第45話 出立

朝目が覚めると、

そこには沙耶がいた。


現実なのだと思って無意識に笑ってしまった。

そして沙耶も目を覚ました。



「おはよ。

 いつから起きてたの?」


「今さっきだよ」


「昨日の夜は激しかったね」


「何もしてないだろ?」


「ちょっと冗談言っただけなのに顔あか~い」


「今日置いていくぞ?」


「ごめんなさい…」



俺はスーツケースに着替えや必要な物を詰め込んだ。


沙耶も何故か持っているパスポートに、

準備万端のスーツケースをこれ見よがしに見せつけてきた。



フライトの予定は達也から夜の9時と伝えられていた為、

空港には8時に来るように言われていた。


その為、時間が大幅に余ったので、

久々に沙耶とデートをする事になった。



「デートなんて久々だね」


「まあ中々に忙しかったからな。

 どっか行きたい場所でもある?」


「お昼ご飯まだだし、

 どっかでランチしようよ」


「ちょうど腹減ってきたしな」



俺と沙耶はマンションのエレベーターを降り、

六本木の街を散策しながらカフェを探した。


マンションの近くは高級なブランド店がびっちりと並び、

飯屋は全部が高級レストラン。


しかし、俺は気軽に入って食べれるところが良かった。

それは沙耶も同じで、

俺らは少し歩いて色んな店が並ぶ大きな商業施設へと入った。



「コーヒー飲みながらくらいが良いよね」


「そうだな」



俺らは有名コーヒーチェーン店を見つけ、

そこへ入りコーヒーを飲みながら軽いランチを楽しんだ。



「こっからどうしよっか」


「私プリクラとか撮りに行きたい!」


「ゲーセン行きたいの?」


「うん!」


「じゃあ行くか」



俺と沙耶は施設内のゲームセンターへと入った。

そこで沙耶の要望通りプリクラを撮って施設を出た。



「ねぇねぇ。

 東京散策しない?」


「東京散策?」


「原宿とか秋葉原とか行ってみたい!」


「まあ電車乗れば行けるし良いんじゃない?」


「じゃあしゅっぱーつ!!」



電車を乗り継ぎ、

俺と沙耶は原宿へと着いた。



「すごい都会だね。

 うちの近所とは大違い」


「そうだな」


「雅くんは前に東京に住んでたんでしょ?」


「ああ」


「原宿とか案内出来るの?」


「まだ小さかったから都会には来てないからな」


「じゃあ二人で面白そうなもの探そ!」



俺と沙耶は腕を組み、

竹下通りを歩いていた。


時間は二時ごろだった。



沙耶が服を見たいと言ったので、

少し大通りからそれた店へと入った。


買い物に付き合っていたが、

トイレに行きたくなり、

沙耶が夢中になっている間にトイレに行った。



トイレから戻るとそこには沙耶の姿はなく、

夢中になって店の中を徘徊しているのだと思い、

俺は店内を歩き回った。


しかしそこに沙耶の姿はなく、

少しずつ焦りを感じた。



もしかしたら何か巻き込まれたとか、

連れ去られたとか、

最悪のイメージばかりを考えた。




「離してよ!

 私彼氏と来てるって言ってんじゃん!!」


「高校生だろ?

 お前。

 警察にお兄ちゃんが言っちゃうよ~?」


「いいの!!

 理由があるんだから!!」


「強がらないの~。

 ほら遊びに行こうよ~

 何もしないから~」


「嘘つけよ!!!!

 ハッハッハッ!!」



店の外で数人の輩が沙耶の腕を引っ張っていた。



「おい」


「何だお前?」


「俺の女なんだけど」


「ガキが調子乗んな。

 消えろ消えろ」


「今時こんなんまだいんのかよ」


「はっ?」


「目立つし、

 良くないからやめとけって」



俺の口の利き方が気にくわなかったのか、

俺の胸ぐらを一人が掴んだ。



「黙ってお家帰りましょうね」


「帰るから俺の女返せよ」


「この子は俺らと遊びに行くの。

 君だけお家に帰るの」


「暴力沙汰にしたくないんだよ。

 後から処理がめんどいからさ」


「なんだ?

