第16話 婚約破棄の翌日② フィリップ視点
身も心も結ばれたのはいいのだが、私の気持ちはエミリーにあるとは言え、書類上の婚約者はまだシルヴィアだ。
エミリーに申し訳ないし、何とかしてシルヴィアと婚約破棄して、エミリーと新たに婚約したい。
どうしたものかと思っていたらエミリーから提案された。
「来月フィリップ様のお誕生日パーティーがあるじゃない? そこでみんなの前で婚約破棄を突き付けたらいいのよ! あたしとフィリップ様の仲を引き裂く悪役令嬢のシルヴィアを退け、あたしとフィリップ様が真実の愛で結ばれたことをみんなに示す絶好の機会よ!」
「そうだな! みんなに真実の愛の証人になってもらおう!」
こうして意気揚々とシルヴィアに婚約破棄を突き付け、新たにエミリーと婚約すると宣言したのだが、翌日の朝に待っていたのは激怒した父上だった。
***
パーティーの翌朝、私は父上の執務室に呼び出された。
私はエミリーとの婚約が正式に決まって書面が用意出来たんだと思って、大喜びで心の中では小躍りしながら父上の呼び出しに馳せ参じた。
しかし、入室した途端、厳しい表情をした父上と宰相が視界に入る。
一体何事が起きたんだろう?
何か父上に叱責されるようなことをした覚えはない。
そう思っていたら父上から罵声が飛んできた。
どうやら昨日のパーティーでの婚約破棄とエミリーとの婚約の宣言は父上にとって激怒もののことだったようである。
「過ぎてしまったことは仕方がない。だが、よくも私とレイラが既にシルヴィア嬢との婚約破棄を認め、新たに男爵令嬢と婚約することを認めているなんて言ってくれたな!? そんなことは初めて聞かされたのだが? シルヴィア嬢との婚約は私達の方がローランズ公爵に頼み込んで成立したものだ。それを国内の貴族は殆ど皆知っている。それでなくても貴族の婚約は家と家の契約だ。今回のことで王家はローランズ公爵家との契約を軽んじている印象がついた」
レイラとは私の母上だ。
いつだって私を甘やかしてくれる優しい母上だ。
それより私とシルヴィアの婚約は王家から頼み込んで成立しただと!?
そんな訳があるものか!
絶対にあの権力欲の強いシルヴィアが我が儘を言い、それを王家が折れてやって要求を呑む形になったに決まっている!
「だって父上と母上が認めていると言わないとシルヴィアが了承してくれないと思ったんだ! どうせ後で父上と母上には報告することになるから、遅いか早いかだけの違いで大して変わらないはず。父上と母上なら私のやることに反対なんてしないと思っていた! それにシルヴィアと婚約破棄してもローランズ公爵家は私の後ろ盾のままだろう?」
「お前が私達が了承していると言ったおかげで、私達までお前の非常識な言動を容認する国王夫妻と思われたではないか! レイラが昔からお前を甘やかしていることは知っていたが、お前がここまで馬鹿なことをするとは夢にも思っていなかった。事の重大さを考えて罰として無期限で、レイラは北の塔に
「母上を北の塔へ!?」
北の塔は王宮の敷地内の外れにある塔で、問題を起こした王族を幽閉する場所だ。
「そうだ。お前もこれ以上馬鹿なことをするようならお前も北の塔に蟄居させるからな。もうお前を甘やかして、お前を庇うレイラはいない。それを忘れるなよ?」
「私からもよろしいですか、フィリップ殿下」
ここまで黙っていた宰相が話に入って来た。
「何だ?」
「あなたはシルヴィア嬢と婚約破棄してもローランズ公爵家が殿下の後ろ盾であり続けるなどという妄想をしていらっしゃいますが、それはあり得ませんよ。何の瑕疵もない自分の娘に公衆の面前で婚約破棄を突き付けられて、親は何とも思わないと思われますか?」
「私を支えることは公爵家の名誉では?」
「それは違います。ローランズ公爵家はもう殿下を見限っているはずです。どんなに足掻いてももう殿下の後ろ盾になんてなりませんよ。公衆の面前で婚約破棄なんていう馬鹿げたことをしたせいで、公爵家の後ろ盾と信用をなくした殿下は次期国王に相応しくないという声ももう既に出ています。信用を得るのは時間がかかりますが、失う時は一瞬。殿下が思っている以上に婚約破棄がもたらした影響は大きいのです」
そんな馬鹿な!
私は王太子として認められているのだぞ!?
王太子として認められている私が次期国王に相応しくないなんてふざけているのか!?
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