第7話「寒村」
日課を終わらせて報酬を受け取ったらやけに金額が多い、何でだとスマホを確認したら、扶養手当と言う物が付与されていた。今朝のログインボーナスも扶養手当込みと言う事らしい。
「村の場所って判るのか」
「ああ目印が有るからな、無いと行商人が寄り着けないだろ」
魔石を売って糧にしているなら行商人は必要不可欠だな、何と交換しているのだろうか。
「魔石を売って金を得てそれでどうしてるんだ」
「領主が居るなら領主に税を払って、必要な物資を手に入れているようだ。塩とか鉄とか布なんかだな、特に塩は必要不可欠だからたいていの村では貴重品だ」
塩か、コンビニで販売している塩は割高だから、売れそうに無いが純度は高いから高級品として売れないだろうか。試しに購入してみたら500グラムで300魔素だった。
「この塩は売れるかな」
「変わった袋だな、破いても良いのか」
「ちょっとまった、入れ物も手に入れるよ」
塩を入れる容器の方が高い、100円ショップでも買えるようなプラスチックの容器が1500魔素もしてしまった。
「透明な容器だな、これなら高く売れるぞ」
「中身の塩を確認して欲しいんだけど」
容器の蓋を開けて塩を人なめしてくれた。
「塩だな、混ざりものが無そうだから街で売った方が高く売れるんじゃないのか。値段の方は検討もつかん、私は塩なんてこのくらいの袋に入った物しか知らんからな」
エリスが持っていた塩の入った袋にはほんの僅かしか残っていなかった、袋いっぱいに入った塩がおおよそ銅貨50枚だったらしいが、小売と元売りじゃ全く検討の対象にならないな。
「塩無しでも平気だったのか」
「言っただろ、ナツメに見捨てれてた死ぬと」
本当にギリギリだったようだ、これ以上の話を聞き出すのは気まずいな、村に到着してから考えれば良いか。それから10キロ程進んだ所でエリスがアレが目印だと樹に括り付けられた黄色の布を指さした。
「アレが村の印なんか」
「行商人を呼ぶ目印だな、たまに疫病だとか、盗賊が仕掛けた偽物だとかも有るから気を着けないと死ぬ目に合う」
おお怖い怖い、俺も気を張って様子を伺おう。
「止まれ、お前らは商人か」
「俺は牛飼いだ、塩も有るっちゃ有るが量は無いぞ、それよりも魔石を買い付けたい」
「待ってろ、俺は村長を呼んでくる」
村の入口で見張りをしていた男が、近くに居た子供に見張りを任せると、飛ぶようにして駆けて行った。
「なあ兄ちゃん達って都会から来たんか」
「何でそう思う?」
「変わった服を着てるからさ、そんなのこの辺りで見たこと無いし」
都会でもジャージなんて着てる奴は居ないだろう、エリスの着ている服はミッションで貰った物を着てる、元から来ていた服はもうボロボロで、洗濯しても無駄に破れてしまった。
「俺は牛飼いで、まあ流民みたいな物だ、今はこいつを妻に迎えてバイカルの街に向かっている所だ」
「嫁さんだったんか、護衛の冒険者かと思ったぞ」
「この辺護衛が居る程危ないのか」
「おれは知らねえよ、いつもやって来る行商人のオッチャンが連れているから、そう思っただけだよ」
なるほどね、冒険者と言う有りがちな存在も居るのね、ますます異世界染みて来たな。物珍しがっている子供達と世間話をしていると、村長を呼びに行った男が戻ってきた。
「村長が会うってよ」
「ドナ子を村の中に入れても大丈夫か」
「そのジャイアントカーウの子供だろ、ここに置いてかれても困るからな、そのまま中に入ってくれ」
ドナ子に乗って村の中を進んでいく、村内の道は舗装されていないようだ、人の往来が有るから固まっているが、雨でも降ったらぬかるみだらけになるんじゃないのか。
「ここが村長の家だ、ジャイアントカーウは庭で待機させてくれ」
かなり広めの庭にドナ子を座らせて待っているようにお願いする、ドナ子が良いよと返事をした気がした。
村長の家は広いことには違いないが、とてもチープな感じがした、土足で中に入って行ったが床は良くわかない部材だった。コンクリートでは無さそうだが、土を固めたって訳でも無さそうだ。
案内された部屋の中には村長が一人座っていて、後ろに護衛だろうか、生きの良さそうな男が立ってた。
「わしがここをまとめて居る、村長のジェンガーだ、後ろに居るのは倅でな見学がてら同席させてるが構わないか」
「良いだろう、俺は牛飼いのナツメで、こいつは俺の嫁さんのエリスだ。夫婦で荷運びをしてるんだが魔石の補充をしたくてな、売ってもらえると嬉しいんだが」
荷運びの話はエリスとの打ち合わせで、牛飼いなら荷運びだろうと言われて、そうなのかと設定に乗っかる事にした。昔の日本では馬を使って人や荷物を運ぶ馬子と言う物が有ったと習った、馬子にも衣装と言う言葉の馬子がその荷運びをする人間を指すようだ。てっきり孫に衣装を着せる言葉だとばかり思って居たが、違うらしい。
