第11話「異国の街」

 2日程律子の看病をしながらエリスとエロエロしていると、律子のステータスからデバフが完全に消えた、じゃあみんな揃って牛車に乗って移動しますかと日課を終えた後外に出た。


「街に到着したら1番に服を揃えないと駄目ね」


 律子が着ている服は、ロッカーに掛かっていた律子の私服でボディラインの出ているワンピースだ、転移前は春だったが、この辺りの気候は既に夏、生地が厚いしこの季節に着るような服では無い。


「その前にゴブリンを探してくれよな、じゃないと言葉が通じなくて不便過ぎるでしょ」

「ええ」


 あまり乗り気では無いようだ、それはそうだろう、俺だって初めて死体を漁った時には盛大にリバースしてしまった、今だに慣れないのを我慢して居るだけだ。


「ナツメ、この荷馬車は何か変じゃないか」

「俺荷馬車なんて乗るの初めてだから、分からんけど」


 荷馬車なのか牛車なのかは知らないが、ドナ子に繋いでいる荷車には御者台があり、後ろには荷物が乗せられる用に成っている。荷台には幌が、御者台には屋根が付いてあるから多少の雨くらいで、濡れる心配は無いだろう。今は御者台に3人が座ってゴブリンのような魔物を探しながら、街道を移動している。


俺が比較出来るのは両親が乗っている車くらいの物だ、残念ながらこの荷馬車の乗り心地は良いものでは無いが、我慢出来ないという程でも無い。


「律子ちゃんて免許持ってるんでしょ、この馬車ってなんか変?」

「私も馬車と言うか牛車に乗るのは初めてよ、観光用の馬車にさえ乗った事は無いわ」


 現代人だったら当たり前だよな、免許と言えば誕生日が着たらバイクの免許を取るつもりだったのに、俺って一生バイクや車を運転出来ないで死んで行くんだろうか。


「エリスは馬とか乗れる感じか」

「そんな訳が無かろう、うちみたいな貧乏騎士崩れの家に馬に乗れる甲斐性なんて無い」

「馬って高いのか」

「馬も高いが維持費がそれ以上だ、特に私が住んでいた王都で馬を飼おうなんて、飼葉がどれだけ必要になるか想像もできん」


 馬って草を食ってるイメージだったんだが、それじゃあ足りないらしい、王都なんて言うくらいだから道路も舗装してあって、馬が食う干し草は農家から仕入れるんだと言うことだ。


「俺なら馬でも飼えるって事か、今の所はドナ子で十分満足してるけどな」


 牛に揺られてポクポクと進んでいく、やばい、揺れが1/fゆらぎの如く俺を睡魔に誘う、そもそも手綱を握って無くて寝ても問題無さそうだが、ドナ子と会話らしきものが成立するのは俺だけだ、俺が寝たら誰もドナ子を制御出来ない。


