第8話「同郷」

 村から十分離れた所でスマホを確認する、ミッション『初めての交易』が終了していた、報酬は荷馬車で飼育小屋に併設して置かれているようだ、施設系報酬と言う事になるのだろうか。試し乗りはトイレを召喚した後にして、ドナ子に乗りながら軽い食事を取る事にした。


「エリス食べすぎだよ」

「何を言うんだナツメ、こんなに旨いんだぞ、10や20でケチくさい事を言わなくても良いだろう」


 魔素に余裕が出来たので、エリスにご褒美代わりにコンビニスイーツを与えた、特にシュークリームがお気に入りで比喩では無く本当に20食べて居る。


「魔素の無駄使いって事じゃ無くてさ、甘い物は身体に悪いんだ、だから食べ過ぎると良くないって事を言ってんだよ」

「私は今日まで、粗食に耐えて来た。これはそんな私に、神が与えてくれた褒美に違い無い、だから沢山食べても許される筈だ」

「神じゃ無くて俺が渡したように思うんだが」

「うむナツメは神の使いに違いないな」


 やっすい使いも居たもんだなな全く、あのシュークリーム10個で2000魔素だ、100個でも200個でも安い物なのだが、本当に大丈夫だろうか念入りに歯磨きをさせよう。


「なあ、あの赤い布は何の目印なんだ」


バイカルに向かう街道沿いの樹の枝に、赤い布が巻かれている、黄色い布が行商人を求めているなら、あの赤い布にも何か意味が有りそうだ。


「呪い師か医者か神官を求める目印だ、無視して通り過ぎる事だ。関わり合いになると事だぞ」


エリスの言うことに従って無視して進んでいく、ドナ子の移動速度は原付き並の速度が出る、後ろから追いかけて来たとしてもそう簡単には追いつけないだろう。


「ま・・・・・・・・・・・・って」


・・・


「バイカルの街で塩を使って荒稼ぎするか」

「目立つ事は辞めておけ、少量の塩なら見逃されるだろうが、大量に持ち込んだら領主には目を着けられるし、塩商人からは暗殺者が送られて来る事になるぞ」


 塩のカルテルでも結ばれて居るのか、昔の日本でも塩は専売公社って所で売ってたらしい、なんでもタバコ屋で塩を買ったんだとか。


「王国で塩を売ってるって事なのか」

「岩塩の採掘場は王家が管理している、利益の大半は王家に入ってるって話だ」

「出処の怪しい塩は駄目って事か」

「ナツメの塩は明らかに違うからな」


 俺が知ってる限りでは岩塩の方がお高い、コンビニなんかで岩塩を見た事が無い。


「ちょっと・・・待って・・・よ」


「楽して稼ぎたいもんだよな」

「確かにな、額に汗をかいても得られる報酬は少ない、私はナツメの嫁に成れて幸せ物だ」

「話を聞きなさいよ」


 空耳で有って欲しかったが、追いついてしまったようだ、無視して進んで行って良かったのだがエリスが驚いた表情で女を指差してしまった。


「変な乗り物に乗った女が追いかけて来てるぞ、停まってやらないのか」


 てっきりエリスも自転車の事は無視して居たのだと考えていたのだが、どうも本当に気づかず俺と会話を続けて居たようだ。


「停まらないと駄目か」

「女子供を蔑ろにする奴にはロクで無ししか居ない、ナツメはそんな人間になりたいのか。話くらいは聞いてやれ」


 嫌だなと思いながら、ドナ子に止まるようお願いした。


「何か用ですかね、急ぎなので手短にお願いします」


 自転車の女は肩で息をしているので、まだ話せる状態では無い。この世界で自転車なんて物が普及しているとは考えにくいので、俺と同じ用に飛ばされて来た人間だと思える。


「息・・・整う・・・待って」


 息が整うまで待ってと言ったんだろう、エリスの手前あまり手荒な真似も、おざなりに扱う事も出来ないからな、話くらいは聞いてやるとするか。10分程待っていると、女の息は整ったようで、改めて話掛けてきた。


「ねえ。あなたうちの生徒でしょ」


 教員か、やっぱり俺だけでは無くこちらに飛ばされて居る人間が学内にも居たのか。それはそうだよな、俺だけが特別だなんて思える程中2病には染まっていない、これが1年前だと危なかったが。


