〜破邪の剣の舞姫〜 宿命の出逢い。1
次の朝の事。
私は、酷い頭痛に目が覚めた。
『うーーん。
あ、頭が痛い……。』
私、どうしたんだろ?
風邪かな?
風邪なんてひいた事無いのにな。
『サクラ、起きているか?
もう巳の刻過ぎになるぞ??』
えっ? もう午前11時過ぎになるの!?
襖越しに斑鳩の声が聞こえる。
『う、うん。でも何か頭が痛くて……。』
『な、なんだと!?
入るぞ! 良いかっ!?』
そう言って慌てて襖を開け、私の枕元に一目散に駆け寄って来た。
徐に、斑鳩は自分のおでこを私のおでこをに当てた。
『うむ、どうやら熱は無いな。
何処か他に何か異常を感じるか?』
『えっ……!?』
私は顔が真っ赤になってしまった。
『どうした!? 顔が赤いぞ?
やはり熱が……。』
『ね、熱は無いと思うけど、頭が痛くてお腹が気持ち悪くって……。』
顔が赤いのは貴方のせいよ!!
『うむ……。医者を呼ばねば分からぬな。
今すぐ医者を呼ぶから、少しだけ我慢出来るか?』
『う、うん。』
『待っていろ! 直ぐ呼んで参る!!』
『あれ? アンタ達、何やってるんだい?
それにサクラ、いないと思ったらアンタいつまで寝てるんだい?』
花月がいつの間にかやって来た。
『花月っ! 今は呑気な事を言ってる場合では無いっ!
サクラの容体がっ!!』
『サクラの容体??』
『そうだ! 熱は無いが頭痛と腹を下しているらしいのだっ!!
私はサクラの側にいるから、花月は医者を呼んで来てくれっ!!』
『……。』
花月はそのまま何も応えずじぃーーっとした目で私を見つめる。
『花月! 聞こえ無いのかっ!?』
『はぁ、アンタも大袈裟な事だねぇ。』
『な、なんだとっ!』
斑鳩は本気で怒った顔で言い返す。
『そりゃ二日酔いだよ。
はいはい、今から井戸に水を汲んで来るさ。』
『『ふ、二日酔い?』』
思わず私と斑鳩の声が重なってしまった。
そう言って花月はその場を去って行った。
『た、確かに二日酔いの症状だな。』
『これが二日酔いってやつなのね。
気持ち悪いーー。』
『まあ、何事も無くて良かった。』
『私は何事も有りますからっ……!
大声出すと……ああっ! 頭が痛い!』
『水を飲めば時期に治るさ。』
二日酔いと分かった瞬間に途端にほっとする斑鳩。
何か心配かけちゃったなぁ……。
『よし、水を飲んだら外へ出て風にあたろう。
二日酔いなど、消えて無くなるぞ?』
その後、私の二日酔いも治まって来て、私達は小山の街に出た。
今までは逃げるのに必死だったから良く見て無かったけど、小山の街はとても賑わっていた。
宇都宮で見た時の様に、人々が活き活とした表情をして暮らしている。
『相変わらず賑わってるねぇ。』
『そうだな。
ここは宇都宮と同じく、奥州へ行く鎌倉街道中道の要所だからな。』
『そしてご領主、小山義政様の治世のお陰だねぇ。』
『義政さん?って、斑鳩のお父さんが?』
『ああ、父上は幕府創立の功を認められ、国外にも多数の荘園や領地を賜って、この小山をより豊かに強固になされたのだ。
この関東においても比類無き繁栄と力を手になされたのだ。』
『そんなに凄い人だったのね。』
『うむ、自慢の父上だ!』
そう話す斑鳩の眼は、きらきらと輝いていた。
でも、それなのに何故滅んでしまったのだろう……。
もっと勉強しておけば良かったな。
『そうね……。』
これから起こる未来の事は何も言えずに、それ以上は何も言え無かった。
『ん? どうした??』
斑鳩は私の事を良く分かっている。
ふとした表情に何かを感じている。
『えっ? あ、あはは……。
い、嫌ぁ~~。』
私は返す言葉に困ってしまった。
『って! そんな事よりもアンタ達、あれを見なよ!
