オマケ・帰路への道

 今月の疫病神は、一夜先輩だった。


「ワシはお前に、ちゃんと渡したぞ!」

「忘れたんだもの、仕方がないじゃない!」


 今は旧大社たいしゃ駅の入り口。他の地主神や関係者を尻目に、2人は言い争いをしている。

 どうでもいいが、明後日には学校だ。

 計算すると、明日の午前中までには名古屋に居なければいけない。


「切符の再発行は出来ないんですか?」

「それだ!」


 と、一夜先輩は誰かを探している。探しているとしたら駅員か、鉄道関係者であろう。


 ――誰も居ないような気がするが……


 見渡していても、そういった制服を着た人はいないが……ああ、さっきゴーグルで覗いて見ようか。

 やっぱり、見えた。このゴーグルで覗かなかったら、わからなかった。

 銀河鉄道のアニメで出てきそうな駅員(?)があっちこっちにいる。

 駅員といっても、紺色の制服と帽子を深く被った黒い人影としかいいようがない。

 改札でも、ひとりの駅員がキップにハサミを入れている。順次、他の地主神様達が、そこに並びはじめていた。

 すでに改札が始まっているようだ。

 ホームを見れば、ここまで運んできてくれた真っ黒い客車も見える。


「駅員さん!」

「………………」

「キップを忘れたのよ。乗せて!」


 近くを通りかかったその黒い人影に、一夜先輩は声を掛けた。

 ゴーグルでは何を見えるだけで、話の内容は聞こえない。だが、黒い駅員は両肩を上げて、「無理」という仕草をすると、すぐに立ち去ってしまった。


「話が通じないわ」


 向こうが何を話していたのかよく分からないが……話が通じないのじゃなくて、一夜先輩の頼み方が悪いんだろう。

 それよりも、こちらでなんとかしなければ。


「キップなしで乗ったら、どうなるのですか?」


 一応、神様に聞いてみる。その間にも、先輩は通りかかる駅員らしい人を捕まえているが、対応は同じ。


「ああ……キップには行き先が書いてあるじゃろ」

「ええ。行くとき見たのは、大社たいしゃ行きとなっていましたね」

「簡単なことだ。キップの行き先に列車は運ぶ。列車は、いつも黄泉よみの国へと往復しているわけだ」

「キップの行き先が、書かれていなければ……」

「強制的に黄泉の国で降ろされる。真っ直ぐ、黄泉の国ではキップ無しで――」

「ああ……どうにかして、あれに乗らずに名古屋へ行く方法を!」


 乗ったらダメだ。あれに乗ったら黄泉の国に直行だ!


「全く、どういう接客方針なのよ。ここの鉄道会社は……」

「先輩! 諦めて別の手段を探しましょう!」

「なんでよ!」

「キップがないと、黄泉行きですよ」

「よみ? 黄泉って?」

「あの世じゃな」


 長月様が付け加えた。


「黄泉がどうしたのよ。帰ってこれるでしょ?」

「お前ら、魔女は大丈夫じゃが、吸血鬼こやつはダメじゃろ」

「そうなの?」

「勉強せい、勉強!」


 何で小学生に高校生が怒られているのか? てか、魔女は黄泉に行っても大丈夫なのか?

 まあ、魔女と悪魔がどうのというのは、本で読んだことがある。生き方も返り方もわかっているのかも……ん? 単にそこの列車に乗って帰ってくるだけか。


「わかったわよ。ちゃんと他の方法を調べるから――」


 ブツブツ文句を言いながら、スマホを取り出した。

 僕も人に任せずに調べることとする。


「えっと、あっ! 日本最後の夜行列車、サンライズエクスプレスだって! 出雲市駅発。

 出雲市駅っていったら通った場所よね。いいなぁ、夜行列車これに乗りましょ!」

「あの先輩。上りのサンライズエクスプレスは、名古屋の近くだと大阪か静岡にしか止まらないようですよ」

「名古屋に止まらないの!?」

「大阪に0時半だし、静岡には4時……」

「もういいわ。他の方法はないの?」

「岡山で、新幹線に乗り換えれば……」

「サンライズは諦めるわ」


 諦めてくれてよかった。夜行列車に気を取られていたのか、先輩は運賃まで見ていないようだ。交通費が馬鹿にならない。

 そもそもこの時間では、乗ることは不可能だ。6時半を過ぎている。出発する出雲市駅へは30分近くかかるのに、7時前に出ているサンライズエクスプレスに、どうやって乗るつもりなのだろう。

 だいたい、いったいどんなルート検索しか、この人は――。というか、この先輩の使っているスマホ。前々から思っていたが、スマホのメイカー『ITHUMO』ってどこよ。


「あっ、ありました!」


 僕のほうで名古屋に戻るルートが見つかった。

 サンライズエクスプレスの出る出雲市駅に行かなければいけないが、夜行バスが出ている。それに乗れば明日の午前中に名古屋に着ける。

 それを説明すると……何故か、僕の目の前に小さな手がふたつ差し出された。


「何か?」

「早くしないと、夜行バスって予約して乗るんでしょ。今すぐ行動すべきでしょ」

「それは解りますが……この手は?」

「交通費!」


 手はふたつ。長月……様と一夜先輩。


「お主、バイトで貯まっているんじゃろ。土地神たるワシにくれとは言わぬ。金を貸せ」


 百歩譲って、先輩にキップを預けた長月……様は、僕に請求することはわかる。だが、何故、先輩まで僕に交通費を請求するのか!

 悪びれる様子もなく、先輩が言う。


「お金、持ってないのよ」


 知るかそんなこと! お金がないのに、サンライズだの言っていたのか!?


〈了〉

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砂漠渡りと長月~神在月の準備~ 大月クマ @smurakam1978

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