

「はい、しばらくお待ち下さい」


 石鹸の入った箱を持って定員が再び店の奥に行く、鏡は石鹸より高級品だったららしく恭しく3種類の鏡を持ってきた。


「青銅鏡なのかしら」

「はいそうです、こちらは青銅の鏡です、写りも悪く重いので余りお勧めしませんがそれでも銀貨2枚致します」


 青銅鏡なんて歴史の授業で聞いた事が有るくらいの品物だ、卑弥呼とかの時代の装飾品だっけ、意外と鏡として映るんだなと関心した、銀貨2枚なら記念に買っても良いかと思った。


「こちらは銅鏡にメッキを施した物でお勧めの商品と成っております、価格は銀貨10枚と少し高いですが、手入れも楽で傷も入りにくく成っております」


 何のメッキか判らんが、金属にメッキを施す技術は確率されているようだ、だからと言ってこんな物に銀貨10枚もの金を掛ける気は無いが。


「最後のこちらは商会での取り扱いが極めて少ない物と成っております、砂漠の国からもたらされたガラス鏡と成っております」


 期待したのに映りの悪いただの鏡だった、俺と律子は勿論エリスでさえ驚いて居ない事に店員の方が逆に驚いていた。


「ガラス鏡をご存知でしたか」

「まあそうかな、俺とこっちの女は遊牧の民でな、砂漠の国とも多少の交流は有ったんだ」


 よくもまあ口からでまかせを言ったもんだな、砂漠なんて見た事すら無いわ。


「さようで御座いましたか」

「ちなみにその鏡っていくらすんの」

「金貨10枚です」

「「「高いわ」」」


 3人の声が重なってしまった、何が悲しくてこんな映りの悪い鏡を金貨10枚で買う物かよ。


「それは勿論砂漠の国と比べられると高いとは思います、割らないように輸送するのも大変なようですので」


 普通に運びだけでも輸送費が高騰することなんて判りきって居る、だれがこんな田舎街で金貨10枚の鏡を買うのか謎でしかないな。


「ではブラシはどうでしょうか、豚毛と猪毛変わった物ではユニコーンの毛で作られた物がございます」


 ブラシって豚とか猪の毛を使うのか、全く知らなかったしそもそも豚に毛が生えてるなんて思いもしなかった。


「値段は、豚毛が銀貨2枚、猪毛が銀貨3枚、ユニコーンの毛を使った物は特別なアイテムですから金貨50枚です」

「金貨50枚って使ったら毛でも生えて来るのかよ」

「よくご存知でいらっしゃいますね、薄毛を気になされる貴族の皆様からは大変ご好評を得て居ります」


 マジで毛が生えてくるのかよ、そんなもん地球で売ったら金貨1000枚や2000枚なんて目じゃない程の値段で売れそうだが、ここは異世界そんな品物も日用品として売られて居るのだな。


「でそんな貴重なもんがこんな田舎町で売れるんか」

「・・・もちろん・・・売れますとも」


 売れないのね、やっぱり。


「この店で1番の売れ筋って何なの?」

「魔石です」


 雑貨屋で魔石を売っているのならここで買ってしまうのが正解だな。


「じゃあ魔石を売ってくれ」

「はい魔石100個で銀貨1枚と銅貨10枚になります。魔石には購入制限が有りましてお一方月に100個までしか購入することが出来ませんので、身分証をご提示下さい」


 街中では魔石一つが銅貨1.1枚で販売されていて、その上で購入制限まで敷かれて居るらしい、俺と律子は当然そんな身分証なんて持ってない、エリスはどうなのかと視線を向けたが横に顔を振られた。


「遊牧民の俺に身分証なんて物が有ると思ってんのか」

「ご領主様の所か代官所で仮の身分証は発行されますが、ご存知無かったですか」「そんなの初耳だよ」


 代官所でそんな話は聞かなかったが、俺達に隔意が無かったとしても、懇切丁寧に教えるような事は無かったろう。


「規則なので先に身分証をお作りに成って下さい」

「その身分証って王国内ならどこでも通じるもんなのか」

「いえ、ご領主様が発行された物で有れば領内、代官所が発行したものは代官所が管轄する街内だけです」


 王国内どこでも通じるパスが貰えるのなら他の街か領地に行って、身分証を発行してもらえば言い、どこの街でも魔石が買えるようになるなら、多少経費が掛かっても安い買い物だ。