何か芸をやってるよ!』
そんなやり取りを消し去るかの様に、花月が声を上げた。
そして花月が指を刺すその先には、縁日の様な軽快な笛の音が聞こえる。
その周りを大勢の群衆が沢山囲んでいる。
私達は人を掻き分けて、先頭に出て来た。
『さあさあ、ご覧あれぇ~!』
傘の上で鞠を回している。
『まぁ、あんな事良く出来るもんだね?
紐でも付いてるじゃ無いのかい?』
『ああ、良く有る話ね。
私の時代じゃ、それをわざと明かして笑いを取る人もいたわ。』
『なんだいそりゃ?
おっ! 今度は女の子が出て来たよ?
歳の頃はアンタと同じ位だね。』
女の子は何とも言えない不思議な雰囲気を纏っていた。
烏の濡れ羽色の様な深い黒髪と、闇の様に深い瞳に、漆黒の衣を纏っていた。
『さあさあ! 我が旅の一座の花形、ツバキ姫ぇ~!』
『『『おおぉぉ~!』』』
群衆から拍手喝采で迎えられる。
ツバキちゃんって言うのかぁ。
私と同じ花の名前だな。
絶やす事の無い笑顔がとても可愛いい。
その間に、黒子の人達が天にも昇る様な梯子を立てる。
『さあさあ、ご覧あれぇ~!』
座長さんの掛け声と共に、ツバキちゃんから笑みが消えて、目の色が変わった。
『はっ!!』
掛け声と共に、手も使わずに梯子を三段跳び位で瞬時に駆け上がって行った!
あっと言う間に天辺まで昇ると、片手だけで逆立ちをする!
『『『おおぉぉぉぉぉ~!!』』』
群衆も思わず声を上げて拍手を送る。
ツバキちゃんはそのままくるくると回転しながら、梯子から飛び降りて見事に着地する。
また群衆から拍手が溢れて出す!
『見事だな。』
『何だい? あの身のこなしは??
ありゃ、アタシやアンタ以上の動きだね。』
『まあ、私達は武道の身のこなしだけど、多分ツバキちゃんは人に見せる動きを練習して来たんでしょ?』
『あれ? あの子、まだ何か披露する気だよ?』
するとツバキちゃんは木の棒を渡された。
『さあさあ、このツバキは剣の腕も一流に御座います!
このツバキに買ったら金一封差し上げてましょう~!』
えっ!?
流石にあの棒きれなら死ぬ事は無いけど、幾ら何でも危ないって!
群衆がざわざわとし出す。
『おい! お前やってみろよ!』
『いやいや、剣の自信なんてねえよ!』
『誰か出て来るのかな?』
『あの身のこなし、小山の武士とやったらどうなるんだ?』
『花月!ツバキちゃん、立ち会う気よ?』
『やらせりゃイイんじゃない?
どうせ、あんな棒きれじゃ死にはしないし。』
『でも……。』
そう言われても、私はいてもたってもいられなくなっていた。
あんな可愛いツバキちゃんが立ち合いなんて!
怪我したらどうするの?
『あ、あの! 私がやります!』
思わず声を上げてしまった。
『サ、サクラっ!?』
『サクラ、アンタ何言ってんのよ?
アンタ見物に来たんでしょ?』
『ううん。私、大人とやってツバキちゃんが怪我する所なんて見てられないもん!
