第27話 家族

俺は強引に家の中へと連れて行かれた。


そしてご両親の好意でカレーを頂くことになった。



「ごめんね。

 お口に合わなかったら言ってね」


「いえ!

 そんな事ありません!美味しいですよ!

 久々に食べました!こんなに美味しいお家のご飯って」


「いつも一人で食べてるの?」


「友人がいる時は付き合ってもらったりしながらなので、

 意外と寂しくないもんですよ」


「バランスよく食べれたりするの?」


「栄養面は気を付けて食事を取るようにしてますので」



温かい笑顔で、

とても優しい家族に久々に触れた気がした。


何度も生まれ変わりを繰り返した事で、

本物の家族が分からなくなりかけていた。


あの二人がまだ生きていたとしたら、

これ以上の温かい家庭がきっとあったのだと考えてしまった。



「雅くん…

 泣いてるの…?」


「えっ…?

 うそっ…大丈夫!何でもないから」



俺は気が付くと涙を流していた。


それを見た沙耶の母は泣きながら俺の手を握った。



「その年で一人は辛いわよね…。

 うちならいつでもいいからね」


「は…はい…」


「毎日来ても良いんだからね」


「は…はぁ…」


「毎日雅くんに家で会えたら私は嬉しいけどなぁ…」



沙耶のこういう性格は親譲りなのかとどこか納得出来た。



「江口君は東京の出身なのかい?」


「生まれはこの辺なのですが、

 両親が事故で亡くなってからは親戚の家に行く事になって東京にいました」


「それで高校入学の為にここに戻って来たのかい?」


「高校生ともなれば、

 自分の生活費くらい稼げるもんですから。

 出来たら父と母が暮らしていた町に帰って来たいと考えていましたので」


「ってことは毎日アルバイトしているのかい?」


「いえっ…

 両親が僕の為にとっておいてくれたお金を使ったり、

 自分もある程度知識はあるのでそれを活用したりと工夫はしています」



父親は俺の暮らしや話し方に興味深々だった。



「働いたりしているって事かい?」


「それなりに…

 と言ったところです…」


「見た所だいぶ教養がありそうだが、

 頭は良いほうなのかい?」


「悪くはないと思ってます」



すると話に割って沙耶が入ってきた。



「雅君は学校のテストで満点以外取った事ないって聞いたけど」


「本当かい!?」


「一応…」


「それでこの前なんか道にいた外国人の人とおしゃべりしてたんだから!」


「英語も話せるのかい!?」


「英語だけではないですけど…」


「それでね!

 体育のバスケなんかバスケ部全員抜いて空中で回ってダンクシュートまで決めてた 

 んだよ!」


「運動神経も抜群とは!!」



もうこの話聞き飽きた。

と思っていた。



「さっき英語だけじゃとかなんとか言ってたけど何語が話せるんだい?」


「一応英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ロシア語…

 大体の言語は勉強したので…」


「て…天才じゃないか…。

 大学はどこに進学する予定なんだい?」


「一応東京大学に行こうかと考えています。

 もし良ければ海外も考えたいんですけどね」


「なんで沙耶と同じと言ってはなんだがあの高校に入ったんだい?」


「両親のお墓が近いのと、

 自分が生まれた地域で暮らしたかったって理由なだけですよ。

 将来的には東京に戻るつもりなので」



お父さんとお母さんは驚きを隠せずにいた。



「ちなみにお父さんのご職業をお伺いしてもよろしいですか?」


「私は医者だよ」


「専門は?」


「内科だよ」


「内科は大変ですよね…。

 基本的に体のどの部分も対象になってきますからね…。

 様々な患者さんが来られますよね」


「まあまずは内科みたいなところがあるからね…」


「内科にも循環器や神経等何部門も分かれているから出来るだけ、

 症状によっては専門的な内科で診療を受けるべきなんですけどね…」


「江口くん良く知ってるね!」


「開業医の方はよほど苦労されてると思いますよ…」


「働いた事でもあるのかい?」



俺はついついなごみすぎて余計な事を話していた。



「親戚にお医者さんがいたもので…

 それでそんな事言ってたなぁ~って…」


「将来的に就きたい仕事はあるのかい?」


「特に現状は決まってません」


「そんなに優秀なら引く手数多じゃないのかい?」


「将来は流石に分かりませんよ」


「そうか…。

 ところで江口くん!」


「はい…」



少し改まったような感じでお父さんが聞いてきた。



「沙耶とはいつ結婚するんだい?

 東京に行くときに先に籍だけ入れるのかい?」


「はい?」


「ちょっとお父さん!

 何言ってんの!?」


「こんなハイスペックで性格も良くて運動神経も抜群なのに謙虚とかいう子は二度と

 現れないよ!?

 今のうちに丸め込んじゃいなさい!」


「勝手に話進めないでよ!

 いいの!

 今はお付き合いって関係で!」


「お母さんも結構賛成よ?」


「お母さんも変な事言わないの!」



沙耶がおどおどしている姿を見るのは面白かった。


何時間経ったのか分からないが、

外は真っ暗になっていた。

流石に長居をし過ぎたと、

俺は荷物を持って帰ろうとした。


するとそれを遮るかのように雨が降ってきた。



「凄い雨だね…

 大丈夫?」


「走って帰れば問題ないよ」


「ダメよ!

 風邪ひいちゃうから止むまでうちにいなさい!」


「いやっ…

 いつ止むかも分からないので大丈夫ですよ…」


「いいから!

 ここは大人の言う事聞いておきなさい!」



俺は沙耶の家から出る事が出来なくなった。


待てど暮らせど雨が止むことはなかった。

気付けば時間は22時になっていた。



「流石にもう帰りますね…。

 ご迷惑にもなりますし…」


「あの雅くんがいいなら…

 泊まってもいいよ…」


「それは…」


「うちは全然構わないわよ!」


「今日は泊まっていきなさい!

 夏休みだし学校もないから大丈夫」



逆らう事は許されず、

俺は沙耶の家に泊まる事になってしまった。


馬鹿みたいに広い風呂に入り、

着替えはないので父親の服を借り、

寝る場所はなんと沙耶の部屋となった。



「お父さん達は遠い部屋で寝るから」


「そんな事いちいち言わなくていいの!

 早く出て行ってよ!」


「まあまあ…。

 ごゆっくり~」



ニタニタしながら沙耶の両親は出て行った。



「ごめんね。

 変な親なの」


「いい親じゃんか。

 あれだけ優しくフレンドリーに接してくれる人なんてそうそういないよ」


「慣れ慣れしすぎるのよ」


「少なくとも俺は楽しかったよ」


「ならいいんだけど…」



時間はもう12時になろうとしていた。


沙耶はベッドに入った。

俺は流石に一緒のベッドに入る気にはなれなかった。


なのでベッドにもたれるようにして学ランを掛け布団代わりに眠りにつこうとした。


しかし沙耶はベッドから降りてきて俺の腕を引いた。



「一緒に寝てくれるだけでもいいから」



俺は一つため息をついて沙耶に引っ張られるがままにベッドに入った。


沙耶は俺の腕の中で幸せそうな表情で眠っていた。





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