「魔石か、塩を持っていると聞いたのだが、それ次第にさせてもらう」
「持っては居るが量がない、それに少し高級品な塩なんだ、ジェンガーさんが欲しがってる塩とは違うと思うんだ」
高級品っちゅーか、混ざりものが少ないと言おうか、この世界の塩とは物が違う筈だ。
「コレなんだけどな」
コンビニで買った500グラムの塩を机の上に器ごと置いた、サラサラの塩を村長は手にして舐めた。
「確かに高級品そうだな、だが塩には違いはあるまい。銀貨1枚でどうだ」
銅貨100枚って事だろ、なら魔素換算なら10万魔素だ、コンビニで塩を買えば無限の錬金術が出来そうだ。
「魔石で払ってくれるなら良いぜ、但し渡せる塩はそれだけだ」
「魔石を500出そう、残りは金で支払ってくれ」
エリスにどうかと確認すると、もう少し魔石を出せないかと村長に交渉をしてくれた。
「判った700だ、それ以上はお前さん達には売れん、いつもの行商人との取引分を残しとかんといかんからな」
70万魔素分をゲット出来た、塩500グラムと銀貨6枚を渡しただけでウハウハだ。表情には出さないようにして、取引を終了する事が出来た。その時胸ポケットに入れて居たスマホが振動する、ミッションかクエストを達成したようがだ今はスマホをいじれない後回しにする他無い。
村長は席を外して息子だけが残り、嫁か使用人かは解らない女達が食べ物を持って部屋に入ってきた。
「なあ、あんたら食い物は必要無いのか、これは村で取れたもんで作った料理だ、気に入った物が有ったら買っていって欲しい」
料理はちょっと味気なかった、塩が足りないって言ってたから仕方ないのか、俺もエリスもそんなに料理は出来なそうなので、素材だけ買っても駄目なのだが、果物だけはまとまった量を買ってみた。
「麦は要らないのか」
「荷物になるし、そもそも俺達は料理をしないからな」
「まあ旅の間ならそうだろうな、じゃあさ他の街の話を聞かせてくれないか」
情報が入りにくい村の中で、村長の息子は少しでも外の情報を聞きたいと言い出した。
「そうだな、半年程前に王都を出たきりなので、現状がどうなっているのは知らんが。また王家と貴族派が揉めだしたな、今回は中立派の公爵も仲裁する気は無いらしい」
王と貴族の仲がよろしくないのか、公爵って王家の親族が付く爵位じゃなかったっけ、ゲームの知識だからイマイチ自信が無いけど。
「またかよ、懲りない奴らだな、この辺りに影響が出るまでにはまだ余裕が有るか。今の内にまた武器と防具を集めなきゃならないか、ありがとう恩に着る。あんたらも何か聞きたい事は有るか」
「この辺りの領主の評判を聞きたい」
「一応王家の直轄地って事になってんだ、この辺りの村はな、だけど王家がこんな場所を気にかける事なんて有る筈も無い、独立独歩ってやってる村が殆どだな。バイカルを治める領主とは少し付き合いが有るがよ、だからって兵や騎士を送ってくれるって話を聞いた事は無いな」
王家が管理している場所のようだが、実際にはバイカルの領主が面倒を見ているらしい、しかしその面倒の見方も懇切丁寧って物では無いようだ。
「荷物を運ぶとして何が1番儲かりそうだい」
「そうだな、うちとしては塩が欲しいが、今の話を聞いちまうとな武器や防具が儲かると思うぜ」
物騒な物が必要らしい、何に使うかって事までは耳に入れたく無い物だ。
「物騒な物は運びたく無いな」
「なら魔石と塩が1番だろうな、どっちも腐らないし、嵩張るもんでも無いだろ」
俺の場合はかさばっても構わないのだが、本当に牛で運ぶんなら確かにそうだろうな。ある程度は荷袋でもドナ子に下げて置いた方が良いか、手ぶらで居ると怪しそうだ。話も終わったので、村長の息子に別れを告げて村を出た。
「麦を買わなかったんだな」
小麦粉を大分プッシュしていたが、残念ながらそんな料理をするスキルが無い、そもそも小麦粉くらいコンビニでも買えるだろう。
「エリスはパンを焼けるんか」
「ふむ、奴隷か第二夫人を手に入れないと駄目そうだな」
奴隷が居るのかよ、それに第二夫人って何を言い出すんだ、こっちの世界ってハーレムが許される世界なのだろうか。
「奴隷なんてもんが存在するのか」
「借金奴隷なんて掃いて捨てるほど居るぞ、あの村だって農奴が何人も居ただろう」
「俺の居た国じゃあ奴隷は禁止だったからな、奴隷と一般人の区別がつかんよ」「そう云う国も有るらしいな、見分けるのは簡単だ、首の所に鉄の輪っかが有る奴らは奴隷だ」
村の中の事を思い出してみたが、首輪をしてたかなんて覚えちゃ居ない。エリスが言うんだから村の中に居たのだろうけど、気にならなかったと言う事は、家畜のように扱われては居ないのだろう。
魔石も補給出来た事だし、後はバイカル目指して真っ直ぐ進む事にした。
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