〜破邪の剣の舞姫〜 時を越えて。7

そして、ようやく私達は宇都宮の街へと辿り着いた。



『ここが宇都宮の街……。』



私のいた時代の宇都宮の街とは全然違う。



遠くの小高い丘の上に、二荒山神社が見える。

※二荒山神社、栃木県宇都宮市の中心に有る神社。本殿は栃木県日光市に在る。



神社を中心に街が広がってる。



そして小山の様に人の往来も多い。



まあ、未来よりはとても小さい街で人も未来程いないけど。




『小山とは雰囲気が違うでしょ? ここは二荒山の社を中心に栄えた門前町だからね。』



『門前町?』



『寺や神社を中心に栄えた街の事だよ。』



『へぇ~~、そうなんだ。』



まあ、確かに未来でも街の中心には二荒山神社があったっけ。



『アンタの時代と変わらないかい?』



『うん。二荒山神社は同じだけど、でも未来とは全然違うよ。

もっともっと大きな街だった。』



『へぇ。そうなんだ。』



『確か四十万人以上は住んでいた筈だっけ?』



『よっ、四十万人っ!?

アンタねぇ、一体どこからそんなに人が湧いてくるんだい?

京の都よりも多いじゃないかい!』



『まあ、私のいた時代は戦争も無いし、食べ物も沢山有る時代だからね。

それに、馬よりももっと速い乗り物があるから、小山から宇都宮までなら半刻かからないで着くよ。』



『へぇ、未来ってのは凄いもんだねぇ……。

一度見てみたもんだ。

さっ、そんな話はともかく、さっさと二荒山の社に行くよ。』



驚いてみたものの、花月は意も返さない感じだった。


未来の話なんかより、私の事を一番に考えてくれているんだ。



本当に感謝しか無いよ。




『うん! そうねっ!』




私達は何処までも続いく、二荒山神社へと続く、長い大通りを歩いて行った。



小山の街と同じ様に活気に満ち溢れていた。


そして、街の人は皆んな裕福では無さそうな身なりをしているが、とても元気だ。


未来の人達とは明らかに違う。


未来よりも治安は凄く悪いかもしれないけど、未来と違って街行く人達が活き活きとしていて、それにコミュニケーションを取っていた。



私の眼には、まるで街が生きている様に映った。




『アンタ、そんなに街の雰囲気が珍しいのかい?』



『うん! 私のいた時代と全然違うんだもん!』



私も街の人達の活気を感じて、自然と活き活きとしてしまった。



『観光気分も程々にしなよ。

まあ仕方ないか……。

小山じゃ悠長に街を見ている暇も無かったしね。』



『ねえ! 花月見て!

あそこにお団子屋さんが有るよ!

良い匂い~~。

ちょっとだけ寄って行かない?』



『ったく、アンタって子は……。

おや? 本当だね。

良い焼団子の匂いだ事。』



『でしょ! ねぇ、行こうよ!』



『じゃあ二荒の社に行く前に、ちょいと腹ごしらえと行こうかねぇ!』



まぁ、お団子の匂いは私が食いしん坊だって言うのも有るけど……。



それ以上に、一度でも良いから、街を歩いて友達とこんな事してみたかった。



この時代に来て、花月に出逢ってから初めて自由になれた気がした。




そして花月の手を引っ張って、お団子屋へと向かった。



『ん~~! 美味っしい!!』




穏やかな気候。


晴れ渡る青い空の真下。


お店の軒下の長椅子に、友達と二人で腰を掛けて、食べる美味しいお団子は格別だった。



『確かにこりゃ美味いねぇ。

これをいち早く嗅ぎ分けて見つけ出すとは。

さすがサクラだねぇ。』



『あ、あはは。

私、お団子好きだから。』



『団子だけじゃ無いでしょ。

あんな正体も分からない斑鳩の前でお腹鳴らすなんて恐れ入るよ。』




そう言えば、斑鳩は今頃どうしてるだろう。


結局の所、あの人は何者だったのかな。




『ほら、サクラ。

アンタ口元に団子がついてるよ。』



そう言って花月は私の口元についていたお団子のかけらを取ってくれた。



『あ、あはは。これじゃ私って本当に食いしん坊……。』




あれ?



気のせいかな?



何か気配を感じる。



私達を誰かが見ている様な。




『ね、ねえ、花月……。何か感じない?』



『ああ、アンタ流石だね。

アタシも今感じたよ。

良いかい? 気が付いて無いふりをしな。』



『う、うん…。』




そう言うと、花月は急ぎ勘定を済ます。



しかし、ここまで来たのに誰が私達を……。




まさか、宇都宮まで来て小山の武士達が?



『さっ、取り敢えず店を出るよ。』



私達は何食わぬ顔で二荒山神社の方角へ歩いて行く。



先は十字路になっていた。




『どうやら、相当数が多そうだね。

これじゃ分が悪いね……。

ここはひとまず二手に分かれるよ。

落ち合う場所は二荒山の社、いいね??』




『わ、分かった! 気をつけてね、花月。』



『アタシはアンタの方が心配だよ。

良いかい? 絶対に無茶するんじゃ無いよ!』



『分かったわ。』



『……いいかい? 行くよ!!』




私達は二手に分かれて一斉に走り出した!




『逃げたぞ!追えっ!!』



追手が一気に動き出す!




花月、どうか無事でいてね!




私は追手を振りほどく為に、街の中を右に左に縫う様に必死に走った。



早くあそこに見える二荒山神社に行かないと!




『いたぞ! あそこだっ!!』




『あーーっ! もうっ!!』


何で宇都宮に来ても追われる事になるの?


しかし私って、この時代に来てから追われてばかり。




『ったくもーーっ! しつこいなぁ!』



私は半ばやけくそになって走っていた。




『……こっちだ!!』


何処からか小さく声が聞こえる。




えっ? 誰??



『早くしろ!』



声の方へと急いで向かった。

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