〜破邪の剣の舞姫〜 時を越えて。13

『斑鳩! あなたは斑鳩じゃ無いの?』



『あ、ああ。別に隠すつまりは無かったのだがな。

あの時は状況が状況だけに、名乗るべきでは無いと判断したのだ。

斑鳩と言う名は、私が普段好んで使ってる名だ。

真の名は小山若犬丸と言う。』



『あなたが、あの小山若犬丸なのね……。』



『なんだ? 私は未来ではそんなに有名なのか?』



斑鳩は、そんな事は無いと言う様な顔で笑いながら言う。



『だって貴方は……。』





……小山若犬丸。



と、言う事は、このお殿様は小山義政。





義政さんは、この後に反乱を起こして負けて、何処かの山奥で死ぬ事になる。



そして斑鳩、小山若犬丸はその後も反乱を起こして、最後は死んだとも北海道に逃げたとも伝わる。



地元史の授業で習ったやつだ。



私は、若犬丸の人生に強烈に惹かれたのを覚えている。



もしかして、若犬丸に惹かれた理由は過去へ来て会う事になる運命だったから??






悲しいな……。





今、ここでこれから起こる出来事を伝えたら、斑鳩も義政さんも助かるかもしれない。



それは歴史を変えると言う事。



未来から来た私だけが出来る事。



でも歴史を変えると言う事は、未来まで変えると言う事。



本来、死ぬべき人が生き、生きるべき人が死ぬ事になれば、その子孫は存在しない。



それがどれだけ未来に影響を及ぼすのか。




もしかしたら、名も無い普通の人ならそれ程までに影響は無いかもしれない。



でも斑鳩と義政さんは、少なからずとも歴史に名を刻んでいる人。



そうしたら、未来に残して来た、お姉ちゃんや隆くんや華子が存在する未来になるの?



私にはやっぱり出来ない……。



自分がとても冷たい人間に思えた。



斑鳩は本当に私の事を考えて危険を冒しても助けに来てくれた。



でもせめて破邪の剣の力で斑鳩だけでも北海道に逃げたと言う歴史に持って行けば……。




でもやっぱり私は未来へ帰りたい。




だけど、無事に未来へ帰ったら、斑鳩とも花月とも永遠に会う事は出来無い。




何か虚しい事だらけだな……。




何で私が時代を超えてまで破邪の剣の舞姫なんかになったの??




一体、何故……。






『どうした?? 浮かない顔をして。』





斑鳩は杯を片手に横顔で笑顔で私に話しかけて来る。



いちいち絵になる斑鳩を見て少し頭に来た。



『私だって悩みの一つや二つあるのよ!』



『そうだな……。

人にはその人なりに色々と有るものだ。

だが、浮かない顔ばかりしてると運も逃げて行くぞ。』





そうよね……。




きっと斑鳩は励ましてくれてるのね。



その通りだよね。



そんな顔してても何も始まらないしね。




『有難う、斑鳩……。』



斑鳩のその言葉に、笑顔になってお礼を言った。



『美しい笑顔だな。まるで桜の花の様だ。』



えっ!? 何を急にそんな事を真顔で言うの!?



顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。




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『ま、まあ名前もサクラだしね。』



咄嗟に冗談を言って、表情がばれない様に取り繕った。




『そうで有ったな!』




斑鳩の笑った顔を見て、思わず私も笑ってしまった。



斑鳩や花月といると、何処か心が安まる。



何故か、昔から知っていた様な気になる。



疲れもあったのか、慣れないお酒を飲まされたのか、私はいつの間か斑鳩の肩に寄りかかってウトウトしてしいた。

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