第15話 婚約破棄の翌日① フィリップ視点

「何故こんな勝手なことをしたんだ、フィリップ!?」


「真実の愛で結ばれる私とエミリーを皆の前で見せることで皆から祝福されたかったんだ!」


「お前の誕生日パーティーということで、国内の有力貴族は言わずもがな、我が国と付き合いのある国の王族や外交官など国内国外問わず非常に多くのお客様を招待していたのだ。そんな彼らの前で、王太子たるお前がシルヴィア嬢に婚約破棄を突き付けて、その後釜に男爵令嬢を据えるなどという宣言をしたらどうなると思うか?」


「真実の愛で結ばれた王太子は流石という話になるんじゃないか?」


「この大馬鹿者!! 公衆の面前で婚約破棄なんて感性がまともな人間ならやらない! お前の馬鹿さ加減が国内国外問わず広まったということだ!」



 思い描いていた展開と違う……。


 ……何故こうなったんだ?



***



 私は昨夜の自分の18歳の誕生日パーティで、婚約者のシルヴィアに婚約破棄を突き付けた。


 そしてそれと同時にエミリーと新たに婚約を結ぶ宣言をした。



 元々シルヴィアのことは気に入らなかった。


 確かに見た目だけは良かったがそれだけだ。


 表情が変わらない人形のような令嬢。


 それが婚約者であるシルヴィアに対する印象だ。



 私が彼女を気に入らなかった理由。


 それは何をやっても軽々と私の上を行って優秀さを見せつけてくるから。


 どうせ王太子である私の婚約者になったのだって、大勢の前で自分の優秀さをひけらかしたいからに決まってる。


 私の婚約者になる為に実家の権力でごり押ししてその座に収まっただけだ。


 まったく忌々しい奴め。



 だからこそレッスンの教師がシルヴィアにはちょっとしたことで叱責して、私はレッスン中に間違ったり失敗しても叱責どころか優しく教えてくれ、レッスンをさぼっても怒られないと知った時は、スカッとした。


 いくらレッスンをさぼっても何も怒られないと知った時、もう真面目にレッスンを受けるのは馬鹿馬鹿しくなり、やめた。


 私は王太子であり、何も私自身が賢くなる必要はないのだ。



 弟のエドワードと妹のエリザベスは真面目に勉強しているみたいだったが、結局王位を継ぐのはこの私だ。


 王位を継げないのにあんなに必死で勉強して何になる?


 心の中で鼻で笑ってやった。 



 私に転機が訪れたのは17歳の頃だった。


 いつものように王宮内を散歩していたら、ある一人のメイドに遭遇した。


「騎士団の事務所に届けろってどこなのよ~! 広すぎてわかんないよお~!!」


 そのメイドは大きな独り言を言いながら半べそで途方に暮れながら歩いていた。



「君、騎士団の事務所に用事があるのか?」


 困っている彼女に声をかけた。


「はい! あたし、ここで働き始めたばっかでまだどこに何があるのかさっぱりわかんなくって……」


「なら私が騎士団の事務所まで付き添おう。君が今いるここは正反対の場所だ」


「ありがとうございますっ!!」


「ついて来てくれ」



 二人で目的地まで歩いている間に雑談した。


 彼女の名前はエミリー・ハーマン男爵令嬢で、この春にハーマン男爵領から単身で王都に出てきて、王宮メイドとして働いているそうだ。


 彼女の説明によると、ハーマン男爵領地は我が国アルスター王国の田舎地方の内の一つで、領地から中々収益が上がらない為、彼女の家の男爵家はかなり貧乏らしい。


 それで彼女は領地にいる家族の為に給金の良い王宮のメイド職に就き、給料は家族に送金するのだそうだ。



 彼女に対してまず思ったのは、天真爛漫にくるくると変わる表情と言葉遣いが新鮮に感じた。


 私の周囲の女性は母上やシルヴィア、妹のエリザベスをはじめ皆一様に表情が変わらず話し方も一歩距離を置いたような話し方だ。


 そして、家族の為に知人のいない王都に一人出稼ぎに来て、給金を家族に送るという優しさと健気さに胸を打たれた。



 彼女から私についても聞かれたので正直に王太子フィリップだと告げた。


 王太子だと告げてもエミリーの態度は変わらずほっとし、シルヴィアには言えないことも彼女には不思議と話せた。 



 無事に目的地である騎士団の事務所に到着し、その日はそこで別れたが、後日、王宮内の別の場所で彼女に会った時に、この前の案内のお礼がしたいと言われ、週末に王都の商業地区に二人で出かけた。


 それからもなんやかんやで彼女との逢瀬を重ね、会う度彼女が好きになる。


 そう時間がかからないうちに私とエミリーは恋人になり、身も心も結ばれた。


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