〜破邪の剣の舞姫〜 時を越えて。12
小山の領内に入ってすぐに、私達の護衛の為の大勢の兵が迎えに待ち構えてくれていた。
物凄い数で甲冑こそ着てないものの、今にも戦でも始めんばかりの物々しい雰囲気。
そこへ一人の年配の武士が前に出て来た。
『ご無事で何よりです……。』
見るからに身分の高そうな武士。
その人が馬を降り、片膝を地面に着けて、馬上の斑鳩に頭を下げる。
『うむ、心配をかけたな。』
いつもの斑鳩と雰囲気が違う。
高貴な気品が溢れ出ている。
本当に一体斑鳩って何者なの?
『まさか、ご本人自ら宇都宮の本拠地まで赴くとは……。
何か有ったらと、肝を冷やしましたぞ。』
『家中の者達に私の命が上手く伝わって無かった様だったからな。
故に舞姫は宇都宮の地へと落ち延びた。
何か有ったら遅いと思うて、私自らが赴いたまでだ。』
『も、申し訳御座いませぬ……。』
『もう良い。
其方が悪い訳では無いからな……。
舞姫も、私の友も今日の一件で疲れておる。
それにいつ宇都宮の追手が来るか分からん。
早い所、屋敷へ戻るぞ。』
『はっ!』
本当に斑鳩って一体何者なの?
その事ばかり気になって、気が付いたら斑鳩の屋敷の前に着いていた。
屋敷は私達が戻って来る前から、物凄い数の兵で守られている。
私達の姿を見ると、皆んな深々と頭を下げる。
それを見て、取り敢えず前みたいに小山の人達に危害は加えられなさそうで安心した。
そして私達は屋敷の中へと案内された。
『サクラ、花月、取り敢えず落ち着いたか?』
暫くすると、斑鳩が部屋の中へと入って来た。
『あ、うん。』
『まあね。』
花月はまだ信用しきってはいない表情だった。
『まあ、その位の警戒心が有った方がサクラを任せられるな。』
『は? 何を偉そうに……。』
『まあともかく、私は少しやらなければならない事が有る。
夕方には使いの者を出すから、ここで暫くゆっくりしていてくれ。』
『やらなければならない事?』
『まあ、時期に分かるさ。』
『アンタ、何企んでんの? 早くアンタの正体を教えなさい!』
『まあまあ。それも踏まえてだ。』
早々に斑鳩は何処かへと行ってしまった。
それからどれだけ時間が経ったのだろう。
私達の部屋の襖の外から、侍女らしき女の人声が掛かった。
『舞姫様、花月様……。
至急、#神鳥谷__ひととのや__#の居館へと参られよとの事です。』
※神鳥谷、現在の小山市神鳥谷。小山氏の居館が在った場所。
『居館??』
『はい。ここから南に4里程に有る、殿がおられる所です。籠もご用意致しましたので、どうぞ。』
※4里、15.6km。
『サクラ、こりゃ一体どういう事かね?
居館に呼ばれるって事は殿様がお呼びって事よね??
それに籠まで用意するなんてね。』
『うん、斑鳩が言ってた使いの人を出すって、きっとこの事じゃ無いの?』
『あいつ、何考えてるの?
いきなり殿様に合わせる??
まあいいや、危害を加えるつもりでもなさそうだし、取り敢えず行ってみましょう。』
そうして私と花月は籠に乗り、居館へと向かった。
居館の入り口には松明が、煌々と燃えている。
その松明の灯りに、小山氏の家紋である#二つ頭左巴__ひだりふたつどもえ__#が記された真っ白な旗が、ぼんやりと幻想的に照らし出されていた。
斑鳩の屋敷と違って、とても大きな居館だ。
居館の周りを堀が取り囲み、高い塀に守られた、授業で習った中世の典型的な武士の館だ。
夜だと言うにも関わらず、大勢の兵に守られている。
それは、領主の力の強さを物語っていた。
そして門の前には斑鳩が待っていた。
『来たか、待ってたぞ。』
『あ、斑鳩。これは何なの?
こんな所にまで連れ出して。』
『アンタ、早く何なのか言いなさいよっ!
殿様が一体何の用事なの!?』
花月が痺れを切らして詰め寄ると、急に辺りが騒ついて一人の男の人が寄って来た。
『貴様っ!! 誰に向かって口を聞いていると思っておるかっ!!』
『えっ??
な、何なのアンタ!? 急に横から入って来て!』
『ま、まあ、花月。
取り敢えず落ち着いて。』
『サクラは引っ込んでな!
何なのさ! ちょっと!!』
ああ、全くもう……。
花月怒ってその人と口論になっちゃった。
『止めないかっ! 私の友人だぞっ!!』
突然、斑鳩が大声で静止した。
『は、はっ!? も、申し訳御座いません。』
『お主はもう下がれ……。
すまぬな花月、後で良く言って聞かせてる。
さあ、奥へ案内しよう。』
『え、ええ……。』
花月も何が起こったのか呆気に取られてる。
『まあ、こっちだ。
付いて来るが良い。』
斑鳩の一言で、重厚な門が開いて行く。
私と花月は、斑鳩の何とも言えない威厳に圧倒されながら、斑鳩に案内されて奥へと向かった。
長い廊下を歩いた先には、襖を開けたままの奥には大部屋が有った。
そこには左右にズラリと人が座っていて、真ん中の一番奥の一段高くなっている場所に、一人の男の人が座っている。
多分、あれがお殿様。
私と花月は、大部屋の真ん中位の所に案内され、横並びに座った。
斑鳩は、私と花月を案内すると、そのままお殿様の眼前まで歩んで座り込んで一礼をする。
『父上! この者が破邪の剣の舞姫、如月サクラと、その友人であり護衛の花月に御座います。』
『おお! そうかそうか。
よくぞお連れしたな……。
舞姫殿、花月殿、我が家臣が息子の命に背き、手荒な真似をしたそうで、本当に申し訳無かった。』
そして周りの人達が一斉に頭を下げる。
『えっ、あっ、いえ。大丈夫です……。』
そんな事よりも!
