第1話 何時もの日常
人の感情とは脳内の電気信号のパターンと脳内物質の生成具合で変わるって誰か言ってたけど、それって本当なのかな?
春の陽気が残る昼下がり。東京都立、
「心理学とは奥深い……」
表紙に惹かれて試したがコレは良いな。タイトルにおニャン子と銘打っているが中身はしっかりしているようで、人心掌握中を事細かく説明している。その掌握術も心理学も織り交ぜてやっているようで結構面白いな。
ペラペラとページをめくり読み進めているとふと頬に春風が撫でた。
はて、窓は開いてないはずだが?
疑問に思い窓側へと目を向けると少しばかり開かれ、涼しい風が吹き込んでいるのが見えた。恐らく誰かが開けたんだろう。花粉症の俺にとってはちょっとだけ地獄だね。何て考えながら窓の外を眺めると満点の青空が出迎える。うむ、今日も晴天なり。
うんうんと頷いていると突如視界から青空が消えてしまう。? 青い綺麗な空はどこぞ?
「何見てんだよ根暗、こっち見んじゃね!」
なるほど見えなくなった理由は丁度窓側で屯していた生徒の仕業だったのか。コレは失敬失敬。
手元の本へと目線を戻す。その態度に何か思ったのか『ッチ』っと舌打ちの音も聞こえたがどうでも良い事と言える。
しかし酷い人だな。ただ人がぼぉーっと窓の外を見ながら考え事をしているだけだったのに意味もなく罵倒を飛ばしてくるとは酷い人だ。確かに俺は今年、この学校へと転入してきた田舎者だ。だからって根暗と悪口を叩く必要もないだろうに。東京の人は気が短いのか? 俺のようにただぼぉーっと綺麗な青空を観察して、不思議な形の雲を探した方が暴言よりもよっぽどマシな行為だろうに。
教室にいるクラスメイト達も彼の暴言に何か思っているのかチラチラとこちらを伺って来るが特に何もすることは無かった。それもそのはず、暴言を飛ばしてきたあの男子生徒。名を
「おい良川! 昨日の俺が映ったテレビ見たか? 見たよな?」
「お、おう見たゾ。豪大君かっこよく映ってたゾ」
「だよなぁ~俺ってばカッコイイよなぁ」
「だ、だゾ」
「だが酷いよな、テレビ局には俺の姿をもっと映してくれって頼んでいたはずなのにちょこっとしか映らなかったんだから……テレビを見る視聴者にもっと俺のカッコイイ姿を拝んで欲しかったぜ」
昨日SNSで話題になったぶちゃいく顔ドアップ事件の当事者は君だったのか……アレでネットが大炎上して大盛り上がりだったんだから次から止めて欲しい。
その後も自身の映った事を自慢げに語る彼だが――――しかし心配だ。傲慢を字で書いたような人物にそんな財閥を率いる能力が存在するのか否か――――まぁ、個人的には人々を率いるカリスマは確かに存在するが導く能力が存在しないように見えるがね。少しばかり、俺の体感で空気の悪くなった教室。そんな空気の中にも気にしない者もいるわけで―――
「やっほ牡丹餅君。元気してる?」
俺の肩を叩く人物へと目を向けるとそこには女子生徒がいた。
ショートヘアーを好み、ボーイッシュな言動とその可憐さで学校一有名で彼女にしたいランキング現3位の強者、
転校生である俺が何故そのような人物と縁があるのかは深海よりも深い理由があるが、それは後回しだ。
「今日も牡丹餅してるねぇ~、偶にはずんだ餅になる気はない?」
「ずんだ餅になる気も無いし牡丹餅とは何だ牡丹餅とは」
ってい、と本を閉じでそれでチョップするがスルリと軽く避けられる。ッチ、女子バスケのエース選手として所属しているだけに無駄にすばしっこいな。
「だって君の名前確か黒餅ヒロト君でしょ?」
そ俺の名前は黒井ヒロトだ。もし何か食べ物に例えるならゴマ煎餅が妥当だろう」
「突っかかるとこそこ? それに何故ゴマ煎餅……」
「単純に好物だからだ」
唯一友人と表していい人物との会話を大いに楽い。少々周りからの嫉妬に塗れた視線が気になるがそれはいつもの事なので気にしない事にする。
「へぇ~好物なんだ……今度差し入れに持ってこようか?」
