〜遥かなる旅立ち〜 導かれし少女。1
春の気候も麗かな、ある日の事。
卒業式を無事に終えて、生徒達を送り出した学校は、また平穏な日常を取り戻していた。
少し前まで、満開に咲き誇りっていた桜並木も役目を終えた様に、花びら達を風に乗せて美しくも儚く舞い散らせていた。
その光景を、ぼんやりと二階の教室の窓から眺めている一人の少女がいた。
その瞳は無気力で、全てを諦めているかの様だ。
少女の名前は
彼女はセーラー服姿にキリッとした大きな瞳で、どこか品の有る紫がかった長い髪の前髪を中分けにして、トレードマークの真っ赤な大きなリボンでポニーテールに結んでいてる。
高校二年生になったばかりだ。
サクラの家は代々続く名門の武道の道場。
家の為、両親が決めた人と結婚し、子をもうけ、その子供が家を継ぐ。
両親も祖父母の、その両親もそうやって来た。
それが家のしきたり。
自分の意思など関係無い。
全ては家の為。
自分には決められた未来を歩むだけしか無い。
だからサクラには自分の未来と言う物に興味を持つ事が出来ずに、無気力感が日に日に強くなるばかりだった。
『如月~~。今日も校庭にはイケメンがいるのかぁ~~?』
コツン!
先生に軽く教科書で頭を叩かれた。
『あっ、先生……。』
『毎日毎日飽きないなぁ~~。そんなにイケメンか?』
『あ、あはは……。』
『『『あははははは~~っ!!!』』』
クラスメイト達が大爆笑した。
『おいっ、如月ぃ~~? そんなにカッコいい奴なのか~~??』
『サクラぁ~~! 私も見たいわ!』
サクラは笑うクラスメイト達を見ながら、ポツンと一人だけ何かに遮断された様な感覚になった。
『(私も皆んなみたいだったら良いのにな……。)』
『こらっ! お前達静かにしろっ!』
キィーーンコォーーンカァーーンコォーーン……。
『何だ、もうチャイムか……。
いいか! 今日の授業はテストに出るからなっ!!』
『げげっ!』
『マジかよ~~!』
『それと如月。この後、指導室に来る様に!』
『起立! 礼っ!』
そして放課後、サクラは指導室に向かった。
『……先生、如月です。入ります。』
ボーーっとした表情で入るサクラ。
『待ってたぞ、如月。最近どうしたんだ??
何か有ったのか?』
『……いえ。』
『お前は一年の時からそんな感じだったが、二年生になってから一段と元気が無いぞ?』
『そうですね。でも何でも無いので大丈夫です。』
『成績も悪くないし、特に問題は無いのだがな? 何か有るのなら相談しろよ。』
『はい……。
でも本当に大丈夫ですから。』
『うん、なら良いが……。
気を付けて帰れよ。』
『……。』
『どうした? 如月。』
『先生。私って、一体何なのですかね……。』
『何だ?? やっぱり何か有るのか??
俺はお前の担任だ、力になるぞ。』
『な、何でも有りませんから大丈夫です!
失礼しますっ!!』
『お、おいっ! 如月っ!』
サクラはそのまま走る様に指導室を出て行った。
そのまま浮かない顔で下校して誰もいない廊下を昇降口へ向かって走って行った。
『(私の未来って一体何なんだろ……。)』
そして、気持ちに押し潰されてしまい、下駄箱に背をついて俯いてしまった。
『私って何なの?? 誰か教えてよっ!!
全ては私の意思では決める事は出来ない……。
でも自分じゃ抗う事も出来ない。
じゃあ、何故私の意識は存在するの!?』
その時、ポンポンと優しくサクラは肩を叩かれた。
『よっ! サクラ。どーーしたんだい?』
『あっ。
華子はサクラの親友だ。
活発な性格でサクラとは真逆なタイプだが、何故か妙に馬が合う。
『ったく、昼間の授業の事で何か言われたんでしょ?
そんな事、気にするなって。』
そう言って笑顔でサクラ見つめた。
華子はサクラの気持ちを良く分かっている。
授業の事で悩んでる訳では無いと。
それを敢えて聞かないのは華子の優しさだ。
サクラもそれを理解している。
『うん……。ごめんね華子。
でもこんな時間まで待っててくれたの?』
『ったり前でしょ!?
アタシがサクラを置いて帰る訳ないでしょーーが!』
その言葉を聞いて、涙を流して華子にしがみつサクラの頭を撫でて気を落ち着かせようとする。
『ったく、ほらほら。アタシはいつまでもアンタの側にいるから。
さっ、一緒に帰ろうよ。』
『うんっ。』
『サクラ、そーー言えばさ、
『うん。確か今日は塾が有る日だから、先に帰ってる筈よ?』
『アイツ、いつもサクラの事を守るって言ってる癖に、肝心な時はいないのねぇ。』
『仕方ないよ。』
隆とはサクラの幼なじみ。
体格も華奢で典型的なガリ勉。
学校でも良くイジメられてる。
昔っから、その都度サクラが助けている。
『ったく、隆にも困ったもんだね。
隆が付き纏うお陰で、学校じゃサクラの彼氏だと思われているよ?』
『誰にそう思われていても構わないわ。
それとも華子は隆くんの事嫌いなの?』
『そんな訳無いじゃん!
アイツ、いーー奴だしね。』
『そうね。』
『アタシさぁ、思うんだよね。
何て言えば良いのかな? 三人でいるのが当たり前って言うか……。』
『私もそう思う。』
サクラも華子と同じく不思議と昔からその感覚が有った。
『ちょ、ちょっと待ってよーー!』
二人が昇降口を出ようとしていた時、誰かに背後から声を掛けられた。
サクラと華子はその声に振り向いた。
一人の男の子が慌てて二人を追いかけて来る。
『えっ? ど、どうしたの??』
『隆、アンタ塾じゃ無かったの??』
慌てて駆け寄る隆。
『はあ、はあ。
サクラが呼び出されたから、心配で塾になんて行ってられないよ!
だから待ってたのに勝手に二人で帰らないでよぉーー。』
『アンタ、たまにはやるわねっ!
見直したわよっ!』
『えへへ。華子がほめるなんて珍しいね。』
『ねえ、私なんかの為に大丈夫なの??』
『サクラ! 私なんかの為なんて言わないでよ!
僕はサクラが大切だからだよ!』
その言葉にサクラはまた涙ぐんでしまった。
『有難う……。』
『ほーーら、またサクラが泣いちゃったじゃ無いの。』
『ええっ!?』
『うんん、大丈夫。
私は本当に嬉しいの。
こんなに大切にしてくれる友達が側にいて。』
そう言ってサクラは涙を拭いて満面の笑みで顔を上げた。
そしてサクラは願った。
三人で居るこんな時間がいつまでも続けばと。
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