第40話 沙耶

銃声が鳴り響いた瞬間。

俺は目を一瞬たりともそらさなかった。






「やめてぇぇええええええ!!!!」



沙耶の声が聞こえた。







見えるのは飛んでくる3発の銃弾。


超スピードで放たれるその弾丸を俺は足元にうずくまる浅井を拾い上げてガードした。



そして一気に間合いを詰めて、

フランス人に俺は殴りかかった。


しかし俺の拳は届くことはなく、

がっちりと掴まれてしまった。



「捕まえたぜ!」



そう言うと、

俺の腕を引っ張り、

膝蹴りを俺の胸へと叩き込んだ。



骨の折れる鈍い音がした。



息が詰まり、動くことが出来なかった。

その一瞬を見逃してもらえるわけはなく、

持っていた銃で俺は右足の太ももを撃ち抜かれた。



俺は立っている事が出来ず、

その場に膝を着いてしまった。



「この人数で正面切って負けるかもって思うとは考えもつかなかったよ」


「もう少しだったんだけどな」


「でもここで終わりだな。

 死にな」



俺は銃の引き金が引かれる瞬間まで目を離さなかった。







――――――――――――――――――――――――――――――――――







「江口すげぇな!!!

 やっぱ天才なんじゃない?」


「オリンピックも夢じゃないだろ!」




私の知っている雅くんはもっとすごい!

あれよりも早いし、

すごくカッコイイんだもん。



私も雅くんの方に行きたいなぁ。



あれ?

浅井くんなにか持ってる…?

えっ…?

雅くん…?




「雅くん!雅くん!」




雅くんはいきなり倒れてしまった。

周りもいきなりの出来事に唖然としていた。



「浅井くん!

 雅くんに何したの!!?

 何か刺したでしょ!!」



皆が浅井くんに注目していた。


すると浅井くんはにっこりと笑って、

私の膝の上で眠るように倒れている雅くんを踏みつけた。



「あ~あ。

 見えちゃったの?

 運ぶふりして連れてこうと思ったのによ」


「何言ってんのよ!!」


「じゃあいいか。

 こっちの方が楽しそうだし」



そう言うと浅井くんは目の前のクラスメイトを蹴り飛ばして、

手当たり次第に周りの子を殴り始めた。


周りの人たちは浅井くんを止めようとしたけど、

いつものヘラヘラしてる彼とは違って、

ものすごく強かった。


私は雅くんを引きずりながらその場を離れようとしたけど、

気付いたら周りの子達はみんなやられてしまっていた。



すると浅井くんはこっちを見て笑ったの。


そしてゆっくりと近づいてくる。


周りを見たけど周りでもクラスの子達が知らない人たちにボコボコにされていた。

体育祭が一気に地獄みたいになった。



どうしていいか分からず雅くんを私は抱きしめた。


すると浅井くんは私の目の前で止まってしゃがみこんだ。



「お前の事襲ったら江口どうなるかな?

 おもしろそうだよな」


「えっ…?」



すると浅井くんは私の頭を掴んで無理やりキスをした。

私は必死に抵抗したけど、

あまりの力に引きはがせるわけもなく、

嫌がり涙を流す私を面白がるように何度もキスをされた。



「お前江口とはどこまでいったんだよ」



泣きながら私は俯く事しか出来なかった。



「答えろよ!!」



そう言うと浅井くんは私の脇腹を蹴り上げた。



地面を転がり、

私は何かに当たった。



「あら。

 沙耶ちゃんじゃないの。

 どうしたの?」


「あなた達…。

 なんで…」


「雅くんどこ?」



私は震えて動けなかった。


すると雅くんを肩に抱えた浅井くんがやってきた。



「おお。

 上手くいったぞ」


「何が上手くいったのよ。

 ちゃんと静かに連れてけばもっと安全だったのに」


「いいじゃん。

 どうせ最後なんだからパーッとやりたくてよ」


「ラファエルさんと楓さんに怒られるよ?」


「まあまあ」


「楓って…」


「はぁ?

 あんた楓さん知ってんの?」



すると由希ちゃんは私の腕を引っ張り上げ、

無理矢理校舎の方へと引っ張っていった。



「あんたも何か知ってるっぽいね。

 こっちきな」



グラウンドでは血まみれで横たわる同級生や先輩、先生たちの姿があった。

もちろん私達の親も皆グラウンドに横たわっていた。






校舎に連れて行かれると、

階段を上がり、一番上の教室まで連れて行かれた。


雅くんは椅子に力もなく座らされている。


私は部屋に投げ入れられた。



「さて、何で楓さんについて知ってるのかしら」


「なんの事よ!」


「とぼけても駄目よ?