「エリスは・・・寝てるんかい」


 何か有ったら起こしてもらおうとエリスに頼むつもりで声を掛けたら、俺より一足先に眠っていた。


「律子ちゃん起きてる」

「当たり前でしょ、ゴブリン探しで目を皿のようにしているわよ」


 ゴブリンの事を完全に忘れて居た、これじゃあ起こしてくれなんて切り出せないよな、仕方ない眠い目を擦ってでも起きて置くか。


「そういやさ、律子ちゃんて弓術のスキル持ってるじゃない、アレってどうやって手に入れたの?」

「スキルね、学生時代にアーチェリーはやってたけどその所為かしら」


 そんな事でスキルが手に入るのか、俺も通信制の空手を3ヶ月やって居たんだが、そんなスキル手に入らなかったぞ。


「成績の方は」

「インターハイで3位ね、それで大学に入ったような物だし、もう一つ言っておくと伏見高校のOGでも有るから、学校のトロフィー置き場に私の盾と賞状も有るわよ」


 結構な成績を残して居たようで、通信空手と比べた自分が恥ずかしい。眠気覚ましに雑談を行っていたけど、話が尽きてしばらく無言で馬車に揺られて居た。


「結局起きてるの俺だけかよ」


 ゴブリンを探していた律子も今や完全に眠っている、エリスは御者台から落ちそうになっていたので、荷台で横にさせている、律子も場所を移した方が良さそうだ。

快適過ぎるのも問題があるな、そろそろドナ子を休憩させてやった方が良いか、俺もトイレに行きたく成ってきた。。

 ドナ子に止まれと合図を出そうとした時、荷台で寝ていたエリスが飛び起き警戒を発してきた。


「ナツメ、敵だ」


 寝ていた律子を叩き起こすと俺は槍を持って周囲を警戒する、何処に敵が居るのか解らない、最大戦力のドナ子が荷台に繋がっているので自分で対処せねば死が待っている。


「何処に居る」

「森の中だ、気配を感じる、おそらく野盗の類だ」


 指刺された方向を見てもまだ解らない、が何か動く物が居る事はたしかだ、枝が不自然に揺れて居る。


「夏目君どうしたの」

「野盗らしい、戦える自信は」

「やらないとやられるのね、弓と矢を貸して貰えるかしら、牽制くらいしか出来ないと思うけど」


 俺は御者台に念の為置いておいた弓と矢を律子に渡し、俺自信は手にした槍を握りしめる。


「ドナ子を止めた方が良いか」

「向こうも気づいているぞ、安全策を取るなら部屋を呼んだ方が良いが、相手は人間だ、余計な情報は与えない方が良いな」


 確かに、トイレに逃げて延々出待ちでもされた日にはお陀仏だ、俺達なら10や1月保健室に隠れ続ける事は可能だけどな。


「人数は判るか」

「おそらく少数だ、2人ないし3人、それ以上の気配は感じない」


 気配を感じちゃう系女子だったか、危ない危ない、万全の体調だったら俺の方がエリスにやられて居たな、エロい方向じゃ無くて命が取られる系で。


「襲って来るかな」

「当然だろ、私が先制するからナツメは後ろから付いて来い、援護を頼むぞ」

「律子ちゃん、俺達突貫するから援護をして欲しいけど、フレンドリーファイアは勘弁だから自信が無いなら撃たないでって」


 どういうタイミングだったのかは解らないがエリスが馬車から降りて駆け出した、俺もエリスの後を追って馬車から飛び降りる。幸いと言って良いんだろうか、野盗達は飛び道具を持っていなかったようで、遠距離攻撃が無い。エリスの姿が俺の5m程先を疾走している、早い早すぎるよエリスさん。


野盗達も隠れて居たままだと戦い辛いと判断したのか、森の中から出てきた、人数は3人小汚い中年男で臭そうだ。


「うそーん」


 3人が森から飛び出してから、僅か30秒にも満たない内に、3人の喉元に矢が生えて居た。

周囲を警戒しつつ後ろを確認すると、弓を構えたままの律子と目が合った。


「すまないナツメ、まだ森の中から気配を感じる、ドナ子を止まらせてくれ」


 まだ居るのかよ近づいて来ていたドナ子を停止させて、少しばかり森に入って様子を伺う。もちろん先頭はエリスで俺は後ろから着いて行くだけ、律子には御者台の上で弓を構え待機して貰っている。


「どうやら仕事帰りだったらしい、矢は使いはたして居たのかもな」


 森の直ぐ奥に、口元に猿轡をされ手足までも縛られた男が1人に、女が2人転がされて居る。近くには彼、彼女等の荷物らしきものも積まれて居る、男の方はこのまま転がして置いても良いか。