「違いますよ、じゃあこれで」

「待って待って、あなたが着ているジャージ、保健室に置いて有った着替えよね。こんな事態だから返せなんて言わないから、もう少し私の話を聞いて貰えるかしら」

「なあそナツメとそこの女は何語を話しているんだ、聞いた事も無いような言葉なのだが」


 俺のスキルは自動翻訳だったのか、この女と俺の会話内容がエリスには全く判って居ないらしい、これなら会話を聞かれて居ても良いのだが出来れば席を外してほしかった。


「日本語だよ、どうも同郷の女だったらしい、俺はドナ子から降りて話を聞くけどエリスはどうする」

「じゃあドナ子の世話をしてるからトイレを呼んでくれ」

「了解了解、それじゃあ風呂に湯船を張っておいてくれ、この女を中に入れるかはまだ解らないけど、一応な」

「判った」


 トイレを召喚してドナ子を飼育小屋に、エリスはドアを開けて中に入れてやった、驚いた表情の女が扉に飛び込んでこないよう警戒しながらドアを締めると、トイレが消えた。


「ねえ今のって職員用のトイレよね」

「違うな、俺のスキルで作り出したトイレだ」


 所有権や使用権を主張されても困るので、予め俺の物だと宣言しておいた。


「そんなスキルも有ったの」

「それよりもさ、名前くらい名乗ってくれてもバチは当たらないんじゃないの。こっちは態々時間を割いている訳だしさ」


 かなり高飛車な態度で接している、小汚いオバサンなんで手を出そなんて思って居ないが、エリスと比べるとその豊満な胸には惹かれる物が有る。


「私は養護教諭の山口律子よ」

「えっ?」


 この人があの律子ちゃん、京都で彼氏と全裸写真を撮って、大量のコンドームをカバンに忍ばせて居た。想像してたより10倍くらい残念が感じに仕上がっていた。


「私の事知ってるのよね」

「さあどうだったかな。それよりも俺達を呼び止めたのって何か用が有ったからなんだろう、用件は何だったんだい」


 めちゃめちゃ態度に出ていたな、律子ちゃんの写真と下着と白衣にもお世話に成っていた、今目の前に居るオバサンがあの律子ちゃんだとは思いたくないのだが、よく見ると確かにあの写真の人物に似ている。


「帰る方法を知ってるのなら教えて欲しかったのよ、それに同じ境遇の日本人なら助け合えるかと思って」

「帰る方法って、俺達日本に帰れるのか」

「解らない、解らないけど召喚魔法が有るなら移送魔法が有ったっておかしく無いでしょ、何でこんな何も無い場所に飛ばされたか、悔しいからせめて理由くらいは知りたいじゃない」


 俺って召喚されて異世界に来ちゃったの?確信めいた事を言っているので、それなりの根拠が有るのだろう。


「召喚魔法ってので呼ばれた確証は?」

「状況証拠とスキルのお陰って所かしら、私自転車で県事務所までスポーツ飲料とブロック食品の配給物を取りに行ってたの。本当は車で行きたかったんだけど、保険の関係で業務中には使えないから、この自転車だって学校の物でそれ用の保険が掛かってるから乗れたんだけど」


 どうでも良い情報なら聞きたくないのだが、よく回る舌だ。


「こっちに飛ばされた時に光の魔法陣に包まれた訳、それがどうやら召喚用の魔法陣だって事にスキルを取得してから気がついたのよ」

「どれってどんなスキルな訳?」

「魔法の種類を識別するスキルね、発動した瞬間に読み取れるし、私が見聞きした物でもその種類が予測出来るわ。スキルを取得したのはこちらの世界に飛ばされた後だったから、100%確実と言えないけど、私自信は確信していると言うわけよ」


 なるほど一応筋が通っているとも言えるか、でもそれがEXスキルなのか、トイレ召喚に比べてもショボい気がするな。


「そうなんだってのが俺の素直な感想かな、後は助け合いだっけ、俺なら安全なねぐらとトイレ、それに風呂と食料を提供出来るけど、律子ちゃんは何を助けてくれるのかな」


 少し意地悪な聞き方に成ったが、養護教諭の山口律子が何が出来るのかを知っておきたい、当然トイレの中に入れるなら祝福でステータスを確認させてもらうつもりで居るが、ここでの発言が律子の信用性を決める。


