第26話 依頼
俺は沙耶が泣き止むまで胸を貸してやった。
周りが盛り上がる中、
沙耶は俺の顔を下からじっと見つめた。
一瞬ドキッとした瞬間を沙耶は見逃さず、
俺とキスをした。
周りはより盛り上がってしまった。
「人前でそういう事すんなよ」
「今のは良いタイミングだったと思うけどな~」
「はぁ…」
「なんで嬉しそうじゃないわけ?」
「二人きりの方がそういうのは嬉しいもんなんだよ」
「じゃあ後で二人きりの時にしてあげるね」
浅井はその会話を聞いて、
異常な程悔しそうにしていた。
その後は団長が先生を連れて現れた。
そして様子を見た先生は驚いていた。
団長や他の生徒は谷口が包丁を持ってきて沙耶を人質にとり、
その際に俺が果敢にも立ち向かい、
抵抗する谷口を気絶させたと伝えた。
先生はその話を信じ、
警察に通報した。
警察はすぐに現れて、
谷口を連行していった。
そして警察から事情を説明して欲しいという事で、
俺と沙耶は警察へと一緒に同行する事になった。
警察署に着くと奥の部屋へと案内された。
そして大きな会議室らしき部屋に俺は通された。
沙耶はとりあえず警察署の入り口の所で話を聞かれていた。
部屋で待っていると、
そこに園長が入ってきた。
「お久しぶりね」
「あんたか…」
「体はもういいの?」
「ああ…。
おかげさまで」
「それにしても今回は珍しく、
感情の赴くままに動いたのね」
「まあ仕方ないよね。
最後の人生だから我慢しすぎるのも違う気がするしさ」
「ふふ…そうね」
園長は初めて会った時と同じように飲み物を飲みながら、
話をしていた。
「でも存在がバレるかもしれないような事は避けないといけないわね」
「俺なりに抑えたつもりだよ。
もし本気出してたらあいつはとっくにお陀仏だった」
「あなたこの前楓と争った時に一緒に女の子がいたわね」
俺はぴくっと動いた。
「あの子どこまで知ってるのかしら。
もし全部知ってるようなら…」
「達也は俺に一任したんだ。
余計な口挟むんじゃねぇよ」
「達也は私の部下よ。
彼の言う事なんて私が変える事も出来るの」
「何が言いたい?」
「あなたどんな存在で何に所属しているか忘れているわけ?」
「一秒たりとも忘れてねぇよ」
「なら言いたい事はわかるわね。
せめてあなたの手でお願いするわ。
それが忠誠心の証にもなるから」
俺は黙り込んだ。
園長はクスっとほほ笑んだ。
「冗談よ」
「はぁ?」
「一任して大丈夫なのか試したのよ。
だからその拳を降ろしなさい。
場所が場所ならあなた取り押さえられてるわよ」
俺は無意識に握っていた拳の力を抜いた。
「もし処分対象になってたら私を殺してでも止めてたのかしらね」
「うるせぇよ」
「まあいいわ。
とりあえず一任はするけど、
あんまり目立ち過ぎる行動は避けてちょうだいね」
「分かったよ」
「それと一つ頼まれごとをしてくれる?」
「頼まれごと?」
園長は飲み物を飲み干し、
俺の目を見た。
「生き返りが近くにいるわ。
それをあなたに何とかして欲しいの」
「俺に?」
「この前のドラッグの件はその誰かによって仕組まれたものよ。
でも未だに消息は不明。
どんな人なのかも想像がついてないわ」
「どうするんだよ」
「現在の年齢も分かっていない以上こちらサイドへの勧誘は難しいわね。
善人ってわけではなさそうだし」
「とっ捕まえれば良いのか?」
「そうね。
生死は問わないわ。
なんとか探し出して欲しいの」
「でも俺は事件に関わってるんだ。
すぐにバレやしないか?」
「あなたが生き返りだという事はバレてはいないでしょう?
