〜破邪の剣の舞姫〜 時を越えて。10

私と斑鳩は必死に追手の目を掻い潜り、二荒山神社の入り口に着いた。




『サクラっ!!』



『あっ! 花月っ!! 無事だったのね!』




良かった。花月も無事だった。



『アンタが無事で良かったよ。だけど直ぐに追手が来るわよっ!!

だから早く境内へ……って、そこのアンタは!』



『久しぶりだな、花月。』



『さてはアンタの差金ね!? よく宇都宮まで!』



『それは違うぞ! 私は心配でここまで来たのだ! 何でそこまで信用しないのか!』



『アンタの屋敷の見張りが尋常じゃないからよ! アンタ只者じゃ無いね? 一体何者?』



『ん、まーーその話はこの件が落ち着いたら、後でゆっくりとな……。それよりも早く境内へ!』





私達は長い階段を登って行った。



この階段は現代とそう変わらないな。



この先に、何か破邪の剣と舞姫の秘密が隠されてるかもしれない。





『いたぞっ!!』



振り向くと追手が階段の下に集まっていた!



『ちっ! ここはアタシと斑鳩で何とかする! アンタは早く社へ!』



『嫌、ここは花月に任す! 流石にこれ以上は敵に私の素性が分かってしまうかもしれん!』



『は、はあ? アンタ何なのよ!

あの人数をアタシ一人で??

それに、アンタとサクラを二人だけにはさせられないよ!』



『頼む! 私だと露見すればもっと多くの敵が来よう!

詳しくは後で話すから、ここは信じてくれ!

少しの間で良い、持ち堪えてくれ!』



『サクラっ! こいつはやっぱり何か有る!

信じちゃいけないよっ! それに逃げ道はこの階段しか無いでしょ!?』



『逃げ道なら裏手にも有る!

多分、奴等はまだ裏手にはまだ回って無いだろうし、そこには私の護衛もおる!

ここは曲げて頼む花月っ! 奴等にこれ以上、私だと露見する訳にはいかんのだ!』



『花月、多分斑鳩は大丈夫よ。命懸けで私を助けてくれたし。

それに斑鳩? 貴方きっと何か有るのね?

分かったわ、一緒に来て!

だからお願い花月、少しの間だけここをお願い!』



『……ったく、アンタって子は。

分かったわよ! 行きなさいっ! でもそんな長くは持ち堪えられ無いよ?

それに、早くしないとアンタの護衛とやらが居たとしても裏手まで回られる!』



『無理言ってごめんね。』



『全く、世話の焼ける子だよ。

でも退屈しなくて良いよ!』



『花月は無理をせずにじりじりと上へ後退してくれ!』



『ったく、何でアンタに命令されなきゃならないのさ。

まぁいいさ、とっとと行って早い事その破邪の剣の秘密を調べて来なっ!』




私と斑鳩は社に向かって、一気に駆け上がって行った。



花月、無理しないでね!





数え切れない程の石段を登りきると、そこには二荒山神社があった。



『さあ、サクラ。本殿に行くぞ!』



『でもちゃんと許可を貰わないと。』



『そんな悠長な事出来るかっ! 行くぞ!』



私と斑鳩は参道を走り抜け、強引に拝殿の中に入り本殿へ向かった。


途中で巫女さん達は大騒ぎになって、宮寺さんは腰を抜かして慌てふためいていた。



そりゃそうでしょうね。



抜刀した二人がいきなり入ってくるんだから。



ごめんなさいっ!



そして本殿の門を開ける。




その中は呼吸するのが苦しい位、重々しく神秘的な雰囲気で包まれていた。



何かこんな事してバチが当たりそう……。




神様、ごめんなさい。



そして、私は罰当たりに本殿の中を隈無く調べた。



『特に変わった物は無いな……。』



『そうね。後はあの祭壇位ね。

あの祭壇に何か有るのかな?』



『そうだな。近くに行ってみよう。』




近くまでよってみると、祭壇は質素な造りをしていて須賀神社と同じ様に中央に鏡が供えられていた。


そして、祭壇からある距離からは結界の中に入った様な感覚に包まれた。



結界の中には、何とも言えない神々しい雰囲気と言うのか、明らかに空気感が違うのが分かる。


神々しい雰囲気の中に、見えない何かがそこにいるのが分かる。



その瞬間、眩いばかりに剣の玉が光出した!



『えっ!? 何なのこれっ!?』


『ど、どうしたと言うのだサクラっ!』


『わ、私が聞きたいわよっ!』





次の瞬間だった。






えっ??






何かおかしい。




何が起こったの?





『斑鳩……?』




斑鳩の動きが止まっている……!




『ちょっ! い、斑鳩っ!

