第14話「市場調査」
朝6時にセットした目覚ましが鳴って起きる、一日中真っ昼間なここでは、朝日と共に目覚めることは出来ない、だからスマホの目覚ましを掛けて居る訳だが律子が大体いつも最後に起きてくる。
「夏目君おはよう、今朝はクロワッサンの気分かな、スープは作るから材料だけお願いね」
「了解」
目覚ましが鳴る前に起きて居るのはエリス、グラノーラをかっ喰らった後、ドナ子の小屋を掃除している。
「エリスちゃん相変わらず元気ね」
「エリスの飯は3人分な、元気過ぎて燃費が悪いから」
「はーい」
俺はクロワッサンを5人分と、スープの材料を適当に見繕ってコンビニで購入すると律子に渡し、トイレに行って掃除を行う。
デイリークエストを消化して銀貨を稼ぐ、4人で日給銀貨4枚が多いのか少ないのか、まだ見当がついていない。
「エリスちゃーーん、朝ごはんですよー」
俺がトイレ掃除を終えた頃、朝食が完成したようで、律子がエリスを呼んでいる、手を石鹸でよく洗ってから俺も朝食を取るためテーブルに向かう。
「今日も朝から豪勢では無いか」
俺と律子はパンとスープだけだが、エリスには牛肉が付いている、昨日の晩の残りなのだが肉が無いと悲しそうな顔をするので、ついつい与えてしまう。
ニコニコ笑顔で飯を食うので、肉だけでは無く食後のデザートも、こんな事をしているから魔素が貯まらなんだろうな。
「今日は服を取りに行った後はどうするんだ」
「何処かの村に向かって魔石を手に入れてたいかな」
「村の場所を誰かに聞かないといかんな」
正確な地図なんて無いんだろうな、そもそも村の場所を誰もが知っている訳が無いよな、一生街や村で過ごす人間の方が多そうだ。
少しの間休憩してから服屋に向かう事にした、荷物が多くなりそうなんでドナ子に馬車を繋いで移動する。
心配していた代官の息の掛かった手先が、待ち伏せしているような事は無かった、やるとしても街中で襲うなんて外聞の悪い真似はしないか。
「お待ちしてました、仕上がって居ますので、どうぞこちらで合わせて見て下さい」
お直しされた古着を試着する、問題は無さそうだこれでようやくジャージ生活から卒業出来そうだ。
「俺は大丈夫だったけど律子ちゃんとエリスはどうだった」
「私の方は大丈夫、エリスちゃんも大丈夫そうね」
「うむ、こんなに沢山の服が貰えて嬉しいぞ」
荷物を荷台に運んでもらって俺達は、ドナ子に引かれて移動する。
このまま領外に出るか、一旦様子を見るか、出来ることならこの街の相場くらいは見て起きたかったのだが、代官の追手が掛かっているかも知れない自重しよう。
人気の無い方向に進んでいくと、工場街にたどり着いた、木材を買い付けた犬人が居たのでなんとなく声を掛けて見た。
「るーるるるる、るーるるるる」
「それってキタキツネを呼びよせる呪文じゃ無かった?」
だって二足歩行で歩く犬っすよ、スヌ○ピーもビックリだよ、一匹くらいお持ち帰りしちゃたいくらいだ。
俺はどちらかと言えばネズミー派だけどな。
「お客さん今日も買い出しかい」
「まあそんな所かな、魔石を仕入れたいんだが、村で必要な物が無いかと思ってさ」
「うちの村じゃあ塩と石鹸が足りなかったな、里帰りする時には両方持って帰ると喜ばれるんだよ」
石鹸が必需品って意外だな、街の中でも小汚い奴いっぱい見かけたけど。
「里帰りって村から出稼ぎかなんかなのか」
「俺達は親方に誘われて村から出てきたんだ、バイカルからもっと北の村でな、魔石と木材しか売れる物が無い村なんだけど。木こりをやるより材木屋で働いた方が手当も良いし安全だってんでな。嫁を探すのが難しい事が1番の悩みだけどな」
