第4話「子牛」
異世界生活5日目、日課をこなした後、槍とナタを持ってサバンナの大地に移動する。
あいも変わらず北に向かって移動し、樹に潜むゴブリンを探していると、一際大きな樹を発見する。近くには水場も有って見るからにヤバそうだ、これが普通の旅人なら水場に向かっていくのだろうけど、こちとらトイレで無双している身、君子危うきに近づくべからずというわけで迂回するルートを選択した。
そうは問屋が許してくれなかった、俺の存在を発見したゴブリンが群れとなって襲ってくる、数は10匹程度だろうか。当然俺は敵わないと見て全力を持って逃げる、槍とナタが邪魔だが捨てていく事は出来ない、拾われて俺の襲撃に使われる事が目に見えて居る。
足の長さの差か、体力の差かは解らないが瞬発力は俺の方が有るようだ、無ければ今まで俺が生き残って居ないか。
一方の持久力は互角か俺の方が劣るだろう、中学時代はテーブルトークに青春を費やして居たのだ、運動なんて苦手に決まっている。
体感的には2、3キロ走った感じだろうか、もうヘトヘトでいっそ反転してゴブリンに突っ込んで行ったろうかしら、と思考が混乱してきていた。それはゴブリンも同じ事で、10匹連なって襲ってきていたゴブリンの数は半分近くに減っている。これなら行けるかと死亡フラグを踏みそうに成っていたのだが、俺のピンチに駆けつけて来てくれた存在が有った。
象?最初見た時それがなんだか解らなかったが、昨日目撃していたバッファローの群れだと気づいたのは、ゴブリン達が屠られて居る光景を目にした時だ。今のうちだ、咄嗟にトイレを召喚して保健室に籠もった。
2時間、5時間、半日ベットに潜ってから、こわごわと様子を伺う為再びサバンナへとやって来た。
「見事に死んでますな」
そこには哀れな姿のゴブリンの死骸が並んでいる、ナムナムとお祈りしてから死体を漁る。ツイてる今日はツイてる、汚れたままでも解る金貨が輝いている、全部で3枚の金貨と90枚のコインを手に入れ、魔石は100個も拾えた。
武器類は駄目だ、バッファローに踏まれたのかボロボロだ、転がっているゴブリンの死体を追いかけ移動しながら更に収穫を増やしていく。
小規模なオアシスだった場所は荒れ地のように変わり果て、大木は既に樹とは呼べない状態にまで砕かれ、水場は枯れて居た。横たわっているバッファローが何頭か居て、矢が刺さっている、ゴブリンが応戦した成果なのだろうな。
俺は矢とコインと魔石を回収しながら、他に何か得物は無いかと探していた。
「モォー」
最終的に拾えたコインは128枚、魔石は158個の大収穫だ、金貨は5枚しか無かったが大満足で有る。
「モォー」
「懐かれても連れてけないって、無理だよ」
群れから逸れたのか、置いていかれたのか子牛が一頭俺に寄り添ってくる。子牛とは言ったがバカでかいバッファローのような牛の子供、俺の背丈よりでかく、体重はトン超えだろう、トイレを召喚したって中に入れてやることは無理だ。
スマホからいつもの如く着信音が成る、一応確認してみたらミッションが2つ完了していた。
『魔物と仲良くなろう』、要約するとテイム系のミッションで、難易度は相当高く設定されていた。報酬として新たな施設飼育小屋が開放されたらしく、連れて帰る事が出来るらしい。
「こいつがお前のカーチャンなのか、弔ってやりたいけど、この巨体だからな俺には無理だわ」
悲しそうな目で見てくるが無理な物は無理だ、日も落ちてきたしそろそろ帰らないとどんな化け物が襲ってくるかも解らない。
あっ、もう一つミッションが完了していたんだった、スマホの画面を確認すると『レベルを上げよう2(Lv5)』が達成していた、ドウイウ事?
ステータス画面を慌てて確認する。
名前:黒田夏雨
年齢:16歳
SEX:センズリマスター(♂)
職業:学生
レベル:6
スキル:バトルマスター、交渉術言語セット1、牛飼い、解体
EXスキル:トイレ召喚
状態:空腹 、疲労
レベルが上って知らないスキルも取得していた、解体は解る王道と言っても良いスキルだ、しかし牛飼いってそんなスキル俺のよく遊んでいるテーブルトークには存在しなかったぞ。
「ミッション達成のご褒美はダイスか」
1000面ダイスを回してスキルをゲットする報酬で、早速タップするとコモンだった。それはそうだよな、しかし選べるスキルが多すぎる上どれも微妙な物ばかり、その中でも比較的重要そうな物を選出する。
生活魔法、アイテムボックス丁、催眠誘導、定番は生活魔法だが俺は生活する上での装備は一通り揃っている、今更必要とも思えないし保留。
アイテムボックスはチートスキルの代表格だがこいつはコモンスキル、入れられるアイテムの数が1つしかない、ステイ。
催眠誘導、対峙している相手を自分のレベルから相手のレベルを引いた分の100の確率で眠りにつかす事が出来る、つまり俺がレベル100で相手がレベル1なら99%の確率に催眠状態に移行させる事が出来るのだ。
欲しいとてつも無く欲しい、が今は必要ない。
と言うことでアイテムボックス丁を取得し、母牛を収納してからトイレを召喚した。何が起こったのかは解らないが子牛は飼育小屋へと移動したらしい、中庭に移動したらバカでかい小屋が出来ていた。
小学校でこんなん有ったなと、飼育係の悪夢を思い出してしまった。
「お前本当にこんな場所で良かったのか」
子牛に話しかけれても返事が帰って来る訳がないか。
「えっ?!!」
話しかけては来なかったが、子牛の意識が流れ込んでくる、ふんわりとした感じだったが意思疎通が出来るらしい。
「名前を着けて欲しいのか」
子牛の名前、名前ねえ、メスらしいから子を付けるのは決定で、牛子は流石に無いか。ドナドナされそうな瞳をしてるからドナ子にすっか。
「今日からお前の名前はドナ子な」
「モォー」
喜んでいるらしい、このドナ子ちゃんの目の前に居た超でっかい牛は母親だったらしい、その母牛がゴブにやられた事で群れから追い出された。具体的には飲水が回って来なくて喉の乾きで死ぬ所だった、それがここには飲みきれない程の綺麗な水が有る。俺は新しい群れの長で、ドナ子は俺の指示に従いたいと言っている。
まあそんな気がするってだけで確証は無いのが、元の群れには帰るつもりは無いらしい。ドナ子とのふれあいが終わって、母牛をどうするかと言う話なのだが、一応収納していた母牛を中庭で取り出してみた。
「でっか」
デカイとは思っていたが比較対象が有るおかげで、更にその巨体が際立って見える。土に帰すにしたって中庭には埋めれない大きさだ、仕方がないので食って供養をすることにして、解体のスキルを使ってみた。
みるみるうちに牛が解体されていく、革と骨、肉と内臓、ホルモンも食えるんだろうけど、こいつは無理規格外過ぎて俺の腹には納められない。何度も往復してサバンナに捨てに行く、俺が取得したアイテムボックス丁では部位毎にしか収納出来なかったら、腸や胃、心臓腎臓肝臓と何度往復したか解らない。幸い可食部分の肉は肉として認識されたようで一括で収納出来た、俺一人だと10年は肉を食い続けられるんじゃないかと言う肉の量だ。骨と革は何かに使えるんじゃないかと一応残した、中庭に巨大な骨が有る光景がおどろおどろしいが、ここには夜が無いから良しとしとこう。
保健室に入って収穫物の仕分けを行う、金貨は5枚、銀貨は43枚、銅貨は85枚有った。魔石の158個をスマホに入れると16万魔素程の金に成った、これだけ有ればコンビニで豪遊出来るぜ、と悦に浸った。
そうは言っても今必要な物はフライパン、サラダ油、焼き肉のタレ、包丁、まな板、こんな所か。肉に埋め尽くされているアイテムボックスをどうにかしないと、他には何も入れられない、せめて切り分け冷凍庫にいくらかは入れて置きたかった。
2万魔素を使って焼き肉セットを購入し、今は肉を切り分けている所だ、肉と言ったら白米なので、炊飯器で米を炊いている、初めての経験なので上手く炊けるかは解らいけど。
1キロの肉を切り分けるだけでも結構な時間が掛かった、サシが入ったキレイなピンク色で美味そうだ、しっかり手を合わせてからコンロに火を着け、フライパンに油をしって乗せる。
温まってきた所で肉を並べると、ジューっと言う心地よい音が聞こえて来る、炊飯器から米を茶碗に入れて焼き上がりを待った。ちょっと水を入れすぎたかな、米が柔らかい、焼き上がった肉を焼き肉のタレに着け、茶碗の米の上でワンバンさせてから口の中に入れる。
「うーまいぞー、ドナ子の母ちゃんに感謝」
バクバク食って食って食いまくった、2合炊いた米もさらえるくらいに無くなって、1キロの肉は完全に胃の中に納まった。
「これ以上は一滴の水も無理」
普段からこんなに飯を食った事は無かったのに、今は毎食おにぎり一個と言う修行僧のような食事を続けて居た。おなかパンパンで片付けをする気もならなくなり、風呂にも入らず眠ってしまった。
異世界生活6日目、「モォー」と言う鳴き声で目覚めた、ドナ子が小屋から出たいと鳴いてるようだ、眠い目をこすりながら中庭に出る。
「うん?」
中庭にこんな草が生えて居たっけ、膝丈まで有る牧草が飼育小屋の前の土地に生えている、心做しか中庭が広くなったような気もする。
「ヨーシヨシ、今出してやるからな」
「モォー」
飼育小屋の中を掃除して欲しい、そんなドナ子の内心が聞こえて来た気がするので、掃除をしてやることにした。
「あっまた増えた」
デイリーに飼育小屋の掃除が追加してある、俺掃除してばかりじゃね?