『も、もしかして斑鳩って……。』
『ああ、そうだ。殿は私の父だ。』
え、ええ~っ!!
斑鳩がここの、小山の若君様っ!?
びっくりした。
ったく、斑鳩も人が悪いなぁ……。
チラッと隣の花月に眼を向けると、花月は仰け反って斑鳩を指差しながら、目をまん丸にして口をパクパクさせてる。
『はは、今まで黙っててすまぬな。』
『アンタも人が悪いもんだよっ!』
『しかし、あの時正体を明かしていたら、お前達は話も聞かずに逃げたろう?
あっ、その晩に逃げたか。』
『まっ、まあ、取り敢えずあの件は誤解だって事で……。』
『花月殿にも本当に迷惑をかけた。』
『あ、あっ! いえいえ、誤解だったのですから、気にしないで下さい!』
見た事も無い位に焦って平伏する花月がちょっと笑えた。
花月でもこんなに焦る事あるんだなぁ。
『うむ。そして舞姫殿、それが破邪の剣か?』
『あ、はい。』
『見せてくれぬか?』
斑鳩に破邪の剣を渡して、斑鳩がお殿様に渡す。
しばらくすると、お殿様は破邪の剣を手に取って納得した顔をした。
『うむ、間違い無い。言い伝えの通りの剣じゃ。』
『はい、父上。』
『それに、その舞姫殿の纏ってる衣も言い伝えの通りじゃ。』
『そして舞姫は光より出でて、須賀の社にて光と共に剣を手に、衣を纏いました。』
『思川桜が舞う頃、光より出でし巫女、須賀の社より光輝く霊剣を呼び覚まし、光輝く衣を纏い、巫女の心より思い願う事をその霊剣により叶え、小山の地の者達と巫女の思う者達を導き、全てを救わん。
その者、須佐之男命が巫女、破邪の剣の舞姫なり!
舞姫殿、どうか我等をお救い、お力になって下され!』
お殿様が私に向かって頭を下げると、周りの人達が一同に深々と頭を下げた。
『よし! 今宵は宴じゃ!』
どうしよ。
きっと殿様はじめ皆は期待しているんだろうな。
私の真の想いはこの力で未来に帰りたいだけなのに……。
その後、すぐに宴が始まった。
テレビで見た様に時代劇でよく見た光景と同じ。
まるで大河ドラマのワンシーンの様。
松明の灯りのみだが、それがとても幻想的に感じた。
松明の灯りを、日本古来の楽器と調べにのった音楽が彩る。
それに乗って、綺麗な着物を着た踊り子達が華やかに乱舞する。
男達はそれを観ながら、酒を飲んで会話に華が咲く。
とても優雅で綺麗……。
花月は警戒心が解けた途端に宴を満喫している。
ああやって、すぐに溶け込む事が出来るって凄いなぁ。
そしてあの美貌だ。
既に小山の家中の人達に大人気だ。
色々な座に行ってお酒を飲んでいる。
『さあ! 舞姫殿、こちらへ……。』
お殿様が私を呼んだ。
『あ、はい……。』
お殿様の前に行くと、ニコニコしながら私を見つめた。
流石、親子だけあって斑鳩と同じでキリッとした顔立ちをしている。
青い瞳も、どこか優しそうな雰囲気も斑鳩にそっくりだ。
前にも話したけど、斑鳩は普通に常人よりも綺麗な顔をしてる。
何て言うか、綺麗な顔立ちもさる事ながら、周りに流れる空気すら綺麗な人。
そしてその中に優しさがある。
斑鳩が気さくだから良かったけど、普通なら近寄り難い雰囲気だ。
きっと現代人だったならモテモテと言うか芸能人になってもおかしく無いんだろうな。
『まあ、一献……。』
『えっ!?』
これって、お酒!?
あ、あの、私は未成年なんですけど……。
『どうした? 酒は苦手か?』
『ちょ、ちょっと待ってて下さい!』
私は慌てて斑鳩の元へと向かった!
『い、斑鳩。
あの、まだ未成年だし飲んだ事も無いから……。』
『未成年?』
『そう、お酒は二十歳になってからじゃ無いと飲めないの。私まだ一七歳だし……。』
『ほう、舞姫殿の国にはそんな決まりがあるのか。』
『あはは……。き、聞こえてました? 私の国って言うか、何と言うか……。』
『サクラはもう小山の一員だ。
それに、ここにはその様な決まりは無い。
今日このめでたい日の父上の酒だ。どうか一献だけ……。』
もう、斑鳩~~! 助けてよ!
でも確か、例え親子でも上下関係が厳しい時代だったっけ。
私も当分、この小山にお世話になって助けて貰わないと生きて行けないし、ここでたった一杯のお酒で嫌われてもね。
仕方ないっ!
『では……。』
私はお殿様の前に戻り、注がれたお酒を一気に飲み干した。
『おおっ! 舞姫殿、なかなか行けるでは無いか! それ、もう一献!』
『は、はい……。』
って、これじゃただの晩酌に付き合って飲んでるだけじゃないっ!
一気に身体中が熱くなった。
こんな飲み物の何がいいの?
何かフラフラする……。
『誠に純粋で良い娘じゃな。良かったのう、若犬丸よ。』
『はい。父上……。』
えっ!?
ええっ!!
もう一度その名前を聞かせてっ!
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