〜遥かなる旅立ち〜 導かれし少女。3
気がつくと、いつの間にか黄昏時になっていた。
※黄昏時、夕刻。日が沈む時間帯。
『しっかし隆っ!この子達に感謝しなさいよ!』
『はは。君達、有難うね。』
『お兄ちゃん弱ぁ~~い。』
『お兄ちゃん弱ぁ~~い。』
子供達の顔を見て、隆はバツの悪い顔をして頭を掻いていた。
『ねえっ!
サクラ、隆! それよりも二人共見てよっ!
ここが本丸跡だって~~!』
『でも何も無いわね。』
『でも見てサクラ! あそこから
皆で本丸跡から思川を眺めた。
『夕日が河を照らして綺麗ねぇ~~!』
『橋も夕陽に照らされて綺麗だね。』
『本当ね……。』
この小山の地の真ん中を南北に流れる思川。
思いを乗せて流れる河。
サクラはこの河の名前が大好きだった。
『しかし、授業であった様に本当にこんな所にお城が在ったなんて実感湧かないね~~。』
『うん……。』
サクラは此処に来るまでとは違い、そう言った自分に何故か違和感を感じていた。
『(何故だろう……。)』
それに初めて来た筈なのに、何故か懐かしささえも感じている。
『サクラ? どーーしたの?』
『どうしたんだい?』
『えっ? あ、うん。何でも無いわ。』
ハッと我に返るサクラ。
『ねえねえ! 僕達と遊ぼうよ~~!』
『遊ぼうよ!』
『だ~~め。
アンタ達、もう夕方だから子供は帰る時間よ!』
『はーーい。』
『はーーい。』
『二人共、素直で良しっ! 後でいっぱい遊んであげるからね。』
こういう事は華子が一番しっかりしてる。
『それじゃ私、二人をお姉ちゃん家に送ってから帰るわ。
さっ二人共、お母さんの所に帰ろうっか。』
優しい顔で子供達の頭を撫でるサクラ。
『あっ! サクラ!』
その時、遠くからサクラを呼ぶ声が聞こえた。
『あっ、お姉ちゃん。』
『もう。この子達、公園に連れて来たらちょっと目を離した隙に何処かへ行っちゃってたから探してたのよ。
サクラ達が一緒でホッとしたわ。』
サクラには十歳年上の姉がいる。
名を冬花(とうか)と言う。
サクラが中学生になる前の頃に駆け落ちして家を出て行った。
それ以来、両親に勘当されていた。
『お父さんとお母さんは元気……?』
『うん。相変わらず……。』
『そう……。私のせいで昔からサクラには辛い思いをさせて来たね……。』
『もうお姉ちゃん、会う度にいっつも決まってそのセリフを言うよね?
私は大丈夫だから、気にしないで。』
『だって、私のワガママのお陰でお父さんもお母さんもサクラにより一層期待してる筈よ。
今の私はサクラを犠牲にした上に成り立っているのだもの。』
『でもお姉ちゃんは旦那さんとの道を決して譲れなかったんでしょ?