「こういう時どうすれば良いんだ」

「野盗の荷物は討伐した私達の物だな、じゃあこの荷物を馬車の中に運んじゃおうか」

「そうするか」

「ウーウーウー」


 男の方が懇願するような目つきでこちらを見ている、野盗と俺達って大差無いだろうと思うのだが、一縷の望みに掛けたい気持ちは判る。


「ちなみに捕まっていた奴隷なんかはどうなるんだ」

「正規の奴隷なら所有権を主張出来るだろうな、囚われて居た商人や旅人なら相応の礼を払って助けて貰う事が普通だろう」

「お助け賃って奴か」

「そうだ、助けて貰って礼をしないような不届き者は森の中で土に還って行くのだろうな」


 俺とエリスで十分な脅しを聞かせてから、俺達は荷物を荷馬車の中に運んでいった、転がされた3人の猿轡を解いたのは1番最後だ。

 

「それでお前らは奴隷か、それとも野盗の仲間か」

「私はバイカルの街で商人を営むサンドと申します」


 商人然としているが本当に商人かと疑いたくなる、積んであった荷物に統一性が無かった、少なくともこの男の荷物では無いだろう。


「エリス護衛も付けないで商人が街を離れるもんなのか」

「そんな間抜けは襲ってくれと言っているようなもんだな」

「護衛は居ましたよ、もちろんお二方にはお礼を差し上げますので、助けては頂けないでしょうか」

「礼とは何だ」

「私の荷物の中から相応の物を差し上げます」


 野盗達が溜め込んでいた荷物を拝借しようとしている訳か、見かけ通り信用出来ない奴らしい。


「荷物なんか持ってないじゃん」

「お二方が荷馬車に積みこまれて居たでは無いですか」

「アレは野盗の荷物だ、当然の権利としてあの荷物は私達に物だな」

「そもそもお前の荷物じゃないだろ、欲深い商人はやっぱり森の中に放置される運命に有るようだ」


 俺が猿轡を再び商人の口に巻いて居ると本気で首を降って抵抗してきた、もちろん俺も本気で猿轡を噛ましている訳だが。


「そっちの2人はこの商人の仲間か」

「違いますよ、乗合馬車で乗り合わせたたたの客です、馬車の方は野盗にやられちゃいましたけどね。場所の護衛は2人が死んで残りの3人は何処かに逃げ出しちまいましたけどね」


 自称乗り合い馬車の客だったか、護衛を連れて移動する馬車なんてどれだけの経費がかかるのか、それなりに裕福では無いと旅は出来ないらしい。


「それで2人の身分は」

「私はオークランドで農家の嫁をしているカーリンです、横に居るのは娘のメラニー、里帰りの旅だったんですが飛んだ目に会いましたよ。持ち合わせは盗賊達に取られました、ですがバイカルの街に入れば実家からお礼を差し上げる事は可能ですよ」


 でだ具体的にどの程度の礼金を貰うかって話なのだが、エリスとカーリンとの話合いの結果、1人金貨1枚、つまり2人で金貨2枚の礼を払うと言う事でまとまった。


「それじゃあ行こうか」


 手足を縛って居た縄を解き、2人の手を取って歩き初めた時、地面で芋虫が泣きながら何かを訴えて来ていた。


「放置なされるのですか」

「人の荷物を口先三寸で盗もうとした芋虫なんで、良いんじゃないかな」

「馬鹿な男ですが顔見知りなので、助けてやっては貰えませんか。サンドの店なら金貨5枚くらいは礼を出せます、もし払わなければ私の実家が責任を持って取り立てますので」

 

 偶々乗り合わせた見知らぬ男だったのでは無いのか、この女と商人どうもイマイチ信じられない。


「実家って?」

「一応バイカルの街で領主様に使える騎士をしております」


 野盗達も危ない橋を渡って居たらしい、騎士の家族を攫うって、殺してくれと言っているようなもんじゃないのか。


「エリスどうする」

「仕方ない男の方も助けてやるぞ、騎士の身内が身分を明かして保証してくれたんだ、その男が礼をしないなんて無礼な真似はしないだろう」


 エリスが言うならと、短剣を使って男のロープも切ってやった、男は口が自由になると恨みがましくこちらを睨みつけ、慇懃無礼に礼を言って来た。


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