 あんた楓さんの名前が出た瞬間に顔がこわばったじゃない?」


「あんなことされたら誰だってこわばるわよ!」



そう言うと由希ちゃんは私の頬を思い切り叩いた。



「あんた何強気になってんのよ。

 これからあんたら死ぬも生きるも私達次第なんだから、

 もっと可愛らしくしてなさい」


「何が起きてるか分かんないよ…」



すると扉が開いた。



「失礼します。

 人質は目標以外全て体育館に詰めとけの事です。

 動けないのと死にかけのやつはほかっておけって命令です」


「お前等でやっておけよ」


「しかし人数も少ないので、

 時間がかかってしまい…」


「しゃーねぇーな。

 おい。

 このガキぶち込んどけ。

 俺のお楽しみ用に後で可愛がるからよ」



私は腕を引っ張られ体育館へと放り込まれた。

そこには学校の生徒や教職員たちがたくさんいた。


しかし、全校生徒分もいるわけがなく、

中にいたのは上手く動ける人だけだった。


私のお父さんもお母さんもそこにいた。

体育祭を見に来ていたはずなのに…。




「沙耶ちゃん!

 大丈夫!??」



私に声をかけてくれたのは彩先輩だった。



私は自然と涙出てきた。

そんな泣いている私を彩先輩は抱きしめてくれた。



「どうなってるの?

 雅くんは?」


「わかんないぃぃぃいいぃい…」


「私達殺されちゃうのかな…」



私は怖いし痛いし辛かったけど、

殺されるという恐怖はなかった。


どこかそこは安心していたのだ。



体育館で皆が恐怖と戦っていると、

扉がゆっくりと開いた。


そこには浅井くんがいた。


するとゆっくりとあたりを見渡して、

あの気持ち悪い笑顔を見せて歩いて行った。



何をされるかという恐怖で皆が静まりかえっている中、

浅井くんの足音だけが響く。


そして林先輩の前で止まった。


泣きじゃくり、必死に抵抗する林先輩を抱え、

浅井くんは体育館から出て行った。



ああやって無理矢理一人ずつ連れて行かれるのではないかと、

周りの人が思っただろう。





しばらくしても、

誰も連れて行かれる事はなかった。


その時、

何かが地面に叩きつけられるような大きな音が三回した。


皆がざわざわと騒ぎ始める。

するとさらに音が何度もなり始めた。


そして音は止まった。




皆が息をのんで次は何が起きるのかと構えていると、

ドアの向こう側から大きな音が聞こえた。



そしてドアを突き破ってなにかが飛び出してきた。


私達は震える事しか出来なかった。


しかし突き破ってきた何かを見た瞬間絶望は希望に変わった気がした。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――








引き金を引く瞬間。

体を全力で起こす。

そうすれば致命傷はない。


まだ何とかなるかもしれない。


俺はその一瞬に賭けようと考えた。





ドンッ!!!!!!





撃った瞬間に体を右に大きく振った。

しかし避け切る事は出来ず、

俺は肩を撃ち抜かれてしまった。


その場で俺は倒れ込んだ。



「ぐぁああぁぁあぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!」



もう動くことも非常にしんどい状況だった。



「助けも来ないんだな。

 惨めなもんだぜ。

 若者の命よりも自分達の保身でしか動けない馬鹿ども。

 口では若者の為に。

 幼き者の為にというくせに、

 それはある階級の幼き者のや若い者の為でしかない。

 最初から誰も助ける気はないんだよ。

 自分達がどうすれば責められず、

 馬鹿にされず、罵倒されないか。

 その為にあいつらは生きてるのだから。

 諦めてこちらに来いよ」



「ダメだね…。

 行けない理由があるんだ」


「理由?」


「お前は俺の大切な人を殺したからな。

 人生で最後の俺の家族をお前は殺した!!!!!」


「家族何て俺らにはないだろ?

 そもそもあいつらからたまたま生まれただけだろう。

 お前の親は100回前の二人以外にはいないのに何を今更家族だって言うんだ」


「彼らは俺を愛してたんだ!

 なのにお前は!お前は!!!」


「100回も生まれ変わって家族何てちっぽけなものに依存するな。

 もっと広い世界を見てみろよ」


「黙れ…。

 何と言おうと仇は取ると誓ったんだ!」



俺は力を振り絞って立ち上がった。


しかしフランス人の男は立ち上がった俺の顎に向かって思い切り蹴りを入れた。

俺は後ろで見ている人達の方へと吹き飛んでいった。



だめだ…。

勝てる気がしない…




「雅くん?」


「沙耶…?」


「ああぁぁ…。

 血が…」




沙耶はボロボロに泣いていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る