第43話 覚悟
俺は無事に愛知県へとたどり着いた。
既に木は枯れ始めているものもあり、
紅葉が綺麗だ。
名鉄電車に乗り、
高校の跡地へと向かった。
もちろん廃校になっている為、生徒は一人もいない。
本当なら時間的に高校生が授業の真っ最中のはずだ。
俺は門を飛び越え、
校舎の中を一周してみた。
俺がここに来なかったらこうはならなかったのだろうと、
申し訳ない気持ちを抱きながら。
俺はそのまままた電車に乗り込み、
数駅揺られ、
電車を降りた。
足取りが少し重い。
今まで何度も体験してきた事なのに、
今回ばかりは気が重い。
時間は16時を過ぎていた。
俺は高級住宅街を抜け、
馬鹿でかい家の前で足を止めた。
ゆっくりとチャイムを押した。
「はーい」
「あっ…
えっと…江口です…」
「えっ!?
雅くん!!」
するとチャイム越しの声は途絶え、
家の中からドタバタと音が聞こえた。
勢いよくドアが開き、
中からは沙耶が出てきた。
沙耶はそのまま玄関を出て、
門を開け外に出てきた。
するとこちらを見て涙を流しながら突撃してきた。
「もう!
馬鹿!!!!
なんで連絡返さないのよ!!!
いきなりいなくなって!!」
「ごめんごめん。
あの時持ってる物全部取られちゃってさ」
「それでもなんかしてくるでしょ普通!!!」
沙耶は俺の胸を何度も叩いた。
「死んじゃったと思ったんだから!!!
私会えないと思ったんだから!!!」
沙耶は感情を爆発させるかのように俺を叩いたり抱きしめたり、
何度も何度も同じことを繰り返していた。
数十分経った頃、
沙耶は落ち着きを取り戻していた。
沙耶は家の中に入るように言ったが、
俺はこのままで良いと言った。
「雅くんはこれからどうするの?」
「俺は東京の高校に編入する事になったんだ」
「東京!?
なんで!?
会えなくなっちゃうじゃん!!」
「そうだな」
「何よその返事!
会いたくないの!?」
「ああ」
「えっ…?」
沙耶の顔が固まった。
「嫌いになっちゃったの…?」
「いや…
そういうわけじゃないんだ」
「私家が遠くても平気だよ?
雅くんと会えない時間が無くても平気!
東京だったら新幹線乗れば会いに行けるもん!」
「そういう事じゃないんだ」
「それは私聞く権利あるよね?」
俺は黙ったまま何も言えず、
時間だけが過ぎてしまった。
20分程経っただろうか。
沙耶はまだこちらをじっと見つめている。
「俺さ。
普通の人じゃないんだ」
「知ってる」
「変な奴らが襲ってくる事もあるんだ」
「私も被害受けたしね」
「今回はたまたま何とかいったけど、
今後は保証できる気がしない。
今まで自分の力を疑うような事しなかったけど、
今回の事で無力だって心底感じたんだ」
「でも私達を助けてくれたでしょ?」
「それは成り行きに過ぎないし、
皆を助けてはいないよ」
「それで?」
「俺はまた同じことが起きたら耐えられる気がしない。
それにまた大切な人が目の前から消えていくなんて事があったら、
俺は自分が自分でなくなってしまうような気がする」
「だから別れて欲しいって?」
「ああ」
沙耶は黙ってしまった。
すると玄関の扉が開く音が聞こえた。
「江口くん」
「えっ…はい」
出てきたのは沙耶の父親だった。
「入りなさい」
「いえ…。
こちらで結構です」
「いいから」
沙耶の父親の顔は真剣だった。
俺はそのオーラに逆らうことが出来ず、
家の中に入る事になった。
家の中ではソファーに座る沙耶の母親もいた。
「すまんね。
チャイムが切れてなくて声が聞こえてしまったんだ」
「いえ、とんでもありません」
「私達は君の姿を見てしまった。
沙耶の体育祭を楽しみに行ったらあんな事が起きるなんてね」
「はい…」
「正直驚いたなんてもんじゃなかったよ。
人間とは思えない動きから、
撃たれた君は立ち上がり、
テロリストを木っ端みじんにしてしまったのだからね」
「…」
父親と母親はじっと俺を見ていた。
「こんな危険な事に沙耶を巻きこむわけにはいかない、
私達の可愛い一人娘だ」
「おっしゃる通りです」
すると沙耶が横から言う。
「お父さん!
私は嫌だ!
雅くんは私の大切な人なの!」
「黙ってなさい」
いつもと違う雰囲気の父親は沙耶を黙らせた。
「僕は沙耶を守れるか分かりません。
自分は皆さんが知らない世界で生き、
死と隣り合わせで生きていく事もあります。
そんな中で沙耶を危険な目に遭わせたくありません。
そうなったら僕は…」
「江口君は沙耶の事を好きかい?」
「はい。
僕は沙耶のおかげでここにいますから」
「そうか」
父親はそう言って俯いた。
そして母親はこちらをじっと見ていた。
そして重そうな口を開いた。
「なら、
沙耶を諦めるのかい?」
俺はそこで深く息を吐いてから、頷いた。
すると沙耶の母親は立ち上がり、
俺の顔を思い切り殴った。
あまりに突然の事に俺は目が真ん丸になり、
それを見ていた父親も沙耶も茫然としていた。
「あんたそれでも男?」
「えっ…?」
「好きな女の一人も守れないのが本当に男かって聞いてるの!」
「いや…えっと…」
「女はね、
本気で好きになった男の為なら女を捨てれるの。
命を捨てれるの。
私の娘が愛した男の為に命を捨てる覚悟をしているのを、
私は見たわ」
「はい…」
「そんな風にうちの娘をしてくれたのはあなたよ。
江口くん」
「はい…」
「男は女を守れないかもしれないじゃないの。
女を本気にさせたのだから。
守りなさい!
どんなに不格好になってもだからね!」
「は…はい…」
俺は迫力に負けてしまった。
沙耶はキョトンとしながら話始めた。
「結局どうなったの…?」
すると母親が口を開く。
「お父さん」
「はい…」
「沙耶も東京の高校に行かせましょう」
「は?」
「江口くんと同じ高校なら問題ないでしょ?」
「住む場所はどうするのよ?」
「江口くんと一緒で良いでしょ?
ね?沙耶?」
沙耶の暗い表情は一変し、
俺に拒否権はなくなった。
母親は父親に沙耶と一緒に引っ越しの準備をしてくるように言った。
2人は二階へと上がっていった。
「江口くん?
ごめんなさいね。
痛くなかった?」
「いえ…。
でも…。
こんな形で良かったのか…」
「私も娘が危険な目に遭う事のが分かっているのに、
この選択が間違っていないのかは分からないわ。
でも、娘が本気になっている事を応援したいのが親なのよ。
親ばかでごめんなさいね」
「いえ…」
「でも本当に後悔するならこのまま黙って出て行ってくれてもいいわよ」
「お母様の言葉で覚悟が出来た気がします」
「そう…」
俺は沙耶を連れて東京へと向かった。
達也に頼み込み、
沙耶を部屋に一緒に住まわせることと、
同じ高校の同じクラスにしてもらうように頼んだ。
達也はぶーぶーと文句を言っていたが、
しぶしぶ手続きをしてくれた。
結局俺と沙耶は3学期から高校へと復学。
それまでは自由となった。
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