第36話 疑惑
「由希が白川とグルだったってどういう事だよ!!」
「ドラッグをやっていた人間が全てリストアップされていたのはご存じですか?」
「園長に貰ったリストだろ?」
「そこには由希と言う子のデータが無かったんです」
「だからなんだよ」
「由希さんは確か雅さん達を庇う為に自ら相田に近づいたんですよね?」
「そうだけど?」
「そして相田によってクスリを盛られたという報告を受けています」
「それが何だよ!」
「取り調べで相田はクスリを管理していた人間とグルでした。
その為、クスリを売買、もしくは使用した人間は報告する義務があったようです」
「それで?」
「雅さんにお渡ししたリストは白川や学校の先公達のリストを元に作成しました。
しかし、そこには由希さんの名前はなかったんです。
後に分かった事ですが、白川もドラッグの常習犯でした。
しかし彼女もリストに名前はなかった…。
つまりリストに名前はなかったが使用はしたという事になります」
「でも相田をとっちめた時の前日にしか使ってないって話だったはずけど…」
「前日でも報告は義務付けられていたはずです。
さらに、相田が由希さんに逆に使われていたのだとしたらどうでしょうか?」
「何?」
「取り調べの結果相田は由希さんには逆らえなかったという事です」
俺は何も言い返せなかった。
そこまでの状況証拠があって由希を疑わないわけにはいかなかった。
「あいつは…
俺が助けたんだ…」
「はい…。
それも知っています」
「優しい中にも強さのある良い子だと思ってたんだけどな…」
「はい…」
「あいつが生まれ変わりの可能性はあるのか?」
一瞬の沈黙が流れ、達也は再度話始めた。
「彼女はきっと生まれ変わりの人間です」
俺は落胆と同時に疑問を達也にぶつけた。
「でも由希は一度幼児期に溺れかけてる。
もし生まれ変わりだった場合そんな事起きないだろ…」
「実はその溺れた子は死んでます」
「はっ?」
「雅さんの蘇生のおかげで病院でその子は息を吹き返し、
入院をしていました。
無事退院もしましたが、彼女は小学校に上がる直前に死亡しています。
原因は不明ですが…。
しかし、雅さんの前に同じ名前でその状況化を知ってる者が現われたんです。
相田が由希さんの事を証言していなかったら調べる事もしませんでした…」
「浅井はどうなんだよ…」
「彼はたまたま由希さんと同じ中学で、
雅さんがたまたま浅井君と仲良くなっただけのようです」
「という事は、あいつは関係ないんだな」
「今のところはですが…。
しかし、疑うに越したことはないと思います」
俺は周りを信じる事が出来なくなっていた。
「今のところ由希さんは雅さんに手は出していません。
しかし、相田は由希さんに逆らえなかったという事ですし、
白川が追い詰められている状況を知っていたにも関わらず、
今回の事件には首を突っ込んでは来ていません。
そこが逆に気になります」
「どうすればいい?」
「出来るのならば今すぐ転校して場所を移す事を勧めたいですが、
従ってはくれませんよね?」
「よく分かってるじゃんか」
「では、雅さんにこの件は一任しても良いですか?」
「由希が何者で何を企んでいるか調べればいいんだろ?」
「はい…。
出来れば本部で話も聞きたいところですね」
「分かった。
事情を聞き次第本部に身柄は受け渡すよ」
「では体育祭は充分に気を付けて下さい。
後…」
「なんだ?」
「これは僕の予想ですが、由希さんは楓達との繋がりがあるという線もあります。
気を付けて下さい」
「分かった…」
俺の人生最後の体育祭は波乱の幕開けとなった。
翌日、いつものように学校へと向かった。
いつもと変わらない雰囲気で、楽しそうに体育祭の準備を皆がしていた。
もちろんその笑顔の中には由希の姿もあった。
「おはよう江口!
なんか元気無さそうだけど大丈夫か?」
「ああ」
「おっ!
あそこに由希もいるじゃん!
ってか最近応援のダンスの練習ばっかりで由希含めて3人で遊ぶこと少なくなった
な」
「そうだな」
「江口が沙耶ちゃんと付き合ったのも原因だけどな」
「そうだな…」
「なんだよ~
いつもみたいに言い返して来ないのかよ」
「言い返したら結局紹介しろって流れになるんだろ?」
「なんだよそれ!」
浅井はいつもと変わらなかった。
時間が過ぎるにつれてどんどんと周囲のテンションも上がっていった。
そして体育祭は始まった。
生徒が入場し、3年の代表による挨拶。
そして新しく配属された校長の挨拶。
体育祭は何の問題もなく開催された。
俺が出場するのは100メートル走と学年代表リレー。
そして応援合戦。
一年生全員参加の棒引きと大縄跳びもあった。
最初の種目は100メートル走だった。
ルールとしては、各学年で予選を行う。
そしてその中の上位2クラスで決勝を行うというものだった。
最初の種目という事もあって応援も凄い事になっていた。
俺が一緒に走るのは1年生の代表者。
彼らはほとんどが運動部で、唯一自分だけが帰宅部だった。
しかし、夏休み後半の各部活動での活躍により、
ずば抜けた運動神経を持っている事は親を除く全ての人が知っていた。
なので、始まる前から周りは皆負けムード。
スタート位置に皆が準備したところでスタートを切る火薬銃が鳴った。
俺は出来るだけ惜しい所で勝とうと決めた。
スタートはわざと遅らせる。
体2つ分のリードが出来たくらいでスタートを切った。
「江口!!
負けるな!」
浅井の声が聞こえた。
「雅く~ん!
頑張って~!」
その隣で沙耶も応援していた。
俺はゴールまで50メートルの所でスピードを上げた。
最後尾から全員を一気にごぼう抜きして1着でゴール。
周りの応援団は目を丸くしていた。
すると林先輩が声をかけに来た。
「江口お前やっぱりすごいんだな!
プロのスカウト来るって話マジだったんだな」
「運動だけは自信があるので」
「なんかムカつくな」
「先輩も決勝まで来てくださいよ」
「任しとけって!」
俺はそのまま決勝の控え場所に待機する事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます