第10話「セカンドキャリア」

「おはよう夏目君、早速だけど私をトイレに連れてって」


 ベットに入ってから、そろそろ夕飯かと言う時刻に律子が置きて来て、開口一番トイレに連れてけと言い出した。


「まだ体調が戻らないのよ、腰も痛いし、腰が痛いのは君の所為かも知れないけど」

「トイレくらいは連れてくよ、窓から出入りするのいい加減どうにかならない物かね、律子ちゃんなんかアイデア無い?」

「まだ何も考えられそうに無いわね」


 律子が回復するまでしばらくここで過ごしていた方が良いか、それとも律子だけを保健室に残して移動した方が良いのか、俺が居なくてもこのトイレと中庭と保健室が機能している事は、エリスによって既に証明されているからな。

 俺は律子を横抱きにして、トイレの前へと移動すると窓からトイレに降ろしてやった。


「直ぐ終わるからちょっと待ってって」


 律子は個室に入っていったので、今日の夕食何を食べようかと選んでいた。エリスは何が楽しいのか、自転車を乗り回している、初めて自転車に乗れた頃ってあんなんだっけかな、何時乗れるように成ったのかさえ覚えて居ない。

久しぶりにカレーでも食うか、そうなると米を炊かなければ駄目だな、冷たいご飯にカレーを掛けたら悲しくなる。


「おまたせ、ねえスマホを見つめて何をしてるの」

「夕飯何食べようかって迷ってたの、コンビニって言ってるけど、救済システムを通して買ってるからさ商品を選ぶのもスマホなの」

「夕飯も軽い物が良いけど何か良さそうな物有る?」


 律子を抱きかかえてトイレから中庭に移動させてやると、歩いて保健室に移動していく。スマホを覗いて良さげな物を見ていると、雑炊、豆腐、鍋焼きうどんが目に入った。


「うどんと雑炊と豆腐って所かな」

「昼にお粥を食べたから夕飯はうどんが良いわね、うどんなんてもう3ヶ月も食べて居ない物」


 うどんか、カレーうどんも良いかも知れない、うどんの麺だけ売ってるのかと検索すると、5個500魔素で冷凍麺が売られて居た。鍋焼きうどんと、レトルトカレー、それに冷凍麺を購入する、自転車で遊んでいるエリスを呼んで飯は何が良いかと聞くと、何でも良いと言う答えが帰ってきた。それならジャンクに行くかとスナックコーナーで揚げ物一式を購入して、バケットも購入した。


ガスレンジ一つだと3人の食事を作るには足りないって事が判った、なら調理室の開放って話になるのだが、50万魔素は今直ぐには無理、どこかの村で交易しないと手に入る金額では無い。


「おうどんが美味しいわ、でも出来れば自分で汁は作りたいかしら」

「キッチンが揃ったらって事にしといてよ、今直ぐには無理だって」

「旨いな、こんなに旨い物母にも食べさせてやりたかった」


 飯食いながら涙ぐむなよ、律子が怪訝な顔で俺達を見てるじゃないか、主に俺の方を見て泣かせるなって表情だ。言葉の壁はデカイなやっぱり、早い内に律子にも追い剥ぎをやらせ、言語系のスキルを取得させた方が良さそうだ。

三者三様で食事を終えた、律子もうどんだけじゃあ口寂しいだろうと、ちょっとお高めのプリンを買って出してやった。当然エリスの分も購入して配るのだが、一つじゃ足りないと駄々をコネ始めた。