混血出来ないんならそりゃあ難しいだろう、近親交配ばかり繰り替えているとミニチュアダックスフンドのように成ってしまう。
「石鹸が売れるってちょっと意外だな」
「俺達毛が長いだろ、毛づくろいだけじゃ限界が有って、ダニや虫が入り込んだら大変なんだよ」
確かに、犬猫じゃ無いけど疥癬病とかには掛かりやすようだ、風呂に入るにも大変そうだし、ブラシなんかも売れないだろうか。
「ブラシとかも売れんかな」
「それは売れるとは思うけど、皆が買える程の金なんか持ってないよ、せいぜい村長か木こりの親方くらいのもんだよ」
魔石が手に入るなら安いもんだ、犬用ブラシもコンビニで手に入りそうだしな。
「兄さんの村を紹介してくれないか、塩と石鹸を運ぶからさ」
「行商に行ってくれるなら嬉しいけど、魔石と木材意外は何にも無い村だから、儲から無くても知らないぞ」
犬狼族の村の位置を教えて貰った、北方で20程の村が集まっているらしい、犬種は様々らしいがバラけて居住しているようだ、ラブラドールかシベリアンハスキー、もしくは柴犬が居たら嬉しい。
この国にまともな地図は軍人か貴族しか持っていないようだ、大商人なんかも伝手で持っているかも知れないが、残念ながらエリスは持っては居なかった。アフガンハウンド似の彼に礼を言って別れる、彼の名前はフルム君と言う23歳の青年で、嫁さん募集中との事だった。
「相場を知りたいんだが危ないかな」
「街中を歩くつもりか、今日の所は様子見に徹した方が良いだろう、部屋で更に数日大人しくしているとしよう」
北の村に向かう事は俺の中では確定している、円満に取引を完了するためにはこちらの相場を知る事が肝心だ、そして仲良くなった犬狼族をお持ち帰りしたい。
フルム君と別れ、人気が無くなった所でトイレを召喚した、ドナ子と荷馬車が収納され俺達も続いてトイレの中に入っていった。
保健室で3日過ごしたもう追っ手は掛かって無いと思うが念の為、やることが無かったから、やるっきゃ無いよな。
律子はミシンと布とで何をこしらえて居たが、まあ時々は仲間に加わってくれた。
それだけじゃあと俺と律子は髪を染めた、こっちの住人に馴染む茶髪って奴だ、瞳の色も変えた方が良いんだろうけどカラーコンタクトはコンビニには無かった。
「そんじゃあそろそろ出かけますか」
「ドナ子は連れて行かんのか」
「歩きで十分、店を冷やかすだけだしな」
メモ帳とボールペンだけ持って街の中心部に移動する、こっちで買った服に着替えて居るので違和感は少ないだろう。
最初に立ち寄った場所は塩を扱っている店で、岩塩の量り売りを行っていた。1キロで銀貨1枚程度の価格で、多少の価格変動は有る物の安定した値段のようだ。俺が500グラムの塩を銀貨1枚で販売したのは割高だったかも知れないな、だけど値段を言って来たのは村長だったし、運搬賃が上乗せされたと考えて起きたい。
「ちょっと良いかい」
「どうしたんだい」
塩屋で俺の塩を鑑定してもらうつもりで、1キロの塩をプラスチックの入れ物に入れ、男の前に出した。
「ガラスじゃ無いのか、軽いし持ち運びにも便利そうだ、この入れ物を売りたいって事かな」
「中身の塩の方を見て貰いたいんだよ、岩塩とは別物みたいでな、1キロ銀貨2枚で買ったんだが塩屋から見てどう思うか聞きたかったんだよ」
「舐めて見ていいかい」
「勿論」
容器から塩を取り出し1舐めして、ウーンと言う声を出してしばらく考えて居る。
「雑味が無い良い塩だと思う、岩塩を削るとどうしても混ぜものが残るんだけど、それも無さそうだ。海で取れた塩も扱ってるんだが、海塩には苦味が残る、見た目は海塩の方が良いんだがな。うちでこの塩を扱うなら銀貨2枚よりは高くなりそうだ、何処で買ったのか教えて貰っても良いかい」