だったら問題はないと思うわ」
「何の情報も無しかよ」
「いいえ…」
園長は腕を組んで答えた。
「あなたと同じ高校にいるわ。
間違いなくね」
「何だって?」
「でも教師かもしれない。
はたまた生徒かもしれない。
もしかしたら用務員かも…」
「何でそんな事言えるんだ?」
「あなたが押収したものと同じものがどれくらい出回っているか、
所持者をリスト化したものよ」
「これは…」
そこには全て俺と同じ高校に通う人や教師等だった。
もしくは高校のOBであるという情報が書かれていた。
「過去この高校でドラッグが横行したという情報が無かったことから、
生き返りによる犯行だとこちらでは判断したわ。
さらに都合よくあなたが在籍しているから使わない手はないわよね」
「現状ドラッグを持つ生徒や教師はどうなってるんだ」
「秘密裏に接触して奪い取ってはあるわ。
でも、また入手している可能性もあるわね」
「分かった。
見つけ次第捕まえるよ」
「相手も生き返りだから充分注意しなさい」
「分かってるよ」
「じゃあもう帰っていいわよ」
「あいよ」
俺は会議室の扉に手をかけた。
「気を付けるのよ」
俺は黙って頷いて会議室を後にした。
警察署の出口まで案内されると、
そこには椅子にちょこんと座る沙耶がいた。
「あっ!おかえり!
雅の方は話長かったね」
「まあな。
一応暴力振るったわけだし」
「もっとやってやればよかったのよ!」
「ここで言う事じゃないだろ?」
「は~い」
俺と沙耶は一礼し、
警察署を出た。
警察官からは家まで送って行こうと言われたが、
どうせ帰っても俺の親はいないし、
沙耶もまだ帰りたくないと言ったので、
自分達で帰ると伝えて駅へと歩き出した。
警察は親御さんには連絡済みだからと言っていた。
「ねぇ…
谷口ってどうなるのかなぁ…」
「どうなるって普通退学じゃないか?
一応殺人未遂的な事にはなるだろ?」
「そうなんだ…
刑務所とか行くのかな?」
「行っても少年院だよ。
まあ初犯だろうし、
もしかしたら保護観察付ってところかな?」
どうなるかは分かっていたが、
細かい事は伝えるのは面倒なのでとぼけていた。
電車に乗って改札を抜けて沙耶の家の方向へと歩き出した。
流石にこんな事件の後だし、
沙耶を一人で帰らすのは人としてどうかと思い、
家まで送っていく事にしたのだ。
でも俺は沙耶の家がどんなものなのか知らない。
大きな家が立ち並ぶ高級そうな住宅街に入っていった。
「ここだよ!
私の家!」
「マジか…」
そこには家が6軒建っても問題ない程の土地に、
馬鹿のようにデカい家が建っていた。
「沙耶!!!」
家の奥から大きな声で沙耶の名前を呼ぶ声が聞こえた。
するとその声の主は沙耶の元へと駆け寄った。
「大丈夫なの!?
ケガはしてないの?
何で警察の人に送ってもらわないのよ!」
「いきなり包丁で襲われたって本当か!?
本当にケガはしてないんだな!」
沙耶は体をあちこちと触られていた。
「大丈夫よ!
雅くんに助けてもらったから!」
すると沙耶を心配していた二人は俺の方を見た。
「あなたは?」
「あの…
沙耶さんと同じ学校の者です…」
「助けてもらったって…」
「いえ…
そこに居合わせたので…」
すると沙耶は両親の腕を振り払い、
俺の腕へと抱きついた。
「同じ学校って他人行儀な事言わないでよ!
彼氏の江口雅くんだよ」
すると沙耶の親は俺と沙耶を囲んだ。
「沙耶の彼氏君だったのか!
本当にありがとう!」
「いえ…そんな…」
「家まで送ってもらって悪いね」
「いやいや…」
俺が沙耶の父におどおどしていると、
沙耶が口を開いた。
「お父さん?」
「なんだ?」
「雅くんね、ご両親がいないの。
だから帰ってもご飯がないんだって」
「そうなのかい?」
「えっ…まあ…はい…」
「だったら家で食べていくといいわ!」
「いやっ…それは…」
「遠慮するな。
家の飯は意外とうまいんだぞ!」
「はぁ…」
俺は半ば無理やり家の中へと連れてかれた。
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