〜破邪の剣の舞姫〜 時を越えて。11

『ちっ! これ以上は防ぎ切れないよっ! 数が多過ぎるっ!』


その間、花月は必死に戦ってくれていたが、ジリジリと後退して参道の入り口まで押されていた。




『花月っ!! 大丈夫!?』



その時、私と斑鳩は拝殿から出て来た。



『サクラっ!収穫はあったのかい!?』



『サクラ! 花月っ! こっちの裏手から逃げるぞ!

我等を必死で追って来た今なら、まだ敵も回り込んではいない筈だ!』



『ったく! 偉そうに!!』




裏手から丘を駆け下り逃げると、そこには誰かが待っていた!


そしてそこには三頭の馬が繋がれている。




『おおっ! 気が効くなっ!』



『二荒山の社に追手が行くのを見てましたので、密かにこの裏手で待っておりました。』



『流石だな!』



『はっ! 私どもは密かに落ち延びますので、この馬をお使い下さいませ。』



『分かった! くれぐれも気をつけてなっ!』



『はっ!』




馬なんて久しぶりだなぁ。


馬上での戦いの稽古で乗って以来だな。




『サクラ、馬には乗れるか?』



『うん。大丈夫よ。』



『花月は……聞くまでも無いか!』



『アンタねぇ、アタシを便利屋の何でも出来る奴程度にしか思って無いでしょ!』



『そう怒るな。信じているのだ!』



『はいはい。』



『よしっ! 逃げるぞっ!!』






それから一気に馬を掛け、私達は小山に戻って行った。



『斑鳩、さっき私達を襲って来た人達って一体誰なの?』



暫くして、小山の領内に入った所で聞いてみた。



私には襲われる理由も分からないし。



『ああ、帰ったら話すつもりだったのだがな。

あれは宇都宮の家中の者達だ。』



『宇都宮?? 何で私は宇都宮にも襲われないといけないの?』



『前にも言ったでしょ?

そりゃアンタが破邪の剣の舞姫だからさ。』



『その通りだ。

奴等も我等も常に敵の領内に間者を放っている。

だからサクラの事は小山で起こった出来事も全て知られているのだろうな。』



『だろうね。

宇都宮の街に入って直ぐに襲われたしね。

多分アタシ達が小山を出て宇都宮の街に入るのを待っていたんだろうね。』



『領内でも本拠地なら、確実に我等小山の者の邪魔も入らずに始末出来ると思っていたのだろうな。』




『だけど、あの時の宇都宮の武士達の言った言葉。』



『何か言っていたのか? 私は我武者羅だったから覚えておらんが。』



『確かに、私を逃すなと言っていた。』



『何?? 始末するのでは無く、逃すなと言っておったのか??』



『あのね、それにあの時に斬り掛かって来た武士は、皆んな刀を峰に返していたの。』



『そうだったのか?』



『それは間違い無く、私を殺さずに捕らえる気だった筈よ。』



『確かにな……。』



『うん。でも、小山の人達を導く存在の私を捕らえて、どうしようと言うの??』



『そりゃあ、アンタを捕らえて、小山の連中を揺すろうとしたんでしょ??』



『それだけなら、良いのだがな……。』



斑鳩は私の話を聞くと、顎に手を当てながら途端に何かを考えだした。



その姿を見て、私は少し不安になった。



破邪の剣の舞姫の存在って一体……。



『何か有るの??』



『いや、宇都宮とは長らく小競り合いをして来たが、これからは何が起こるか分からんな。

なんせ、ただの伝説と思われていた破邪の剣と舞姫が現れたのだ。

奴等も必死だろう……。

そして、宇都宮のその先にいるあの方が暗躍してなければ良いのだが……。』



斑鳩は何か不安そうな顔をしていた。



『あの方??』



『まあ、それは憶測に過ぎん……。

それよりも、もうすぐ迎えの者達が来るぞ。』



あの方って、誰の事なんだろう。



『しかし私……、この時代に来てから追われてばっかりだね。』




そう言うと、斑鳩は私を射抜く様な眼差しで見つめた。




『もう心配いらんよ……。

私が必ず守ってみせる。』



『う、うん……、有難う。』



こんな格好良い人に真剣な眼差しで守るなんて言われたから、ついドキッとしてしまった。



『それより斑鳩さぁ~~。そろそろ教えなさいよっ! アンタの正体を。』



『あ、ああ。屋敷に戻ったら話す。それに合わせたい人もおるしな。』



『ふ~~ん、まあ楽しみにしてますよ。』



それと斑鳩は、二荒山神社で自分の面がこれ以上露見したくないと言った。


そして部下らしい人も宇都宮まで来ていて、私達の馬を用意していてくれた。



この人もきっと何かある筈。





破邪の剣の舞姫か……。



私の意思に関係無く、私という存在が何かを大きく動かそうとしているのだけは分かった。


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