あの寒村で売った金額は適正額のようだ、1キロで銀貨3枚くらいの値段を付けても問題なさそうだが、やはり国に目を付けられない程度にして置くべきだな。
「砂漠の近くだよ」
「南の国か、あの辺りはアラビン王国の土地だろ、俺じゃあ買付には行けないな。兄さんもしもまた砂漠に行くような事が有ったら、買い付けて来てくれないか。この塩と同じ品質だったら、1キロで銀貨2枚と銅貨50枚ならどれだけの量でも買うからさ」
運搬費を考えると微妙な値付けだな、こいつがいくらで売りさばく算段をしているのか知らないが、俺が本当に銀貨2枚で購入していたらかなりまとまった量を運ばないと利益が出ないだろう。
「塩を運んでいるとこ見つかっても大丈夫なのか」
「一樽くらいなら目こぼしされるさ、それ以上だと何か言われるかもな」
樽と言われてもどのくらい入る物なのか解らない、この塩売りから安く樽を手に入れてみるか、危ない目に合いそうな事を提案してきたし良心は傷まない。
「樽って言われてもな、俺達そんなもん持ってないぜ」
「仕入れに行ってくれるなら、うちの樽を安く譲るよ、塩を運んできた樽なんだけどそんなに傷んで居ないから一樽銅貨30枚でどうだ」
現物を見せてもらうと若干色が黒ずんでいる、塩を入れて居た影響で樽が変色しているようだが、まだまだ塩を入れて運んでも大丈夫そうだ。
「この樽でどのくらいの塩が運べるんだ」
一樽で180キロから200キロの塩が運べるようだ、そもそも樽がどのくらいの値段で買える物かは不明だったが、塩屋の在庫で有る樽を10個つまり銀貨3枚で購入した。
「まいど、兄さんどうやって運ぶつもりだ」
「牛車を持って夕方取りに来るから、店先にでも置いといてよ」
「そのくらいの手間なら良いぜ」
塩の値段を確認した後は、八百屋と肉屋でそれぞれの価格を確認する、塩に比べると野菜類はかなり安い、それに比べて肉は割高のように思えた。
魔物が跋扈する世界だから、肉なんて取りたい放題かと思ったのだがそんな事は無さそうだ。
「なあエリス、大人が一日働いたらどのくらい稼ぐるもんなんだ」
「日雇いだと銅貨30枚程だろうな、一人前の職人が日に銀貨1枚稼ぐと言う話を聞いたが、私には無縁の世界だ」
エリスが王都でバイトしていたのが、日給銅貨30枚程度と言う事らしい、エリスならもっと稼ぎようが有るように思えるのだが、治安の良い王都ではなかなか腕一本で稼ぐ事は出来なかったようだ。
「宿屋って一泊いくらだ」
「私が泊まり歩いていた宿だと銅貨10枚程だか、普通の宿なら銅貨50枚は取られるぞ」
宿に連泊するなんて事があり得ない事なのだが、1月泊まり続けて居れば安宿でも銀貨3枚、普通の宿なら銀貨15枚は必要になるって事だな。
「高いなそれ」
「普通の平民は旅なんかしないからな」
それもそうか、こんな物騒な世界で旅行なんて命がけだもんだ、普通じゃない俺達みたいな人間じゃ無いと当ての無い旅なんかしないわな。
「小腹が空いたし飯でも食べに行くか」
「ナツメのご飯が良いのだが」
エリスはコンビニ飯が良いと言うが、俺と律子は少々飽きが来ていた、決してコンビニ飯が不味い訳じゃないが、せっかく異世界に来ているんだ、多少は冒険したっていいじゃない。
「じゃああそこの小ましな店に寄るか」
「どこで判断してんの?」
「店構えと客入りだな、だがどこの飯屋でもそう変わらんぞ」
エリスの勧める飯屋で昼食を頼む、ランチメニューは三種類しかなく、3人居るので三種類共頼んでみた。
前金制で銅貨3枚、5枚、7枚と値段が違う、ほぼ7割は銅貨3枚のランチを頼み2割が5枚で、7枚のランチを頼のむ客は少ないらしい。
