第11話 ローランズ公爵邸にて①
馬車に揺られること約15分。
御者からローランズ公爵邸前に到着したと声がかけられたので、ルークのエスコートでシルヴィアは馬車を降り、二人はそのままローランズ公爵邸の正面玄関に向かう。
今回はシルヴィアが昨夜ベレスフォード公爵邸に泊まり、先触れで10時頃向かうと連絡を入れている上、ルークというお客様も連れている為、シルヴィアはルークと共に堂々と公爵邸の正面玄関から入ることにした。
シルヴィアが正面玄関の扉の呼び鈴を鳴らすと、家令のジョナスが屋敷の内側から外側に向かって扉を開ける。
「シルヴィアお嬢様、お帰りなさいませ。旦那様と奥様、ベアトリスお嬢様とダニエル坊ちゃまを呼んで参りますので、それまで応接室でお待ち下さいませ。お連れの方は連絡をして下さったルーク様でよろしいでしょうか?」
家令がルークのことをそう呼ぶことは本来ならあり得ないが、シルヴィアの前で家名を言わないでほしいという一文が先触れに記載されていたので、やむなく名前に様付けという呼び方となった。
「ただいま、ジョナス。そうですわ。昨夜は彼の屋敷でお世話になりました」
「ルーク様。お嬢様がお世話になりました。旦那様から丁重におもてなしをするよう仰せつかっております。ルーク様もシルヴィアお嬢様と共に応接室にご案内させて頂きます」
ジョナスの案内でシルヴィアとルークは応接室に入室し、シルヴィアの家族が全員揃うまで紅茶と茶菓子――今日の茶菓子はフィナンシェ――を楽しみながら待つ。
しばらくするとぱたぱたと軽快な足音がしたかと思うと、応接室のドアがバンッと勢いよく開き、小さい少年が「シルヴィ姉様……!」と叫びながら、ソファーに腰掛けていたシルヴィアのところへ一直線に飛び込んできた。
「シルヴィ姉様! ぼく、昨日の夜、姉様と一緒に本を読もうとして姉様のお部屋に行ったら姉様がいなくて心配したよ……!」
「ごめんね、ダニエル。まだ小さいあなたを心配させて」
ダニエルはシルヴィアの弟だ。
後継ぎの男子を諦められなかったローランズ公爵夫妻がこれが最後と子作りした結果、生まれたのがダニエルだ。
シルヴィアと彼女の妹が年齢の離れたダニエルを可愛がった結果、彼はすっかり甘えたのお姉ちゃんっ子になってしまった。
「昨日何があったかお父様から聞いたよ。やっぱりあいつろくでもないやつだったね」
「ダニエル。一応相手は王太子殿下だからそんなこと言っちゃだめよ」
シルヴィアはフィリップが碌でもない男であるという点には同意するが、彼は腐っても王太子なので、下手なことを言ったら冗談抜きに王族に対する侮辱罪や不敬罪で罰せられてしまう。
シルヴィアはそれは勘弁願いたいので、ダニエルを窘める。
ここには家族だけではなく、ルークという客人もいる。
迂闊なことを言って、ルークが王家に”ローランズ公爵家の家人は、フィリップ王太子殿下にろくでもない奴だ”という評価を下していたと暴露でもされたら堪らない。
「はーい」
ダニエルも年少ながらもその辺りのことは弁えており、シルヴィアからの注意に素直に頷く。
多少渋々頷いている感じが否めなくもないが、一応はこれで良しとする。
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