第31話 勧誘
次の日学校へ行くと、
教室が騒がしかった。
「なんかあったのか?」
「白川さんがお前の事探してたよ!」
「それで?」
「もし来たら生徒会室に来るように言ってたよ」
「授業あるじゃん」
「白川さんは特別なんだよ!
早く行けって!」
俺は授業をサボって白川が待つ生徒会室に向かった。
「失礼します」
「おはようございます。
江口君」
「クラスメイトに話を伺いましたが、
何か御用でしたか?」
「ちょっとお話したい事がありましてね」
「授業よりも大切な事ですか?」
一瞬空気が止まった。
「ええ。
あなたのレベルで考えましたら、
授業よりも大切な事です」
「何でしょう?」
「そんなに急かさなくても良いのではないですか?」
「物事は簡潔に考えたいタイプでして」
一瞬間を置いて白川は話始めた。
「あなた高校生にしてはレベルが他とは段違いですね」
「それは白川さんにも言えたことではないですか?」
「そうですね」
「僕と白川さんは他とは比べ物にならない才能を秘めている事をお話したいので
すか?」
「江口君私の元へ来ませんか?」
「元と言うのは?」
「二人で世界を変えるのです。
私とあなたであれば多分可能です」
「だいぶ大きな夢と野望をお持ちなようで」
「運動部での活躍や文化部での才能、
そして勉強のレベルを見ても私となんら遜色がありません」
「ご自分でもあれくらいならば可能だと…」
「ええ。
あれくらいなら私でもやれば出来ると思います
しかしあれ程の事が出来る人を私以外に見た事がありません」
俺は少し考えて口を開いた。
「例えばどのようにして世界を変えるのですか?」
「それは簡単な事です」
「ほう」
「まず資金調達から入ります。
自ら稼ぐことも出来ますが、
それではリスクと労力がかかるので、
安定した資金調達を行いたいと思っています」
「というと?」
「もうわかってらっしゃるでしょ?
その為にあなたは私への接触を試みたのですから」
「お気づきでしたか?」
「気づいていなければこんなに簡単に話を進めませんよ」
「ドラッグですか?」
「そんなに直接的にお聞きになるのですね」
「面倒な探り合いは嫌いなもので」
白川はクスリと笑ったと思ったら、
真剣なまなざしで俺を見た。
「ドラッグを使えば簡単に稼ぐことが出来ます。
しかも高校を中心に行えば、
若者を使って勝手に広がっていきます」
「しかしそれは法に反するのでは?」
「私の父は警察そのものですから」
「情報の握りつぶしが出来るという事ですね」
「ある程度資金調達が出来た所で、
全てをヤクザに売りつけてしまえば真実は闇の中です」
「資金を得てさらに自分は法にも触れなくなると…」
「はい。
ヤクザ何て叩いたらいくらでも埃がでます。
クスリについては間違いなく公言はしないでしょう」
「それで俺を仲間に引き入れて世界を獲ると?」
「あなたも私と同じ穴のムジナでしょ?」
俺はフッと笑い、
白川に尋ねた。
「何回ですか?」
「何がです?」
「とぼけないでいいですよ」
「とぼけてなんか…」
「70回は越えてますね」
「冗談は通用しませんか…。
ちょうど70回目です」
俺は驚いた。
「過去に人を殺めた経験や犯罪に手を染めた事はありますか?」
「今回が初めてです。
意外とスリルがあって面白いですね。
まあ捕まる気はしませんけど」
「何故今まで真面目に生きてきてこんな事しようと思ったんですか?」
「一度やってみたかったんです。
犯罪者」
「それでたまたま僕を見つけたと?」
「私にとって初めての経験です。
同じ人間を見つけたのは…」
「そうでしたか…」
「それでお話に乗って下さるのですか?」
俺は息をついて答えた。
「それは出来かねます」
「なんで…?
また生まれ変わればいいじゃない!
一度くらい楽しく過ごしてみるのも一興だとは思わない?」
「誰かが悲しむ姿をあなたは俺に見せてしまったでしょ。
俺の大切な友人が傷ついたんです。
どうあっても許せません」
「たまたまの経緯でそうなっただけですよ!
私はあなた以外いないと思っています!
さらにここまでの美貌や環境を持って生まれる事もありません!
そんな好条件の相手とパートナーになるチャンスも普通ありませんよ!」
「人の命を弄ぶ人間に美しさなどありませんよ。
醜いだけです」
血管の切れるような音がした気がした。
「ではここで死んで頂きたいのですが?」
「奇遇ですね。
僕も死んで頂くか身柄を拘束させて頂きたいと思っています」
「ガキが!!
ふざけんじゃないわよ!!!」
白川はスッと立ち上がり、
目の前の机を蹴り上げた。
机は吹き飛び、
俺にめがけて飛んできた。
上手いこと避けたはいいが、
机は壁にぶつかり粉々に砕けた。
「生き返ると力が何倍にも膨れ上がっているようなの!
しかも何でも出来ちゃうなんてすごすぎて最高よ!」
「お前…。
人を傷つけるのは今回が初めてじゃないな?」
「私が初めて人を殺したのは30回目くらいの時かしら?
夜道で襲って来た暴漢の股間を握りつぶしてやったわ!
あいつ女の私に化け物って言ったのよ!
完全にキレちゃって跡形もなくぐちゃぐちゃにしてやったわ!」
「なるほどね…」
俺は懐に飛び込んだ。
しかしそれに白川も反応し、
上から拳を叩きつけた。
俺は左手でその拳をいなした。
そして脇腹に一撃えぐるように拳を突き刺した。
体はくの字に折れ曲がり、
吹き飛んでいった。
生徒会室の窓が割れ、
中庭に白川が吹き飛ばされていった。
大きな音で窓から多くの生徒が顔を出した。
もちろん教師たちも驚いて生徒と一緒に顔を出していた。
「お前と俺じゃ格が違うんだ。
諦めて拘束されてくんないかな?」
「あんた何者なのよ!」
「教えられねぇよ。
決めろ!死ぬかおとなしくするか」
「死ぬのはお前だ!!!!」
白川は勢いよく突っ込んできた。
地面を蹴って白川は飛び上がった。
そして俺の顔面めがけて蹴りを出した。
俺は足を掴み、
背中から地面に叩きつけた。
拳をぐっと握りしめ、
白川の顔面に向かって振り下ろした。
しかし俺はその拳を顔に当たるギリギリで止めた。
「なんで止めた!」
「女の顔を殴るのは俺の趣味じゃないんだよ。
だからすまないな。
死ぬよりきついかもしれんけど…」
「えっ?」
俺は白川の両足を思い切り踏みつけた。
骨は砕け、肉が千切れる音が周りに響いた。
「うぎゃああぁあぁあああぁ!!!」
「これで当分動けないだろうが、
俺らは回復が早いからわけはない。
その後じっくり話を聞くよ」
呻く白川を肩に担ぎ、
学校を出て行った。
その後ろ姿を周りの生徒や教師は何も言わずに見ていた。
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