「なるほどね、じゃあ国王が許可したら王国内どこでも使えるって事か」


 エリスに頭を叩かれ、「国王陛下だ」と敬称を付けるよう怒られた。


「国王陛下が許可されるのは貴族の方々だけですよ」


 叩かれた頭を撫でながらエリスを見つめるのだが、視線を逸らされた、身分証を持っていないか使えない状態なのだろうなと理解した。食器やカトラリーが売っていたがそんなもん、コンビニで買った方がよっぽど安くて品質も高い、冷やかしついでに買う物でも無いな。


「ねえコレって飴よね」

「はい1つ銅貨1枚の飴です」


 律子が指差した先に有ったのはガラス容器に入れられて居た飴だった、色は茶色で美味そうには見えなかったが、どうしてそんな物に律子が注目しているのか、見当がつかなかった。


「夏目君これ買って貰えないかな」

「そんなんでよかったら10でも20でもお好きにどうぞ」


 そう言うと律子に銀貨1枚を手渡した。


「じゃあこれで店員さん、その飴を20個くださいな」

「はい、かしこまりました」


 瓶から飴を出して布の袋に詰めて居る、あの布の袋の方が高いんじゃないのかと思うのだが、切れ端を簡易的に袋にしているだけでコストはそれほど掛かって居ないようだ。


店員が飴を詰め込んでいる間に店の中の品物を確認して、値段をメモ帳に記載している、気になったのは毛布が有っても布団が無い点と紙が見当たらない、季節的に布団が無い事は理解出来るが、紙が無い理由が解らない。


布袋に詰めた飴と、お釣りを持ってきた店員に、その辺りの事情を尋ねて見た。


「布団ですか、注文を受ければお作りしますが、品物を店に並べる事は無いですね。王都なんかの大都市だとどうなっているかは判りませんが。紙が無いのは単純に需要が無い為です、この辺りで紙を使うのは代官所とうちのような商家だけですので」


そんなもんかと納得した、使っている紙を見せて貰ったがあまり品質は良く無さそうだ、普段見慣れいる紙と違って厚みにもムラが有ったし、色もくすんでいて真っ白では無かった。


「身分証が取れたらまた寄らせてもらうわ」

「はい、お待ちしております」


 銅貨20枚の買い物しかしていない割に丁寧な対応を取られた、流石に大きな商会の支店だと言う所か、店員の教育も隅々にまで行き渡っているらしい。





「エリス身分証って持ってないのか」


 店を出てからエリスに尋ねて見た。


「有るが出して居たら大問題に成って居た、それ以上は聞かないでくれ」


 やっぱり只の家出娘って訳じゃ無さそうだ、王都で何をやらかしたのか、聞くのがますます怖くなった。


「そんで律子ちゃんはなんで飴なんて欲しがった訳よ」

「これの味を知りたかったの、多分砂糖を使って無い飴の筈だから。となるとデンプンから糖を作る方法は確率されているんだと思うのよ、例えば水飴とか」


 水飴って砂糖を水に溶かした物じゃ無いらしい、デンプンを酸や酵素を使って甘くするのだとか、発酵する前の日本酒なんかもその作用で甘くなるのだとか。甘酒なんかも砂糖を使って甘くしている酒なんだと思っていたのだが、どうやら発酵する手前の日本酒らしくて驚いた。


「律子ちゃんは水飴を作って一儲けしたかったわけか」

「そう云う方法も有るかと思っただけよ、私が立ち寄った村には甘味類が一切無かったから」


 そうなんだと関心してから一旦人通りの少ない場所に行って、ドナ子と場所を連れ出し、塩屋に移動する。

 塩屋で樽を積み込んでイヨイヨ犬狼族の村に行こうかと言う所で、エリスから待ったが掛かった。


「こんな時間から馬車に乗って領地を出る奴なんて殆ど居ないぞ、探られるのも億劫だし明日の朝1番に出ないか」

「そうなんだ、じゃあそうすっか」


 エリスの意見を全面的に受け入れ、大きな道を外れてまた人通りの少ない場所を目指す、俺の事時この世界の治安の悪さをまだまだ理解出来て居なかったようだ。


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