「どうして駄目だなんだ、魔素は足りているのであろう、ならばケチケチせずともよいでは無いか」

「これちょっと高級品だし、甘いから沢山食べるのはどうかと思うんだが」

「魔石で1つで釣りが来るのであろう」


 残念ながらこのプリン、一つ1000魔素もするプリンで、俺だって日本に居た頃は食べた事も無い商品だった。


「それ一つで1魔石だな」

「銅貨1枚か、確かに安いとは言えんが、それでもコレを王都で購おうとするなら金貨が必要になるのでは無いか」


 おそらくその程度の価値は有るのだろう、俺達が王都に行くような事は無いだろうけどな。


「判った判った、もうひとつだけだぞ、なんかエリスの旦那って言うよりはお父さんって感じだな」


 もう一つプリンを購入してエリスに渡してやると、嬉しそうに食べ始めた、母親の件はもうお終いなのだろうか、現金な奴だな。


「父は甲斐性無しだったからナツメとは大違いだぞ」


 そう云う事を言いたかったんじゃないのだが、まあ良いか、律子が食べ終わった事を確認して食器類を片付ける、洗面所で食器洗うのも何気に洗いにくいんだよな。


「夏目君片付けまでさせちゃってゴメンね」

「そのくらいはな、元気に成ったら手料理食べさせてくれれば良いから、それよりも健康状態はどんな感じよ、スマホから確認出来るからやってみ」


 律子の後ろからスマホの画面を確認し、救済システムの使い方を教えていった。 状態異常の内、衛生不良は消えて居た、隅々まで手洗いしてやった俺のお陰だろうと、律子に伝えて胸を揉んだ。


「そう云う事は私が元気になってからね」


 簡単に嗜めれれてしまったな、今だに残っている状態異常は、飢餓(中)、脱水症状(弱)の2つだ、飯は食ってるし水分も取っているから治るとは思うのだが、要観察と言った所か。


「飢餓ってこれ以上食べられないんだけど、胃が小さく成っているのかしら」

「3ヶ月もこっちで暮らしてたんだろ、何食って飢えをしのいで居たわけ?」

「最初は支給品のブロック栄養食、それが尽きたのは1月前程かしら、その後は森の中で色々とね。こちらの原住民と接触は有ったけど、言葉の壁が大きすぎたわね。それでも怪我の簡単な治療なんかの報酬で、果物や硬いパンなんかを貰ったわ。お礼にお金も貰ったんだけど、使いみちって有るのかしら」


 金よりは食べ物や飲み物が欲しい所だが、ゼスチャーだけでは伝わらないって物が有るよな。


「お金ねえ、街に行けば使えるかも知れないけど、どのくらい有る訳?」

「自転車の籠の中に入っているわ、好きに使って貰っても構わないんだけど。それよりも今何時なのかしら、全然外が暗くならないんで、時間の感覚が解らないわ」


 明かりの話を伝えて居なかったな、報酬で得た懐中時計の事も有るし、今の内に伝えておくか。


「ここは24時間今くらいの明るさと気温なんだ、だから外の世界とは時間は連動してない。ちなみに時間はスマホに刻まれている時刻が正解、つまり今は夜の21時過ぎって事になる。遮光カーテンを張って寝てるけど、そこは諦めて貰う他無いな」

「夏目君が作った空間ってそう云う意味なの、今なら電気が点いてても眠れそうだから問題は無いわ」


 スマホを机の上に置くと、ベットの方へ歩いて行く、まだ話して置きたい事が有るのだが、明日にした方が良いが懐中時計の事だけ許可を取っておこう。


「ミッションの報酬に懐中時計が有ったんだけど、それをエリスにやっても良いかな」

「もちろん構わないわよ、じゃあお休み」


 俺の話を聞いているのか、どうなのか、律子はベットに潜り込むと眠ってしまった。



「エリスは時計って知ってるか」

「もちろん知ってるぞ、王都には巨大な時計台が有って時を知らせる鐘が成っているからな」

「じゃあ時計の文字盤で時間を知る事も出来るんだよな」

「大体はな、それが一体どうしたと言うのだ」


 大体しか読めないのか、デジタル時計は数字が読めないからアナログ式の時計しか無意味だろう、渡してみて様子を伺うか。


「ここって一日中明るいだろ、だからさ律子からエリスにプレゼントだ」


 そう言ってエリスに懐中時計を手渡すと、何これと言う表情をしたので、蓋の開け方を教えるとえらく感動している。


「こんな高価な物を私にか、第二夫人で有る律子に何を返せば良いのだろうか」「高いのか」

「うむ、このような小さな時計は美術品と言っても差し支えない、大身の貴族か大商人しか持ち合わせて居ない品だな」


 おう、意外と価値が有った、エリスが時計を使いこなせなかったら売ってしまっても良さそうだが、エリスの喜ぶ姿を見てしまったのでそれも難しいか。


「そっか、律子には優しくしてやってくれ、あいつも一人で放り出された口だしな」

「そうなのか、判った、私が姉として律子を守ってやろう」


 この世界の常識で言えば、姉妹と言うよりは親子程年が離れて居る、見た目は確かにエリスの方がお姉さん然としている、だが肌の艶や目元のシワを比べれば一目瞭然、律子がババアだと言う事が知れてしまう。