飼育小屋の掃除報酬は銀貨2枚、ちょっとお得だが時間はトイレの倍かかる、時間給だと考えれば納得だ。
保健室に入ってログインボーナスを貰うと、既に昼の12時を回っている事に気づいた。ステータスを確認すると疲労(中)と言うデバフが付いている、昨日走り回った事が原因だろうか。それともコレが俗に聞く、レベル酔いというやつだろうか、一気にレベルが5つも上がったしな。
今日はゆっくりしろと言う神様のお告げだと思い、掃除ついでに保健室内清掃と、ベットのシーツの洗濯を行う事にした。掃除具入れのモップで部屋を掃除している時に、このモップを杖代わりに戦えば、最初のゴブリンにはもう少し楽に戦えたかもなんて考えてしまった。
ウォーターサーバーの水を飲んでいる時にふと丸い木製の桶のような物が目に入る、上が蓋に成っているようなので開けて見ると、湯のみ茶碗とコップ、それにインスタント珈琲と茶葉が入っていた。そりゃあ有ってもおかしくないわな、と思い中の物を全部出すと、湯呑茶碗だけでは無く、味噌汁を入れる椀と茶碗が下の方に入っていた。
「どこかにインスタントの味噌汁も有るのか?」
既に1度家探ししているので、もう一度探そうとは思わないが、見逃して居る物もまだ有るのかも知れないな。洗濯機を回している間、念入りにバスルームを掃除する、コンビニでカビキラーを購入してルーム内に散布した。掃除を終えて風呂を沸かすと、ゆっくりジックリと湯船に浸かる、お気楽極楽と風呂から上がって保健室に戻る。
「臭くね、この部屋」
部屋の中が焼き肉臭で臭った、風呂上がりでそれを鮮明に意識することが出来た、消臭剤をやはりコンビニで購入する。こういう風にチョクチョク使っていくと、家計に響くんだろうなと思いながらも購入する事に躊躇は無かった。
部屋の中はスッキリした、今度から肉を焼く時にはテラスを使ったほうが良いなと思いながら、机と椅子をどうにか入手出来ないかと考えた。流石にコンビニでは机と椅子は取り扱って居ないらしい。
「モォー」
ドナ子が呼んでいる、小屋に帰りたと言う合図らしいから、小屋の扉を開けると一人ドナ子が中に入っていった。スマホの時間ではもう夕方の時刻だが、中庭に居る限り時間の感覚は無い、いつまでも真っ昼間だ。ドナ子が良く眠れる物だなと小屋の中を覗くと、薄暗く成っている、明り取りは有る筈なのだが何故か暗いのだ。
保健室よりも快適かも知れない、と思いながら夕飯の支度に移る、2日続けて焼き肉を食べる程胃が丈夫では無いので、今日の所はおにぎりと味噌汁で済ます事にした。
暇だ、今日は一日内向きの仕事をしていたのでまだ眠くない、とは言えやることなんて殆ど無い、トランプを買って一人遊びなんて悲しすぎる・・・そうだここにはパソコンが有った。
パソコンを立ち上げてゲームが入ってないか確認する、有った、有ったが使えない、ネットに繋がってないと立ち上がらない仕様に成っている。これはミクロソフトの陰謀だとしか言いようが無いな、事ある度にプレミアムを求めてくる、儲けているだろうに貧乏人から小銭を奪うなよな。
仕方がないので動画を見ながら時間を潰して、部屋の中を暗くしてベットの中に入った。
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