花月、ちょっと破邪の剣を持ってて!』
『お、おい! サクラっ!』
『ちょっと! 待ちなさい、サクラっ!』
斑鳩と花月は私を引き止めようとするが、興奮した群衆に揉みくちゃにされて、いつの間にか姿が見えなくなっていた。
私はそんな二人の心配なんてお構い無しに、ツバキちゃんの元へ歩いて行った。
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『あなたが私の相手をするの?』
『うん……。』
そうしてツバキちゃんはじっと私の目を見つめる。
『あなた、名前は?』
『サクラよ、如月サクラ……。』
『お、お嬢ちゃん! 止めておきなさいっ!』
座長さんが慌てて私を止めに来る。
『大丈夫よ、座長……。
きっとサクラちゃんは、かなりの剣の使い手の筈よ。』
『こ、この子が!?』
どうやらツバキちゃんは私の眼を見て、一瞬で私が武術を嗜んでいるのか分かったらしい。
『サクラちゃん、歳はいくつなの?』
『17歳よ。ツバキちゃんは?』
『そうなんだ、私も同じ17歳よ。
何かサクラちゃんとは出逢ったばかりなのに、親近感って言うのかな?
会うべくして会ったって感じがするわ。』
『うん……。私もそれは感じる。』
ツバキちゃんの言う通りだ。
私もツバキちゃんには何かを感じる。
斑鳩や花月と同じ様に……。
この場に立って分かった。
もしかしたら、ツバキちゃんが怪我をするかもと言う心配よりも、私はそう無意識に感じたから、この場に立ったのかもしれない。
『サクラちゃん、これを。』
『うん……。』
ツバキちゃんは私に棒きれを渡たしてきた。
そして私とツバキちゃんは間合いを取る。
『さ、さあ!
それでは花の女剣士の立ち会い、とくとご覧あれっ!』
座長の掛け声と共に群衆が喚き立つ!
それを合図に、ツバキちゃんが袈裟斬りで撃ち込んで来た!
は、速いっ!!
私は何とか紙一重でかわす!
『はあぁぁーー!』
ツバキちゃんは、そのままの体制で左脚から回し蹴りを浴びせて来る!
『くっ!』
何とか後ろに飛んでかわすが、咄嗟の攻撃を避けたせいで体制が崩れる!
『もらった!!』
ツバキちゃんは、間髪入れずに突きを入れて来る!
『くっ!!』
体制を整える余裕が無い!
私は崩れたままの体制で、冷静に棒きれを縦に構えて、柄と峰にあたる所に両手を添えて突きを受け止めた。
それにしてもツバキちゃん、こんなにも強かったんだ!
確かにこの腕なら、立ち会いの相手を呼び込んだとしても負けはしない。
手加減したら、こっちが痛い目みる!
仕方無いな。
もし当たったら少し痛いかもしれないけど、許してね!
ツバキちゃんが自分の突きを引き戻す瞬間に、私は足払いを掛ける!
ツバキちゃん程の達人なら交わす筈。
本気で当てる気が無いと悟られたら私がやられる。
だから本気で攻撃した。
さっきのツバキちゃんの攻撃も本気だった。
きっと、私が避けきれると思っての攻撃だったのだろう。
『わっ!!』
咄嗟に後ろに飛んでかわすツバキちゃん!
さっきの私と同じ様に、体制が崩れる!
私はそのまま袈裟斬りで撃ち込む!
でも当てる気なんて無い。
すんでで止めて、参ったと言わせる。
それなら怪我はしない。
だが、ツバキちゃんは私が撃ち込む瞬間に見事に体制を立て直すした。
それは私よりも動きが速いって事だ。
ツバキちゃんは私の撃ち込みを棒きれで受け止める!
私とツバキちゃんの棒きれがぶつかり合ったその時。
お互いの棒きれは根本から真っ二つに割れた。
お互い咄嗟に間合いを取る為に後ろへ飛ぶ!
ツバキちゃん、今までで一番手強い相手だ!
しかし、これからどう戦う?