「その律子ちゃんって言うのは辞めて欲しいんだけど、そうね、私には医学的な知識が有るわ、だから簡単な怪我や病気なら対応出来るわよ」

「弱くないそれって、回復魔法くらい使えないの?」


 養護教諭って医療行為が出来ないんじゃ無かったっけ?学校で怪我を負っても近くの病院に連れて行かれるか、救急車を呼んでいたように思う。


「そんな簡単にスキルが手に入るなら苦労しないわよ、この3ヶ月の間現地の人間とコミニュケーション取るのだけでも、どれ程苦労した事か。女一人がこんな野蛮な場所でね・・・身体を守っていくのってどんなに大変だったか男の貴方には解らないのよ」


 3ヶ月ってどういう事だ、まだ飛ばされてから数える程しか1月は過ぎてない筈だ、エリスとイチャイチャエロエロしてたから多少の日数は無駄にしたが、それでも3ヶ月と言う程の時間は経過していない。


「苦労たって、そんなの救済システムが有るから簡単とは言わないけど、難しくは無いでしょうよ」

「何それ?」


 何やら話が通じて居ないように思う、律子は既にスキルを所持しているようなので、スマホの救済システムを立ち上げて居る筈だよな。


「律子ちゃんスマホは?」

「こんな場所でまでスマホの心配なの?これだから現代っ子って奴は。私物のスマホならロッカーの中よ」


 なるほど確かにカバンの中にスマホが入っていたな、ロックされていたので仕舞ったまま忘れてた。


「じゃあスマホも無いのにどうやってスキルを手に入れたんだ、まさか自力でスキルを取得したとか?」

「スマホでスキルが取れるの?何それ、何でそんな事に、運が悪いなんてもんじゃ無いでしょこんなの」


 律子がご立腹だが、救済システム無しで良くもまあ今日まで生き残ってきたもんだ。

「何よ、私の持ってるスキルは魔法解析だけよ、役に立つかって言われても解らないわ。それでも何かを差し出せとお望みなら、下の世話でも何でもやって上げるわよ」


言質、頂きました。


「その覚悟が有るなら、まあね、うん、そっかそっか」

「あなた最低ね」


 律子の胸を揉みながらニヤニヤしていた、うん俺って最低だと自分でもそう思うよ。


「胸を揉んでないと祝福を使えないんでね、コレはスキルを使う為の儀式だから」 


 嘘八百を並べてニヤニヤしながら、乳房全体を捏ねくりまして、最後に頂きをつまんで見る。

名前:山口律子

年齢:30歳

SEX:2人(♀)

職業:養護教諭

レベル:2

スキル:弓術

EXスキル:魔法解析

状態:飢餓(深刻)、脱水症状(中)、衛生不良


 経験人数2人か、年の割には少ないな、彼氏が居るみたいだし長いお付き合いをしているのかも知れないな。

どうやって手に入れたのか弓術のスキルを取得している、しかし弓と矢は持ち合わせて居ない、こんなの宝の持ち腐れだ。

EXスキルは魔法解析なんだかすごそうなスキルだが、だからと言って何が出来るのかイマイチ解らない。レベルは2まで上がっていたから、何処かで隠れ住んでいた訳では無さそうだ。


「祝福って何よ」


 弱々しい声で聞いてきた、胸を揉まれながら何をされたのか不安に思っているらしい。


「持ってるスキルとかレベルとか、健康状態が判るスキルだよ、これで律子ちゃんが30歳経験人数2人、レベルが2でEXスキル魔法解析を持っている事が判ったわけだけど。健康状態が大分と悪いね、医療知識を持っているって言って無かったっけ」

「私はまだ29です、健康状態が悪いのに多分逃げる時に川を泳いだからよ、アレから調子が悪いから飲み込んだ水の所為だと思う。お腹が緩いままだし」


 迎え入れても危険性は無さそうだが、今直ぐ事に及ぶって訳にいはいかなそうだ、俺も体調の悪い女とやる程鬼畜では無い。


「じゃあ今からトイレを召喚するから思う存分気張って頂戴」


 トイレを召喚して、試しに律子に扉を開けさせてみた、スマホの画面に『山口律子がトイレのドアを開けようとしています、許可しますか?』と言うメッセージが出たので許可すると、ドアが開いた。


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