それに私はお姉ちゃんのその真っ直ぐな所が大好きなの。』
『有難う。サクラ……。』
冬花はその言葉に涙が溢れそうになっていた。
『ほらっ! お姉ちゃん涙ぐまないの。
また時間がある時に、お姉ちゃん家に遊びに行くわ。』
『うん、いつでも遊びに来て。
そして何か有ったら相談してね。
何でも力になるから。』
『うん。』
『隆も華子ちゃんも、サクラの事を宜しくね。』
『お姉さん、アタシはずっとサクラの側を離れないから安心して下さいね!』
『冬花姉ちゃん! 冬花姉ちゃんの分まで僕がサクラの事を守ります!』
『アンタは弱っちいの直してからその台詞を言いなさいってば。』
『華子だって、そんなにいつもサクラにベッタリだとサクラに嫌われちゃうかもよ?』
『あんだってぇ~~!!』
『い、いてて! 華子、止めてよ……。』
二人の姿を見て自然と笑顔になるサクラと冬花。
『……サクラ、本当に良い友達と巡り会えたのね。』
『うん。私の大切な大切な仲間。』
『それとサクラ……。』
『何? お姉ちゃん。』
冬花は、真剣で悲しさに満ちた顔でサクラを見つめた。
『この先にどんな事が待ち受けていても、どんなに辛い事が待ち受けていても、何が有っても決して諦めちゃ駄目よ……。』
『どうしたの? お姉ちゃん……。』
『いい? 決して諦めちゃ駄目よ……。
サクラ、貴女の宿命の歯車は間もなく廻り出すわ。』
『……お、お姉ちゃん?』
何処か悲しそうな表情の冬花は、そう言い残して子供達と一緒に帰って行った。
『あれ? 冬花姉ちゃん帰っちゃったんだ。』
『何だぁ~~。もっと話したかったのになぁ。』
『今度皆んなでお姉ちゃん家に遊びに行きましょ。
きっと喜ぶわ。』
『かぁ~~ごめ~かぁごぉ~~めぇ~~。』
三人は冬花と、歌いながら冬花と手を繋いで帰る子供達を見送った。
『きっと冬花さん、サクラに負い目を感じてるんだね。本当は自分が継ぐ筈の家をサクラに押し付けたみたいに思ってるんだろうね。』
『冬花姉ちゃんは優しい人だから、きっとこの先もそう感じてしまうんだろうね。』
『でも、宿命って……。
一体どうしたんだろ? お姉ちゃん……。』
『あっ!! 』
『急にどうしたの??
びっくりしたなぁ。』
『ねぇサクラ、あそこ見て!』
華子が指差す向こうには見事な紅い橋が架かっていた。
『真っ紅な橋だねぇ。 こんな所に一つだけ……。
一体何なんだろうね?』
『サクラ、隆!ちょっと行ってみましょ?』
三人は紅い橋へと向かった。
そして三人が、紅い橋の目の前に着いた時だった。
ドクンっ!
『(えっ?)』
ドクン!!
サクラの心臓が激しく鼓動する。
『(な、何……。この感じ。)』
目を閉じて自分の胸に手を当てる。
『(でも、何故か懐かしい……。)』
何かが自分の中に流れて来るのを感じた。
そしてサクラは、眼を開いて紅い橋の先を見つめた。
『あ、あれは、一体何なの……。』
見つめた先の紅い橋の向こう側が、公園では無く真っ暗な闇に見えた。
目を擦ってもう一度見てみると、紅い橋の先は公園の景色に戻っていた。
『(私、体調悪いのかな?)』
『サクラ?』
『どーしたの? サクラ??』
『う、ううん。
なんでも無い。さっ! 早く帰ろうよ!!』
得体の知れない物に怖くなったサクラは、急いで二人の手を取って振り返ったその時。
ドクンっ!
また心臓が大きく鼓動する。
恐る恐る紅い橋の方へ振り返ると、紅い橋の先がまた真っ暗な闇になっている。
『(そう言えば、黄昏時って黄泉の国との境目が無くなる時間って話聞いた事あるわ……。)』
『サクラ?? アンタ大丈夫??』
『どうしたんだいサクラ??』
『二人共……。』
『何? サクラ??』
『黄昏時は、黄泉の国との境目が無くなるのよね……。』
『ホントにどうしたの?サクラ。』
サクラはそのまま何かに導かれる様に、紅い橋の真っ暗な闇へ向かう。
そして紅い橋に足を乗せた瞬間だった。
ふと自分の手を見ると、自分が半透明に透けるのが見えて、途端に我に返った。
『ええっ!? な、何なのこれ……。』
『どうしたの?サクラ。』
華子の声で呼び戻される様に、気がつくと元に戻っている。
紅い橋の先の闇も消えて、元の公園に戻っていた。
『あ、あはは……!
私、どうしたのかな。』
『はぁ~~ん。さてはさっきの冬花さんの事が気になって仕方ないんでしょ?』
『サクラ、冬花姉ちゃんならきっと大丈夫だよ。』
『そうよ、サクラがそんな風じゃ冬花さんが悲しむわよ?』
『ち、違うわよ! 今、自分が半透明に……。橋の先が……!』
『はあ? 何言ってんのさ??
アンタさっきから急に何か変だよ。
体調でも悪いのかい? それなら早く帰って休みなよ。』
『う、うん……。
そうね、私どうしたんだろ……。』
そして今日も黄昏が闇に変わって行く……。
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