「僅かな可能性に賭ける」2021年9月12日深夜

俺はひたすら文字を打ち続けた。一応、話の構成は考えてあるが内容さえ分かればいい。文章の質は落ちるが、松井に伝えるために書いた。松井の良心に訴えるために書いた。


でも書いてあることは、俺が本当に思ってること。

松井にはお人よしって、鼻で笑われるかもしれない。

けど、この可能性に賭けるしかない。

これは俺たちだけの問題じゃない。ほかの被害者にも関わることだ。


俺たち以外に被害者は15組以上いることを支店長から聞いた。

人数にして、少なくとも30人はいるんじゃないかなって思う。

家を買うって、普通は1人では買わないからね。


松井にはお金を盗られたけど、恨み切れないところがある。

俺は家族の安全を守るため、松井はお金を盗るために急ピッチで家を買う手続きをした。

結果、俺は家族を守れた。


松井は、根は腐ってないと思うことがいくつかある。

諸事情でレンタカー会社が使えなくなってしまった時も、代わりのレンタカー会社を紹介してくれた。

車を買う時にも、頭金として30万をくれた。極悪人なら、頭金なくして全てローンでとか言うはずなのに言わなかった。


話し合いの時も思ったけど、上の2人の支店長と社長がけっこうボロ出してた。

会社運営でもそうで、そのボロを補うために松井は奮闘してたんじゃないかなって思う。そのためにお金が必要だった。けど上手く穴埋め出来なくって、バレてしまった。

崩れていくライフサポート社にはいられないから、松井はライフサポート社を去ったのかなって思う。


会社ぐるみの犯行をライフサポート社を去った松井に押し付けて、難を逃れようとしてると俺は予想してる。

あくまで予想で、勘が当たってるという確証はない。


今まで蓄えてきた知識、弁護士の名前、松井の生死の判断した支店長の言葉、支店長と社長の詰めの甘さ、松井の優秀さ、応接室の構造の不自然さ、すぐに警察を出さずに内々で片付けようとしてるところ、、、


違和感を繋ぎ合わせると何かが見えてきそうな気がする。

見えてきたものが真実かは、分からない。けど俺は、松井を信じたい。

もし真実に近いなら、松井は自分を守るために行動するだろう。

それが俺たち被害者15組以上の人々が救われる結果に繋がると思う。


ある程度書き終え小説をアップしてパソコン画面の右下の時計を見ると、日付を越え26時過ぎだった。

松井にはたぶんまだブロックされてないと思うので、ラインでメッセージを送ることにした。


「俺のペンネームを覚えてる?新たに書いたんだ見てね」


これだけを送った。

松井は俺が小説を書いてることを知ってるし、ペンネームを知ってるし、由来も教えたから印象には残ってるはず。


本当に賭けだ。どう転ぶか分からない。

けどここで勝負しないでいつするんだ?今でしょ!


あえてラインで書かずに小説という遠回しの方法にした。あえてペンネームを書かなかった。


その意図を松井が読み取ってくれることを祈って、俺は目を閉じた。

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