最初にやって来たのは銅貨3枚のランチ、パンとほんの少し肉が入った野菜炒め野菜のスープ。
「味は・・・薄いな」
「うむ、王都で同じような飯を頼むと銅貨5枚は必要になりそうだ」
3人共一口ずつ野菜炒めとスープを口にした、パンは正直言って食べたく無い、酸っぱいのだ酸味がキツイと言ったら良いのか、そのうえ硬い薄切りにしてスープに付けるかバターかラードを塗りたくりたい。
「有りか無しかで言うと、無しだな」
「だから私はナツメの飯で良いと言った」
「御免なさい私も無理そう」
3人一致で銅貨3枚のランチは却下された。
次に運ばれて来たのは銅貨5枚のランチ、パンは同じ物のようで野菜炒めに肉が増えて居る、スープにもベーコンが浮いていた。それにオリーブオイルのような油が着いて来たので、これをパンに掛けると意外と食えた。
「肉が多い分味は若干濃いか、それでも薄いっちゃ薄いけど」
「値段の割に随分旨いな、これなら食えなくは無い王都なら銅貨7、8枚の価値は有る」
「御免なさい、無しの方向で」
俺も積極的に食べたい訳では無いが、コンビニが使えなかったらこのランクの飯なら我慢出来る、肉の旨味が有るので薄味にも耐えられる。
結局500魔素で買えるコンビニのおかずの方が遥かに旨いんだが。
最後に運ばれて来たのは銅貨7枚のランチ、パンはスライスされて居て、オイルとバターが付いて居た。
主菜は肉炒めで、他の物と比べると明らかに野菜の割合が少ない、スープにはベーコンの他に玉子が入っているらしい。それに加えてフルーツを剥いた物が付いて来た、リンゴのように見えるが食ってみないことには味は解らない。
「肉は旨いな、スープの方は普通か、パンはどれも同じ物を使っているみたいだけど、バターとオイルは偉大だな」
銅貨7枚にしてやっとコンビニ飯と同等ランクの飯にありつけた、銅貨7枚は魔素換算で7000魔素なので、コスト的には比較の俎上にもあがらんが。
「リンゴっちゅーか梨かこれ、思ったよりも甘くない」
「銅貨7枚でこの味か、バイカルの街は裕福なのかも知れんな。私はこの味なら問題は無いが、やはりナツメの飯の方が好みだ。王都でならどんなに安くても銅貨10枚は必要になりそうだ」
銅貨10枚って安宿と同じ金額かよ、毎日食えるような金額じゃ無さそうだな。
「油がきつすぎて、出来るなら避けたいわ」
年齢的に律子にはここの料理事態が合わないようだ、俺もこの料理を毎日食えと言われたら辟易となるか。
「この梨夏目君が冷蔵庫に入れて居た物と同じ物みたいですね、冷やしたら美味しかったですよ」
ああ、あの途中の村で買った果物か、そう言えば食べたような気がするが、もう少し旨かったように思う。
飯を食い終わって、木製の皿を下げに来た店員にお勧めの宿を尋ねて見た。
「木の葉亭かな、うちの街だとまともな宿屋は3軒で、その内1軒はお貴族様が泊まるような場所でお客さんが泊まるのは難しそう。もう1軒の清流亭はお客さんが泊まるには店の格が足りないと思うよ」
「その木の葉亭って一泊いくら?」
「さあ私は泊まった事が無いから値段までは知らないけど、銅貨で40枚くらいなんじゃないかな。清流亭だと一泊で銀貨数枚が飛んでいくって話だし」
銅貨1枚が100円くらいの価値で間違い無さそうか、だからどうしたって感じだが、金銭間隔を掴む上でそのくらいを目安にすればいいかと言うだけだ。となると金貨1枚は100万円相当か、ゴブリン倒して金貨が出た事もある、ゴブリン退治は思ったよりも美味しい仕事なのかも知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます