〜破邪の剣の舞姫〜 時を越えて。8

 


『追え~! こっちに行ったぞぉ~~!』



私は橋の下に隠れて何を逃れた。



『ふぅ~~……。』



何とか追手を巻いたが、助けてくれた人は傘を被って誰なのか分からない。



『あ、あの、有難う御座います……。』



恐る恐る声を掛けてみた。



『無事で良かった。サクラ……。』



すると傘を取ると、とっても見覚えのある顔が出て来た。



『えぇ!? いっ、斑鳩ぁ~~っ!?』



『しいっ!! 声が大きいっ!!

ったく、お前と花月ときたら……。

そんなに私が信用出来ぬか?』



『あ、あはは……。』



『ったく。』


斑鳩はとても悲しそうな顔をしていた。



『あ、あの。

ごめんなさい……。』



『もう良い。ともかく何故ここの宇都宮の地に来たのだ?』



『二荒山神社に何かこの破邪の剣の手掛かりが有るかもって思って。』



『……何故そんな事を知っている。』



『花月が教えてくれたの。

花月は私の話を聞くと、私は破邪の剣の舞姫に間違い無いって。

そしてこの剣が破邪の剣だって。

だから、ここで願いを叶える秘密も分かるかもって。

でも本当に花月の言う様に、この剣が破邪の剣で、私が破邪の剣の舞姫なの??』



『……古い言い伝えだ。』


斑鳩は真剣な眼差しで語り出した。



『え??』



『思川桜が舞う頃、光より出でし異界の巫女、須賀の社より光輝く霊剣を呼び覚まし、光輝く衣を纏い、巫女の心より思い願う事をその霊剣により叶え、小山の地の者達と巫女の思う者達を導き、全てを救わん。

その者、須佐之男命が巫女、破邪の剣の舞姫なり!』


そんな言い伝えなんて、私の時代には残ってもいない。


きっと、文書にも残ってない口伝の言い伝えなのだろう。




『とな……。

宮司殿も申していたが、サクラは間違い無くあの伝説の破邪の剣の舞姫だ。』



『思川桜が舞う頃、光より出でし異界の巫女……。』



『サクラも思川桜が舞うこの時期に、光より出でし異界の者であろう?

それに須賀の社で光輝く剣と衣を手に入れた。』



『斑鳩、何でそんな事まで知ってるの?

それに宮司さんと知り合いなの??』



『話しは後だ! 先ずは二荒山の社に行くぞ! 必ず何か手掛かりが有る筈だ!』



『待って!』



私はどうしても斑鳩に聞きたい事があった。




『どうしたのだ!?』



『斑鳩も小山の武士でしょ??

やっぱり、あなたも破邪の剣の力が欲しくて……。』



『……破邪の剣の力など関係無く、私はいつでもサクラの味方だ。

それに、確かに小山の者達も破邪の剣の力は求めているが、お前達が考えてる様に自分達の都合の良い様に利用する者など一人も居らぬ。』




斑鳩は私の方を振り向かずに呟いた。




『あっ……。

そ、その。ごめんなさい……。』




斑鳩は初めから、そんなつもりでは無いんだ。


疑ってごめんなさい。




『さっ! 早く行くぞ!!』



『う、うんっ!』



『もう二度とこんな事はするな……。』



斑鳩は子供の様に拗ねた顔をした。



その表情は、綺麗な顔が台無しだった。



この人、こんな顔するんだ。



『……あはは!』



思わず笑ってしまった。




『疑ってごめんって!! 私が悪かったわ!』



『ならば良いが……。』



『斑鳩、あなたってそんな風に子供の様に拗ねた顔するのね。』



『う、うるさい!』



私は、斑鳩の照れる顔を見て、また笑みが溢れてしまった。





『いたぞぉぉ~!!』




しまった! 見つかってしまった!!




『ちっ! サクラっ! 走るぞ!!』



『う、うんっ!』




私と斑鳩は追手から必死で逃げた。





『こっちだぁーー!!』



『逃すなぁーー!!』



気がつくと、私達は細い裏通りらしき所に逃げて来た。



『し、しまった! 袋小路だ!!』



四方から私達を探す声が聞こえる。


このままだと逃げ道が無くなる。



『これでは不味いな。

いずれ見つかり退路を断たれてしまうだろうな……。』



『ど、どうするの!?』



『この塀を乗り越えるしか無いっ!』



確かにこの位の塀なら何とか登れそう。




その時だった!




『いたぞーーっ!』




しまった!



敵はみるみる内に袋小路の出口を取り囲んだ。



『ちっ!! サクラ、私が敵を引き付けている間に早く壁を登るのだ!』



『で、でも、あの人数相手に一人じゃ勝ち目は無いよ!』



『しかし、最早これしか手立ては無いっ!

サクラ、私に構わず早く行けっ!!』



『ダメ! やっぱり斑鳩を置いていけないよ!

このままじゃ、死んじゃうよ!!』



『良いから、私に構わず早く行くのだっ!』



『絶対に嫌よっ!

何が何でも私は一人で逃げないよっ!!』



斑鳩一人を置いて行くなんて、私には出来ない!


私は真っ直ぐに斑鳩の瞳を見つめた。



『……ったく、頑固な奴だな。

仕方ない、では私が一気に正面から斬り込んで行く。

不意を突かれた敵は一瞬怯むだろう。

その隙に敵の中を駆け抜けるのだ。

私も直ぐにサクラの後を追うから、なるべく細い道を選んで駆けるのだ。

細い道なら敵も一人ずつしか攻めては来れぬから、我等も対等に戦えるからな。

……良いな??』



『分かったわ。』



『よしっ!それでは三つ数えたら行くぞ!

一……二……三っ!!』




斑鳩は敵の不意を突く様に駆け出し、抜刀して敵に斬りかかった!

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