エリスと2人で遮光カーテンを締めて部屋の中を暗くしてからベットに入った、当然2人一緒のベットなので律子に気を使う事無く、思いっきり夜の夫婦生活を楽しんだ。


「夏目君おはよう、朝からゴメンナサイ、トイレに連れてって下さい」

「ウィ」


 律子を抱きかかえてトイレへと連れて行く。


「体調の方はどんなもんよ」

「大分と良いわ、もう少しで普通に歩けるようになると思う、今はまだもう少し身体に力が入ら無いだけど」


 律子をトイレまで送り届けて律子のスマホを確認する、トイレの前の中庭でログインしたのは失敗だった、こんな場所でグラノーラと牛乳を出されても困ってしまう。

 ステータスを確認した結果、飢餓は弱まで落ちていた、脱水症状は表示から消えて降り、1日2日安静にしていれば健康体になれそうな感じだな。

個室から出て来た律子がグラノーラと牛乳瓶を目にして、疑問を投げかけて来た。


「昨日も見かけた気がするけど、そんな物こんな所まで持って来て貰っても、気が早く無いかしら」

「ええっと、これは何て説明したら良いかな、律子ちゃんログインボーナスって判る?」

「もちろん、ショップの会員サイトにログインしたら毎日ポイントが貰えるって所が有ったわ」


 ポインと加算か、そう云うゲームも有った気がするな。


「救済システムにログインすると、毎日1回ボーナスとして食べ物が貰える見たいなんだよ、俺の場合はコンビニおにぎり3個とペットボトルのお茶なんだけど、律子ちゃんはグラノーラと牛乳みたい」

「スマホさえ持ち歩いて居れば、あんな苦労は無かったって事なのね」

「でも今朝はグラノーラって感じじゃ無いわね、炊きたての御飯を食べたい」


 トイレから出てきた律子を保健室まで連れて行き、律子の指示に従って米を炊く、前に俺作ったご飯は炊き方が悪かったらしい、米を洗って水を変えるなんて知らなかったし。


「味噌汁と卵焼きくらいは食べたいよな」

「そうね、フライパンと鍋って有るのかしら」

「フライパンなら有るし、鍋もレトルト食品温める用の奴なら有るぞ」

「じゃあ作ろうかしら、味噌と、出汁の味と、ネギと、豆腐と油揚げ、後は卵とサラダ油をお願い出来る?」


 言われた物は全部揃える、一応3人分作ってくれるようだが、エリスに和食は大丈夫だろうか。風呂掃除をしていてくれたエリスが戻ってきたので確認してみた。


「私に好き嫌いは無いぞ、多少腐った物でも平気だ」


 それ絶対駄目だろと思いながらも、まあいっかと考え、食器並べを手伝いながら朝食の準備を行い、3人揃って同じ物を食べた。


「米ってのは味が無いんだな」

「そうか、噛んでると甘みを感じると思うんだが」


 西洋人には米の甘さが解らないとかなんとか、そんな話を聞いて覚えがあるので、エリスも同じようなもんだろう。しかし俺が炊いた米と違い、律子が炊いた米は丁度良い硬さのご飯になっていた。


「玉子焼きに甘みを付けて見たけど大丈夫だった」

「俺は平気だよ、エリスにも聞いてみるわ」


 やはり面倒だな、近場にゴブリンが居れば俺が狩って、律子に漁らせよう早急に。


「玉子の味は平気か」

「これか、うむ、旨いな、もっと甘くても良いと思うぞ」


 味付けに付いては問題無さそうだ、味噌汁も旨い旨い言いながら食ってる、俺も味噌汁を一口すすってみた、インスタントの味噌汁とは雲泥の差だな。食事の後は日課のクエストを行って、部屋の中でエリスとイチャイチャしていた。



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