 お前ケンカする気なの?」


「ケンカじゃなくて一方的な暴力になるからやりたくないの」


「お前どの口が言ってんだ!!!」



そう言って一人が俺の顔めがけて殴りかかってきた。


俺はいつものように躱し、

二割くらいの力であばらに一撃を入れた。


しかし、次の瞬間男は吹き飛び、

コンクリの壁に叩きつけられてめり込んでいた。



「はっ?」


「へっ?」



俺と輩たちは目が合って、

茫然としていた。


自分の力が信じられなくなるくらい強くなっていた。



「雅くんやりすぎだよ!

 本気出さないにしても手加減しなきゃ!」


「いや…

 いつも通り手加減したつもりなんだけど…。

 力入りすぎたかな…」



すると輩達は一気に走って殴らて伸びているやつを連れて逃げて行った。


これが覚醒したという事なのだろうか。

でも神の領域と言われるくらいだから、

こんなものなのかとも思う部分もあった。


結局沙耶と店に戻り、

買い物を継続。

2人で甘いもの等を食べて自宅へと帰った。


帰ってすぐに荷物を持ち、

空港に向かった。

空港に着いたのは20時を回っていた。



「あんなにゆっくりしてちゃダメだったね」


「電車が多すぎてどこ行くか分かんねぇんだよ」


「覚えなきゃだね」



あんな複雑な路線図と電車の多さで頭がパニックになりそうだった。

生き返る前は電車がすごく苦手で、

いつも学生時代は自転車。

すぐに免許を取って車に乗っていた為、

路線図はまったく分からなかった。


空港に着くと達也がスーツ姿で立っていた。



「あっ!

 やっぱり沙耶ちゃんも一緒なんすね」


「達也くんだ!」


「達也くん?」


「あっ。

 言ってなかったっけ?

 あの日雅くんが倒れて他の奴らが逃げてった後に、

 裏切ったあの二人だけが残って私を連れ去ろうとしたんだけど、

 達也さんが駆け付けてくれて助けてもらったの」


「お前何でそれ言わないんだよ」


「いやっ…。

 ご心配されるかなって…。

 後は浅井とか由希さんとかの話題は出さない方が良いかと…」


「結局その後あいつらどうなったんだ」


「捕まえましたよ」


「今本部で尋問中です」


「今度会わせろ」


「はい…」



少しびくびくしながら達也は俺と沙耶を引き連れてゲートではなく、

裏の方へと案内した。



「どこ行くんだよ。

 ゲートはあっちだぞ?」


「こっちで合ってますよ」


「はっ?」


「雅さんは超以上のVIPですよ?

 普通に飛行機乗れるわけないじゃないですか」


「はい?」


「プライベートジェットです」


「誰の?」


「雅さんの」


「はっ?」


「操縦出来ますよね?」


「出来るけど…」


「自分でお願いします。

 もろもろ許可は取ってるので」


「はぁ…」



その様子を見ていた沙耶はもちろん驚いていた。



「操縦は俺だけか?」


「冗談ですよ。

 一人パイロットをつけています。

 向こうに着いたら待機するように言ってますので、

 1週間くらいで帰って来て下さいね」


「でもいざって時は自分でって事だろ?」


「お察しも良くなりましたね。

 覚醒者様」


「次言ったら殺すからな」



達也は怖い怖いという顔をしてその場を去った。


プライベートジェットに乗っていたのはアメリカ人で、

英語で少しやり取りをした後に乗り込んだ。


シートに着くと、

沙耶が寄ってきて尋ねた。



「ねぇねぇ!!

 なんで飛行機何て操縦できるの!?」


「色々とあるんだよ」


「色々で片づけられる問題じゃない!!」


「今は良いんだよ。

 色々で」


「なんでよ!!」



日本からアメリカへ向かうフライトの間ずっと沙耶から質問攻めをされていた。

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