第33話 嫉妬

学校の教師や生徒が大きく変わってしまった。

生徒もやんちゃな生徒はほぼドラッグに関わっていたことが判明した為、

人数が各学年約一クラス分ずつ減ってしまった。


しかし途中でクラス編成を行うと体育祭などもやりづらい、

一年の春の変わり目の時期に変更の方が無難だという結論に至ったらしく、

人数が少なくなっても来年度の春まではクラスが継続となった。


あんな問題があった後なのに、

やんちゃな生徒が減った影響なのか、

皆が楽しそうに体育祭に向けて準備を始めていた。



「雅くん!

 体育祭一緒のグループのままで良かったね」


「別にどこでも変わんないよ」


「一緒じゃないとやだ!」


「なんで?」


「だって他の子とペア組むかもしれないんでしょ?

 そんなの見てられない!」


「そっかぁ…」



体育祭が目の前に近づいている事もあって、

授業の体育や授業後の練習も時間が長くなっていた。


体育の授業のほとんどがリレー等の練習に使われた。

もちろん俺は適当に参加。


本気を出したら世界記録が出てしまう。



「江口!」


「なんだよ」


「ちゃんと真面目にやれよ!

 代表リレーのスタート走者だろ!?

 ここで負けたりしたら先輩に殺されるって!」


「本番勝てばいいんでしょ?」


「手を抜いてるって感じ出したら先生にキレられるって!」


「大丈夫だって。

 成績も運動も学年トップ。

 運動部の功績は表彰物で、

 海外やプロから各方面スカウトバリバリの江口君が怒られるわけないじゃん」


「…。

 江口って性格だけ悪いよな」


「ほっとけ」



楓たちから攻撃を受ける事もなく、

生まれ変わりによるドラッグ事件を解決した俺は一時休みという事で、

最後の高校生活で休暇を楽しんで来いと言われていた。


授業が終わり、長い先生からの話も終わって、

いつものように3年の教室へと向かった。


そこには既に先輩達や同じグループである沙耶たちの姿があった。


しかし、いつもとは雰囲気が違った。



「何言ってんのよ!

 あんた二股かけようとしてたって事でしょ!?」


「違うって!

 ちょっと仲良くなるって言うかその為だって…」



団長である山田先輩とその彼女である彩先輩が揉めていたのだ。

そしてその二人の間には二年の阿部さんが泣きながら立っていた。


阿部さんの後ろには同学年で同じグループの女子生徒が数人立っていた。


俺と浅井、その他遅れてきた1年1組の生徒達は、

その様子を不思議そうに見ているしかなかった。


教室に入って来ず、廊下から様子を見ていると、

それを見ていた沙耶が駆け寄ってきた。



「凄い事になっちゃった!」


「どうしたの?」


「なんか山田先輩が浮気したって彩先輩が入った時から怒鳴ってて…」


「それで?」


「その相手が2年生の阿部さんだって言って、

 今揉めてる所」


「結果的に浮気なの?」


「ん~…どうなんだろ…。

 なんか阿部さんと一緒に二人きりで遊んだところを彩先輩の友達が見たらしく

 て…」


「それでブチぎれちゃってるのね」


「うん…」



おどおどしている山田先輩は見ていてとても惨めだった。


泣きながらヒステリックにキレている女性をなだめる方法はこの世にはない。

もしあるとするのなら、

より上回るヒステリックさで対抗するくらいだ。



「今日どうするの?」


「わかんない…。

 あの感じじゃどうしよもないんじゃない?」



他の一年生や二年生はどうする事もなくただ見ているだけだった。

すると流石に我慢の限界だったのか、

副団長の林先輩が大声を出した。



「いいかげんにしろよ!

 後でやれ!

 他の子達も待ってるだろ!」


「あんたに関係ないじゃん!」


「関係ないのはお前等だボケ!

 練習終わってから好きなだけやってろ!」



そう言い残して林先輩は団長と彩先輩、

そして阿部さんを残して皆を連れてグラウンドに向かった。



「あいつらあれでもみんなをまとめる係かよ!」


「そんなイライラしても仕方ないですよ先輩!」



浅井はイライラしている副団長をなだめていた。



「雅君はなだめに行かないの?」


「ああいうのは浅井の方が向いているからな」


「雅くんじゃ何言われても言い返してねじ伏せて終わりそうだもんね」


「ガキ大将じゃないんだから…」



確かに俺は周りとは感覚が違いすぎる為、

何を言われても自分が正しいと思ってしまう事がよくある。

人生長く生きればいいってもんでもなさそうだと思った。



「林先輩カンカンだよ…。

 今日中にあのケンカ治まってくれないかなぁ…」



少し疲れた様子で浅井がこちらへと向かって来た。



「その様子だとなだめれなかったみたいだな」


「まあ林先輩はみんなでワイワイするのが好きなタイプだからああやって自分勝手に

 空気悪くするのは嫌いなんでしょ…」


「言いたい事は分からないことないけどな…」


「だから逆に機嫌取りづらいんだよ。

 先輩は何も悪くないし、ド正論だもん…」



浅井が少し可哀相に見えた。


結局その日の練習は特に何もやる事はなかった。

そもそも夏休みに毎日のように集まって練習をしていた事もあり、

皆ダンスは覚えていたし、ほとんど確認作業くらいしかやる事はなかったので、

さほどやらなくても問題はなかった。



「ねぇ雅くん?」


「何?」


「本当に団長は阿部さんと浮気したのかな?」


「それは本人達にしか分からないんじゃない?」


「そこが解決しないと体育祭つまんなくなっちゃうよ…」


「俺らがどうする事も出来ないしな…」


「雅くんなら何とか出来そうじゃん!?」


「興味ないよ…

 他人の痴話げんか何て…」


「せっかくなら楽しい体育祭にしたいじゃん!

 何とかしてよ!」


「はぁ…

 でも体育祭まで一週間しかないんだよ?

 そんな短期間で何とかなるかな…」


「何とかしてきて!!」



半ば強引な沙耶の要求を拒否する事が出来なかった。


俺の人生最後の体育祭はまさかの痴話げんか解決から始まるのかと、

頭を抱える事しか出来なかった。












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