体術どうしの戦いなら、いつかは当ててしまい間違いなく大怪我する。
頭の中が混乱している時だった。
『それまでぇ~!』
座長さんが声を上げた。
『この勝負、引き分けとするぅ~!!』
『『『おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~!』』』
群衆が更により一層騒めき立ち、私とツバキちゃんに盛大な拍手が送られた。
『すげえぞ~~!!』
『こんな勝負見た事ねぇ!』
『二人共、何て腕してやがる!』
『良いもの見られたよ!』
私達は直ぐに沢山の群衆に周りを取り囲まれてしまった。
そんな群衆に呆気に取られている私の元に、ツバキちゃんが歩いて来る。
『サクラちゃん、凄いのね。
私びっくりしたよ。
私もまだまだだなぁ~~。』
試合してる時とは大違いな、くったくない瞳で笑顔で話しかけて来る。
『ツバキちゃんも凄かったよ。
私は崩した体制を整えられなかったけど、ツバキちゃんはしっかりと整えてた。
試合は引き分けかもしれないけど、ツバキちゃんの方が一枚上手だったよ。』
そう。
私はツバキちゃんの連続攻撃をかわした時に、崩した体制を整えて、次の攻撃に備えられなかったけど、ツバキちゃんは私の連続攻撃に崩した体制をしっかりと整えて防御した。
少しの差かもしれないけど、初めて自分よりも速い人に出会った。
私の負けだな。
『サクラちゃん、もう終わったんだから良いじゃない。
それよりもさ、サクラちゃんはこの後何してるの?』
『えっ? 私は居館に戻るだけで特に何も……。』
『じゃあさ、少し二人でお話ししない??
私、なんかサクラちゃんの事が気に入っちゃった!』
『うん! 私も。』
『座長、サクラちゃんと少し出掛けて来ても良いですか?』
座長さんは、にこにこと一つ返事でうなずく。
『じゃ、行こうっ!』
『あっ、待って、私も連れの人達が居るの。
その人達にも伝えておかないと心配するから。』
そう言えば無我夢中で出て行っちゃったから、斑鳩も花月も何処に行っちゃったのかな?
『斑鳩ぁ~? 花月ぅ~? 何処にいるの~~?』
『何処にいるんだろうね?』
『う~~ん。すぐ近くにはいると思うんだけどなぁ。』
『サクラ!』
そこには群衆を押し除けて、私の元へと近寄って来る斑鳩と花月の姿が在った。
『あっ! 斑鳩、花月、探したのよ~~!』
『サクラ、少しは大人しく出来ないのか??』
『何が探しただよっ!!
ったく何やってんだい! 勝手にこんな事しちゃって。』
『あ、あはは……。』
『この人がサクラちゃんの連れの人なのね?』
『うん。斑鳩と花月って言うの。』
『はじめまして斑鳩さんに花月さん。
私はツバキって言います。』
『おや? さっきサクラと試合した一座の女の子じゃないかい。』
『あのサクラ相手に見事な腕前だったな。』
『有難う御座います。
あの私達これから二人っきりでお出掛けしよって事なんですけど、サクラちゃんお借りして大丈夫ですか?』
『しかし、宇都宮の件も有る事だし、サクラに万一の事が有ったらなぁ……。』
『確かにねぇ……。』
『斑鳩、花月、お願い~~!』
『護衛無しじゃ不安だし、アンタの事だからさっきみたいに何するか分からないしなぁ……。』
『確かに花月の申す通りだな。』
『ごめんなさいっ! もう無茶はしないから!』
『それに、ここにも宇都宮の連中は紛れてるかもしれないからね。
もし紛れていたら、さっきの騒動でアンタの所在は掴んだろうしねぇ……。』
『斑鳩さん、花月さん。
私が一緒にいますし、お願いします!』
『だが、しかしな……。』
『ツバキちゃんもサクラと同じ位強いから、いざと言う時は安心と言えば安心だけど……。』
『私、この時代に来て初めて同い年の女の子と仲良くなったし、ツバキちゃんは暫くしたらまた旅に出ちゃうだろうし……。
だから少しの時間で良いから……。』
私は瞳を潤わせなが、必死に懇願する。
『あーーもう! そんな眼で見ないでよっ!
ったく、分かったわよ! でも遅くならないでね!』
『お、おい花月、何を勝手に!』
『まあ、ツバキちゃんもいるし、大丈夫でしょ。
だけど良い?? 必ず暗くならない内に帰って来るのよ?』
『有難うっ!!』
斑鳩は困った顔をしていた。
私って、いつもワガママばかり言ってるよね。
本当にごめんなさい。
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