平凡モブと歩む暗闇の冒険劇 ~平凡は非凡を超えられないから工夫するのだ!~

錆びたがらくたさん

第0話プロローグ

「指示を、マイマスター」


 暗い光も届かぬ闇が包む町の中。一組の男女が行動を共にする。

 マスターと呼ばれる黒髪で学生服の少年にサイズの合っていないブカブカの赤いコートを羽織る髪を二つ結び―――世に言うツインテールにした可憐な少女は跪いて彼の命令オーダーを待ち続ける。

 そしてその彼は言うと彼女の先の光景へと目を向け続けていた。

 見つめる先には緑色の肌に不自然なまでに巨大化した顔、小柄の子供のような大きさで一体一体はさほど脅威ではない。しかしその無限とも言われる圧倒的な数により、相手を圧倒してくる戦い方を得意とする決して油断ならない異形の者、ゴブリンと呼ばれる魔物の軍団が迫って来ていた。

 その集団からは濃厚な殺気が無数にも彼と彼女に浴びせられるが跪いた彼女は微動だにせず彼の指示を待ち続ける。

 彼の見つめる中、集団がもう眼の先と言うタイミングで彼は一言。


「蹂躙だ、ヘルメス」


 彼女の求める答えを口にする。


「―――承知しました」


 ニヤっと不気味な笑みを浮かべながら顔をあげた瞬間、何かの爆発音と共に目の先まで迫っていた集団は大量の血液を散らしながら屍となり、死んだ。

 いつの間にか彼女の手には銀色の拳銃が握られており、地面には空薬莢が転がっている。それはまさに刹那の一撃。彼の瞬きよりも速いその一撃は、彼のオーダー通りの蹂躙を行っていた。たった一発の弾丸がゴブリンたちへと牙を剥き、抵抗させることも無く容赦なく軍団の命を刈り取り物言わぬ屍と変化させた。そして彼らの散らす返り血は口元から出る紫色の血とは違い真っ赤に染まっている。その量は尋常ではなく、まるで雨の如く彼らの周りへ降りかかった。しかし、不自然事にその血は彼へは一滴も落ちる事は無く地面と跪いた彼女と地面を真っ赤に染めてゆくばかり。


「それではマスター、ご武運を」


「早く帰って来てくれよ」


 一、二言言葉を交わすと彼女は更に数を増して彼らへと迫って来る集団へと拳銃片手に突撃して行く。先ほどまで青かった色が真っ赤に変色した髪を揺らし、まるでお散歩に行くかの如き雰囲気を醸し出しながら走って行ってしまった。

 そして彼はその光景を見て一言。


「……コートのクリーニング、経費で落ちるかな?」


 なーんて呟きながら身に着ける十字の刻まれた真っ赤な腕輪を無意識に触ってしまうのであった。


 ※※※


 誰かがか言った、世界とは表裏一体である。

 普段過ごす表の面と異形の者達が過ごす裏の面。仮に表面をリアルワールド、裏面をリバースワールドと仮定するならばこの場所はその間、表と裏を繋ぐ境界線、ボーダーワールドと呼ばれる空間だ。リアルリバースの相互に受けていて極めて常に変化し続ける不安定な異空間。そんな危険地帯でクリーリングの心配をしてる場違いな人間を他所に彼女は戦う。


「バレットセット、ショットッ!」


 右手で操る拳銃から発射される弾丸は途中から無数に分裂し、それぞれ正確に異形の者達の弱点部位を撃ち抜いてゆく。それでも対処しきれなかった異形が身の丈もある大きさのこん棒を振りかぶって来るが、それを紙一重で避けると素早く手刀で頭を吹き飛ばす。その強さは圧倒的でありやがて敵わないと分かると逃げ出す個体も現れるがそのような行為許すはずも無く、容赦などなく後頭部から数穴を開けられる。

 そのような戦いを続けやがて敵は全員屍と化し、立っている者が彼女だけになると彼女は一息ため息にも似た息を吐いた。返り血に染まる彼女の顔はまさに冷酷そのもの。何を考えているのか分からないほど一切の表情の変化が無い表情のまま血生臭い匂いに包まれ、彼女は次なる獲物を探す。


「……臭い、お風呂入りたい」


 訂正、若干涙目になりながらも拳銃片手に彼女は次なる獲物を探すのだった。

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