「それはも―――いやいやいや、お前に借りを作ると利子が凄い事になるので遠慮しておく」
「ッチ、せっかく高級お菓子を差し入れして私の頼みを断り辛くしようと思ったのに」
「っは! 俺がそのような幼稚な策に引っ掛かると思った―――」
「―――はぁ、仕方ない。ならこの持って来た猫と和解できる本もいらないって事だね」―――是非とも頂戴しようかその煎餅とやらを!」
「毎度アリー」
人生17年、一度達とも猫になつかれた事のない俺。だがそれは猫好きの俺にとっては拷問に等しい! だからそれを改善できるチャンス、逃す訳にはいかない。
本を受け取り、利子なんんてないさぁ~なんて考えていると何やら空気が更に悪くなっているのを感じる。それと同時に鋭く差す様な視線を感じその方向へと目を向けると豪大士の姿が。
「おいおい姫川ぁ~、そんな田舎者の根暗野郎と絡むよりも俺達と一緒に過ごさないか?」
ニヤニヤと下品な笑いを浮かべながら何とも下心丸見えなお誘いの言葉。本来ならそんな雑な誘いだろうと普通のクラスメイトならば逆らえないが、彼女は違う。
「え、普通に嫌なんだけど」
彼女は早い話、姫川家と呼ばれる由緒ある家のご息女だ。政治界に絶大なる影響力を保有し、如何なる状況だろうと日本を裏から操り権力を掌握しているとまで言われている家の者なもんで豪大士に逆らう事が出来る数少ない人物だったりする。
「そんな事いわずな。いいだろ少しぐらい―――」
「うっわ、余りの気持ち悪さに鳥肌が立って来たよ」
豪大士は分かっているんだろうか。彼女の有する影響力の大きさを。例え大企業だろうとそのような家を敵に回せば立ち行かなるって事を……まぁ彼の場合分かって無さそうではあるけど。
姫川は俺へと一言、今日の放課後は待たなくても問題ないと告げると早々と豪大から逃げるように自分のクラスへと去ってしまった。そして残されたのは
「調子に乗るなよ田舎者、日陰者の貴様が姫川とつるむなんてあってはいけない事なのだから」
こちらを全力で睨みつける豪大の眼光と、嫉妬と同情を含んだクラスメイト達からの目線のだけであった。予鈴、早く鳴らないかな?
※※※
学校の終わり、バイトも終わり体に疲労が残りながら夕日の沈み夜空の広がるした歩く帰り道。電柱の街頭を頼りに俺は人の気配を感じない道を進んでゆく。
ある理由で俺は1人暮らしをしていて、その家は学校から1時間ほど歩いた距離の場所にある。まぁまぁ距離を歩くために何時も足はパンパン。しかし今日は妙に静かだな、人気のない住宅街とはいえここまで人の気配を感じ取れないのは初めてだぞ。
「なんだか、変な夜だな」
疑問に思いながらもズンズンと進む。いつも道理の景色が広がり、疲労によって足も限界を迎え始めた時。
「ん?」
奇妙なモノを発見してた。
疑問に思いそれを手に取る。それは―――腕輪の様なものだった。
電柱の街頭に照らし見えてくるには赤さびだらけの腕輪。元は銀色だった赤さびの間に見せる色は綺麗で分かりずらいが宝石もはめ込まれてた痕跡も残っている。
恐らくは相当に古い装飾品なんだろう、素人である俺が触っただけでそう確信できるほど劣化の進んだそれは明らかにアンティーク通り越して鉄くずに限りなく近いガラクタに見える。だが、そんなものさっさと捨ててしまえばいいのに俺は、何故が何処かは分からないが惹かれるものを感じていた。不思議に思いながらその腕を隅々まで触り、俺は身に着ける。
「……何やってんだろうか、俺は」
何となく輪に腕を通してみたが、何とバカバカしい。身に着けるならこのような古いモノでなくても雑貨屋なんかにもっとマシなモノがあるのに何とバカな事をしていたんだ俺は―――
「―――は?」
――――突如としいて視界全体が暗闇に包まれ、意味も分からず意識を消失させるのであった。
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