第42話 覚醒②
俺は国会議事堂に行く事になった。
だがテレビで見るようなだだっ広い部屋ではなく、
小さな一つの部屋へと通された。
部屋で達也と待っていると、
ドアをノックする音がした。
「どうも。
内閣総理大臣の有田と申します」
達也スッと立ち上がり、
総理大臣に一礼をした。
「用件は何でしょうか?」
「気が早いですね。
余り驚かれてるご様子はなさそうですな」
「そうっすね。
俺はあなたと何度か仕事してますからね」
「そうでしたか。
これはこれは気づかず申し訳ない」
達也は驚いたような顔でこちらを見ていた。
「しかし、簡単に出来る話ではないのですよ」
「というと?」
「あなたは覚醒者ですね?」
「覚醒者?
生き返りとは違う…?」
「ええ。
生き返りの人々の中でも稀に起こる突然変異のようなものです」
俺は一度死んだ事を伝え、
そして誰か分からない女性の声で目が覚めた事を伝えた。
「我々はその事実を始めて知りました。
日本に覚醒者は存在しませんからね」
「という事は海外には存在するのでしょうか?」
「ええ。
アメリカに1名。
ドイツに1名。
ロシアに1名です。
アジア圏には雅さん。
あなた一人です」
「覚醒者とは…?」
「我々も定かではありません。
日本に覚醒者が存在した事はありませんので。
しかし、覚醒者は他の生き返りとは違い、
神の領域に踏み入る事が出来ると言われています」
「神の領域?」
「はい。
生き返りの人はあくまで人としてのスペックが高い事の延長線上でしかありま
せん。
しかし、覚醒者は人の人智を超え、
あらゆるものにおいて規格外という事です」
「そう言われても実感がないですね」
「そう言われると思っていました」
そう言って総理大臣は一枚の封筒を出した。
「明日、アメリカへ発ってください。
約束は取り付けてあります」
「約束?」
「覚醒者に会ってきて下さい。
彼ならきっとあなたの疑問にお答えする事が可能だと思います」
俺は半ば無理やり封筒を受け取る事になった。
「雅さんは今後どうされたいですか?」
「今後と言いますと?」
「親御様をあの連中に殺されたとお伺いしました。
そしてその元凶であるラファエルという男を殺し、
仇を打ったようですので」
「あいつらは終わったのでしょうか?」
「いえ…。
彼らは一人でも残っている限り理想郷の実現をしようとするでしょう」
「つまり根絶しない限り、
争いが止むことはないと…」
「そうですね」
彼らを一人残らず消さなければこの世の未来は明るくないのだろうか。
「もしくは…」
「もしくは?」
唾をのみ込み神妙な面持ちになった総理大臣は話を続けた。
「この世から生き返りを失くすことが出来れば間違いありません」
「それは彼らとやっている事が変わらない気がするのですが」
「何を目的とし、何を得る為に戦うのか。
それで人は正義にも悪にも徹する事が出来ると思いませんか?」
「一理あると思います。
しかし、それはあくまで当事者の意見。
被害者や傍観者が正義か悪かを判断するのではないでしょうか」
「いえ。
そういう事に関してはまだ疎いようですね」
「そう言いますと?」
「人の正義か悪かというのは言ってしまえば個人の見解です。
人は自分自身の意見だと思って考え発言していると思っています。
しかしそれは違います。
その判断材料は個人の見解等ではなく、
莫大な大きさを誇る民主主義という考え方です。
民主主義と言えば民衆の意見を元に政治を行うという考えが基本ですが、
それは違う。
民衆をいかに操り、動かし、味方にするか。
そのレースに勝った者だけが民主主義をうたえるのです。
つまり、民主主義をコントロールする事が、
正義と悪を決定できる権利を得ます。
被害者や傍観者ではなく、当事者によって正義と悪は決定されるのです」
俺は国のトップに立つ人間の腹黒さを知った気がした。
「まあ今後の事はおいおい考えますよ。
明日、アメリカへと発ちます」
「分かりました。
くれぐれもお気をつけて。
何が起こるか分かりませんから」
「自分で何とかしますよ」
俺はそう言って部屋を出た。
達也は俺の後ろをペコペコしながらついてきた。
「雅さん良いんですか?
総理大臣にあんな態度とって」
「あの人は流石内閣総理大臣だよ」
「えっ?」
「一度も俺に本音を漏らさなかった。
でも最後だけは警告されちまったな」
「というと?」
「あのおっさん俺があの場で部隊を抜けるとか言い出したら、
意地でも殺すか捕まえる気だったと思うよ」
「何故…?」
「達也。
お前そういう指示で連れて来たんだろ?
あとこそこそ周りうろついてた連中も」
「…」
達也は何も言い返さなかった。
「いつからっすか?
気づいてたの」
「本部出てからだよ。
お前銃持ってるだろ」
「雅さんには勝てませんね」
「何か感覚がおかしいんだよ。
人の動きや流れが嫌に目に付くと言うか…」
「覚醒された事の影響ですかね」
「人の体の温かみを感じると言うか、
無機質なものとそうでないものの熱量が違うというかなんというか…」
「まあアメリカで話聞いて見ましょ」
「それで一個だけ我儘言ってもいいか?」
「我儘ですか?」
「ああ」
達也はキラキラした目でこちらを見ていた。
「今日はこのまま一人にして欲しいんだ」
達也はクスっと笑い、
問題ないと言って先に帰って行った。
俺はそのまま駅に向かい、
新幹線に乗り愛知へと向かった。
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