第44話 同棲
俺は荷物いっぱいの沙耶と一緒に新幹線に乗り込んだ。
まだまだ荷物があるらしいが、
それは後日送られてくるらしい。
そして駅では父親がボロボロと泣いていた。
「まさかこんな展開になっちゃうなんてね」
「俺も別れ話しに行ったはずがまさか同棲になるとはな…」
「同棲って事は毎日一緒って事だよね…」
「まあ学校まで一緒だからな…」
「うふふふふ…」
沙耶は少し気味の悪い笑い方をしていた。
「でもとりあえず一緒にいるのは今日だけなんだよな…」
「えっ?なんで?」
「実は明日からアメリカに行かないといけなくて…」
「へっ?」
俺は沙耶に事の経緯を話した。
「内閣総理大臣の有田さん?
それでアメリカ????」
「まあ混乱するよな」
「まあ普通じゃないのはもういいや。
それって私も行っちゃダメなの?」
「分からない…」
「まあついてっちゃおうっと!」
「行けなかったらどうすんだよ」
「そこは雅くんが説得してよ。
私の事守ってくれるんでしょ?
離れ離れになったら守れないよ?」
沙耶は悪い顔で笑っていた。
俺は沙耶と二人で達也に言われた住所へと向かった。
周りは既に暗く、21時を過ぎていた。
「これ…だよな…」
「うん…」
住所の先は東京の六本木。
馬鹿のようにデカいタワーマンション。
「これはやりすぎじゃないのか…?」
「目立ち過ぎると思うんだけど…」
「達也には俺からもうちょっと普通の所を頼んでおくよ」
「う…うん…」
明らかに身の丈に合っていない物件に、
流石の沙耶も引いていた。
「仕方ないしとりあえず部屋に入ろう」
達也からの情報を頼りに、
俺と沙耶は部屋へと入った。
中の家具やキッチン用品に電化製品。
食材に着替え。
何もかも完璧に準備されていた。
「やっぱり雅くんはすごい人なんだね」
「まあなんか奇跡レベルの人らしいよ。
実感ないけど」
「実際はなんなの?」
「あんまり言っちゃいけないんだ」
「私は良いでしょ?」
「結婚してからな」
「えっ??」
「何?」
「今…結婚って…」
「する気だけど…?」
「本当に!?
やった!」
俺は当たり前の事を言ったつもりだった。
「ちゃんとプロポーズはロマンチックにするんだよ!
なんか流れでとかなしだからね!」
「はいはい…。
考えておくよ」
「楽しみにしとこっと!」
沙耶はすごくご機嫌だった。
冷蔵庫の中に入っている食材を使って晩御飯を作った。
俺は元々料理人も経験済み。
華麗な包丁さばきや中華なべの使い方に沙耶は感動していた。
「何でそんなに上手なの?」
「一人暮らし長かったしね」
「そういうレベルじゃないよ?
お母さんより上手」
「そんなことないよ」
出来上がった料理を食べて沙耶は嬉しそうに笑ってくれた。
「めちゃめちゃ美味しいこれ!」
「ありがと」
「毎日美味しいご飯食べれそう!」
「奥さんになるなら俺より飯上手じゃないとな」
「え~!!!
守ってくれるなら私の胃袋も守ってくれなきゃ!!」
「夫婦は支え合いだろ?
片方だけにやらすのは違うよ」
「じゃあご飯は雅くん!
後は私!
ならいいでしょ?」
「わかったよ」
そう言って晩飯を食べ、
片づけをして俺はシャワーを浴びに行った。
その間に洗濯をすると言って意気揚々と沙耶はリビングから出て行った。
シャワーを浴びて出てくると何故かリビングを出て行ったはずの沙耶がソファーで爆睡している。
俺は沙耶の肩を叩いて起こした。
「寝るならシャワーくらい浴びとけよ」
「ここは優しく毛布掛けるところじゃないの?」
「洗濯は?」
「あっ…」
沙耶は抱きついてきてごまかそうとした。
俺の頬に何度もキスをしてきた。
「そういうのはまずちゃんと全部終わってからな」
「何よ!根性無し!」
「高校生の男子に火つけて朝まで寝れると思うなよ?」
「私初めてなんだけど…」
「冗談だよ。
疲れてるだろ?
今日は片づけたら寝るから、シャワー浴びてこい」
「分かった!」
俺が片づけをしている間に沙耶はシャワーを浴びていた。
確かに俺は沙耶の裸もまだ見た事がない。
というか…
生き返りをしてからまだそういうシチュエーションになった事ない。
なんかすごく緊張してドキドキしてきてしまった。
いやっ…
別に同棲するからと言ってそういう事すればいいってもんじゃない。
今日は移動も長かったし、
疲れてるからきっとそんな雰囲気にはならない。
俺は一人悶々としながら洗濯機と乾燥機を動かした。
沙耶はシャワーからあがり、
パジャマ姿で出てきた。
俺は一人ベランダで煙草に火を点けた。
「あっ!
高校生の癖に!」
「一本だけだよ。
これ以上は高校生の間は吸わないよ」
そう言って俺は残りの煙草をゴミ箱に投げ入れた。
「普段吸わないのにどうしたの?」
「なんか少し大人になってみたくてさ」
「気持ち悪い…」
「なんだよ」
「感傷にでも浸ってるの?」
「まあね」
「そっかぁ…」
「友達と思ってた奴は超が付くほどの裏切りもので、
過去に助けたと思って親しくしてくれてた子も裏切者で、
自分の大切な居場所をぶち壊して、
自分のせいで多くの人の命が失われて傷ついて…。
そうやって考えればこんな風に幸せでいちゃいけない気もしてさ」
沙耶は黙って聞いていた。
そして後ろから俺を静かに抱きしめた。
「全部雅くんが悪いんじゃないでしょ?
私もいるからね」
俺は黙って泣いていた。
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