第30話 有名
試合終了後、
中京の選手は全て地面に膝から崩れ落ちていた。
俺は流石にやりすぎたと思っていたが、
試合が終了した事により、
チームメイトの全員が駆け寄ってきてしまって深く考える余裕がなかった。
沙耶や浅井、由希もその盛り上がりに参加していた。
周りの生徒の親や観覧者からは拍手をされた。
帰り際、中京の監督がこちらへとやってきた。
その人は俺と話がしたいと言っていた。
「何でしょうか?」
「君はすごいな…。
今すぐでも日本代表になれるよ。
ヨーロッパ行っても問題ないね」
「それは言いすぎですよ。
日本代表になる気はありませんし」
「そんな才能があるのにかい!?」
「俺は好きな事したいだけなんで。
では…」
「待ちなさい!!
君は日本の宝になる逸材だぞ!!!」
俺はその言葉を聞かぬふりをしてその場を去った。
部活で忙しくなってしまい、
自分の時間を取る事が出来なくなっていた。
応援団の練習もほとんど出ていない為、
沙耶と会う時間すら作っていなかった。
気付けば夏休みは終わっていた。
二学期に入り、
また退屈な授業が始まった。
すると数学の授業中に事は起きた。
皆が適当に問題を解いている間、
教室のドアがノックされた。
「はい!」
数学の教師がノックに反応して返事をした。
ドアが開くとそこにいたのは教頭だった。
教頭は教室に入ってくると、
数学の教師に耳打ちをした。
耳打ちされた教師は驚いた表情をして口を開いた。
「江口!
今から職員室に行ってもらえるか?」
「授業中ですけど何ですか?」
「お前のサッカーの事で外国の人から連絡があったそうなんだが…」
「はぁ…」
クラスは盛り上がっていた。
俺は席を立ち、
教室を出た。
教頭に連れられて職員室に行った。
電話の周りには校長や他の職員たちがいた。
電話には英語の先生が応対していた。
「えっと…あの…
早くて…意味がちょっと…。
もう少しゆっくり…」
英語の先生は戸惑いながら電話をしているように見えた。
俺はそこまでスッと近づいた。
そして英語の教師から受話器を取り、
耳へと当てた。
電話の相手は男性で英語で話していた。
「だから~
youtubeで上がってる動画の子と話がしたいんだよ」
「もしもし?
聞こえます?」
「おっ?やっとまともに喋れる人が来たのかい?」
「その動画の本人ですが…」
「あの8点を取った動画の本人かい?
英語は話せるかい?」
「特に問題ありませんが」
「よかったよかった!
実はね…」
電話の相手は海外のトップリーグのスカウトだった。
自分のチームに入って欲しいとの事だった。
すぐに出場機会が与えられるかは分からないが、
経験を積んでもらえればという話だった。
俺はその話をすぐに断った。
「すいません。
今のところサッカー選手になるビジョンはないもので…」
「何故!?
こっちでサッカーやって成功することに興味がないのかい?」
「あいにくサッカーだけが得意というわけではないので…」
「そんな…」
「また機会がありましたらお願い致します」
俺は電話を切った。
後ろを振り返ると教師たちが唖然とした顔で見ていた。
「江口君すごい普通に英語話してたけど喋れるの?」
「外国の言葉に興味があって勉強してたので…」
「サッカーでプロがどうとか言ってたとおもうんだけど…」
「この前のサッカー部の試合の動画がyoutubeに上がっているそうで、
それを見てすぐにでも海外のリーグに所属しないかって」
「スカウトって事!?」
「そうですね。
お断りしましたけど」
「なんで!?」
「他のスポーツも好きなので…。
では授業があるので失礼します」
「ちょっ…ちょっと!!!」
俺は職員室を後にして教室へと戻った。
教室に戻ると全員がこちらを見ていた。
「江口君どうなったの!?」
「海外からのスカウトでしたけど、
お断りしました」
「どういう事?」
「ようは海外でサッカーやりませんかというお誘いがあったという事です」
クラスの全員の顔は引いていた。
俺は気にせず自分の席へと座った。
授業はどこかどぎまぎとした雰囲気で終わった。
昼休みになるとその噂が学校中に広まっていた。
クラスの生徒達は俺に話を聞きに来た。
「なんで断ったの?」
「別に特別サッカーが好きってわけじゃないからな」
「でもサッカー部なんでしょ?」
「江口は色んな部活の助っ人やってるんだよ。
この前もバスケ部の試合でMVP取ってたし…」
「そうなの!?」
「野球の時なんてノーヒットノーランだよ?
こいつ化け物だって…」
周りが盛り上がって来ていたので、
そろそろお声がかかっても良いのではないかと思っていた。
その日を境に、
各運動部での俺の動画がyoutube等にアップされたり、
土日の試合にはプロのスカウトまで見に来るようになっていた。
試合が終わる度に名刺を渡されて、
内のチームで破格の条件でやらないかと様々なスポーツチームに声をかけられた。
しかし全部断った。
テレビからの取材も申し入れがあったが、
恥ずかしいという理由で断っていた。
いつしか俺は学校内で超がつくほどの有名人になっていた。
そんなある日、
授業が終わり靴を履き替え浅井と沙耶と帰ろうとした時に声をかけられた。
「すいませんが江口雅君ですか?」
「そうですが」
「私、生徒会長の白川美鈴と申します。
お見知りおきを…」
「美人で頭も良くて運動神経も抜群の白川先輩を知らない生徒はいませんよ」
「江口君もとても人気がありますよ。
3年生の中でも話題ですから」
「白川先輩にそんな事を言ってもらえるのは光栄です」
「ところで江口君。
外国語がご堪能だとお伺いしましたが?」
「そうですね。
メジャーな地域の外国であれば大体全ての国の言語を話せますよ」
「今度うちの学校で交換留学の外国人学生が来る予定ですので、
その時にお手伝いをお願いしたいのです」
「白川さんのお願いであればもちろん引き受けますよ」
「ありがとうございます。
是非生徒会にも来てくださいね」
「では今度お邪魔させて頂きます」
「よろしくお願いします」
そう言って白川は去って行った。
すると浅井が小声で話しかけてきた。
「作戦通りなのか?」
「まあな」
「気をつけろよ」
「任せとけって」
しかし浅井が前に言った通り怪しさたっぷりのやつだった。
まずあの口調はキモイ。
年下で生徒同士であの喋り方の距離感はおかしい。
さらに見た目は一流モデルかそれ以上。
あれで頭脳明晰運動能力抜群は確かにチートだ。
そして本心が見えないところがやはり不気味だ。
まずこの学校は問題児も多いような場所だし、
交換留学生などうやって受け入れるのかもいささか疑問。
さらに自分が絶対的な生徒会長であることは自覚しているはずなのに、
自分を知らないのではないかという考えがある時点で大人び過ぎている。
あいつは生き返りの可能性が高い。
俺はそう考えた。
「江口君…」
「どうした由希?」
「なんか白川さんいい噂ないから気を付けてね」
「大丈夫だよ。
由希を助けた時も問題なかったろ?」
「うん…」
少しいい雰囲気に見えたのか、
俺と由希の間に沙耶が入り込んできた。
「彼女は私だもん!!」
浅井と俺は呆れた表情をした。
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