第28話 思惑

俺が目を覚めても沙耶はまだ俺の腕の中に眠っていた。

時間は9時前だった。


15分程経って沙耶が目を覚ました。



「おはよ」


「おう」


「よく眠れた?」


「思ったよりはな」


「もう少し言い方ってもんがあるでしょ」


「よく眠れたよ」



俺は沙耶の頬にキスをした。

沙耶は思った以上に喜んでいた。


ベッドを出て顔を洗った。

学生服に着替えなおし、

沙耶の家を二人で出た。


流石に前日と同じ服で練習には行きたくなかったので、

俺は新しい家へと行ってみる事にした。



「ここは…」


「なんか普通だね…」



そこはなんの変哲もないマンションだった。

一人暮らしのはずが3LDKのファミリー層向けの住宅だった。


メールに書いてあったように、

外に置いてある各部屋のポストのダイヤルキーを開け、

部屋のカギを取った。


そしてエレベーターに乗って3階まで行った。


一番奥の角の部屋のカギを開けて中に入った。

中には学校の用品の新品やピカピカの家具が置いてあった。



「ここまでしてもらえるんだね」


「流石に全部新品はやりすぎだと思うけどな…」


「良かったじゃん。

 部屋も広くなったしね」



俺はベッドルームの扉を開けて、

中にあったウォークインクローゼットを開けた。


中には学校の制服やカッターシャツが入っていた。


俺はそれに着替えてクローゼットを閉め、

部屋を出た。



「もし本当に結婚する事になったらどうする?」


「んな事考えた事もないよ。

 そうなるかもしれないし、

 ならないかもしれないだろ?」


「そこはずっと一緒にいたいとかでいいじゃない」


「俺には難しい話なんだよ」


「そっかぁ…」



俺と沙耶は二人で応援団の練習へと向かった。



「江口!昨日警察に連れてかれてたけど大丈夫だったのかよ!」


「どういう経緯だったのかと聞かれただけだよ。

 暴力振るったのは事実だから注意は受けたけどね」


「お前は何かしら罪になるのか?」


「俺はならないよ。

 ある意味正当防衛とも言い切れないわけじゃないからね」



俺と沙耶が普通に登校してきた事に周りは驚いていた。


練習が一通り終わった後、

浅井に声をかけて昼飯を買いに出かけた。



「なあ浅井…」


「何?」


「由希のドラッグの事件だけどさ…」


「うん」


「お前は勧誘されたりしたことないのか?」


「俺はないよ…」


「俺は?」


「いやっ…。

 俺は無いって!」


「他にされたやつ知ってんのか?」


「一応知ってはいるけど…」


「誰?」



浅井はあまり言いたくなさそうだった。


しかし、俺は浅井を深く追求した。

浅井は観念し、

俺に誰かを教えてくれた。



「俺は勧誘されてはないけど、

 同じ中学だった加藤ってやつが誘われたって聞いたよ」


「誰に誘われたとかは言わなかったのか?」


「相田だよ。

 あいつ同じ学年のやつに声をかけまくってたらしいんだ。

 先輩にもしてたって話だけど…」



高校のOBに関しては相田の兄貴が勧誘をしていると考えるのが筋だとすると、

教員や事務員に関してはどういう経緯で至ったのか分からない。



「他には知らないのか?」


「俺副団長と仲良いから聞いたんだけど、

 生徒会の白川さんにドラッグが見つかった事があるやつがいたらしいんだけど、

 何も起こる事もなく知らないフリされたってのはあったらしいよ。

 だから白川さんもやってるんじゃないかって…」


「白川って3年の会長の?」


「そう。

 あの人の家はとんでも金持ちで有名なんだって。

 頭も良くて運動神経も抜群なのに、

 この高校の校長と仲が良いからって理由で入学したって聞いたけど」


「なんでそんな人なのにあまり目立ってないんだ?」


「誰も白川さんについては話しちゃいけないみたいなルールがあるんだよ」


「つまり白川については学校も強い態度には出れないのか?」


「まあ女版江口みたいな人だし、

 それで美人で金持ち。

 有力者の娘で生徒からの信頼も厚いらしいからね」


「なるほど」



確かに高校でドラッグ使って一儲けしようと思ったら、

頭悪くて素行も良くない所の方がやりやすいんだろうけど、

見つかりやすくてリスキーな気もした。



「白川の親父さんは何やってんの?」


「警察署長だよ」



納得がいった気がした。

親をたぶらかしてしまえば情報の握りつぶしなど簡単だと考えた。



「どうやったら白川に近づけると思う?」


「面倒な事になるからやめとけよ!」


「由希の件もあるんだ。

 真実が知りたい」


「お前なら大丈夫だと思うけど…」


「どうすればいい?」


「夏休みが明けてから生徒会役員の総選挙もあるし、

 生徒会に潜り込むのが一番早いんじゃないかな?」


「ありがと」


「無茶はするなよ?」


「ヤバそうになったら引いてくるよ」


「江口のヤバそうの基準壊れてるからな…」


「間違いないね」



俺は浅井にその日の昼食を奢ってやった。


俺は沙耶を家に送って行った。

沙耶の親からはまた家に上がるように言われたが、

用事があると言って断った。


沙耶も少し駄々をこねたが、

たまにはという事で解放してもらった。


家に帰って俺は生徒会役員になる方法を考えた。


もし白川が生徒会の生徒も牛耳っているとするのならば、

簡単にその輪に入って行く事は難しいだろう。


選挙となっても選ばれる事はまずない。

白川のお墨付きというレッテルを手に入れない以上は何とも出来ないと考えた。


では、生徒会長であり学校をある意味取り仕切ってる白川の目に留まるにはどうすれば良いか。


学校で良い評判を立てる事で耳に入れ、

嫌でも目に入る存在になって白川と接触する機会を作るしかない。


俺は学校で目立つことに決めた。



翌日以降俺は行動に出た。


サッカー部、バスケ部、野球部、バレー部、ラグビー部、テニス部等の運動部。

囲碁部、将棋部、吹奏楽部、演劇部、美術部等の文化部に顔を出した。


そこで各部活に参加したいという意向を示した。


部活動の顧問は首を傾げていて、

本当に出来るのかと俺を疑った。


なので応援団の練習内容が完璧だった俺は特別に許可を貰って、

各部活に一日ずつ体験入部として所属した。






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