どうしたの!? しっかり!』



全く動かない。



動かないと言うか、まるで時が止まっている様だ。





『良く来たな、破邪の剣の舞姫よ……。』





誰っ?




『我は豊城入彦命なり……。』



えっ? 私の心を読んでるの?



須佐之男命と会った時と同じだ。




『そうだ。そして其方は我に会いたくて来たのだろう?』



はい。その前に、斑鳩はどうなったのですか?



『案ずるな。今、我の力でこの空間の時を止めているだけだ。』




時を止めてる……。



何て力なの。




『その破邪の剣の力に比べれば大した事では無い。』



やっぱり、この剣は破邪の剣なのですか?



『そうだ。破邪の剣は遥かなる昔に天野叢雲あめのむらくもと呼ばれていた。

天叢雲剣は須佐之男命がヤマタノオロチより取り出した霊剣。

須佐之男命は天叢雲剣を姉の天照大神に捧げたが、天照大神もその余りの霊力に、天叢雲剣を二つに分けた。

一つは天照大神の力を宿し、もう一つは須佐之男命の力を宿した。

その二振りをニニギノミコトが我が父に授けた。

我はその一振りを父から授かった。

そして我は、須佐之男命の力を宿した破邪の剣と、破邪の剣の舞姫と共にこの東国を鎮めた。

その後、再び東国の災いを鎮める為にやって来た、藤原秀郷にその霊剣を授けた。

そして藤原秀郷も破邪の剣の舞姫と共に東国を鎮めた。』



天叢雲剣?


ヤマタノオロチは聞いた事が有るけど…。



『オロチより出でし天叢雲剣を二つに分けた剣のもう一振りは草彅の剣くさなぎのつるぎと言う。』



『えっ!? 草彅の剣っ!?

あの三種の神器の一つでしょ?』

※草薙の剣、皇族に伝わる三種の神器の一つ。

※三種の神器、草薙の剣、八咫鏡やたのかがみ八尺瓊勾玉やさかにのまがたまから成る。現代においても皇位継承に必要な神器。



『そうだ草彅の剣は我が父、崇神の帝が持っていた二振りの内の天照大神の力を宿した剣だ。

そしてもう一振りが、其方の持っている須佐之男命の力を宿した破邪の剣だ。

そしてどちらの剣もその力は絶大だ。

草彅の剣はこの国の主になる力を、破邪の剣は災いを鎮める力が有る。

父は草薙の剣の力を持って、我は破邪の剣を持って大王おおおきみの父が描く平和な国の為、この東国を鎮めた。』

※大王、今でも言う天皇。天皇と言う呼称は天武天皇から始まったとされる。




そんなに凄い剣なんだ。



『そして我は破邪の剣の力を悪用されぬよう霊体となったこの身に、秀郷は巫女にしか解けぬ様に須賀の社に封印したのだ。』



やっぱり私が破邪の剣の舞姫……。



『そうだ。其方こそ破邪の剣の舞姫。

破邪の剣は然るべき時に、巫女の誠に思い願う事を叶え、災いを沈める。』




確かに斑鳩が言っていた事と同じだ。




でも、然るべき時って?




でも、何で私がこの時代に来て舞姫になったの?

それに私は未来に帰りたいっ! どうすれば良いの!?



『全ては、其方の誠に思うままに動けば道は開かれる。

そして其方はまず小山の地へ行くのだ……。

全てはそこから始まる。』



小山の地……。

小山の人達を導く為。



『そうだ。

そなたは全てを知り、全てを守る力を持っている。

だが、光在る所には闇が現れる。

其方には破邪の剣の舞姫としての使命、そして其方にしか出来ぬ事が有る……。

それを忘れるな。

そして巫女よ、全てを救えるのは其方次第だ。』





そう言い残すと、豊城入彦命は霧の様に消えてしまった。




『光と影??

それに私にしか出来ない事って!?

待って! まだ聞きたい事が!

私次第って……!?』




もう豊城入彦命声は聞こえなくなってしまった。




『サクラ、どうしたのだ??

突然剣が光出したと思ったら……。

それよりも時間が無い! 早く調べるぞ!』




突然、斑鳩に声をかけられた。




いつの間にか時間が元に戻ってる。




『……もう分かったわ。』



『な、何だと!?』



『さっき豊城入彦命が教えてくれた……。

この剣は破邪の剣で、私が須佐之男命の巫女、破邪の剣の舞姫だって。』



『この一瞬でな……。

きっと巫女にしかお会い出来ないのだろうな。

そして、やはり宮司殿の言葉に間違いは無かった。』



『そして、小山の地に行けと。

全ては言い伝えの通りね。』



『そうか。だが小山に何が有るのだろうな?』



『分からないけど、今は早く逃げないと!』



『そうだな! 急ごう!』




一体、私の身にこれから何が起こるのだろう。

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